08-012-03 俺君剣聖二才四ヶ月、化け物から街を救いたい その三
「青銅か?」
「そうですね、お師様」
俺君はアリムルゥネに聞いた。彼女は扉を調べている。
扉以外の罠があった可能性を考えれば、実に危険な行為である。だが、俺君には見える。変な魔力がこの両開きの扉には魔力の仕掛けなど何もない事を。そしてアリムルゥネのスキルなら気付くはずだ。──事前の危機探知が。
「魔法の罠なし!」俺君は背中越しにアリムルゥネに教えた。
「ん、鍵……掛かってないか」とポツリ。物理でも俺君達を阻むものはいないらしい。
で、俺君は「ゴー!」と言って扉を開けさせた。
暗い石造りの塔に陽光が差し込む。踏み出す俺君達のせいで、床に薄っすら積もっていた埃が舞い上がる。
で、俺たちの目を釘付けにしたもの。
──五体四列に並んでいた武装した骨の数々である。
よく見ると骨の表面にも薄っすらと埃が積もっている。
目撃証言はあったが、この骨の列を見るに、害意を持っているわけではなさそうなのだ。
俺君達は左右を見る。
と。
──カツン。カツン……、カツン……。
と、石造りの塔に音が響いた。
樫の木の杖が床を叩く音、二階から螺旋階段を伝って降りてくる、骨。一際目立つ赤いローブを着た骨である。眼窩の奥には知性の赤い炎が見える。
「あなたがここの周囲に人が来るのを嫌っている魔術師? ケンタウロスと組んでいるんだって?」
と、一歩前に出て、実に簡単に用件だけを聞くアリムルゥネ。
「あー、別に敵対しよう、と言ったわけじゃないんだ。ここを出て、もっと奥……そうだな、人の来ないジャングルの奥に引っ込んでいて貰いたいだけだ」
ルシアが妥協点を探る。
骨は何も言わず、俺君達侵入者を含め、辺りを見回す。
視線を追えば、俺君達三人はすっと視線が過ぎ、スポットスライムのスラぶーにも目もくれず。
ただ、その赤い炎はロバのロシナンの前で釘付けとなる。
──俺君思う。え? こういう場合って一番強いヤツを探るんじゃないの?
「んー?」俺様にはこの骨の思考がさっぱりとわからない。
「ロシナンに用? 肉? でもあなた、骨でしょ? 食べ物いらないわよね?」と、アリムルゥネもいぶかしむ。
「超重量物を載せて毎回連れまわしているロシナンは、それは他のロバに比べると力自慢だと思うけど?」と、価値を怪しむルシアがいる。
──と。
骨が喋った。
「あの方が欲しておられる。──そのロバを頂きたい」骨の喉から渇いた声がカタカタ鳴った。
「ロシナン?」俺は可愛いロバの名前を口にする。
「ロバいるの? 困る。沢山道具を持たせているのに」現実主義のアリムルゥネ。
「うーん、どうして必要んだ?」と興味津々のルシア
──赤いローブの骨が両の手を上げる。途端、溢れかえる赤い魔力。それは樫の木の杖に集中して赤い光条が舞う。
凄い、凄い! 敵の魔力の流れ──俺君にもルシアと同じように、敵の魔力の流れが見える、なにを行おうとしているのかが、ある程度分かる。この骨は魔法使いだ。それだけではない。こいつが見せ付けてくるのは圧倒的名魔力量! 俺君にはわかるぞ! 俺君には!! 俺君、良くぞ成長した(涙。
ローブ姿の骨は言う。
「断るのであれば、実力で頂く。──は、全てはあの方の意のままに」
「断ってないだろ! とはいえ、だが断るけどな!」俺は旅の仲間ロシナンを望む怪異からの提案を断る。
──しかしだ。この骨。どうもおかしい。あの方?
俺君は一斉に動き出した二十体の骨と、赤ローブの敵が攻撃魔法を放とうとしているそんな時。
──この骨がボスでは無いのか? この赤ローブさえ倒せば? ……違うのか?
敵の樫の杖の先に電光が見える。
と、次の瞬間、アリムルゥネの胸に紫電が飛ぶ! 避けられない!
「くッ!」と耐えるはアリムルゥネ。彼女はライトニングになど構わず、立ち塞がる骨の戦士を切り伏せながら敵との距離を詰めていく。
「うごぉ!?」ところがライトニング、アリムルゥネを貫通して俺君ビリリ。残っていた髪の毛がアフロに変わった。
な、なにをするかこの化け物!
アリムルゥネが踏ん張った。手に持つライトソードが縦横に唸る。焼け付くオゾン臭の香りがするたびに、骨の戦士が次々倒れる。 河の流れのように、柳の枝を通る風のように無駄の無い動き。彼女が歩む、駆ける、踏み込む! まさに一瞬。その度に骨の戦士が溶断される。
──そんな時、赤ローブの骨が鳴らすカタカタ声が響いた。
「おお、我が主よ、私に力をお与え下さい」
感情を捉えきれない静かな、それでいてはっきりとした言葉。
こいつは「あの方」とやらと会話している!
「マジックミサイル! ──ライエン様、アリムルゥネ! 雑魚はあらかた片付いたぜ!」
残敵は少し。部屋に乾いた骨がバラバラのボキボキになって散らばっている。
戦いが終わりに近づいている事をルシアは教えてくれた。
──しかし。
赤いローブの骨は骸骨戦士の奮戦中に、動き上階を目指して、螺旋階段を早足で昇っている。
俺君達はホールに今だ動く骨の戦士がいないことを確認すると、赤ローブの骨を追ってアリムルゥネを先頭に、その石造りの螺旋階段を駆け昇った。
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ここで一句。
繋ぐ糸 赤色ならば 幸見える (ライエン)




