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01-005-01 俺君剣聖、三ヶ月半。春。俺君ふと魔力を練ってみる

 ──俺は黄金の野に降り立ち、虹色の空の中、人一倍輝きを放つ白と黒、二柱の観音様を見ていた。

 なぜか羽衣をつけている弟子二人。

 その二柱が琴とギターをそれぞれ持って、緩やかな曲を演奏している。


 と思った時。

 二柱の背中に後光が輝いた。


 楽譜の示す音は全休符、一旦無音となった後、爆音がギュイーンとオーバードライブよろしく炸裂する。

 琴はいずこかに消え、あるのはシンバルが二十枚。そして腹に刺さる二つのバスドラムがへヴィメタルに花を添える。

 俺は、まどろむ俺君は!

 そんな爆音を鳴らすアリムルゥネとルシアの観音様の笑みを睨むと一発で覚醒した!


「ぎゃー!(うるさいのだ! 起きたじゃねーか!)」


 怒り心頭の俺君。

 首を振り振り手足をバタバタ。なんだか外が騒々しい。「あ、ゆめか。えへッ」


「あ、お師様が起きたみたい」

「この急がしい時に! あやしていてくれるか、アリムルゥネ」

「合点承知!」と兄弟弟子アリムルゥネ。


 ルシアは荷造りの手を一度止め、アリムルゥネに声をかけたものの、その返事に不安を覚える。音が収まった。そして、ガサガサといった紙や衣擦れの音が聞こえる。


「本当に大丈夫でしょうね、アリムルゥネ?」

「なあに、心配ご無用! あはは!」


 いつになくテンションの高い弟子である。ルシアが心配する。


「……あの娘、何か変なもの食べたのか? もしや、頭でも打った?」


 俺の弟子たちが慌しく荷物を──たいした量は無いが──まとめている。一番多いのは、捨て値で売りさばいた魔法の品や武具の代価たる色とりどりの宝石である。それでも、数十年は何もせずに暮らしていける額のお宝になっていた。テントや毛布、水袋、宝石袋、保存食、着替えと、ロバの背に乗せているが、一つ荷物を載せるごとにロバのロシナンはひいひい言って(……おいら、もう無理)と言っているようである。見かねたルシアがまた俺の知らない、聞いた事の無い魔法を使う。すると膝を折りつつあったロバの足が、真っ直ぐと伸び、軽やかにステップを踏む姿を見せる。きっと軽量化が、剛力の魔法でもかけたのであろう。そして、さらに容赦なくロシアンにカーペットを載せるルシア。すると、またロシナンが苦しそうに息遣いを荒くする。


「ぎゃー! (軽量化の魔法だな!? 俺も真似してみるぜ! レッツラーニング!)」


 この前もルシアの魔法、魔力の動きを真似した。今回もそれに倣っただけである。


 俺がルシアの魔法を真似する。体内全体を通る魔力を細く長くし指先へと集める。

 次ぎは第二段階である。魔力の放出。指先から溢れ出た魔力の波を、王様の耳はロバの耳で知られたロバの大きな耳に、俺は編んだ細い糸のような魔力を流す。接触していないと無理かとも思ったが、俺とロバのロシナンまでの距離は一メルテ。この程度の距離では問題ないらしい。ボケ始めていた八十八歳の脳みそから、三ヶ月の赤ちゃんの脳みそに換装された俺、コレは重要と思って心のメモに手早く記録する。見よ、ロシナンの動きが快調だ。ロバのロシナンはくすぐったそうに、俺から流れ出た風をまとってくれたのだ。

 ルシアが眉根を寄せる。そして、微笑んだ。


「ライエン様、この純粋な魔力の流れがライエン様の!」


 ルシアが感動に泣いた。


「ぎゃー!(やったぜ!)」


 ──と、ああ、瞼が、瞼が重い……疲れたのだ、俺君は。でも、もう一息! 頑張れ俺!


「え? お師様魔法が使えるの? いつ学んだの!?」


 俺が魔力集中のため、アリムルゥネを無視していると、


「ずーるーいー! わたしも魔法が使いたい!」とピョンピョン飛び跳ねる。

「盗めばいいのよ。常に学ぶ気持ちを忘れずにね」


 涙腺の緩んだ目をハンカチで拭いていたルシア。アリムルゥネに視線を向ける。


「祈る気持ちなら、わかるけど!」


 今日も朗らかな弟子、妖精騎士アリムルゥネ。学習意欲はあるようだ。

 こいつにはまだ成長の余地が残されている。──師匠の俺は断然成長の余地はあると思う。

 どこぞの王子様や王女様のように、もう一人の王子様を先頭に、続く王子と王女の成長限界が神様から低く抑えられている、といった不公平は無いのである。


---


 ここで一句。


 吹き荒れる 光輝の風よ 魔の光 容易に人を 魅了する 祈る気持ちを 忘れずに (散文 ライエン)


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