08-011-03 俺君剣聖二才四ヶ月、魚人間から街を救いたい その二
潮溜まりの洞窟はその高さや幅はそのままに、上下左右に曲りくねってより大きな空間──海底洞窟の白浜へと続いていた。
──ざぱーん! アリムルゥネが浜に上がる。
「硫黄臭い」と背中の俺君。
ミスリルの小太刀にかけられていたライトの明かりのせいで、四方が全て明らかになる。
奥。黄金で飾り付けられた眩いばかりの巨大な異郷の神像がある。その神像の背後には後光を示す黄金細工が煌びやかに飾ってある。上半身は彫りの深い、目鼻立ちのはっきりとしたヒューマンの娘。くびれた腰から始まる下半身は七色にライトを照り返す美しき鱗を持つ魚。魚人間から受ける怪物的な姿形とは違う、神聖で美しい姿だった。
神像の前にも大小様々な金細工と、宝石をあしらった莫大な財宝が捧げられていたのである。
俺君達三人は見る。恐らくこれが魚人間の崇める邪神であると思われた。
「お下がりを」──と、アリムルゥネ。
──危険が!? 遅ればせながら俺君は周囲を見渡す。ライトが財宝を照り返して眩い。
危険はどこだ? ……俺君気配に集中した。
右手に違和感。
ブクブクと気泡が。
「右だッ!」
「オーケイ、ライエン様!」
俺君とアリムルゥネの背後で巨大な魔力が膨れ上がる。
「ライトニング!」
ルシアの魔法が俺君の見つけた沸き立つ泡に吸い込まれる。
すると二三体魚人間が浮き上がってくる。
しかし、それ以上に、倒れた仲間を押しのけながら無数の魚人間が海底洞窟の砂浜へ這い上がってきた。
アリムルゥネが右手に三本、左手に三本、棒手裏剣を放つ。四体に命中して二本はそれた。
「全弾命中と行きたかったけど!」
と、なおも這い出してくる魚人間。
──なんだこの数は。
五匹、八匹、十一匹、十三匹……キリが無い。そう。そんな暴力的な数の魚人間が三又矛を持ち、俺君達にじりじり迫る。
魚人間の突進と、アリムルゥネが光の剣で射撃を始めたのは同時であった。
敵は胸や頭を撃たれ、次々と倒れていく。
トライデントを投擲する数体。アリムルゥネが体を捻ってよけたが、そのトライデントの切っ先は俺君の頬へ。
「うお!」
「ごめんなさいお師様!」
──タラリ。俺君の頬を浅く裂き、俺君の赤い血が流れる。
血がー! 俺君の血がー!!
「逃げろ!」
「はいお師様!」
「敵、追ってくるぜ!?」ルシアの警告。
俺君達は逃げ出した。
しかし、小さな浜だ。直ぐに行き止る。
俺たちの目の前に湯気を立てる潮溜まり。
俺君達は気づく。この熱そうな潮溜まりの周囲に魚人間の足跡がない事を。
「飛び込め!」
「はいお師様!」
「ライエン様!?もう、無茶苦茶して! 湯加減調整間に合え!」
ルシアの赤い魔力が泉を包む。俺君も手伝い、ルシアに魔力供給! どっと赤い魔力がルシアの体へ流れ込み、ばっと湯毛立つ泉が真っ赤に輝く。そして泉の色が薄くなってゆく。
「あ、熱い熱い熱いです!」と先頭のアリムルゥネ。その背中の俺ももちろん熱い。
しかし先ほどの魔力が引いたのか、湯音は下がり、湯加減はどんどん心地よい温度になっていく。
──ひいふう、めちゃくちゃ熱かった。淡い魔力が俺君とアリムルゥネを包む。ルシアの気遣い、火傷の治療術である。ありがたし。
だが、脅威が去ったわけではない。
武器を持った魚人間が無数に押し寄せてくる。
そんな時。地面が揺れる。小さく、大きく。小刻みに。
そして
砂浜を挟んだ海面のあちらこちらより出てくる気泡。
いくらなんでもおかしい。海底洞窟に一際強い異臭が混じる。
──硫黄。気泡……。
俺君が目を見開く。敵は波のよう。
だが俺君の勘は魚人間以外の危険を知らせる!
──そう、湯はメチャクチャ熱かったのだ!
「フライだアリムルウネ、ルシア! 敵に構うな!」叫び。
「え? お師様?」と言いつつも弟子は後方へ跳躍。俺君は一時無重力を感じる。
「海水温上昇!」右目の邪気眼を露にしてルシアも後方に跳ぶ。
──ズズズ……地鳴り。
魚人間の足が止まる。大きな地割れの起きた砂浜に魚人間は足をとられ、地割れに落ちていく個体も。
「うわっちい! 熱い、ルシア!」
「火傷してしまいますぅ!」
「おう、二人とも!」
俺君感じる浮遊感。
俺君達は宙に浮いていた。ルシアの飛行だ。
──地震、間一髪。地面が真っ二つに割れた。
ドドドドドッ! と、地割れの起こった場所に場所に、湯毛立つ何本もの巨大な水柱、そして水壁がでたらめに湧き上がる!
猛烈な自然の驚異! 海水中がら怒涛のように迸った灼熱の間欠泉であった。
魚人間らが間欠泉の熱湯と蒸気のその凄まじい勢いに次々と火傷に、そして湯だってゆく。それはもう、自然のなせるわざ。
俺君達は逃亡。
──その理由?
ルシアの右目、邪気眼が輝く。
「ライエン様、アリムルゥネ、無茶するが上手くついて来いよ!? アリムルゥネ掴まりな!」
俺様は足元に物凄い熱気を感じる!
ルシアの高速詠唱、そしてアリムルウネがルシアの手を握る──。
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ここで一句。
潮の味 蒸しつつ焼きつつ 焼き魚 (ライエン)




