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09-002-04 俺君剣聖、二才九ヶ月。玉ねぎただ今、大移動中?

 ツーンと鼻をつく匂いがあった。


 俺君達三人と、ロバのロシナン、スポットスライムのスラぶー(最近ではスラぶーのミルクでチーズを作っている)、そして新たに仲間に加わった巨人型ストーンゴーレムの『大福二号』である。この背丈おおよそ三メルテの巨人は何事も異常なく、港湾都市レンクールに向けてズシン、ズシン、と雄々しく前進していた。


 丘から望むは西の海。それが円弧を成して湾となっている。

 その丘を下る俺君達。

 そして目にはいる幾つもの埠頭と防波堤に八隻ほどの交易船。香る匂いは磯の香りだ。


 そして何よりも、白亜の城の高い尖塔と建物、そして塔を囲む強固な防壁。

 城と並んで巨大なのは、外壁に黒石材を利用した漆黒の魔法使いの『塔』が一つである。


 目の前に広がるは、立派な城壁を持った港湾都市レンクールであった。 


 東の森との境に、ちょっと大きめな双葉が風を受けてムチのようにグルングルンと回っているのが見える。

 そしてその連中は、集って俺君達に迫って気ているようなのだ。


「あのグルグルなんだと思う? アリムルゥネ」

 俺は背から弟子に問う。

 弟子アリムルゥネは、


「あ! あれは! 美味しい晩御飯の元です! 皮を向いて輪切りにし、飴色(あめいろ)になるまで炒め、フゥフゥ言いながら食べると最高の味になります! チーズとの相性も抜群で、とっても美味しいんです!」

 アリムルゥネが力説する。

「わたし、あれ食べたいです! ね、ルシア!」

 と、ルシアに声をかける彼女。

「ん? 何かと思えば玉ねぎじゃねぇか。ジャングルからの出張組みか?」

 声をかけられたルシアはアリムルゥネにニヤリと口の端を釣り上げる。


「俺君も食べたいぞ!」


 俺君も知ってる。球根も旨いが、自然と倒れる地面に這う前の、葉の部分も旨いんだ。

 と、なると……。


「アリムルウネ、首を落せ」

 ルシアが無茶な事を言う。しかしアリムルゥネが返事をする前、俺君が名乗りを上げた。

「いや、ここは俺君がッ!」

 えへへ、玉ねぎバスターの称号はいただきだぜ!

「ライエン様が?」とのルシアの声。予想していなかったのか、口をあんぐり開けていた。

「俺君の魔法で玉ねぎを行動不能にしてみるのだ!」


 涼しい風が、俺君たちの間に流れた。

 弟子二人は何も言わない。つまり、俺君に全てを任せたということだろう。


 ──俺君の体を流れる赤い魔力。右手に魔力を流して、ゆっくりと流す。

 そしてそれを、グンルングルンと茎を回している玉ねぎ相手に集中させる。


「あ!」


 アリムルゥネの警告。

 二十数個はあろうかという玉ねぎの群れが、敵意を見せた俺君目掛けて飛び上がり、ビヨーンビヨーンビヨーンと、アリムルゥネの背中に回ってきたのである。そして雪崩のように俺君の左右の頬を交互に殴りかかってくる。

 

 俺君食らう、ジャブ、ジャブ、ジャブ、ぐはぁ!

 と俺君がさらに怯んだところでストレート! ドボゥ! あうあう。


 おおお、おおおおおおお! 玉ねぎが交互に列になって俺君の顔や顎に体当たりしてくる。

 俺君剣聖! ……こんな身でも俺君は最強だ! ──玉ねぎごときに負けられるかッ!

 

 ──くぅう、なんて連携攻撃だ! 軽快な動き。野生の野菜の相手はこれだから疲れるぜ!


「アリムルゥネ、背中を向けて逃げろ!」俺君叫ぶ、

「え? あ、はい」と、即座に弟子は土埃を上げてダッシュした。


 ──赤い魔力を編んだ俺君は。


「出でよ吹雪、食らって凍れ、ブリザード!」と勢いよく溜めねぎに向けて魔力を放出する。


 突如現れた雪嵐が玉ねぎの上に雪を積もらせ、それと同時に動きをどんどん鈍らせてゆく。

 そして俺君や弟子の顔に、玉ねぎのシャーベットが降り注いだ。


「きゃ! ……ちょっと涙、涙、ちょっとお師様! 何するんですか、痒いんですけど!」

「おいおいライエン様よ、そんな魔法使うんなら事前に知らせろ!」


 二人の弟子から物凄いブーイング。


 先頭集団の玉ねぎは削られひんやり涼やかシャーベットと化したが、後続の玉ねぎは次々に体を凍りつかせて動かなくなった。

 その数二十個あまり。大収穫である。


「あー、眼が眼が! お師様やることメチャクチャです!」

「痒い痒い、ライエン様、あー、眼に染みる!」


 うん、弟子たちの抗議の声は続いている。

 しかし、二人が涙は尽きたと流し終えた。


「でも、せっかくだからここで味見をしない?」

「そうだな、焚き火を起そうぜ」


 ◇


昼。焚き火がパチパチ鳴っている。

そして、輪切りにされ、持ち手にと木の枝を刺された玉ねぎは表面からこんがりと焼け始め、ジューシーな液体を輪の中に溜め込み、その漂う香りは、食欲を刺激する。


「じゅるり。……美味しそうです!」

「ああ、たまらないな、この玉ねぎの匂い」


 二人は一本づつ玉ねぎに刺さった枝を持つ。


「はい、お師様」

 と、アリムルゥネが俺君にも渡してくれた。


 おおおおお、おおお! この鼻をくすぐるこの香り! 最高だぜ!


 ──俺君玉ねぎにかぶりつく!


「う゛!?」

 舌に違和感ホッペに着火、喉が焼ける!


「うぅおおおおおおおお! あふいあふい、熱いのだ!」

 舌が、舌が焼ける!


「あはは、お師様急ぎすぎです!」

「そうだぜライエン様、そう慌てるなよ! ふーふーしてやるからさ!」


 と、俺君と同じく玉ねぎを食べる弟子二人はホクホクといつまでも俺君を囲んで俺君と、三人で玉ねぎの味を楽しむのだった。


 そして昼過ぎ。

 焚き火の始末を終えた俺達は、残りの玉ねぎをロシナンの背に積む。

 そして俺達三人と三匹は港湾都市レンクールに向けて、再び街道、《黒い道》を歩み出したのである。


---

 ここで一句。

  玉ねぎは 焼くと旨いぞ 我と味 (ライエン)

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