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02-003-02 俺君剣聖、四ヶ月。修行者アデルの物語


「──と、言いつつルシアはこの建屋の整備でバタンキューです。あまりにお眠で、起こすのには偲ばれます。ここは私がもう一度。失礼しますね、お師様」


 と、アリムルゥネが分投げた毛布を持ってくると、クッションに乗り、毛布を俺にもかけて、俺君の胸をトントンと優しく叩き始める。


「練気です。私の力、練った気をお師様に流します。お腹が膨れますよう、食欲を誤魔化しますね~。はーい、お腹が膨れまーす。ポカポカ暖かくなりますよ~」


 ──暖かい脈が波打って俺様を包んでゆく。頭の天辺から脚の指先まで、温かい気が流れ込む。そして鳩尾、前頭葉、心臓、ふくらはぎと暖かい気が一連の流れとなって循環し出す。体がポカポカ! ポッカポカ!


 ──俺様気持ちいい……。


 あー、瞼が、瞼が……さっそくトロリ。涎だ。と、いうか今日もアリムルゥネの寝物語? が気づかないうちに始まっていた。

 そうなんだ。ポンポン、と彼女は俺の胸の上でリズムを取って、俺の胸に手を当てる。そして静かに、語り始めていた。


「昔々、正直な子供がいました。なにを聞いても、本当の事を答えてくれます。それはやがて街中の人々に伝わり、王様の耳にも入ります。子供のところに王様の使いが現れ、子供を王様の待つお城へと連れだしたのでした。それはもう立派なお城です。


『ワシは何歳まで生きるのだ?』試しに聞いてみた王様。

『恐れ多くも王様。王様は今年限りの命です』


 謁見の間に居た全員が──王様はもとより──心臓が止まるほど驚きました。


『ええい、嘘を申すな!』


 白い騎士の一人が子供を詰ります。


『まぁ良い、待て。子どもの言うことだ』


 王様は言いました。子供は胸を撫で下ろします。さすが王様です。その懐は海よりも広いのです。


『ワシはどうして死ぬ? 病気か?』

『いいえ、王様。恐れ多くも王様は王子様の一人に殺されます』


 これにも一同、顔色を白黒します。


『この不埒もの! たわごとはいい加減にせい!』


 黒い騎士の一人が罵声を浴びせました。でも、子供はけろりとしています。王様は大声で笑いました。

 さすが王様、その懐はどんな山より高いのです。


『では、王子のうち誰に殺されるのだ。ヨハンか、ハンスか、カシムか、ブラハか。ましてノアルではあるまいな!』


 今度こそ怒れる王様を前に、子供は一歩、前に出て王様の胸を指差します。


 ──何事ぞ……と、騒然としました。


 王様を指差した、子供の人差し指の先に灯る、炎。


『なんのマネだ? その火はなんだ? まさかワシをその火で殺そうというのではあるまいな? だがそれでは、お前はワシの子という事になる』


 ──さすが王様、その懐はどんな海の底より深いのです。


『──名は?』

『アデル』


 子供は名前を言いました。父親も母親も知りません。

 王様は目をカッと見開きました。そして雷に打たれたように真っ直ぐに姿勢を正します。


『ああ! まさかまさか。アデル、アデル……。アデルはしかし、死んだはず。双子は禁忌なのだ……許せ、アデルの名をかたる正直者よ』

『わたしはアデル、あなたを越えるために生きる者。でも今の私は王子ではありません。ですから、私が王様を手にかけることは無いのです。王子ではなく、ただのアデルです。ただのアデルのまま私は去ります』

『お、お前は本当に……』


 ──子供が右手を振るい、王様の言葉を遮りました。


『王様、そこまででございます!』


 ──みな、子供の言葉について、何も言いません。


『な! ……い、いや。そうだな。そう。少年よ、お前は常に正しい』

『はい、そうでございます』

『──誰か、誰か。この者に充分な褒美を取らせい。真にその正直の行。重ね重ね立派である』


 褒美は皮袋一杯の宝石や金銀。ずっしりとしていました。

 子供は騎士の一人に連れられて、大広間を後にします。そして、くるりと一度だけ振り返り。


『……ち(父)……いえ、王様。さようならでございます』

『うむ! アデル。見事である。正直者として覚えておくぞ! 達者で暮らせ、アデルよ!』


 と、王様の目には涙が……」


 ◇


「──ん?、ああ、お師様眠っちゃったのね。ルシアを呼ぶまでも無いか。───アデル。アデルか。今頃どうしてるのかな」

 

 アリムルゥネは俺の胸に乗せ、ポンポンとリズミカルに叩いていた手を止る。そして自身も、ホッペをプニプニつつくと、この娘も心地よいまどろみの中へ沈んでいった。


---


ここで一句。


寝返りを うって左右に 観音様が (字余り 川柳 ライエン)


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