09-009-09 俺君剣聖、 三才四ヶ月。バンパイアの噂と骨
ここは赤い民の廃棄都市。
俺君達三人はその地に住む、白いトーガも眩しい女神ナナンのから話を聞かされた。
「赤いローブの吸血鬼?」
つい最近、女神ナナンの家であり、この街にある旧宮殿に吸血鬼が住み着いたらしい。今では不浄のモノや魂無きモノに囲まれて、まるでその場所を自分のものであるかのように、堂々と住んでいるという。怪物ども、昼間はどこかに身を潜めているが、夜になるとこの廃棄都市うろつき回るらしい。
信者が一人、二人と去り、力を失いつつあった女神ナナンは吸血鬼やその手下の物言わぬ軍団の数に押されて、宮殿の奪回にことごとく失敗しているという。
「その宮殿は元々私の家なんです! ライエン様、そしてそのお付の方々、何とか吸血鬼を滅ぼしてはいただけませんか」
女神でさえ、手に負えない化け物……。
ナナンは青い瞳で真っ直ぐに俺君、アリムルゥネ、そしてルシアを見る。『大福四号』が見守る中、俺君達は──。
「力試しだ弟子よ!」俺が右手をグーで天に突き上げる。
「赤いローブの不死者には、よくよく縁がありますね。お師様、そうは思いませんか?」
「赤ローブ、といえば二度までも立ち塞がった骨か」とルシアが零す。
「あの骨、神……邪神だろうけど、神の加護がある、なんて事を言っていたっけ」
「アハハ! 邪神の加護で吸血鬼が量産されていたなら世話無いぜ! きっと別人さ!」ルシアがカラカラ笑う。
「でも、ナナン様、その赤ローブは吸血鬼なんだろ?」俺君は念を押す。
──そっか。別人だろうと恒例の骨でも、どちらにせよ骨に肉がついた不死者か。
骨だろうと吸血鬼だろうと、黄泉に送るのみ。
──と、その時の俺君は実に単純に考えていたのである。
◇
──昼下がり。
緑の目立つ町である。だが、人の気配は無い。
廃棄されてからの年月が感じ取れる。
枝が伸び放題の街路樹。
水場から伸びるシダ。張り付く苔。
女神ナナンにはこの中央通りを真っ直ぐ進めばよい、とのことだったが……。
俺君『大福四号』の肩でそれ《・》を見つけた。
そして吹き付けるよどんだ風。腐臭である。
その人型の動きはおかしい。手をだらりと下げ、足を引きずり動く。彼らは赤い民の装束を纏っている。
そしてやつらは俺君達を見つけたのか、その動きが早くなっていた。
「ゾンビです? ゾンビですね!? 来なさいゾンビ! この妖精騎士『群狼』が成敗して差し上げます!」
アリムルゥネがライトソードの刃を放つ。
「アリムルゥネと『大福四号』に任せるとするか。ライエン様行くぜ? ヘイスト」
ルシアの赤い呟き。
俺君、身が軽くなるのを感じる。ちがう、足場としている『大福四号』がルシアの魔法で素早くなったのだ!
アリムルゥネの光がゾンビを横薙ぎに切り裂き両断、返す刀で別の一匹の首を跳ねる。
『大福四号』の右腕が下がる。素早くゾンビに接近して、振りかぶった右腕をゾンビの頭に突き刺す。
──ぽん! ゾンビの頭部が破裂した。
その間にアリムルゥネが切りまくる。二十を数えていたゾンビの爪も、素早く流れるようなアリムルゥネの体に触れることさえ許されていなかった。
アリムルゥネの通った後に、腐った汁がぶちまけられていたのである。
もっとも、大福四号の前、つまり四号に肩車されている俺君の目の前にもゾンビはやってくる。
しかしそのゾンビどもも、その緩慢な動作では、ブロンズゴーレム『大福四号』に取り付き触ることすら出来なかったのである。
気づけば黄金瓦の立派な建物。人二人分の高さはあろうかという大きな赤と金の門があった。
そして、門の両脇には鋭い槍を持った、肉無き衛兵──骨か、ゴーレムだ──が無言で立っている。
「女神ナナンの宮殿はここか!? やい骨!」
俺君は門よりも高い位置──ブロンズゴーレム『大福四号の肩』──で叫ぶも、衛兵は無言。むむむ、やはり骨、会話能力は無いらしい。
「骨、門を開けろ!」俺君叫ぶ。「行け、『大福四号』!」と、門の中に入ろうと衛兵の間に向かって歩かせた。
──すると。
ジャキッ! と打ち鳴らされては組み合わされる、左右に衛兵骸骨の持つ槍二本。
まあ、期待はしていなかった。やっぱりそうなるよね。ただでは開けてくれそうに無い。
「ルシア!」
「ん、ライエン様……スケルトンウォーリア。骨の上級クラスだぜ。創造者の命令しか聞かない、融通の利かないやつだ。ライエン様がゴーレムを作るときは、もっと柔軟な対応をするゴーレムを作ってくれる事を期待するぜ!」
うおおルシア、俺君ちょっと耳が痛い。
「お師様、骨なんで薙ぎ払って先へ行きましょう」アリムルゥネが欠伸した。
「そうだな」
俺君は弟子にうなづき、
「邪魔するか! 押し通る!」とブロンズゴーレム『大福四号』をもう一度前へと促す。
槍持つ骨がブロンズゴーレムの胸を撃つ。思わぬ衝撃に、肩車の俺君おっとっと!
もう一体の骨の得物は『大福四号』の腕を打つ。俺君右足を上げて槍をかわす。
そこにアリムルゥネから発せられた光条、ライトソードの刃が骨の肩口から切り下ろし、骨は両断されて地面に転がる。
そして『大福四号』は腕をあげて振り下ろす。もう一体の骨の頭蓋骨と鎖骨が折れて、「おう!」と俺君肩車から地面に跳び下りる。クルリと回ってナイス着地! 一方骨の前には剛腕! 骸骨は『大福四号』の腕と地面に挟まれバラバラとなった。
「よし! 門を開けろ弟子たち!」
「正面からですか?」
「夜中徘徊して困るんだろ? ならば昼のうちに叩くんだ。大将を倒しても夜中徘徊するようなら、またその時に考える!」
「ああ、何も考えてらっしゃらないのかと思いました」
「だよな、いつも力押しだからな。……今回もだけどな! アハハ! では行くぜ、アンロック!」
──待つこと数秒。
「何も起きないぞルシア」
「ですね、お師様」
「あれ?」と、ルシアが門を押す。すると、ギギギ、との鈍い音と共に両開きの門は開いた。
「開いたな」
「ですね、お師様」
「あれ? あれ? えへへ、カギなんてかかっていなかったぜ。あはは!」
──隙間風が吹いた。
俺君、額に汗を一滴流しながらも、根性でヤル気を取り戻す。俺君は大声を張り上げて……!
「進めー!」と俺君。
押し進む『大福四号』。俺君の鼻に、かぎ覚えのある腐臭の匂いが漂う。
「この臭い!」
「やはりここに集結か。さすがおライエン様!」
──そう。俺たちの目の前には百を下らない数の動く死体たち、ゾンビとスケルトンが溢れていたのである。
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ここで一句。
探そうよ ゾンビーランドを コツコツと (ライエン)




