09-012-02 俺君剣聖、 三才七ヶ月。密林都市クスライエンにて考える
早く剣の修行をしたいのだが、カグツチが重い。魔法の使い方はルシアを観察するうちに大方わかったと言うのに、練気を使うアリムルゥネを観察しても、いつまでたってもやり方がイマイチ分からないのだ。
──気。練気。俺君も使いたい!
むむむ、むむむのむ。
気か。
盗もうにも、そもそも根本が見えないので分からない。
俺君は、木の枝に木片を縄で括りつけ、何度も木の枝で殴る。
そんな事を、暇さえあれば繰り返していた。
しかし、心の内はどんよりと。成長にブレーキが掛かったように、俺君の進む未来に暗雲が、先が見えなくなっていたのである。
アリムルゥネは「ギューとして、ズズズとやって、とわー! って力を解放するんです」
などと寝言をほざき、ルシアはルシアで「カグツチが持てる様になってからでも遅くないんじゃないか? ライエン様」
などと超楽観主義者は俺君の赤い逆毛をポンポンと撫でる。
──ぐおお、ぐおおおお。自然と怒りの矛先は、木につられた木片へと向かった。
◇
そんな俺君。
──このクスライエンで、悶々とした日々が続く。
毎日、ストーンゴーレム『大福二号』改(ロケットパンチを廃止した改良型だ)を作る日々には既に日課であり、もう飽きた。
新素材たる『鉄』も欲しい。もっとも、銀でも構わないのだが。銀は鉄より高価だけれども、ない物を求めても仕方ない。シルバーゴーレム『大福六号』のパイロット、スラぶーは良くやってくれている。シルバーゴーレム『大福六号』を後何体か増産しても良いと思えてきた。しかし、そのシルバーゴーレム『大福六号』量産にしても、この街で女神ナナンからもらった銀に限界があるのである。
しかし、だ。
俺君達がかつて身を寄せていた都市の事を考える。
港湾都市、あるいは殖民都市レンクール。大公の治める街である。
殖民都市というからには、人口が増えたならば第二の都市の建設を始めるはずだ。
俺君が依頼を受けた赤い民の集落の調査、それに資源の調査など、街、すなわち植民地現地生産力を増強させるための第一歩といえよう。
大公がレンクールの外に支配の手を伸ばそうとしないのは、街を囲む凶悪な植生や、猛獣、はては化け物の類の脅威が身近にあるからである。そうでなければ、とっくに赤い民との間で武力衝突が起こっていても不思議は無い。
今のところ、レンクールの戦力だけで支配領域、影響圏の拡大には無理がある。
しかし、大公の背を帝国本国艦隊が現れるか、ひいては陸戦戦力が増強されるときがあるのなら──。
──その時こそ、赤い民と旧世界の民が正面衝突をするときであろう。
しかし、鉄の装備の帝国兵と、石器や青銅器を主武器とする赤い民では戦力に雲泥の差がある。
俺君が大公と赤い民に供給したゴーレムはストーンゴーレム『大福二号』改、これを四十一体づつ。
俺君製ゴーレムの大福シリーズの戦力は互角と言える。
俺君は自作のゴーレムに掛けられている魔法を解く事ができ、それどころか命令を解いたゴーレムを味方に引き入れることも出来る。大公と赤い民に分け与え供与した『大福二号』改の数が四十一体づつと同数なのは、俺君が味方した陣営が勝つように、である。
──俺君は整列した『大福二号』の壁に、同じく別陣営の『大福二号』が突撃している姿を夢想した。
あー、これからどうなるんだろ。俺君は豆腐を食べる。うん、ピーナッツ味。
まずはこの都市の周りの怪物退治からかな?
などと考える。ここは深い密林の奥、自然の王様、ジャングルなのだ!
……俺君は女神ナナンから差し入れされたピーナッツ豆腐をウマウマと食べている。色違いのゴマ豆腐も添えられた。
弟子君二人は御神酒も少し。俺君が酒に手を伸ばしかけると、アリムルゥネからピシリと手を払われる。
「め! ……ですよ? お師様。お酒は大人になってからです!」と、弟子の笑みと、厳しい視線。
「さぁ、どうぞ召し上がれ」とは黒髪碧眼、赤い肌の少女、女神ナナンである。腰には大きな瓢箪を二つ下げていた。
──豆腐を前にして俺君。
ううう、うううううう、明日は、どっちだ?
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ここで一句。
石人形 作り作り手 百羅漢 (ライエン)




