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09-007-04 俺君剣聖、 三才。辺境の村到達

 大木で作ったと思われる柱や(はり)

 バナナの葉で()いた屋根。

 それらが不揃いの石積みの上に柱を立てて人々が住まいにしているようだ。


 体中を化粧で覆った男女。そして子供たち。全てがこの土地に元から暮らす赤き民の特徴を示していた。


 そして俺君、弟子二人に挟まれて凹と化し、両手を握られて脚ぶらぶら。

 あまりのあまりであったのか、笑う赤き民と、「おいはらえ!」とのリーダー格らしき羽根飾りをつけた一回り体格の良い青年が号令する。

 途端、彼らは弓に矢をつがえながら──ある者は完全に下に見て。またある者は苦笑を隠せずに口から笑いの種を吹きながら。そしてある者は、全く違う方向にわざと軌跡が外れるように。


「──ってッ!」若者が号令す。

 弦が鳴る音、風を切って進む矢。


 ──だが、相手方は両目をむき出して、またある者はうの字に口を突き出して、そしてまたある者は、眼を擦りながら。

 俺君達、三人と三匹は彼らに向かい、ゆっくりと歩を進める。


 ──無傷である。俺君達は笑顔。


 俺君達は、降りしきる矢をルシアのミサイルプロテクションで防ぎながら、堂々とその村の広場に侵入した。

 相手方の男達も異常──矢という矢が命中せずそれること──に違和感を感じたのであろう。男達は今までの余裕はどこへやら、弓を捨て、石の斧を用意しだしたのである。


 ──俺君はそんな相手方の狼狽を眺めながら、声を張り上げる。

 あ、俺君は弟子二人から手を離してもらい、大地を踏みしめたよ?


 ──俺君は。


「俺君はライエン! 大天位、爆炎の剣聖ライエンだ! 賢きものは武器を収めろ、愚かなものはこのライエンに打ちかかって来い!」


 と、舌足らずな甲高い声で宣言したのである。

 俺君ドーンと仁王立ち。

 ──それなりにかっこいいポーズのはずだ。


 へへへ、俺君かっこいい!


「流石ですお師様、お師様も力強くすくすくと御育ちになられました」アリムルゥネが涙をホロリ。

「って、ことだ! 私達は北東のレンクール大公からの依頼でやって来たものだ! 抵抗するか!? 開拓村の人々よ」


「おまえたち、いぜんいた、ひゅーまんの、なかまか?」

「そうだ。と、い言う事はそのヒューマンはどうした? 知っているか?」

「くわしくはしらない。われわれが、せいれいのみちびきで このとちにきたとき、あたりにひゅーまんはいなかった。きゃくとしても、おまえたちがさんねん、いや、ごねんぶりか? ともかくおまえたちはひざびさのきゃくじんだ。ようせいぞくのかたがた」


 極彩色の羽根飾りで全身を飾った、リーダー格の村人が、手槍を手にした幾人もの男たちに囲まれて、俺君達に言った。


 うーむ。

 仕事が片付いてしまった……開拓村は滅びたらしい。せめて墓参りでもして大公に報告に戻るか? それとも、彼ら現地の民の都市を見物に……いや、調査に。

 ゴーレム稼動試験は、まあ成功と言ってもい良いだろう。

 ああ、こうしよう。交易品のガラス玉の代わりに、このストーンゴーレム『大福二号改』を一体、ガーディアンとして渡す。

 そして俺君達は開拓民にまつわる情報と、この近辺の情報を頂こう。


 ──うん。

 俺君、そうと決めたなら……。


「石人形だ。強いぞ? お前達が束になっても勝てないほどだ」俺君は赤き民にゴーレムを紹介する。

「おお、これがじどうにんぎょう!」

「ああ。これをあなた方に譲ろうと思う」

「それはすばららしい。……ですが、これににあうおくりものをわたしたちはもちません」

「なに、無料で構わない。かわりに、あなた方が知る限りの開拓村、開拓民のことをおしえてもらえるだろうか」


 ◇


 交渉はうまくいった。

 そして、俺君達が鉄砲魚の一夜干しを村民に提供し、濁り酒を出されて歓迎を受けた夜である。

 俺君達はこの村のリーダー格、青年に連れられて村はずれの丘に来ていた。


「あー、これは」とアリムルゥネ。

「まあ、見果てぬ夢は余りにも遠かったか。その冒険心、私は忘れないぜ、名も顔も知らぬ開拓者さん」


 草ぼうぼうの大きな盛り土。その上にはやはり大きな丸い石。



「おまえたちのなかまのはかだ。かいたくみん? とおまえたちがよぶもののすえがここにねむっている」


 青年がなにやら印を切った。彼らなりの弔いの儀礼であろうか。


 俺君が頭を下げ、青年を真似した。

 アリムルゥネとルシアが続く。


 そして流れる生温い風。


 その時。

 ──土が、動き盛り上がる。


「ああ、あばよ。異郷に人生を賭けたお前達に融和の酒だ。お前達の魂が天国に召されますように」


 ルシアがまだまだ盛り上がってくる土の上から、濁り酒の入った瓢箪(ひょうたん)の口を取る。


 ──そして逆さま向きへ。トクトクトク……と、地面に注がれた濁り酒は、僅かに黄色く輝きを繰り返す。

 まるで、蛍のように。


 ──美しい。俺君はその光の明滅に心を奪われた。


 俺君の頬を生温い風が撫でる。地面のモコモコはいつの間にか収まっており、俺君ははっとする。


「弟子! 黙祷!」


 俺君は叫ぶ。それは夜の密林に融けて遠くへ遠くへ木霊した。


「おまえたちはかれらのあしどりをしらべにきたという。しかし、おまえたちのなかまがきえて、かるくごねんいじょう。ほんとうは、なにをしにわれらあかきたみのだいちに?」


 ──俺君は素直に語って聞かせる。

 北東の土地、港湾都市レンクールの大公の依頼で開拓民の調査に来た事を。そして、開拓民が失われてしまったと思われる以上、その事を大公に報告する義務があるという事。

 心配はわかる。だが、大公が悪い気持ち──例えば侵略など──を企んでいた場合、俺君、つまりこの爆炎の剣聖ライエンとその一党が、大公の野望を挫き、青年の同族の赤い民に味方をする事を告げた。


「大丈夫だ。俺君剣聖、この大天位ライエンに任せろ!」


「おまえは……いや、あなたさまはそれでよいのか?」

「俺は俺の心のままに生きる。余計な心配は無用だ」


 青年の目に揺れる何かが。そして次に、決心の色。


「開拓民はなぜか滅びた。だが、あなた方はこの土地で生き延びている。これも何かの縁。集落の守りに、このストーンゴーレム『大福二号改』量産型を一体進呈するから、ぜひ役立ててくれ」


 俺君は青年に笑みを向ける。青年が微笑んだ。俺君の好意が青年に上手く伝わったかどうかはわからない。

 だが、この場では俺君達と青年との間に友情が結ばれたと、俺君は信じたい。


---

 ここで一句

  密林で 友誼を結ぶ 蛍かな (ライエン)

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