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09-011-05 俺君剣聖、 三才六ヶ月。水エルフの答え

 俺君は、その音でまどろみにも似た夢ごごちの中、アリムルゥネの膝の上で目が覚めた。


 ──ズドドド、ゴゴゴゴゴ、と大量の水が滝壺に落ちる音がする。滝音である。


 俺君達は水エルフらと別れた後、危険な滝や沢からは少し離れた──但し、水エルフのリーダーであり戦士でもあるフェイルと約束したように──場所。

 ストーンゴーレム『大福二号』改のリーダー格、メディチら率いるゴーレム部隊十体ほどに見守られながら、俺君達はそこで火を起して、焚き火をし、おのおの乾いた体を温めていた。


 アリムルゥネから渡されたのはリンゴの実。そして俺君以外には謎肉。

「えへへ。お師様。わたしのお肉ですよー」と、香ばしく焼いた謎肉を俺君の目の前まで突きつけながら、俺君がそれを取ろうと手を伸ばした瞬間、


「お師様はだぁめ!」


 と、さっと自分のほうに近づける。俺君重なるフラストレーション。


「ぐぬぬ、俺君にも肉!」もう、俺君鼻息荒く、肉を要求する。

「謎肉謎肉なんだろな~?」アリムルゥネのヤツ、鼻歌なんぞ歌いやがって!


 アリムルゥネは肉を頬張って噛み千切る。「ほっほっ、熱ッ、熱ッ! ──ああ、美味しい!」

 うまうま食ってやがるぜ、おのれ、アリムルゥネ。ただでは済まさん。

 と、言うより何より、俺君も、俺君にも肉くれよう!


 ──どうしてだよう!


 俺君も肉欲しい! ああ、スラぶーでさえ謎肉、魔物のエサを食っていると言うのに!


「俺君も肉食べたい!」俺君は叫んだ。

「仕方ないなライエン様。そんなにアリムルゥネが食っている肉を食いたいのか?」

 と、ルシア! おおお、俺君にはルシアが観音様に見える。後光が眩しいッ!

 ああ、南無南無観音様。


「ほら、あーん」と、ルシアが俺君の前に焼けた肉を鼻先に向ける。

「(がぶり)」

 ──! 肉汁がトロリ。う・ま・い! 旨いぞこれ!


「旨い!」俺君は叫ぶ。

「なんの肉だと思う?」

「……わからない」俺君はわからない事が悔しいのだ! おのれ意地悪ルシア!

「沢にいた大サンショウウオ、その中の一匹さ!」

 小魚のような香りと食感……塩味で骨っぽい小魚アーモンド!

 噛めば噛むほど旨みが染み出す。


「おおお!」

 なんと言う美味しさ、旨さだろうか! 俺君満足、俺君ヘヴン。


「これ捉まえるのには、みな苦労したんだぜ? 大きいのなんの。しかも群れて逃げ足も速い。赤い民や私たちが束になって追い込んだ一匹をみんなで分けてるんだよ。どうだ、でっかい化け物だろ?」


 解体の跡がある。凄くグロイ。血溜まりの中に、糞の詰まった内臓があった。見れば、早々に食事を終えた赤い民の女性が穴を掘って、その中に生ゴミを埋めている。


 と、ルシアがその白い謎肉、つまりオオサンショウウオの肉に軽く塩を振り、肉を千切っては自分の口の中に入れるのだった。


 ──で、オオサンショウウオとは……黒い大きな、手足の生えたオタマジャクシそっくりの生物だったのである。


「うまい」


 ──と、俺君はジャングルの珍味、オオサンショウウオについて学んだ。

 ありがとう、ルシア。


 ◇


 俺君はふと、甘いものが食べたくなる。リンゴとは違うものが食べたい。

 となると、一つの味が思い浮かぶ。


 口にしたいのはエルブンロイヤルゼリー。明日、エルフらが持ってきてくれる手はずになっている。

 ああ、早く食べたいぞ、弾ける感触パチパチパッチン!


「どうして水エルフが強烈な戦士ばかりかだって? 気配を知られるまでの時間が短すぎる? それは水の兄弟が戦闘民族だからだろ ゴーレムよりゴーレムマスターのライエン様を警戒していたしな」と、ルシア。

 あれ? 俺君水エルフ達の前で魔力をひけらかしただろうか。

 いや、していない。


 ──と、言う事は俺君自身の魔力の使い方に問題があるということだ。


「どうしてかな、ルシア」

「簡単だぜライエン様。ゴーレムたちの持つ魔力の色と、ライエン様の魔力の色が同じだからだよ。魔法を導師級で使えるヤツならば、バレバレだと思うぜ?」

「そんな事が……」

「ただ、もしライエン様が行動不能になったとしても、ゴーレムたちはライエン様の最後の命令を達成しようと動き回るのを止めないけどな!」

「ああ、俺君がいなくなっても、ゴーレム軍団を撃破したことにはならないのか。あくまで、ゴーレム軍団の一体一体を一体づつ潰す必要がある、と」

 俺君は考えを巡らす。

 指揮するリーダーがいなくなっても、主人の命令を実行する。それでこそゴーレムだッ!

 しかし俺君は、シルバーゴーレム『大福六号』に操縦席を取り付けるなど、より素晴らしい性能をゴーレムに与えようと、日夜考え実践しているのだ!


 ◇


 ──翌朝。

 その気配に俺君は、いまだトロンとしていた目を覚ます。

 そして、やや甲高い声。俺君の耳傍にシルバーゴーレム『大福六号』もとい、スラぶーとは違う人影。

 

 すらりとした長身。ああ、昨日出合った水エルフの隊長格の訪問である。


「小ライエン、俺達も行くことにした。長老達に話を通したが、開拓団を作ろうとしていた俺たちにとってもお前の話は、渡りに船だった。なにより一から拠点を作る必要も無いのが嬉しい。小ライエン、赤い民のキット、俺達水エルフを受け入れてくれるか」

「ああ、決めてくれたか! うんうん、よろしくなフェイル。水の民! 俺君ら剣聖ライエン一行はフェイル率いる水エルフの一行を歓迎するぞ!」

「みずエルフのフェイル。このきょうりょくが おれたち あかいたみと みずエルフのあいだの かけはしと なりますように。そして そのかけはしが やがて き、そして いし、そしてさらに こんごうせきへと なるよう そだてよう」


 ──うんうん。

 これから山あり谷ありだろうと思うが、ファーストコンタクトにしては悪くない。

 両者、悪意を抱いていないのが特に良い。


 ──鳥の声、見上げれば極楽鳥。


 幸先いいぜ!


---

 ここで一句。

  仲良しは 美味しさからだ 美味いもの (ライエン)

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