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09-009-11 俺君剣聖、 三才四ヶ月。赤ローブの吸血鬼

 白い煙の向こうに新たに生えてくる腕、そして失った剣の変わりに両手の爪が細身の剣のように長く真っ直ぐに伸びる。


「てい! ファイアタワー!」

 ──吸血鬼を中心に炎が円の結界に。塔のように炎の嵐が固定範囲で吹き荒れる。

 灼熱し、灰燼にきせつつあるのはローブの男のみ。建物や構造物には全く被害を与えていない!

 いや、どうして止めないんだよルシア!


「ギャアアアアアア! 馬鹿な、私には神の加護が!」


 ──俺は思った。そしてその境遇に哀れを見る。。

 助命してやろうと思った、その赤いローブの男の生き様を。


「ぐあああ! お前達、許さんぞ!」

 炎に巻かれても生きる、炎の魔神が俺君に迫る。

 仕方ない。俺君に迫る悪など滅ぶべし!

 俺君即決、決断力! ハッキリしないリーダーなんて失格だ!


「アリムルゥネ、そのまま圧し切れ!」俺君は叫んで弟子をけし掛けた!


「もう遅い! わたしに小鉄を使わせる魔の申し子よ、ここで滅べ真空斬!」


 空気を曲げて、時空が軋む。

 赤ローブ改め、炎の魔神は脳天から真っ直ぐに切り下ろされた、はずだった。


「効くかエルフ! お前の一撃など! 俺の爪はダイヤモンドより硬い!」


 豪語する赤ローブの男。

 男は体も前で両腕の爪をクロスさせ、絶対の防御にはいる。


 ──しかし。


「お前の爪なんて豆腐より柔らかいに決まってる! 絶対貫通、ああもう一度食べたいなーっと、ええいピーナッツ豆腐!」


 アリムルゥネは左の鎖骨辺りをめがけ剣を振り切った。「ええい、続・真空斬!!」真空刃が吸血鬼の肉を抉る。

 さらに踏み込んだ刃は鎖骨を砕き、心臓を二つにしたのだ。恐るべき怪力。ただ、アリムルゥネも無事ではない。踏み込んだ分、右腕に爪が這い赤い筋。弟子君にも切り傷が。

 そしてそのまま切り下ろす。千切れ飛ぶ男の長い爪。左右に二つに分かれる男の体。驚愕の表情のまま、真っ二つに鳴る男の体!


 ──瞬間!


 男の体がぴかっと光ったかと思うと、パッとその体は白い灰になる。

 吸血鬼の残骸は、ちょうど吹いた一陣の強風に飛ばされ、なんの痕跡も残さず消滅したのである。


「逃げられた、の?」と、悪即斬のアリムルゥネ。

 そして右目の眼帯をずらしてルシア。銀色の邪気眼が露になる。


「あー、ポンコツでも吸血鬼は吸血鬼か。風が灰を運んじまった」

「『邪な土』を探そう」俺君落ち込む。でも、直ぐに気持ちを入れ替えた!

「ヤツの寝床を探すぞ! 三度目の正直だ、邪神に寵愛される魔の化身を滅ぼすんだお前達!」

「おー!」気合の入ったアリムルゥネ。

「あー、やはりそこまでやるのか。いいぜ。私が再起不能なまでに滅ぼしてやる」


 ◇


 廃棄都市は巨大だった。


「どうやって探すんだ? ルシア、良い手は」

「ああ、ライエン様。魔力探知(ディティクトマジック)の範囲。一番強烈な魔力を放っているモノから順に探せばいいと思うぜ」

「わたしは?」

「私はずっと魔力を垂れ流しにするから集中力が落ちるかもだ。道中の警戒を密にして欲しい」

「はーい」アリムルゥネが小鉄を抜いた。

「ライエン様も私に魔力供給を頼めるか?」

「分かった」


 ──俺君は魔力タンク、と。俺君は大福四号の肩で思う。

 直接戦闘はなさそうだ。俺君の出番は無いと思われた。気が緩むのは仕方が無い。だから……そうだな、眠気だけは避けないとな。

「ブロンズゴーレム『大福四号』には先頭を歩いてもらおうか、罠避けに。ライエン様、それで良いよな?」ルシアが小悪魔のように微笑む。


 瞬間、俺君の背中に戦慄が走る。『大福四号』は弾除け。早期罠発見役。うん、効果的だがルシアらしい手だ。

 俺君は頷きながらルシアの顔を盗み見る。特になんでもないいつものルシアの顔。

 非情な判断を即下せるとは、おおルシア、なんと恐ろしい子!


「では頼む、ルシア。日没までに出来ないと復活するぞ?」

「あの自称吸血鬼が欠陥品じゃなければな! そうれ、いっくぜぇライエン様! 魔力供給を頼む、魔力探知!(ディティクトマジック)範囲超拡大!」

 俺君は腹で練った赤い魔力を糸状にしてルシアの邪気眼に固定する。すぐに流れ出る俺君の魔力は、ルシアに渡る。


 ──途端。

 周囲のもの全てが輝き始めた。光らないのは植物の一部のみである。


「うお、おおおおおおおお……」ルシアは見開いた邪気眼をさらに大きく開く。

「なんじゃこりゃぁああああ!」と、俺君。「全部光ってるぞ、凄まじいな、この魔力! 酔いそうだ」

「お師様? 眩しいです。──頭が」アリムルゥネがぼそりと言った。

「あ!? なんだアリムルゥネ!」

「いいえ? なんでもありません。お師様には逆毛ピンピンがお似合いです」


 ──見れば、苦しそうなルシア。


「痛ってえ!? 私の邪気眼が悲鳴をあげているぜ! く、魔力を絞る! 出力調整……」


 ルシアの呻き声と共に、周囲の目を潰さんばかりの煌びやかさが治まり、明るさが和らいでいく。

 そして、明るさ調整後にも変わらぬ明るさを持った地点が二箇所。女神ナナンの宮殿の本殿と思しき、先ほどゾンビやスケルトンを蹴散らした、この広間の奥の建物の中。

 そして、もう一つはやはりこの本殿の地下と思しき場所。地下室だろうか? それとも、地下墓地? いや、女神の宮殿に地下墓地は無いだろう。


「ルシア、さすがだ。宮殿の地上と地下に、なにかあるようだ」

「あ、ライエン様。読めたか? ならばもっと輝きを落すぜ。──範囲拡大にも限度があるな。私も笑ってばかりいないで鍛えないとな」ルシアが頭をかき、右目の邪気眼を細める。

「宮殿の中に入ろう」俺君が歩き出そうとすると、

「お師様、どうぞ」とアリムルゥネが肩を貸してくれた。

 ブロンズゴーレム『大福四号』の背中を見ながら俺君達は女神ナナンの宮殿へと入っていった。


---

 ここで一句。

  主人なく 寂れる建屋 寂しさよ (ライエン)

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