09-003-01 俺君剣聖、二才十ヶ月。東のジャングルに異常有り
俺君文字の練習中。
紙に一文字づつ文字を書いてはアリムルゥネやルシアから、
「これは酷い」
「ないわライエン様、これはないわ」
と笑われて、俺君一人が弟子二人に噛み付き暴れる毎日。
そんな日々、『三本松』の給仕娘、レンクールの真珠マドレスが俺君のテーブルに近づいては興味ある話を始めるのであった。
──そう、それは。
東のジャングル。
港湾都市レンクールの東門に隣接した、森からの脅威に備える制限区域。
俺君達は、赤ローブの骨、そして下半身馬人間、ケンタウロスもどきを倒した監視塔のついた砦が存在していた、記憶に覚えのある区域である。
港湾、防波堤、その先の岩礁付近が騒がしかったため、ジャングルからの脅威が再燃していた。
なんでも狩人や薬草取りによると、ケンタウロスの部族がレンクールの街近くのジャングルに拠点を築いたらしいのだ。
「……と、いう事で、ライエン様たちが打倒したケンタウロスの仲間が再びやってきたのかもしれません」
酒場娘マドレスが、俺君達に話してくれている。
──俺君は考える。
前回のあれは、この世の者ではない怪物だった。
必ずしもケンタウロスの部族とつるんでいるとは考え難い。
が、一度倒して復活した化け物だ。今回も傷一つなくピンピンして活動しているのかもしれない。
そして、あの化け物がケンタウロスの部族と出会って、行動を共にしている可能性はある。
「それはないな。あのケンタウロスは化け物だった。そしてギャフンと言わせた。もう立ち上がってくることは無いと思っていた」
「お師様、見落としですか?」
「いやいや、アリムルゥネ。それは無いだろう。塔でのあいつは『自分の事を分身、偵察役、アストラル体と言っていた」
「今回も分身? 何体も?」
「……ああ。そうだともアリムルゥネ」
俺君はルシアに目をやるも、珍しく彼女は黙っている。
「ルシア?」
俺は彼女を見る。
「いいえライエン様、今回も頑張るか! 話し合いで決めるのか?」
「森から出て行ってくれと?」
「そうそう。頼めば何とかなるかなー、と」ルシアの口調は軽かった。
「相手が本当にケンタウロスなら商売相手になるんじゃないのか? ライエン様」
俺君とアリムルゥネは顔を見合わせる。
「とにかく行って見ませんか? 東門」アリムルゥネが続いた。
「そうだな。よーし、二人とも出発だ!」
俺君は右の拳を突き上げる。
──そして。
二人の弟子が俺君に続いたのである。
◇
城壁近くまで森の緑に包まれている東門。
俺君達は衛兵に挨拶する。
衛兵がアリムルゥネに気づいて物腰が柔らかくなった。
「ああ、あなたは『群狼の』。もしかして、ジャングルのゴブリン討伐に?」
──え? ゴブリン?
「ゴブ?」アリムルゥネは聞きなおす。
「ええ、ゴブリンの群れです」
「ケンタウロスではなくて?」
「ケンタウロス? ああ、狩人や薬草取りが言ってましたね。その上にゴブリンなんで、商売にならないと」
──おお、おおおおおおおおお。敵が増えた!?
ケンタウロス。ゴブリン。
どちらも森を荒らして居座っている。
俺君としてはどちらでも──両方でも──良かった。俺君平方天下一。立ち塞がる敵は斬って進むのみ。
ただ、俺君は油断して怪我をすることだけを心配する。
「アリムルゥネ、ルシア。──敵の正体がイマイチ不明だ。だが、油断するな。気を抜くなよ!?」
俺君はアリムルゥネの肩を借り、肩車をしてもらった。そしてミスリルの小太刀を借りる。この小太刀は軽いのだ! 必然的に、俺君には蜘蛛の巣破りと枝葉落としの役目が回ってくる。
「はいです、お師様」
「承知した、ライエン様!」とルシアが軽く右目の眼帯に触れる。
──俺の持つ借りた小太刀にライトの魔法が灯る。
白き輝きが四方八方を埋め尽くす。
痛みのある光ではない。優しい、落ち着いた輝きだ。
「さ、行こうぜ。準備できたぜライエン様」とルシアの飾らぬ笑み。
「うん」
「おー! 行くぜアリムルゥネ、ルシア!!」
俺君と弟子二人、そしてロシナンとスラぶー、ストーンゴーレム大福二号の三匹をつれ、港湾都市レンクールの東門から、ジャングルに分け入って行ったのである。
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ここで一句。
空っ風 飛車角落ちで 軍師泣く (ライエン)




