09-013-05 俺君剣聖、三才十ヶ月、キノコの山にて
その広い空間には、巨大な、そう、見上げるほどに巨大な腹の大きなアリが沈黙していた。ピクリとも動かない。
おおお、おおおおおお。コイツが女王アリ……。
俺君は観察する。
特に変異種と言う事はなさそうである。
どの地方にも出現する巨大アリの種類の中の一匹のようだ。
女王の周囲を護衛していたオスアリ、兵隊アリも動かない。みな、ルシアが放ったデスクラウドに巻き込まれての結果と見えた。
弟子君達が女王アリの周囲を探っている。しかし、めぼしい──何かの役に立ちそうな──品は発見できなかったようだ。
「何もありませんね、お師様」
「ああ、でも女王アリが鋼の鎧で身を鎧で包んでいたなら、さすがの私でも驚くけどな」
──まあ、収穫無しだ。
俺君は弟子らを促して玉座の間を出る。
◇
──俺君の嗅覚に反応あり。
なんだか、すえた匂いがする。
アリムルゥネが新しい松明に火をともす。
照らされる部屋、目にはいる赤と白。
と、俺君は。
ぷわん、と感じた踏み応え。地面を見れば、赤字に白の斑点のキノコが無数に生えていた。
地面に撒かれた緑の葉っぱが見える。アリが巣の中に運び込んだ、キノコ栽培用の葉っぱだろう。
「アリのキノコ畑か」
と、俺君が溜息をついていると、ブン! と俺君の鼻先を、濃いキノコの匂いがすり抜けた。
「お師様!」とアリムルゥネが小鉄を中段に構え前に出る。
「ライエン様!?」と、ルシアもアゾット剣を構えた。
──俺君、こめかみに冷や汗一雫。
俺君は俺君を驚かした正体、その人の姿をした異形。体中からキノコを生やした魔人を驚きと共に見据える。
「──!」怪物は踊るような奇妙な動きをしながら白い粉を俺君に放出する。
──恐らく、胞子。
俺君は背後に一歩跳んで胞子をかわしながら、赤い魔力を練る。
だが、キノコ魔人は俺君目掛けて右腕を振り上げ、突進す!
「お師様!?」アリムルゥネが俺君と怪物の間に入ろうとし、小鉄が煌き、キノコ魔人の右脇腹を切り裂いた。
切り裂く傍から漏れる白い粉、胞子。
ゲホゲホと咳をするアリムルゥネ。
「何やってんだアリムルゥネ!」と、ルシアも赤い魔力を練るも、
「燃えろ! ファイアアロー!」と俺君が一瞬早い。
炎の矢が化け物の胸を撃ち、一気に火達磨となるキノコお化け。
「ライエン様に美味しいところ、もって行かれたな! これでも食らえ、マジックミサイル!」
ルシアの叫び、眩い光、そして矢は化け物の頭に。
キノコお化けの頭が炸裂、体が燃え上がるキノコお化けは、二、三歩前に歩いたところで崩れ落ち、白い灰となったのである。
「ゲホゲホ、ゲーホゲホ! ッツ、ッツ!」アリムルゥネが体を『く』の字に折って床を転がる。
「何してるんだよ、ヘマやったな、アリムルゥネ」と、ルシアが紡いでいた赤い糸が、アリムルゥネの喉と胸に消える。
すると、胞子が引っ掛かっていたのだろう、青い顔をしていたアリムルゥネの顔に朱が戻った。
「とんでもないお化けだったな、アリムルゥネは災難だった」
ルシアがカラカラと笑う。
「お師様、ヘマをしましてごめんなさい」と、立ち直った弟子君。
「いや、お前達がいてくれて助かった。ありがとうな、アリムルゥネ、ルシア。失敗しても良い。ただその反省点を、次回に生かせることが重要だ」
と、俺君久しぶりに師匠っぽい言葉を弟子君達に言いました! えっへん、俺君は偉いのだ!
「で、ここからが本題なんだが……」と、まじめにルシア。
「キノコ食うか? ライエン様」
──おのれルシア、このバカ弟子が! また俺君で毒見の実験をやろうっていうのか!
「ルシア、食え」俺君は低い声でルシアを脅す。
「ああ、可愛い可愛い。ライエン様は可愛いが一番だぜ!」
──か、可愛い? 俺君、年甲斐も無く頬を朱に染める。
「で、食わねえのか? ライエン様?」
「だが断る!」
うん。
──俺君、しっかり断ったのだ。
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ここで一句。
俺君か それともキノコ アリのエサ (ライエン)




