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02-004-01 俺君剣聖、五ヶ月。恐怖! カボチャ男!

 かまどの上で、白く薄い糊がグツグツ言っていた。


「まだまだ早いんじゃないの? 離乳食でしょ?」

「ライエン様はミルクも早いしもう離乳食を少しづつ食べてもいい頃よ」


 アリムルゥネはルシアに指摘する。

 宿屋のかまどを借りた炊事である。魔法でポン、と作ってもいいのだが、ルシアとアリムルゥネは『それでは愛が無い』と、人手間かけてもかまどで作ることにこだわった。


 ──そして流れよ私の愛! などとルシアが『逆』光源氏計画を夢見、赤い左目をとろんとさせて炎を見つめてボケていると、


「あー、ルシア火加減きちんと見てよね?」

「えへへ、小っちゃいライエン様えへへ」

「こ、この娘は……;;」傍には哀れみの視線をかけるアリムルゥネ。


 ──視線! 俺はいきなりパチクリ起きる。

 むむむ、直ぐ近くに邪な気配を感じる。


「だー!(起きたぞ弟子ども!)」


 俺は二人の声を認め、叫びを上げる。

 ルシアにアリムルゥネ。いつもの弟子たちである。邪な気配……気のせいか? いや、この鼻をくすぐる甘い香り……。


 ──む、この匂いはカボチャ!


 俺の目はこれでもかと見開かれ、恐怖に身をすくませる。

 カボチャ。ヒューマンが新世界より持ち帰った野菜の中で、利点と欠点がこれほど激しい野菜も珍しい。

 育ちすぎたカボチャはカボチャロードを名乗り、人語を話す人類の敵である。カポエラキックを身につけ、脚の回転から繰り出される破壊力は凄まじい。そして、さらに恐るべき事に、だいだい色に色づいたカボチャは黒い葉を纏って空を飛ぶ。そして人間の首をスポッと大きな乱杭歯で刈り取る。そうして人の体を乗っ取ったカボチャの頭はクリスタルヘッドと化し、パンプキンヘッドを名乗る。そして彼らも人類にとって脅威である。同胞を食らうヒューマンを心の底から憎んでいるのだ。そしてこちらもヒューマンに害をなす。彼らパンプキンヘッドを手下として世界を飛び回る、悪い魔法使いや魔女もいるらしい。


 ──ともあれ。

 そう。カボチャは人類の敵なのだ。 


 ──一方で。

 カボチャは素晴らしい野菜である。その由来は不明だが、南国の緑濃い熱帯雨林を祖先とするらしい。そしてこのカボチャ。カロテン、ビタミンB、種類によってはビタミンCを多く含む優れものなのだ!

 鍋には種を取り、身をなるべく細切れにして弱火で焦げないようにコトコトとヘラで混ぜながら、形がなくなるまで火を通し続けること数時間。

 ペーストと化したカボチャは一際強い甘味を示し、滋養強壮に優れ、ポリフェノールやコラーゲンをたっぷり含むようになる。

 しかも、火を通すとかぐわしい香りと共に甘味を出す。

 そう。カボチャはヒューマンの役に立つ事でも有名であるのだ。

 そして、カボチャの葉の実用性にも目を向けるべきだ。

 カボチャの葉はマントに相応しい強度を持ち、革のマントに勝らずとも劣らない性能を示す。弓殺刑に処せられた悪人が、カボチャの葉で作った衣服を見につけていたため、心臓に矢が刺さったにも係わらず、青銅の矢玉は先端が潰れて地に落ち、この囚人は「命を失う恐怖を味わった」と言う理由で無罪放免された。俗に言う「不死身の心臓を持つ男」の伝説である。この言い伝えにあやかり、他の囚人もカボチャの葉で作った上着を身につけて死刑に挑んだところ、射手は頭を狙うようになったという。それと、あまり知られていない欠点は火に弱い、すなわちや燃えやすいことである。夜露や天露を弾く程度には使える。カボチャは丁寧に育て、その成熟にしっかりと目を光らせておけば、何の危険も無い。カボチャは甘味をベースとした実に美味しい野菜の王様なのだ!


 ──だが、俺には。


「ぎゃー! (だー、カボチャじゃねぇか! しかも、だいだい色、どこの畑で狩ってきた! この辺りには耕作放棄地でもあるのか!?)」


 ──恐怖、ヒューマンらを脅かす野菜の陰。あなたの傍の耕作放棄地に、恐るべきカボチャの影が! ほら、影を照らす目と口が、夜闇に光るカボチャを見よ! ヒューマンよ団結せよ! 野菜の恐怖から伴侶を、子供を、家族を、隣人を守れ! 王侯貴族よ、今こそ農業革命に手を付けるのだ!


 ──って俺。ちょっとテンション高くね?


 と、言われても。

 てへへ。俺君剣聖、五ヶ月。実を言うと、俺はカボチャ味が大好きなのだ! あ、ごめん。リンゴや桃には敵わないけどね! リンゴや桃のシロップ漬最高! 熟れた者が手に入らなければ、どこぞの賢者が編み出した瓶詰めが一番美味しい!


 ルシアがアリムルゥネに……いや、俺に。

ルシアは右手で木製のスプーンの先っぽにカボチャ粥を載せ、語りがなく、糊上になっているのは煮込んだ米粒だろう。うん、実に美味そうだ。彼女が愛情たっぷりな口にてふうふうしてくれている。


 俺。据わった首がぐてんと回り、そんなルシアと目が合う。なんだよ、って赤い瞳の左目の奥にハートが見える。俺は僅かに薄ら寒い物を感じた。


「はい、ライエン様。あーん……ってなんだよ、ハズイだろ!?」


 ──説明しよう!

 眼前の満面笑み。ダークエルフの顔が綻んでいる。

 ダークエルフの微笑み、ダークエルフの口付け、ダークエルフの抱擁。


 ──どれも不吉の前兆をあらわすことわざだ! イヤー!


「おら、口を開けろよな!」


---


ここで一句。


 先達の味 夏の先  かく尊き (字余り ライエン)


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