08-014-03 俺君剣聖二才七ヶ月、魚人の岩礁、サルベージ その三
ヒャッハー! またしても海だぜ!
でも、今日は燦々とお日様輝くビーチではなく、海底洞窟探査だ!
──だからここで、今だ至らぬ俺の魔力を当てにせず、信頼の実績ルシアが皆に魔法を掛ける。
水中呼吸の魔法である。俺達三人と三匹は岩礁の洞窟に潜って行く。もちろん、ウッドゴーレムの『大福』は呼吸の魔法は要らないので掛かっていない。ただ、表面保護の魔法がかけてあった。貝や蟲が取り付かないようにするためである。
「ねえ、ここって本当に以前来た洞窟? 全然顔が違うじゃない!」
「──見覚えが無い、と言いたいらしい」
「特に魔力の変化は……」と、右目の眼帯をずらしてルシア。「……無いぜ?」
と、ルシアがライトをアリムルゥネが持つミスリルの小太刀に灯す。
「え? わたし今回は小鉄で行こうと思って……」
「洞窟内だ、長物は邪魔になるだろ?」
「まあ、そうだね」アリムルゥネはあっさりと納得したようだ。
──しかしだ。
「地図、全く役に立たないな」
「だろ? ライエン様もそう思ったか」
「どうするの?」
「強大な神像があっただろ、あの魔力を感知できないか? あれだけの大規模な祭壇に祭られていた神像だ、神像その物の魔力もきっと膨大に違いない!」
──ルシアが無言でうなづいた。
「魔力、読めないよ」
「大丈夫だアリムルゥネ、俺君とルシアがついてる」
「うん、うんうん、──信じてる」アリムルゥネの微笑。それに、俺君達二人は応えなければならない。
──と。
ん? 何か光ったか? 俺君は目を見開く。
「──ライエン様。アリムルゥネ、迎えが来たぜ」
ルシアが呟く。
「ん、来てるね」
「おおおおお、おおおおおお、おおおおお! 魚人間! 二体!!」
「さあ、招かれざる客。……それは私たちか」
ルシアの両手に赤い糸、それは玉となって両掌で輝き始める。
俺君は右手に魔力を集中、赤い糸。赤い糸は小さく分厚い刃となって───。
うん、このルシアの魔力の動き、ウィンドカッターだ。
俺の魔力の動き、それもルシアのウィンドカッターに合わせる。
魚人間の手から銛が射出され。
「おっと」
動きの遅れたアリムルゥネの太腿をかする。一瞬、海の青が赤に変わった。
「痛ッ、しみる……!」
魚人間の体からも赤が激しく走る。ウィンドカッターが魚人間たちを深く傷つけたのだ。敵はエラやヒレを切り裂かれる。
ウッドゴーレム『大福』の雄叫び。敵は鱗とその下の身を切り裂かれ、赤く染まって海の底へと沈んでいく。
痛みに苦しみながらもアリムルゥネは自分の体が軽くなったことに気付く。
ルシアの付与魔術だ。
速度を得た彼女は別の魚人間に肉薄、頭部をミスリルの小太刀で割っていた。
「わたし体が重いです!」
「あはは、さすがに水の底は動き難いか、アリムルゥネ」
「俺君、魔法を習って良かった。……うん」
俺君凄い。魔法をもっと覚えると、いついかなるどんな場所でも応用が効くようになるのだろう。
うん、俺君凄い。でも、もっともっと頑張ろう!
『大福』も良い感じだ。あんな離れ業が出来るとは。俺君最初の一体にしては上の上、うん、上出来といえた。偉いぞ俺!
◇
上下左右に曲がりくねっていた水の領域。
どの程度の時間を昇って降りて、昇って降りてを繰り返したのかわからない。
「今の時間がわかるか?」
「一日目の夕刻です」ルシアが首から提げていた懐中時計を見て答える。
その品は確かルシアのお気に入りの一品で、ドワーフ製の機械時計。それにルシアが錆止めと磨耗防止の魔法を付与した一品であったと思う。
だが、そんな環境にも違いが見えた!
俺達一行は海面に出る。
小太刀の先のライトが輝く。
砂浜を要する大き目の潮だまりだ。
大きな岩が四方八方を包んでいる。
「ぐるるるきゅるる」
あ、誰かのお腹が鳴った。
「えへへ、わたしです」とルシア。
すると俺君も、
「ぐぅーーーーーーー」
あ。俺君のお腹も釣られて鳴った。
「飯にするか」とルシアが微笑み俺君を見る。
「きゅるる……あ、私のお腹もだ」アリムルゥネのお腹が最後に鳴った。
俺君はチーズを齧る。火は厳禁だ。窒息の恐れがある。ルシアが空気にはそれなりに気をつけているはずだが。
弟子二人はチーズに加えてビスケットだ。
ロシナンには積んでいた保存の魔法をかけてあった飼葉一束。
スラぶーは……浜に打ち上げられた貝殻や貝そのもの、そして海草や磯巾着のついた岩を食べている。
大福は……食べない。燃費ゼロ! うーん、ゴーレムって使いやすい! でも俺君はもっと役に立つ使い方をきっと見つけて見せるもんね! 兵法天下一!
──などとある程度からだの自由は利いても。
そう。ここは潮溜まりに過ぎないのだ。
出入り口は入ってきた大き目の穴の他には何も無い。
ここまで来るのに、ロシナンや大福をつれて来たのは大失敗だったといえる。大柄で大変だった。
でも、今さら引き返せない。
魚人間を倒してお宝をいただき、皆無事に帰路に着くまでだ。
──そんな事を、俺君はアリムルゥネの寝物語を聞きながら眠りについた。
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ここで一句。
海の中 蒼い光が 煌いて (ライエン)




