09-002-01 俺君剣聖、二才八ヶ月。戦い終えて、群狼の
『三本松』酒場の一番奥の、小奇麗なテーブル席。
俺君ライエン一行は、そんなテーブル席を陣取って、昼食をとっていた。
「わたし達が捕まえて衛兵に引き渡したあの海賊二人、揃って牢屋に入れられたらしいよ?」
と、パスタを頬張りアリムルゥネ。そう。二人は作るのに手間の掛かるパスタ。
お金持ち自慢! 俺達は部屋をロイヤルスイートに変えたのだ!
──それに引き換え。
俺君の皿にはアサリの酒蒸し。手にベットリと脂をつけながら、一個一個、貝柱も綺麗に千切って食べている。
う・ま・ひ。
「ふーん。それだけ悪い事してたんだろ」
と、大して感心もなさそうにルシア。ルシアの火傷は完全に治っている。
もっとも魔法で治療した傷痕が残る話など聞いた事も無い。
「俺君名声アップ!」俺君自己主張!
──し・て・み・る・も・の・の。
「……残念ながらライエン様、誰に聞いても『群狼の』一行が命を張った、と言う噂が広まってるだけなんだぜ!」
と、ルシアが一蹴。
──しょぼん……。
「でも……」アリムルゥネが俺君の顔を覗き込む。そこには観音様がいた。
「実際お師様は強いんです!」
アリムルゥネ、力説。ああ、尊い……後光が見える。観音様観音様。ありがたや……。
「そうだぜ? ライエン様は世界一だ!」俺がアリムルゥネの声に天上の光を見てみると、ルシアが俺君のおでこを人差し指でピコンと跳ねる。
「な? ライエン様は世界一!」
──おお、おおおおおおお! 俺、俺君は強い……?
今度はルシアの後ろに後光が見える。ああ、あああああ。気づけば俺君、その輝く後光に両目から塩辛い水を流していた。
「ライエン様の弟子でよかったな? アリムルゥネ」ルシアがアリムルゥネの背中をバンバン叩く。
「もちろんです! ルシアの言うとおり。嫌だといわれてもついていきますよ? 覚悟してくださいね! お師様!」
俺君は弟子たちの後光の意味と、俺君自身の涙の味を知る。
◇
街を二分する河の、川岸にて。
「いやー。今度のクエスト、こいつが一番の頑張り屋だったかもな」と、ルシアが宿の厩から連れてきたロバのロシナンの栗毛にブラシをかける。ごっしごしと石鹸まみれである。
──え? ルシアの魔法で一発だ? なに、こうして時間を割くことで、ロシナンとのスキンシップをとっているのだ! ……魔法だと一瞬だからな! って、ルシアによると仕上げは魔法でクリーニングするらしいが。
最初は寒そうに震えていたが、ブラッシングが進むにつれて、気持ち良さそうにルシアに身を任せていた。
「荷物?」俺君は最大の謎をルシアに尋ねる。
「『なんでも袋』って言う魔法の袋を幾つも背負ってもらっているんだぜ。袋の中身の質量はゼロになる」
「ロシナンは全部でどれだけの荷物を持てるんだ?」
「さぁ? 私の重量操作の魔法も乗るからな、詳しくは調べたことも無い。でも、今回の宝の山はドラゴンの巣級の財宝の数と量だったから、大概の量を持てるはずだ」
「そうなのか?」
「そうなんだぜ? ライエン様」
ルシアはしっかりしているようで、細かいところは甘い。甘いというより、厳格でなく、かなり広い幅での余裕を持っている。こういった日常のことから、言葉遣い、社会の規則など。賄賂は渡すし、衛兵にウィンクをして勘違いさせるし、渡すチップの量は毎回違うし。でも、そんなルシアだから俺君のような適当剣聖が相手でも、これまでずっと付き合ってくれていたのだろう。
「なあ、ライエン様。樫の木『大福』、やられちまったな」
──正しくはアリムルゥネの剣技、炎撃斬に巻き込まれて一本の火柱と化したんだけどな!
それ以前にも、魚人間の三又の矛を体に何本も埋め込み、両手は幾筋にも裂けてボロボロだった。
ああ、『大福』よ。
──無茶しやがって。
え? 俺君が『大福』に攻撃命令を出した? ……そうだっけ?
とにかく、『大福』は魚人間相手に散った。
ルシアがロシナンにクリーニング、乾燥、といった仕上げの魔法をかける。
おお、良かったなロシナン。綺麗になって。
ルシアはテキパキと道具を片付けていた。
「なあライエン様」
「ん?」
「『大福二号』を造ろうぜ!」
「おお」
俺君はそれも考えていた。
ゴーレム製作の二回目。戦いは数だよ! と、どこかの偉い人が言っていたような気がする。
『大福』みたいなウッドゴーレムを沢山作るのか……と、俺が頭の中で設計図を描いていると、
「ライエン様、今度は石製のゴーレムにしないか? 頑丈で、もっとパワーのあるやつ。樫の木製の『大福』では、敵を叩いただけで自分自身にまで跳ね返りの傷を受けていたし」
「おおおおおおおお……ストーンゴーレム……」
「でさ、街を出た南の丘に、石切に行こうぜ!」
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ここで一句。
汗流す 母なる河よ 命見る (ライエン)




