シャーク・テロリストVS忍者~誰もが妄想する夢のシチュエーションをあなたに~
「や~い、お前の母ちゃんヒョウモンダコ~!」
「ウツボカズラ~!」
無残! 苛烈ないじめに遭う男子学生、甲賀忍之介!
クラスのカースト最底辺でド陰キャ生活を送る彼の正体は実は、忍者!
一子相伝の秘術を身につけた最強の忍者だったのである!
地味な学生生活を送っていた忍之介だったが、ある日、とんでもない事件が起こる!
突如、彼の通う学校を異常進化を遂げたサメのテロリストが占拠したのだ!
飛び散る鮮血! 臓物! 悲鳴!
最悪の事態の中、忍之介は最強の忍術を使い凶悪なテロリストに単身、立ち向かってゆく!
いじめっ子はなぶり殺され、ギャルは襲われる!
走れ! 忍之介! 今は忍んでる場合じゃないぞ! 頑張れ忍者!
これは、男子なら誰もが一度は妄想する夢のシチュエーションを描いた青春血みどろバトルファンタジーである!!!
「え~皆さん、おはようございます。今日も爽やかな朝から一日が始まりましたね。張り切っていきましょう。朝食はちゃんと摂りましたか? ドアのところに黒板消しトラップを仕掛けたのは誰ですか? 教壇に先生の不倫現場のスクープ写真を置いたのは? 先生怒らないので後で名乗り出なさい。放課後、殺します」
ここは聖・権多呉学院。全校生徒300名。都心部のベッドタウンとして開発された快適市の真ん中くらいに建っている、ごく普通の私立高校だ。
「じゃあ早速授業を始めるぞー。廊下でサッカーしている君達、教室に戻りなさい。あーそこそこ、教室でろくろを回すのは止めなさい。そこの君も、BL本を仕舞いなさい」
本日もごく普通に授業が始まりそうだ。
教室の一番後ろ、窓側。いじめっ子達によって七色に輝く派手派手なゲーミング仕様に魔改造された机に座り、いじめっ子達によってドゥンドゥンと重低音が心地良いウーハーを背中に張り付けられたド陰キャ生徒が、数学の教科書を開いている。
彼の名は甲賀忍之介。この物語の主人公である。
一見何の変哲もないただのいじめられっ子だが、彼にはとんでもない秘密が隠されているのだ。
「おい甲賀、普通に登校してきただろ、お前、今朝?」
ドン!
隣の席からメリケンサックを装備して肩パンしてくるいじめっ子、剛力腕太郎。甲賀の肩が危ない!?
「う、うん。そうだけど……」
「校門から教室までバク転で入ってこいて言っただろうがよ、昨日、教室で、俺は!」
理不尽! そんな事は常人にはまず不可能! 悪魔のいじめっ子!
「う、うん。そうだけど……バク転したい気分じゃ無かったんだ」
返事の仕方が下手!
「して欲しい気分だったんだよ、今日、お前に、俺は!」
キンキンキン! 追加の肩パン、3発!
「ごめんね。いじめないで欲しいんだ」
「愛情、これは。わかる?」
何という凄惨な日々なのであろうか。読者諸君、想像して頂きたい。普通に登校してきただけで罵倒され、肩パンされ、嘲り笑われる日常を。おお、彼に救いは無いのだろうか!?
その時だった。
その時、不思議なことが起こった!
突然、教室の窓ガラスが同時多発的に砕け散ったのである。
パリーーーン!!!
「きゃー!」
教室内に悲鳴が轟いた。
突然窓ガラスを割って外から教室内に侵入してきた者達、その人数は三人。ちなみにここは四階。
「コラーッ! 窓ガラスを割るなー! 廊下に立っとれ!」
先生は激怒した。必ず、この授業を邪魔した者達を除かなければならぬと決意した。
「聞いとるのかこのサメ……鮫?」
先生はこの時はじめて、ある違和感を覚えた。侵入者達は顔に鮫のマスクをしているものだとばかり思っていたのだが、実際にはどうやら違うようなのだ。
「え、鮫人間?」
その瞬間、発火炎と共に先生の頭部が薬玉よろしく派手に吹っ飛んだ。
血と肉を撒き散らし先生の体は崩れ落ちて、黒板には趣味の悪いロールシャッハ・テストみたいな模様が残された。
鮫人間の一人がサブマシンガンで発砲したのだった。硝煙が香り、続いて猛烈な血臭が前列の生徒の鼻を突き刺した。
ここへ来て、生徒の悲鳴が一斉に木霊する。ある者は腰を抜かし、ある者は一目散に逃げようとし、またある者は目の前で起こっている現実に打ちのめされて、呆然と身動きも取れずにいた。
三人の鮫人間は生気の無い目を動かし、狂騒状態に陥った生徒達に対し無慈悲な弾丸を浴びせかけていく。背中に銃弾を受けて前のめりに倒れる者、それに足を取られた生徒が折り重なり、そこへ掃射が行われる。
苦悶、絶叫。一瞬の間に教室内には死体の山! 阿鼻叫喚の地獄絵図!
しかも悲鳴は隣の教室からも、その隣の教室からも、そして校庭からも聞こえてきたではないか!
同時多発シャーク・テロ! まさにシャーク・テロリストである!
だが読者諸君よ、この恐怖に打ち勝ちその目を開いてもらいたい。あるいはこっそりと指の隙間から覗き見てもらうのもいいだろう。あまりの悍しさにブラウザバックする前にとくと見よ! この絶望的状況下で何が起ころうとしているのか!
「上履きに溜めた雨水、今日の昼飯な、お前!」
「お昼はお弁当を持ってきているから」
信じ難いがこの二人は、剛力腕太郎と甲賀忍之介は今、圧倒的死の暴風の中で未だに他愛もないいじめ遊びに興じていたのだ! 大丈夫か、頭、お前ら!
ぎょろりと鮫人間が二人を睨んだ。
「そこの人間ども」
意外に流暢に喋る!
「死ぬのが怖くないのか?」
サブマシンガンが冷たい輝きを放った。遂に、甲賀と剛力の最後の時が迫るのか!?
「殺しちまおうぜ! 構うもんかよ! 俺ら、突然降り注いだ宇宙線によって細胞が変異し異常進化したシャーク・テロリストに歯向かう者には死を!」
横から別の鮫人間が身上を説明しながら会話に割り込んできた!
「何だかヤバそうな雰囲気だよ、剛力くん!」
「ま、イケるっしょ」
何がイケるのかはさっぱりわからないが何だかイケそうな剛力が立ち上がる! 主将、柔道部の!
鮫人間の襟元に伸ばした手が、突然消失! 鮫人間は手にアーミーナイフを握っていた。そして続け様に剛力の喉を切り裂く! スプリンクラーなみの勢いで鮮血が噴き出し仰向けに倒れ伏す剛力! 天井にシュルレアリスム的デカルコマニー模様が描かれる! どんな模様だよ!?
「お前が最後の一人か、死ね」
三人の鮫人間が一斉にサブマシンガンを甲賀忍之介に向ける。まさかこのまま、主役までもが鮫の毒牙にかかってお陀仏してしまうのか!?
「はぁ……やれやれ」
肩を竦め、ため息をつく甲賀忍之介。精一杯の強がりか!? いや、そうではない。断じてそうではなかった。彼は、恐らく読者諸君の誰一人としてそれに気づいてはいないだろうが実は、忍者なのである。
一子相伝の忍術を現代に継承する、真の忍者なのだ。だが普段はバレないように静かに暮らしているだけの、なろう小説の主人公らしい男子学生なのであった! サプライズ!
一斉にサブマシンガンが火を……噴かない!? トリガーを引く直前、鮫人間達の指がまとめて切断されて宙を舞った!
手裏剣だ!
「爺ちゃんがいつか言ってたっけ。忍術は誰にも見せてはいけないって。見せる時はそれ即ち、相手を殺める時だけだってね」
その言葉を甲賀が言い終わった時、既に恐るべき早業で三人の鮫人間の頭部には深々と手裏剣が刺さっていた!
「バカ……な、俺達が……人間ごときに」
「忍者」
「ごふっ」
うめき声を発して、鮫人間達は倒れた。
「ふぅ……危なかったな」
周囲を見渡しても生きている者は誰一人としていない。
そして、悲鳴は未だに鳴り止まない。この学院全体が、シャーク・テロリストに制圧されてしまっているのだ。果たして彼らの目的とは?
「この学院全体を制圧したシャーク・テロリスト達の目的とは、一体何なんだ?」
読者諸君がわかりやすく状況整理できるよう独り言を呟いてから、甲賀は歩き出した。そんな彼の視界の端、折り重なる死体の下のほうから声が聞こえてくる。
「甲賀くん、たすけて……」
「君は、生きていたのか!? オタサーの姫!」
「ちゃんと名前で呼んで……姫野泡子よ私……」
「ごめんよ! いつまで経ってもクラスの仲間の名前が覚えられない病なんだ! そういやさっき僕をいじめてたゴリラ太郎が死んだよ」
「甲賀くん、ゴリラのことはいいから、助けて……」
「ごめんよ、すぐに出してあげるね」
こうして顔は普通だがおっぱいだけはなかなか迫力がある姫野泡子を助けた甲賀忍之介は、ご褒美として一発ヤラせてもらい次の教室(戦場)へと向かうのであった!
次々と襲い来るシャーク・テロリストを蹴散らし、助けた女の子とイチャイチャしつつ、学院を救うのだ、甲賀忍之介よ!
彼のもっとも長い戦いの一日はまさに今、始まったばかりだ!