09-007-02 俺君剣聖、 三才。辺境調査に向かって
俺君達は道の小径で一休みする。
ルシアがマングローブや広葉樹の幹にアゾット剣で大きく十字傷を付けていた。地図作りである。全てはジャングルに呑まれ、海を南に眺めつつ、海沿いに西へと向かう黒い街道の面影は既にどこにも無かった。
「──なあアリムルゥネ」
「ん?」
「静かな森だな」
「思う?」
「思う思う。何か潜んでいるとしか──」
──ガサッ。
灌木から音がした。
と、俺君に飛び掛る人影!
「おおっと!」
突っ込んで来たのは俺君の側面だった。
俺君はミスリルの小太刀を振り回す。
──かろうじて命中、その全身毛むくじゃらの人影は俺に赤い物を振りまきながら俺君にダイブしてくる。
焼け付く息が俺君の呼吸を封じる。ぐええ、息がたまらない。
頭部の乱杭歯、白く尖った牙が煌いた。
手に持つ石斧が、俺君の頭を割ろうと振り回される。
「させるか!」と、俺君は怪人の石斧を小太刀で叩く。途端に石斧が砕け散り、その破片が敵の目を襲う。
敵は唸り声を立てて、よろめいたのである。ミスリルの小太刀。
軽さの割りに、発揮される凄まじい力はミスリル銀ならではの威力か!
「こいつ!」
「バグベアだ、ライエン様」
「知っている! 混沌の怪人め!」
ルシアが後続の怪人、バグベアどもに風の刃を放ちつつ言う。
「敵が何者であっても──このアリムルゥネ、行きます!」
と、掛け声と共にバグベアの群れに突っ込み、ライトソードで早くも戦闘のバグベアの腕を切り飛ばしていた。
そのアリムルゥネの勢いに、怪人たちはやや怯む。
「てぇい!」
アリムルゥネが光の剣を振るうたび、敵の数が減ってゆく。
「お師様! 大丈夫ですか!」
「問題ない! お前は頑張れ、逃げる敵は──」
「あはは! 逃げる敵は私が片付けてやるよ! マジックミサイル!」
無作為に放たれた光弾が、途中で曲がって獲物を追う。
そして炸裂、残るは三匹、マックミサイルはその全てに命中し、敵に深手を与えたのであった。
──よし! さすがルシア、そつなくこなす!
って!?
──ぐばぁ!
「おぅわ!?」
俺君の目の前に、血だらけの顔面がドアップで突然現れる。
俺君焦る、焦るついでに小太刀をふりふり。
──ぐばぁ! 俺君の打撃が命中!
ぐぼ!
「良いから沈め!」
バグベアが崩れ落ちる。
「はあ、はあ……」
俺君はバグベアの執念を見た。今、目の前に倒れたのがこの一団を構成していた最後の一匹であったのだ。
「お師様、どうやら皆片付いたようですね!」とはアリムルゥネ。
「ライエン様、最後の一匹はどうだった?」
な・ん・だ・と!?
「お前かルシア、俺君の前に敵を誘導してくれたのは!」
「ライエン様の戦いの勘が鈍ってはいけないと思ってな! あはは!」
──ううう、俺君剣聖三才。
アリムルゥネ、ルシア。今だこの二人の弟子に追いつかず。
おおお、おおおおお!
俺君が! 俺君の存在意味は!
「お師様、そつない剣捌きでしたね」とアリムルゥネ。
俺君、悔しさの涙が止まる。
「そうだな、ライエン様。私がけしかけたとはいえ、最後の一匹の始末は流石だった」とルシア。
俺君、目から再び鼻水が。
ああ、
あああああ!
俺は、俺君は!
こんな良い弟子に囲まれて!
こんな真っ直ぐに俺君を思っていてくれている弟子を持ち。
ああ、あああああ!
──ああ観音様、観音様!
俺君は涙無く、静かに男泣きに泣いた。
俺君剣聖、弟子たちの思いを改めて知る。
ああ、良かった。素晴らしい体験である。
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ここで一句。
旅立つは 手を引かれつつ 森の中 (ライエン)




