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02-006-01 俺君剣聖、六ヶ月。伝説のエルヴンロイヤルゼリー

 俺達を囲む白きウッドエルフ達。四方八方全方位、逃げ場は無かった。


「森の同胞よ、わたしは妖精騎士アリムルゥネ、今回は商談に来ました。こちらからは色とりどりの宝石が出せます。わたしたちが欲するのはエルヴンロイヤルゼリーです」


 彼らはざわつく。


 ──エルフ全員がざわついている。エルヴンロイヤルゼリー。そんなに貴重品なのだろうか。

 ゼリーの事を口に下途端、彼らのまとう雰囲気が、困惑から明確な敵意に変わったからだ。しかし、彼らのリーダーは口にした。


「ちょうど今年のゼリーは豊作だった。見知らぬ里の友よ、そちらのダークエルフを殺せばゼリーを渡しても構わない」


 ルシアの変装。それがいくら魔法の品の効果によって作り出されていたとはいえ、それは生粋のエルフ相手としたときに、とっくにばれていたらしい。


「彼女のことは勘弁してくれない? 今は同じ師匠、剣聖ライエン様に師事する大切な仲間なの。──宝石をはずむから」

「ライエン様!? 剣聖ライエン様の弟子であらせられたか! ゼリーを用意してくれ。そして、ルーペも。ゼリーは最上の物を持って来るんだ!」


 ──一同がどよめく。ダークエルフと取引をしようというのである。リーダーへの不満が爆発する。ダークエルフと取引しようなど! ダークエルフ!? 魔法で肌の色を変えているのさ! ……と、ダークエルフへの適しの目はとどまる事を知らない。


「早く持ってくるんだ!」リーダーが指示する。


 リーダーの一存である。


「剣聖ライエン様。私は昔、人間の街を見学したとき、剣聖様に助けてもらった縁があります。あのお方は懐の深い方。ダークエルフや──ルシアを見た──魔物を──スラぶーを見た──を弟子に、もしくは旅のお供に加えられていらっしゃっても、なにも不思議は無いのです」

「そうですそうです、お師様はとっても優しい方なんです!」白黒スポットスライムのスラぶーが震えた。

「悪い、私も驚かせたことは謝る。それと、修理が必要なら迷いの森の修理もする。この通りだ、ゼリーを売ってくれ。そして、力尽くで入って来た私たちを許してほしい」

「わかりました。他でもない、剣聖ライエン様のお弟子さんの頼みとあれば、ゼリーを宝石と交換いたしましょう」


 エルフリーダーは今を見ていない。かつてのライエンを旅の一行に見て、取引に応じたのだろう。

 弟子二人は飛び上がって喜ぶ。無理も無い。ダークエルフとエルフが取引をするのだ。元より無理筋の話なのである。


「やったー!」

「ありがとう」


 ──滋養溢れるプリンプリンのエルヴンロイヤルゼリーが、一人のエルフの男により運ばれてくる。両手で抱え、千鳥足、いや、瓶で目を隠されながら、しかししっかりとした足取りで陶器の瓶が運ばれてくる。魔法で重量を軽くしているのであろう。そうでなければ、エルフの細腕で、それも一人だけで運んでこれるものではなかった。

 足元に置かれる瓶。入り口を塞いでいた布と帯を外す。


 ──プルン。プルプル……。


 と、揺れる鉄分とコラーゲンたっぷりの芳香が、どんな見事な花の蜜に勝るとも劣らないプルプルの塊となって瓶の中に入っていた。

 アリムルゥネは革袋に入った宝石を両手ですくって見せる。リルフのリーダーも、背後にいる槍持ちも、みな驚愕に包まれていた。俺君剣聖八十八歳には見覚えがある……いや、見飽きた財宝がある。あれは城塞都市●●●●ンで、魔女●●●スを倒し、数々の魔王が湧き出る異次元の門の管理を王族に委ねたとき以来の話であった。何度も溢れ出る魔物の掃討に、再び俺が女王から依頼を受けたときだったような気がする。


「本物だ……すごい、凄いぞ! 本物の宝石がこんなに沢山!」両手ですくうほどある宝石のそれぞれをルーペで見るリーダー。

「えっへん!」


 アリムルゥネが起伏の無い胸を張る。


「どう? 全て本物の宝石なんですけど! この掌からあふれんばかりの宝石と、その瓶一杯のエルヴンロイヤルゼリーを交換していただけませんか?」

「ぎゃー! (美味そうだ、買え、買ってしまえアリムルゥネ!)」


 俺君はアリムルゥネの背中で両手をブンブンするだけ。実に簡単な役目である。

 エルフリーダーが笑う。


「ゼリーはこの子に?」

「はい、そうです!」と元気一杯のアリムルゥネ。

「宜しいでしょう、できることならば、ライエン様に一目合って、以前のお礼が言いたかった」

「ぎゃー!(そうだ、俺こそがライエンだ! もっと感謝しろ!)」

「お師様は寛大なお方です。その心だけで、涙されるでしょう。──御優しい方ですから。ね、ルシア」

「そうだ。今回の商談を纏めてくれたことに感謝する。ありがとう」


 握手や肘タッチは無い。エルフとダークエルフ。

 気を許したとはいえ、そこまで打ち解けるには時間が、そして今一層の相互理解が必要なのでは無いだろうか。


 ──う、俺今、凄くまじめな考え事した。そうだな、この二人の弟子が仲良くするだけで、世界に対する変革の種になりうる。俺がこの二人を弟子にしたのはその先駆け。凄い! 偉い! 俺っているだけで世界平和の橋渡し役だぞ!? 俺すげえEEEE!


 ──おっと。取り乱したようだ。……ん?

 お日様の柔らかな日差しが俺に掛かっていてポカポカと程良くまどろんでいた俺はいきなりの大きな影に、そしてそれ以上に陰の運んできた邪悪な獣の匂いに驚いた。


 そして、その生物の気配を探……るまでもない。


---


ここで一句。


お薬は ゼリーで包んで 良い嚥下(えんか) オブラートよりゼリーが良いよ (ライエン)



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