08-014-01 俺君剣聖二才七ヶ月、魚人の岩礁、サルベージ その一
樫の木君が凸凹した焦げ茶色の皮そのままに、俺君のそばに立っている。
ギザギザ大口。眼窩の窪みにある知性のともしび。
うん、確かに俺君が作ったゴーレムだ。ちなみに名前は『オーク大福人形』とつけた。
──我ながら素晴らしい名前だと思う。
え? 大福?
うん、そのビヨーンと皮の伸びるアンコ餅は俺君今ね、頬張っているんだ。
──美味しいよ?
俺君、弟子二人の奮闘のおかげでこの『三本松』で余裕でスイートに連泊することの出来る資金を持っている。
しかし、それでもお金はなるべく沢山あるほうが安心できる。
アリムルゥネとルシアは芋のシチューを食べている。
「大福人形って、もっとマシな名前は無かったんです?」と舌で芋を潰しながらアリムルゥネ。
──なんだと?
「『大福』。このおめでたい意味がわからないのかッ! このバカ弟子がッ!」
「えー、ダサい」
ブチ。俺君のどこかの血管が切れた。
俺君は唾を飛ばしながら、
「お前、アリムルゥネ! 大福! 幸運! ラッキー! そして、頭の中に御花畑を!」
と口から泡を飛ばしつつ俺君。もはや自分がなにを叫んだのか覚えていない。
「まあまあ。ライエン様は食いしん坊だから、色々とおめでたい方が似合ってるぜ。大福。……そう考えると良い名前じゃないか」
──そうだろうそうだろう。さすがはルシアだ。趣深さがわかるとは。
「えー、例えば『ハルマゲドン・エクセレント・マッハ・ザ・オーク』、みたいな名前がかっこいいと思います!」
俺君もルシアもアリムルゥネを凝視する。
特に顔色がおかしいわけでもない。
──こいつ、アリムルゥネ。
おおお、その名前、本気で推薦してやがる……。
「ま、まあそれでもありだけど、ちょっと長いかも。『オーク大福』『大福人形』短くて呼びやすい。アリムルゥネ。お前には悪いけど、私はライエン様に一票入れるぜ」
と、こめかみに一筋の汗を流しつつルシア。その微笑みは俺君のもの。
俺君は大福餅を食い終わると、リンゴをチョコチョコと齧りつつ、その蜜と食感を味わっていた。
「ああ、私は『リンゴちゃん』でも『バナナちゃん』でも、ゴーレムの名前なんてどうでも良いんだけどな!」
◇
『バー&イン 三本松』の看板娘、レンクールの真珠、マドレスがその小さな体で店内をちょこまかと動きつつ、その両手には盆を二つ持ち、走り回っていた。
そして、客の注文も一段落し、みなが食後のアルコールを穏やか、そしてゆっくりと楽しみ始めた頃、黒髪のマドレスが俺君達のテーブルへやってくる。
「アリムルゥネさん」彼女は弟子の一人を指名した。
「この間書いていただいた地図ですけど、全部海の中、しかも落盤がおきていて全く場所が特定できなかった、と購入者の方がぼやいてました。しかも魚人間の残党が海面、水中と所構わず襲い掛かってきたそうです。そして探索に出たお仲間が、何人も魚人間のために命を落とされたとか。このままだとこの港湾都市レンクールの港は以前のように魚人間に封鎖されてしまいます! お願いです、もう一度あたしたちに力をお貸し下さい!」
「うーん」と赤ワインを飲み干すアリムルゥネ。顔色は飲む前と変わらない。しっかりしたものだ。
「それでマドレス、私たちに再び依頼?」
「依頼……となると報酬が発生しますので、お願い、と言う形になります!」えへへ、とマドレス。
「「「……ただ働き!?」」」
「ええ……」マドレスの顔から笑顔が消える。
伏せ目がちにマドレスの首が前にガックリと折れた。俺君達三人は互いの顔をそれぞれ付き合わせる。
──なんともいえぬ、苦い顔である。
「なーんちゃってね!」
と、マドレスは顔を上げると笑顔で舌を出していた。
「と、言うのは建前で、お城の大公様から帝国金貨三百枚の報酬が出るそうです! おめでとうございまーす!」
「「「三百枚!」」」
俺君達の瞳がまだ見ぬ金貨を映す。
「魚人間駆除! そしてやつらが溜め込んでいる財宝! この前ミスで海に沈めた財宝も! 全て魔力走査を掛けてビタ一文残さず頂くぜ! 大義名分は我らに有り!」
ルシアが唾を飛ばして椅子を蹴飛ばし演説ぶる。
「魚人間、思う以上の強敵です。弱き個ではなく、集団となったときの恐ろしさ。小鉄の炎撃斬を味わっていただきます!」
アリムルゥネが早速椅子に立てかけてあった小鉄を抜いては、ギラリと刃の輝きを皆に見せ付ける。名刀小鉄。人ではなく魔を切る剣。
「だー! もう一回魚人間退治、ついでに今度こそやつらの財宝は俺君達のものだッ!」俺君は決意を雄叫びに換える!
マドレスが俺君達のヤル気に感謝の涙を流して喜んだ。
「ありがとうございます!!」
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ここで一句。
樫の木は 丈夫だよねと 叩く俺 (ライエン)




