09-008-02 俺君剣聖、 三才。弟子と剣の道
港湾都市レンクールの街、晴れた日の郊外。そんな場所に俺君達はいる。
ストーンゴーレム『大福二号改』二体、そして挟まれるように丸めた紙を持ったアリムルゥネ。
見慣れた光景だ。多が、アリムルゥネが俺君を見据える視線は厳しい。
その証拠は丸められた紙。そう、そこを起点に蒼い闘志がこれでもかと立ち上がっている。
──アリムルゥネ。本気である。
俺はそんな一人と二体をしかと見る。
アリムルゥネは中段構え、その視線は鷹のよう。
蒼き紫電が、大地と天を繋ぐかのように、何条もアリムルゥネの足元から迸る。
「お師様、覚悟は良いですか!」
「覚悟ってなんだアリムルゥネ、俺君剣聖、俺君は負けない!」
おお、おおおおおおお! アリムルゥネ、滅多に見せない全力である!
だが俺君、負けるわけにはいかない!
俺君は剣を握り締める。軽い木刀だ。
腹に溜まる赤い魔力、それを練りに練って体全体に行き渡らせる。
──そして俺君看破する。
アリムルゥネから迸る紫電、あれこそ練気の最終形態、それこそ闘気。恐るべし、俺君の弟子よ。
──全力かよ。
いきなり奥義とは恐れ入る。
俺君も中段に木刀を構えた。
──さぁ、し合おう。生ある限り、戦って戦って戦って栄光を掴むのだ! いくぞ、俺君!
俺君はアリムルゥネから出入りする青い線の流れを見る。磁力線のようだ。
自己生産し、自己消費する。生産量が多ければ、今の弟子のように練気、闘気が溢れ出る。
俺君も真似てみる。一瞬輝き、瞬時に霧散する蒼き光。
「お師様?」アリムルゥネが眉を寄せる。アリムルゥネがニヤリと笑い、噴出させる蒼き闘気を波に、そして鋭くさせる。
「覚悟!」
アリムルゥネが無骨な両腕を振り上げ迫る『大福二号改』二体をともなって、蒼き刃を振り下ろした。
1・2・3、多段攻撃三段! アリムルゥネの丸めた紙は、一度しか得物を振らなかった彼女から、続く真空刃三回の攻撃を生む。そして遅れてストーンゴーレムの拳が迫る!
俺君、土を蹴って右に流れる。
アリムルゥネの多段攻撃を、俺君コロコロ地面転がり回避で避けまくる!
そして、土砂が舞う。狙ったように同時に放たれた叩きつけられるストーンゴーレムの拳。
──くぅおおおおおお! 頑張れ俺君!
俺君は素早く起き上がる。相手はアリムルゥネ、その距離は三メルテ。
ち、距離が無い!
俺君は腹筋と両膝をバネに飛び上がる。
木刀の切っ先、はるか彼方に弟子の体。
「避けきった……」
アリムルゥネが一瞬呆け、俺君を睨む眼が眼が丸くなる。
「お師様、流石お師様です!」
言葉と共に、確信の笑み。
「でも……それ、行きます!」
弟子が飛ぶ。俺君との距離は縮まり、丸めた紙は鋼鉄の刃のように鋭く、その衝撃波はまたしても三重の真空刃となって俺君を襲う!
俺君、木刀を防御に使い、スパスパスパン! と切り刻まらる音を聞く。
だが、俺は会心の笑み。
──弟子の懐に飛び込んだのだ。
俺君、お腹で暖めていた赤い魔力。
──驚くアリムルゥネ。その眼は俺君の正面から背中を見る形へ。
弟子は背後へ飛ぼうとするも、間にあわず。
「勝機! 俺君は力の限り叫び、「おおお!」と弟子の鳩尾に俺君は一撃入れる。
溜めに溜めた俺君の魔力撃! 赤い魔力が革の鎧で覆われた弟子の鳩尾へ突き刺さった。
「ぐ……ッ!」
当然倒れるものと思っていた俺君、倒れるどころか突き込んだ俺の右手を掴み、力技で俺君の打撃を跳ね除ける弟子!
「なんだとう!?」アリムルゥネが笑う。
今度は俺君が驚く番だった。俺君の体が宙に浮く。回転する!
「おお、おおおおお!?」
アリムルゥネが一瞬呆けた俺君の腰と背中を掴み、背中から投げ飛ばしたのである。
そして着地点にはストーンゴーレム二体が待つ。
直地点、俺君に蹴りを入れようとするその二体に対し、俺君はズルを使った。
「ストーンゴーレム『大福二号改』! 双方止まれ!」
ストーンゴーレムがそのままの姿勢で硬直し、バランスを崩して二体は地面に倒れこむ!
俺君の言葉。瞬間、二体のゴーレムの命令を書き換えた。
──そう。この二体のストーンゴーレムは製作者である俺君の指示を聞かなければならない。
つまり、俺君の赤い魔力を紡ぐ糸は、俺君作のストーンゴーレムに対し不動の縄となったのである。
「えー!? そんなの有り!?」
と、体の動きを止めたアリムルゥネ。
これこそ絶対の隙である。
俺君は木刀の柄を投げた。すると、木刀の柄は弟子のおでこに物凄い速さで命中したのである。
「あ痛あ! こんなのも有りですかお師様!! もう、わたしの負けです。負けでいいです! ルシア、おでこの傷を診てくれない!?」
と、途端に膨れるタンコブおでこを擦りながら、涙目で俺君とルシアに訴えたのであった。
「あはは、はは。……有りかよ」
乾いた笑いのルシア。
「さすがライエン様。自分が負けそうになると、使う手段が容赦ないぜ」
──やったー! 俺君大勝利!
うんうん、俺君頑張った! 俺君凄い、俺君やった! できる限りの手段で、三対一で勝利した!
「うん……」
「やられました、お師様。でも次は負けませんからね」と、悔し涙。おお、よいよし。
「だな、ライエン様、その調子で私達をいつも勝利へ導いてくれ! もちろん私も手伝うから! あはは!」
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ここで一句。
蒼練気 俺君欲しい 使いたい (ライエン)




