09-012-01 俺君剣聖、 三才七ヶ月。頑張れガキ大将
ここは俺君の新拠点、密林都市クスライエン。女神ナナンの好意に甘え、俺君は弟子二人とこの街に居座っていた。
街が綺麗になり、珍しいドラゴンの脅威が去った今。
俺君達三人と二匹(シルバーゴーレム『大福六号』+スラぶーと、ロバのロシナン)は動いた。
集落に残っていた赤い民とストーンゴーレム『大福二号』改。ヘルメスとマルスの各十人隊長が率いる、各十五体、すなわち三十体を密林都市クスライエンへと迎え入れた。そして滝近くに集落を持っていた水エルフの一族も都市に迎え入れたのである。
──全て、女神ナナンの目的と、俺君達の新拠点探しが一致した結果だった。
現地民赤い民と水エルフにとって、このクスライエンでの毎日は、収穫前の作物、人食い魚、木々の潜む野獣などに怯えながらの暮らしであるが、それなりに面白い。
──例えば。
俺君三才七ヶ月に相応しい相手──街のガキんちょ相手だッ!
真剣? 冗談じゃない、何が真剣だ、でも木刀もちょっと。
そう。例えばこのように俺君の名が呼ばれる。
「ライエンー!」赤い民のガキんちょ──俺君と肉体年齢が同い年、もしくはさして変わらぬ年頃の者だ──に、引っ張られてはホッペを摘まれ、もみくちゃにされて、俺君は正に遊びモノと化している。
「小ライエン!」
「俺君が剣聖ライエンだ! 縁起でもないこと言うな! 俺君こそが本物の大天位、爆炎の剣聖ライエンなのだ!」
「チャンバラしよう!」と、ここに杖や枝を持つ子供達。
──あー、全く危険な香りしかしない。
俺君は思う。
そう、ここらで皆に俺君が本物の剣聖ライエンだという事を知らせる絶好の機会だ。
ここは俺君の通常装備! ここに披露してやろう。
でてこい俺君の剣!
「よく見てろ、ガキんちょども!」
俺君は叫ぶ。
──よーし!
俺君は右手を上げる。やおら黒雲が湧き、稲光と轟音が鳴り響く!
「かーぐーつーちー!」
どどーーーーん、ゴロゴロゴロ……。
雷様は俺君の雄叫びを聞いたようだ。
そして、天に突き上げた俺君の掌に──。
「ぐぉあ!? 重!」
まさか、ナンデナンデ!? 俺の武器が! これは本当に俺君の武器なのに! おお、おおお、俺の鍛え方が足らぬのか! そもそも俺君は剣聖だッ……!
鍛えられたヒヒイロカネ。カグツチは恐ろしく重く、俺君の右手を一瞬で地面に縫い付ける。
「ぐおお、おおおおおお! 俺君は本物の剣聖ライエンなんだい!」
──俺君は血を吐くように叫ぶ。
「やーい。かかれー! ヘナチョコ野郎の小ライエンをやっつけろー!」
ガキ大将の声が響いた。
「「「おー!」」」子供らの声が唱和する。
俺君は何とか右手のカグツチを放りだし、無手で相手をする。
──ああ、やっと手が軽くなった。
俺君、突っ込んでくる三人を見る。
見る。
見る。
見る。
──そう、俺君の持つ宝、左手首に星々の腕輪、右手首に髪の毛の手飾りが俺君の素早さを倍、倍々にしてくれているため、彼らの動きが遅く見えるの何の。
一人目、真っ直ぐ上段に打ち込んできたのを白刃取りから捻って枝を落とさせる。
二人目、拾った枝で相手の杖を払うと、胴をバシッと強めに当てる。
三人目、背中から襲ってきたが、俺君はアリムルゥネを真似し、気を読んでしゃがみ、頭のあった位置をなぞらせ九死に一生を得る。そして俺君回転、俺君の持つ枝はビシリと三人目の持つ枝を叩き落とした。
「うわわ、小ライエン強ええぞ!」ガキ大将が後ずさりながら叫ぶ。だが、何時になっても誰も襲い掛かってこない。
俺君、円になって俺君を囲んでいる赤い民や水エルフの子供達をジロリト見やる。
視線を逸らすもの、目を伏せるもの、左右の仲間を代わる代わるに見るもの。
──うん。この戦場は既に俺君が支配した。
「俺の勝ちだな! 俺君こそ剣聖ライエンだッ! 生き残ったものはその事を誇りに思え! (もっとも、誰も命を落としていませんが!)」
「う、ううううう! 覚えてやがれ小ライエン! 今日はちょっとみんなの調子が悪かっただけだ! 覚えてろ!?」
ガキ大将が震えた声で言うだけ言うと、すっかり怯えた取り巻きを引き連れて俺君の前から消えたのである。
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ここで一句。
雨降って 地固まる子ら 新リーダー (ライエン)




