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08-010-06 俺君剣聖二才、ライトを使い、弟子とともに訓練す その二

 ◇


 ──だがしかし。


 ──涙も枯れた五投目。

 おかしい。なにかがおかしい。未だに取れないなんて。俺は赤い魔力の線を見る。

 すると、極細い魔力の線が、ルシアと俺君を結んでいる。

 そして俺君がその魔力の線を探りに魔力を少し流すと……。


「あ、ばれた」と、悪げもなくルシア。注目した魔力の細い線が切断される。

 すると、俺君の体が一気に軽くなる。


「ルシアー!」俺君は抗議の声を上げる。

「と、ライエン様、私のことより網に多量に来たぜ?」


 ──うお! 俺君は注意をルシアの悪戯よりも、獲物の引き上げに切り替える。


「良し重い! キタ来た!」


 キタ。獲物は直ぐに明かりにつられてやってくる。俺は足を踏ん張り、網に多量の獲物を入れる。ここまではいいのだ、毎回ここまでは!


「うぉおおおおおお! なんて重さだ畜生め! 次こそいくぜ! 集え腕に! 踏ん張れ脚に!俺様の魔力! そして網の柄にも魔力だ畜生!」

 俺の体、腹の辺りに魔力の塊を起す。千切れそうな両手を踏ん張り、まずはそこへ赤い魔力を移動させる。

 するとみるみる腕の痛みが減ってゆく! 替わりに腕が軽くなる。そして海に持っていかれそうになる脚にも魔力を通す。パンパンに張っていた俺君の脚の筋肉が俺君自身の魔力を通されほぐれる、脚の痛みなど海の彼方へ消し飛んだ。


「よし!」俺は一際大声を上げ、

「えい!」と自分に掛け声、

「──どうだッ!」と海面から突堤まで一気に網を引き抜いた!


「おお、おおおおお! 救い上げたぞーーーーーー! 俺君凄い、本当に凄い! やったー! 俺君獲った! 自慢(じまーん)!」


 俺は網を保冷箱の上へ。そして中身をぶちまける。イカ。イカだ。程よく小さなイカが箱に飛び込んでいく。

 ああ、俺様やった! 俺様凄い!


 ──と、俺君が網を高々と宙に上げていると、足が滑って向かいの海へと重心を取られる。


「うぉおおおおおお! おぉ!?」


 網が突堤向かいへ振り切った。俺様は網の重さに引きづられ、ジャンプである。


「しまった俺君勢いつけ過ぎ!」


 俺君は、そんなバカな事を叫びながら、海へと落ちた。


 ──ざっぷーん! プクプクプク……・


 俺君握る網。俺君が保冷箱に入れる事に失敗した、網に残ったままのイカは全て海へ還ったのだッ!

 俺君? 俺君は空の網を手に持ち立ち泳ぎ。

 逃がしたイカ? ……(涙。


「ぐぬぬぬぬ!」


 失敗だと!? もう何度目だと思ってる! 頑張れ俺君、めげるな俺君!

 と、俺君が再起の(こころざし)に満ち、黒い瞳に光を灯したその時だった。


 ──ザピュン!


 なにかが俺君の直ぐ鼻先を通り抜ける。

 俺君にはその物騒なものに見覚えが。


 ヒュン!


 目が捉えた。三又の矛。そして海面を打つ、緑の濃い大きな体。魚──いや魚人間(ギルマン)だ! 


「敵だッ!」


 俺君が突堤の上の弟子二人に届くよう、これでもかと叫んだ。


「お師様!?」アリムルゥネの声がする。

「ライエン様!」と聞こえたかと思うと「ライト!」とルシアが俺君がいる側の海にライトも魔法をつかい明かりをつける。


 ──俺君は見た。物凄い数の魚人間(ギルマン)が所狭しと群れになっているのを。


 突堤の先に出たルシアが魔力を練り始めていた。赤き奔流が彼女の体を包む。

 俺君も立ち泳ぎしてルシアの魔法の術式を見よう見まねでなぞる。

 俺君の記憶が蘇る。

 確かこの術式はファイヤーボール!


 ──ルシアが右目の眼帯を外し、銀に輝く瞳を見せる。


「輝け邪気眼、火炎と共に弾けろ魚人間(ギルマン)!」海面で大爆発が起こった。

 魚人間(ギルマン)の肉がそこらに浮く。だが、相手の闘志はくじけていない。なおも俺様目掛けてやってくる。

「うぉおおお」俺君はやつらの中心部を目標に「ファイヤーボール!」と敵の中心に集束弾を叩き付けた。オレンジ色の光弾が飛んでいく!


 ──どっかーーーーーん!


「おお、おおおおおおおお! 俺君の魔法大爆発! やった、魔法発動成功ファイヤーボール!! キタ来た!」


 ──俺君勝利の雄叫びの後、水上でも水面下でも、いまだ動いている魚人間(ギルマン)はいなかった。


「凄い爆発! お師様、ルシア! 大丈夫!?」金髪流れ、火炎渦巻く風を手で防いでアリムルゥネ。

「おう、私は大丈夫だぜ!」ルシアがカカカと笑う。


「俺君大勝利ー! だよなアリムルゥネ? だよなルシア」

「はい、おめでとうございますお師様。わたしの出番などありませんでした。お師様の大勝利です!」

「さすがライエン様だぜ。私がライエン様の前でファイヤーボールを撃って見せたのはなんだ? 五六回目か? もうちょっと掛かったか? うん、ライエン様は筋がいいぜ!」


 と、ルシアは右目に眼帯をかけなおすのだった。


「ルシア、まだ続けるのか? まだ保冷箱は満タンじゃないぞ!?」

「お。ライエン様ヤル気?」と、目を細めるルシア。

「今度はルシアの邪魔が無いだろうからな!」と俺君。「えへへ」とルシアは笑って誤魔化す。

「お師様、わたしは大丈夫です」とアリムルゥネ。


 ──と、夜釣りの三人。

 イカの夜釣りは街が眠り、漁民が起き出す深夜まで続いたのであった。。


---


 ここで一句。

  宵の海明かりで照らす夜釣りかな (ライエン)


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