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08-010-08 俺君剣聖二才、ジャングルにイノシシを探す その二


 先頭を走る俺君、革作りの靴の下には木綿の細布が幾重にも巻いてある。アリムルゥネが巻いてくれた草避けや虫除けだ。


「肉ーーーー!」俺は力の限り叫んだ。

「お師様、獲物が逃げます」

「だよな。ライエン様、その叫びは頂けないぜ! 『サイレンス』」

「に……──」肉肉、俺君肉ー!

 声が出ない! 俺君の顔にまとわりつく赤い糸。ううううう、ルシアの仕業かッ!


「はいはい、イノシシ捕まえたら肉鍋な? それで良いよなライエン様。いいか、魔法で倒すんだぞ! 特にアリムルゥネ! 頑張れよ!?」


 ああ、俺の目の前に。

 赤い魔力がマントのようにルシアの全身を包み込む。そしてその赤い糸で編まれたマントはルシアの肌に染みこむようにやがて消滅する。ぼぅ、とルシアの体が一瞬光る。何らかの身体強化だろうか。


 ルシアから俺君とアリムルゥネにも魔力の赤い糸が伸びる。それは俺たちの体全体を覆い、覆いつくしたかと思えば、俺たちの体の上でほんのりと光って消えた。


「あ、あれ? 今、わたしとお師様がぱっと光って、その光だけが消えました!」

「そうだとも! それが魔力だッ!」


 俺君がアリムルゥネに威張ってみせる。


「例えば魔力はこのように!」


 俺君は拳に宿した魔力を、アリムルゥネ目指して渡す。赤い線が弟子に近づく……。


「見えるだろ!?」と俺君自慢(じまーん)!」

「え? 名にかなされましたか? わたしには何にも。むー、わたしには魔法の才能が無いのかな?」


 あれ? おかしいな。


「ルシア……?」


 俺の呼びかけに、ルシアは首を捻る。


「あはは、どうやらアリムルゥネの魔力の才能は、ほとんどなさそうだな。でも泣くには早すぎる。この間まで魔力を全く感じ取ることも見ることも出来なかったんだ。ごく僅かでも強い私の魔力が見え、より弱いライエン様の魔力が見えなかったからと言って、全く才能が無いとは言い切れない。逆に、ちょっと僅かでも魔力が見えたとするとたいした進歩だよ、アリムルゥネは」ただその上達が少し遅いだけさ! たぶんね!」


 ◇


 俺君達は生き物のうんを見つけた。


「このフンはイノシシのものなんだけどな。この近くにいると思う。──気をつけて」


 アリムルゥネの今日三回目になるイノシシ出没警報に、彼女の横をトテトテと歩く俺君は身が引き締まる思いだった。

 なにせ、この弱い体で突進など受けてはただでは済まないはずだ。……たぶん。


 ジロリと俺君もアリムルゥネの示すイノシシのそれを見る。うん、違いない。


 俺達は速度を落とした。背丈より上には広葉樹、地面にはシダ植物の這い回るジャングルを奥へと歩む。


「待って……」アリムルゥネが警告。

「お師様、います」ん? 俺君は首を捻るも、風の匂いのかすかな変化に気づいた。


「いる……だが、なんだ?」

「ライエン様、獲物です」とロシナンやスラぶーを引き連れている革紐を引く。

 ロシナンが弱く鳴いた。


「しまったロシナン、鳴き声か! ごめんライエン様、アリムルゥネ! イノシシいるぞ、来るぞ、突進だ避けろ!」


 俺君は弟子の近くに交代する途中で警告を発す。

 アリムルゥネはライトソードを手に取り、ヴゥォン、と麻痺の緑の刃を灯らせる。

 焼け付く大気、焦げるオゾン臭。あの色、結構強いショックがいくはずだ。


 ルシア──。

 彼女はいきなりの猛獣の登場に、いななき慌て暴れるロシナンを鎮めるので精一杯。

 アリムルゥネが怒涛に駆けるイノシシとルシアの間に割って入り、途中にいた俺君を空いている左手で突き飛ばすと、光の刃でイノシシの顔面を打つ!

 イノシシが悲鳴を上げ暴れまわる。

 そんなとき、イノシシの振り上げた後ろ足が俺君の腹を蹴った。


「ぐべろ!?」


 ──俺君食らった痛恨の一撃!


「う゛べら!?」


 俺君、凄まじい痛みに人語を忘れる。


「よくもお師様を!」


 とアリムルゥネの第二撃、アリムルゥネは突き出される長く鋭い牙を紙一重で交わしつつ、大人一人ほどはあろうイノシシのその首筋にライトソードを叩きつけた。


「Guobuee!!」


 イノシシはビクンと跳ね、俺君が腹を擦って立ち上がる頃には、大イノシシはどぅ、と地に伏す──かに見えた。


 ──ところが。


 逆にその痛みで大イノシシが目を真っ赤にして興奮する。

 振り回される牙に一番近い俺。


 そうとも、このイノシシは俺を狙ってきている!


 ──いけない、このままでは!

 と、俺君おおイノシシを視界の全部に移した瞬間、俺君は全ての魔力を使って魔力を練り上げ、そよ風に通して真空刃と化す。

 俺君は瞬間、その魔力の風をイノシシの顔面に叩き付ける!


 風が舞う。赤が舞った。イノシシの悲鳴が上がる。


 アリムルゥネがライトソードで再びイノシシの首筋に一撃入れる。ドバババ、とまたもオゾン臭が漂う中、俺君の目の前にいた大イノシシは、静かに倒れ、赤い顔で地面とキスをした。


---


 ここで一句。

  ウリボウは お前のことだ 剣聖よ (ライエン)

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