仲間を囮にして戦う為には、魔法少女との関係性を尊重しましょう
とある三つの異世界から地方都市に、犯罪者たちが手を組んでやって来て潜伏、徐々に侵略活動を開始しました。
その為、各々国の執行機関が現地に協力を求め、犯罪者共を確保する手立てを作ろうと帆走した結果。拮抗する力を現地人が取得しました。
これが魔法少女の始まりです。
20XX年。都市では、敵が生み出した『噂影獣』の騒動に巻き込まれ、なし崩しに魔法少女達に与することになった金持ちの少年、新城 真咲。
その際、三国の代表たちにとある条件を交渉で勝ち取り、安全で確実な戦法を生み出すことに成功する。
だが、その時の魔法女系幼馴染の額に浮かぶ血管に一切気づかず、数日後。とんでもない目に合わされる。
「灰にして流す事も辞さないわ」
「助けてください」
これは平穏な日常を取り戻すために、剣を振るい囮を使って偶に逃げる、そんな男の物語である。
「焼く。いまからの条件に了承しなければ。真咲を灰燼にして海へ流す。そして魔法の力で隠蔽するわ。いいわね?」
「花恋さんや。塊片手に深夜ノックとか物騒以外ないよこれは? ──殺さないで。お願いします」
秋の冷え込みも一層深くなる季節の夜中、滝のような汗を掻いている。
俺、新城 真咲の服装はジャージなので汗とは関係ない。
むしろ一軒家の前で幼馴染が、フリフリの衣装で立っているから……という訳でもなく。
「真咲、そっちが魔法少女隊に特例で前に入ってその時点で私が反感持ってたのは知ってる? そこからの恨み辛みで今日はこのファイアボールで交渉しに来たんだよ?」
目の前に太陽の塊を出されて、無感情な人間が存在するのかという話だ。
「知ってます。入って挨拶した途端に物凄く苦い顔して、家帰ってきてから折檻しに隣の窓から襲撃してきたよな」
この幼馴染、沙姫 花恋とは長い付き合いだ。
彼女と好きな人を奪い合う、地獄のような経験を幼い頃からしているから、バチバチに仲が悪い。顔を合わせたら喧嘩をする程。なので接触を最低限にしていたのだが。
残念ながらも、この太陽パワー女とは家が隣だったのもあって。
魔法の事象に触れるようになってからか、2階建てで隣接する家から窓を通り抜けて侵入してくる、非合法パワー少女に昇格した。
そんな彼女が何故今回、こんな凶行に走ったのかと言うと。
「真咲の戦い方っていい加減どうにかならない? あなたちゃんと向き合って剣を降った方が遥かに良いじゃない」
「だって……最適解じゃん。 交渉したら了承したし」
彼女の殴り込みの原因はアレらしい。
人類の叡智である非道戦術、囮戦法のことだ。
複数の魔法少女たち連携すると、敵の目から存在感を失くすことができ視界も防がれて便利なのだが。
「人を盾に戦うのは連携として、有り。けど正々堂々真正面から向き合って戦うのが一番よ」
「いやいや、囮が結構いいじゃん。書類も取ってるし本人らの了解もある。六法全書で殴り掛かれば別だけど、俺の意思を捻り潰す勝算はないだろ」
「ええ、論理はわかってる。これは感情の話。なので条件、今の戦法を即刻破棄しなさい。しなかったら家を破壊する。そしてついでに、そっち秘蔵のASMRボイスと雑誌全て無に返します」
「んえ???」
精神が潰されそうになった瞬間、走馬灯が脳みそをさえずり回る。即座に現実に意識を戻し、ショック死を免れる。戻って来れたのは日頃の分身鍛錬の賜物だが、精神的ダメージが凄い。
なんで??
知られているので闇に葬るか、スイスの銀行にお金を振り込まなければ。
このままだと、死ぬ。心が。精神的優位性が剥がれ落ちる前に説得してやる。
「……ちなみにだが花恋。お前、月一の部屋の片付け一切手伝わなくなるぞいいのか?」
「うっ、いえ。大丈夫問題ないわ。考えたからこそ、今日は憎き真咲を磔にして焼くと決意したの」
よし、脅す。
「さてあの部屋を片付けてるわけだが……まあ、写真も撮ってる」
「ちょ、まさかあなた、何もしないわよね?」
「ここに写真があります。学校での貴女をぶっ壊して塵にする極悪部屋を公開されたくなければ、撤回するべし!」
「うぐぅ、ぬゆぅ……でもぉ……」
「撤回するんだ。さすれば救われ平和な日常は……帰ってこないけど帰ってくる」
花恋は右往左往しだし、今更悩みだしてる雰囲気がしてる。それに合わせて太陽も微妙に伸縮している。
よし、有耶無耶に出来るな。ぶっこむか。
「なあ……ぶっちゃけ、愛しのカリオスが心配なんだろう?」
彼女の好きな名前をあげると、花恋はガっと顔を振り上げて吠える。
「そうなの。そうなのよ! カリオス様と一緒にあの戦い方を辞めてほしいのよ!」
花のように恋をするべしと、定められた名前にしてはそんな似合わない淑女ではあるのだが、彼女にとっては誰かを思った行動だ。俺に向けられなければ、焼いて終わりだっただろうに。
「まあ確かに、俺も思うところはある。SNSでエゴサしたらマイナス意見しかなかったし、PTAから勧告が来てしまったからな。世間の目は冷たい……」
魔法少女が戦う姿は、地方都市では名物だ。そのため、ネットで発言しているのを確かめる事が出来る。
だが、カリオス達を使った戦法はまあ評判が悪い。
彼女の心配するカリオスは協力者たちの一人で、俺の囮戦法の主軸になっていて、非常に頼りになるのだが、協力すると他者の好感度が爆下がりするの難点。
「最低じゃないよアレ! 他の子たちにだって好感度最底辺よ」
「うっさいわ! 勝つために必要な手続きが居るんだよ! 俺が活躍する為にはよ!」
私的戦闘方法の現状最適解とも言えるその手段、それは
「魔法の国の妖精を囮にすれば、被弾の危険性も少ないし仕込みも捗るし最高なんだよ!」
視界操作と意識誘導、判断力を奪う為に、妖精を囮にして機動性と戦闘態勢を限りなく高めたフォーム。
通称『妖精の肉壁』である。
妖精とは。ヌイグルミの大きさで三匹いる。全員、小動物の形を取ることができ、人間にもなれる存在である。三匹ともそれぞれ異世界出身で、非常に可愛らしい姿を取り魔法も使うので非常に便利。
だが仲間の評判は悪く。とうとう今日は直談判を行うやつが出てくる始末。ほんとどうしよう。
「私は、前から再三。説得してきましたよ。ときには論理的に、感情的に。最近は乙女の涙まで使いました」
「何年幼馴染やってると思うんだ。意思が透けて見えるから無視してたんだよ。俺にとっては損ないし」
「まぁ! 損!? 世間の目と矮小な幼馴染の恐怖心を天秤にかけてるのに!?」
「その台詞だと俺に天秤傾くのが王道じゃない?」
「いえ、真咲はちょっと……考えさせてもらっても……?」
「いいのか、その反応。泣くぞ。個人情報ばら蒔いて泣きわめいてもいいのか?」
幼馴染の反応が結構悪い。だって化け物は、全体的に怖いのだから。
「うわっ、やってきた」
「あら」
ああ、やってきた。背中に怖気が走る。恐怖に侵食される。
古く汚れた着物を纏い、薄暗いより這い出でる怨念が声を掛ける。
『お皿が足りない……一枚足りない……たりなぁあい……』
昨今、この地方都市にてまことしやかに囁かれるようになった噂がある。
幽霊を、人形は、上半身を、百鬼夜行を、口裂けが影のように暗闇からはいでてくると。
異様なまでに膨れ上がったこの魔獣たちを俺たちは
「で……たよ、噂影獣。吐きそう、もうやだ。マジ無理。帰る」
ギリギリで抑えきり、気絶しないですんだ。直視してこの程度で済んで良かった。
魔法少女の適正がなければこの化け物を見るとこうなる。
「あんた。この程度に遅れを取る器じゃないでしょうが!」
彼女は俺から反転し、太陽の照準を変更。這い出る獣をに狙いを定める。
花恋から見ればこの程度は、チリに等しい。
見よ、悔しいが。彼女は簡単に消滅を実行できる実力者なのだから。
この噂影獣を狩る魔法少女は、資質を異常拡張された魔法という超能力を使用できる。
それは経験値というものをあらかたは破壊しつくす、暴力。
花恋が、脈動する太陽を奴らに落とす。
着弾。
『プギじゅ』
「ふう……」
ジュっ、という音と短い断末魔ともに存在を焼却。手慣れた作業だ。
これが魔法少女になり、焼くという行為に慣れた幼馴染の現在の日常だ。
そして、俺がぶっ潰したい非日常だ。
「……興が削がれました。この件は明日に回します」
「めんどくなったな花恋ちゃん」
このグダグダっと、ヌルっとしたこの日常を守るために。俺は戦う……と誓いたいが。
「ちなみに、どこから知った秘蔵」
「愛しのカリオス様です」
「よし、ちょっと盗んだ車で海に沈んでくる」
「カリオス様が悲しむので、辞めてください」
羞恥心と絶望感が凄いので誰か助けてほしい。