09-005-03 俺君剣聖、二才十一ヶ月。下水道、追う者追われた者
「頬に十字傷のある船長、わたし達が衛兵に差し出したあの海賊だけど、手下の手引きで脱獄したらしいよ?」
と、アリムルゥネ。
魚人間のとき、宝を横取りされそうになったときの事。
海賊の一団に襲われたのだ。確か船長の頬には目立つ傷痕があったはず。
そして、その一団と俺君達は戦闘になり、敵の生き残りは縛って官憲に俺君達は突き出したことがある。
──まあ、過ぎたことだ。
下水道。道中小話を挟みながら俺君達三人はずんずん進む。
ライトをミスリルの小太刀に掛け、アリムルゥネの肩車の俺君だった。
それは俺君が曲がり角を曲がった先。
「おおっと!」アリムルゥネ急停止、カクンと前に折れる俺君の首。
──なんだ? と、俺君は弟子の頭越しに前を見ては、びっくり!
プルルン、と揺らぐスライムがいた。天井から壁、そして床、全てを包む。
半透明な体の中に、金貨や銀貨、そして宝石が二三個浮いている。
──おおおおおおおおお、ゼラチナスキューブ!
どでかい単細胞生物である。立方体の中央に球状の核がある。
「アリムルゥネ、ルシア、駆除対象外の化け物だ。──戻るぞ!」
「はいお師様」ライトソードを抜いてたアリムルゥネが武器を仕舞う。
「わかったぜライエン様」
と、俺君は、床にゼラチナスキューブの嫌う匂いを出す香を焚いておくことを指示した。
このゼリーの怪物に、怪物の向こう側の通路を自前で掃除してもらうためである。
怪物の行く先をあらかじめ決めさせてもらったのだ。
◇
──そして、ドブにしか見えない不衛生な一角を大きく過ぎ、いくつものブロブやゼラチナスキューブを避け、髑髏蟲を焼き、大ネズミを殲滅しながら下水道の流れが綺麗な清流になって暫く。
汽水域であろう。俺君達は潮の匂いがする一角に来ていた。太陽の光が差し込んでいる。出口だ。
下水道の通路には、沢山の貝類が付着していた。
「水路を見ろ! 牡蠣がある。あるある! 食うか? アリムルゥネ、ノロウィルス、ビブリオ菌、そして大腸菌やサルモネラ菌なら私が魔法で殺すから!」
「お、おいしそう……じゅるり」アリムルゥネは涎を拭う。ついでに俺君の涎も拭う。
「こんなこともあろうかと……レモンの瓶がある」
「なに? ルシア」
「レモンジュースさ。こいつを生牡蠣にかけて食うんだよ!」ルシアのテンションも上がる一方!
──おおおお、おおおおおおおおぉおお!
御食事会! 約束の『出口まで掃除』は完了だ!
あとは、あとは、お疲れ様でしたのお食事会!
◇
俺君達は下水道を出た。二人の弟子の手には牡蠣の入ったネットが。
そして俺君達は水路を離れ、流木や乾いた海草を集めながら陸へ。
街の南側の海岸に出た俺たちの回りは、奇妙な植物、熱帯性のマングローブが檻のように垂直に根を下ろしているのだった。
焚き火の中に平たい石をいくつも広げる。
この上で牡蠣を焼くのだ。
そして熱が通り、蓋が開いたものからダガーで隙間を広げる。
レモンジュースをチョロッとかけて、焼き牡蠣の出来上がり!
アリムルゥネが真っ先に食べて噛み締めホホホと舌で転がし飲み込んだ!
ヘブン。
アリムルゥネの顔を見るとわかる。
「ほっぺた落っこちそうです!」
「どれ」
次はルシア。小ぶりの一つにレモンジュースをかけ、フゥフゥと冷まし始めた。
──おお、おおおおおお、おおおおおお!? そのしぐさはまさか俺君に!
俺君感涙にむせび泣く!
──が。俺君の目の前を素通りする焼き牡蠣。
「うんま! 食ってみろよライエン様にアリムルゥネ! この味、最高だぜ!」
──おおおおお、おおおおおおおおお、おおお俺の、俺君に分け前を! 焼き牡蠣寄越せ!
アリムルゥネが小ぶりの一つをフゥフゥしてレモンジュースを垂らす。
──そして。
「あーん」と、対に黄金の焼き牡蠣が俺君の目の前、口の傍まで運ばれた。
鼻をくすぐる天国へまっしぐら確実な芳香。
「あーん、ぱく!」と、俺君は目の前の焼き牡蠣を口にした。
──ああ。
物凄い美味。俺君は感動した。はむ、はむ、はむはむはむ、熱ッ! ガリッ!? 痛ッ! 舌噛んだ!
俺君、熱さへの準備と噛み砕きに失敗。
「お師様!?」
「ライエン様、ガッツき過ぎだぜ。あはは!」
うん、ちょっと反省。
──だがしかし!
ううう、うううう! 散々だったが旨いのだ!
と、いうわけで俺君、弟子らと共に焼き牡蠣を満喫したのであ──とは、俺の運命が許さなかった。
ヒュン! ヒュン、ヒュン!
との風切り音が複数。矢は俺君達がやってきた下水道の出口付近からこちら、浜辺側へと飛んでくる。
突然の敵意を感じた俺君は見た。
やや擦り切れた革鎧、弓、堰月刀を装備した男達。船長服を着流した頬に傷のある男。
その男の元に統制が取れている。
下水道出口の牡蠣採取のとき、三人で騒ぎつつ大声を出しながら取りまくったのがいけなかったのかもしれない。
俺君達の大声は物凄く反響したはずだ。
俺君は思い出す。
あいつらは俺君がこの前、官憲に突き出した海賊と、その生き残り!
脱獄したと聞いていたけれど、ああして元気じゃないか。──薄汚れてズタボロだけど。
俺君、やつらの顔と特徴を覚えていた。覚えが無い盗賊ではなく、おそらくあれは海賊の生き残りである。
──その海賊連中が、俺君に恨みがあるのだろう。
こうして俺君達を追跡し、見出し、あの時メチャクチャにやられたのに、こうして再戦を挑んでくる。
執念深いヤツ。でも、俺君お前らなんて返り討ちにしてくれるもんね!
大きながなり声。見方の士気をあおる。薄汚れた船長服の男。彼こそ海賊の頭目。頬に大きな傷の目立つ、海の男である。
「きさま小ライエンの一党! お前のようなガキがいるカァ! お前のせいで、俺は、俺はッ! ──『群狼の』アリムルゥネもくたばれ!」いつのまに勢力を回復したのか、七、八名ほどの海賊仲間と共に船長。
うううう、うううううう!
俺君は怒った。ひとえにこの海賊達が悪いのだ。人の稼ぎを横取りしようとしたのはお前だろ? 俺君達の実力を見誤って、自ら壊滅への道を辿ったのはお前だろ!? 俺君は腹へ魔力圧縮、魔力を右手へ、俺は赤く輝く右手の拳を突き出した!
俺君は腹に力を込めて、
「──海賊ども、俺君達の食事の邪魔をするなぁ!」
手から発射されるは赤い光弾! 限界まで圧縮された俺君の火球は、七名いる敵の中心で炸裂、閃光を放ちながら大爆発を起こした。
七つの影が吹き飛ぶ。そして、その七人に突撃をかけていたサンドゴーレム『大福三号』も粉微塵である。
──うん、悪は滅びた。
船長を始め、その他船員もピクリとも動かない。
──うん、完全勝利である。
「俺君強い! 俺君偉い! 俺君正義!」
──呆れ顔の弟子二人が見える。
「はいはい、お師様は偉いですね。ご飯の続きにしましょう。
「だな、だけどサンドゴーレムが爆発したときに飛び散った砂で、牡蠣と砂がぐちゃぐちゃだ。残念だったな、宴会はお開きだライエン様」
──うううう、ううぉお!
「どうせ、そんなことだと思ったよ!!」
俺君は喉から血が出るほど叫ぶ。
「お師様、明日があります!」
「そうだぜ、ライエン様には明日がある!」
うおお、おおおおお。
───うん、『大福三号』も散った。
俺君、負けない、負けるか! 勝利は俺君達にあり!
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ここで一句。
砂浜で 海賊煙る 牡蠣を食べ (ライエン)




