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高階 聡。十七歳の高校二年生、女。

俺が彼女と出会ってから別れるまでの一週間を題材にした追想記──の書き出し。俺と彼女の青春はたった一週間だけど、四千文字では到底表しきれなかった(まあ実際は三千字くらいなんですけどね)。

けれど俺は忘れない。たとえそれを形に残せなかったとしても、俺は彼女を一生忘れない。この一週間の青春を俺は絶対に一生忘れない。彼女は忘れろというかもしれないけど、忘れろと言われても忘れてやらない。

彼女を愛したこの日々を、俺はいつまでも愛し続ける。


タイトルは「モノクロの青春」とか「初恋、そして死に別れ」とか「漆黒の中に咲く、世界にたった一輪の純白の向日葵」とか迷ったけど書き出しのみなのでインパクト重視でこれにしました。


高校生って不器用ですよね。

「私の名前は……」


──高階 聡。十七歳の高校二年生、女。年齢から逆算して分かる通り2003年生まれで、見ての通り──と本人は言っていたが俺からしたらどこが見ての通りなのかはさっぱり理解できない──七月生まれで、何の因果か七日生まれでもある。つまり縁起がいいのか悪いのか、「ねえ、知ってる?私の誕生日ってさ、」七夕生まれということだ。つまり、未年の蟹座。

そして、世にも(まあまあ)珍しい左利きで、これもまた(まあまあ)珍しいAB型である。誕生日といい、利き手といい、血液型といい、選ばれた人間感がある。そんなことを本人に言ったらいじられかねないから絶対に言わないけど。


「私の好きな言葉?好きな人とかじゃなくていいの?もうこんなチャンス一生ないかもよ~?」

そう言う彼女にはどや顔が似合う。

好きな言葉は『祝日』、好きな四字熟語は『一石二鳥』。とにかく面倒臭がり屋な女子高生だ。でも、何かと僕には構ってきた。もしかしたら面倒くさがるものにも何かパターンがあったのかも。


身長は153cm、体重は多分聞いたら殺される。胸はそこそこ、何も書かれていないキャンバスのように真っ白い肌に唯一ポツンとある泣きぼくろが特徴的。「部活、か。考えたこともなかったや。事情が事情だしね。」部活には特に所属していなく、「委員会?あれでしょ、放課後に残されるんでしょ?めんどくさいじゃん!」かといって委員会に属している訳でもなく、「と、友達がいないわけないじゃん! ……まず君でしょ?」親しい友達もいない至ってよくいるぼっち少女だった。


いや、ただのぼっち少女というと少し語弊があるな。今でも彼女の自慢げな声が脳裏をよぎる。


「ふっふっふ……私をただのぼっち少女だと侮ってもらっては困るな!」


彼女は普通の可哀想なぼっち少女とは訳が違う。彼女はいわゆる『ハイスペックぼっち少女』なのである。


通常よりも高く細い鼻、左右対称で程よく大きい瞳、透き通っているかの如く白い肌にポツンと浮かぶ小さくて可愛い泣きぼくろ。「見た? スリーポイント!」満面の笑みを浮かべて俺に自慢をする彼女の頭の後ろで結われている滑らかなポニーテールが体育館のコートを縦横無尽に駆け回る姿、「……200位は流石に心配した方がいいと思うよ?」そして頭を抱えている俺のすぐ横で彼女の名前が大々的に掲示板に載せられている様子。


そう、彼女は容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰と天に二物どころか三物を与えられた結果、コミュニケーション能力を与えられなかった可哀想とはとてもいえないハイスペックなぼっち少女なのである。その分性格は……アレなんだけど、そんな彼女にはやはりどや顔が似合っていた。彼女のどや顔が今でも脳裏から離れない。


それに、彼女はもう一つ特・別・を与えられていた。ここが漫画や小説のような非現実フィクションなら設定を盛りすぎだと読者に怒られてしまうかもしれないが、残念ながらここは現実。そして、事実だ。無地にして白紙であるこの世界のように、彼女は何色にも染まっていないような真っ白いな肌を与えられた。


──それが通称、アルビノと呼ばれる個体である。


数万人に一人と言われているアルビノ個体である彼女は頭のてっぺんから足の指の先っぽまでが何も記されていないノートのように真っ白。けれど、その分彼女の笑顔は何色にも例えがたいほどに輝いて見えた。だからか、傍から見たら異常ともいえる彼女の容姿を目にしても周囲の人間は嫌悪を抱かず、むしろ好意すら抱いていたともいえる。


が、先に記した通り彼女は元よりハイスペック。そこに近づきがたいアルビノという異常性、そして彼女自身の引っ込み思案な性格も相まって彼女はぼっち少女へとなった。


そんな彼女を俺が認知したのは一年前、この学校に入学したばかりの頃だった。当時はクラスが違って特に絡みがあるわけでも無かったから一方的な認知だったけど、それでも彼女の、この広い世界でたった一輪だけ咲いた真っ白い花のような存在感は俺が彼女を知るのにそう時間を要させなかった。

そして俺は一週間前に彼女と出会った。


しかし、綺麗な花にはいつだって寿命がある、なんて洒落たことを言うつもりはない。確かに彼女は見た目は(・・・・)綺麗だったが、花というよりかは動物のようで、他の人よりもよっぽど人間らしくって、花より団子を体現したような人だったから。

けれど綺麗な花に限らず、どんなに完璧のように見えても、どんなに人間臭くても、人はだれしも寿命を持つ。

彼女はつい一週間前、医師にこう宣告されていた。


「君の寿命は……残り一週間です。」


彼女の涙は白くなかった。彼女が色を持たなかった分、感情全てを詰め込んだように七色に光り輝く彼女の涙は頬を伝って零れ落ちた。俺が見た彼女の涙は言葉では表しきれないと感じた。感じて、そして体験した。目の前で彼女に泣かれると、声が出なくなる。息が詰まり、目の前が見えなくなる。視界に何かは映っているのにそこに一筋の光もなく、やがて平衡感覚すらも失ってしまう。


俺は思わずその場から逃げ出してしまった。彼女に涙は似合わないと、そう思ってしまった。


彼女は「漆黒の闇に咲く、世界にたった一輪の純白の向日葵!」……あ、これじゃなかった「どうせ七夕で祈ったってなんにも叶いやしないよ。自分で動かない限り。」ちょっと、ほんのちょっとだけ厨二病チックで、「別に死ぬのは怖くなんか無いよ。どうせ私が死んでも誰も悲しまない。」少し悟った風で、「織姫と彦星っていいよね。一年に一回も好きな人と会えるんだよ? 人私なんて死んだら一生誰にも会えないのに。」人一倍ロマンチストで……


「初めまして、だよね?「私の名前は「また会ったね。こういうのを運命って言うのかな?「知ってる?私の誕生日って「好きな言葉?好きな人とかじゃなくていいの?「身長?そんなこと聞いて何をするつもりなのさ「は? ……体重?「セクハラはやめて下さーい「私、アルビノなんだよね。「あれ、知ってた?「好きな言葉かー「好きな食べ物、か。んん、改めて聞かれると迷っちゃうな「そんなことよりもさ、君のことを教えてよ「どやあ、学年一位じゃい!「勉強を教えるって体験も悪くないね「教師にもなってみたかったんだ「……いいなぁ、黒い髪「好き、です「あっはっは! 引っかかった!「ごめんって!「ねえ、「あのさ、「天国ってどんなところなんだろう。「私が地獄? いやいや、ないない「どこからどう見ても天使側でしょ!「はあ、死ぬのか……「ぁ……「っ……。」


──「死にたくっ、ないよぉ……!」それでもやっぱり普通の女の子だった。


彼女は一週間前、学校ではなく病院の一室で死を感じさせるほどに(・・・・・・・・・・)真っ白な顔で精一杯の笑顔を俺に向けてこういった。


「ねえ、私を殺してよ。」


その一週間後、彼女は医師の予告通り命を失った。


だから俺は振り返る。立ち止まって、歩んできた道を一歩一歩振り返る。普通の人生を送れなかった普通の女の子と一緒に過ごした一週間、かけがえのない一週間。そして、別れの一週間を噛みしめながら振り返る。忘れることなく心に刻み、そしていつでも思い返す。振り返ったその道には微かな雨の匂いがする。梅雨は終わったはずなのに、なぜか雨は止む様子がない。


それは思い返すこと一週間前、真っ黒だった世界に真っ白い彼女は現れた。俺は彼女に出会い、恋をし、そして死に別れる。人はそれを青春と呼ぶ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書き出し、でもあるし、映画の予告のような物語。そんな印象を持ちました。アルピノだから、実写よりもアニメが似合うかもしれません。 特に会話を被せて書いているところは映像にするととても映えるだ…
[良い点] タイトル。プロフィールがタイトル。これは白表紙に高階さんの全身イラストが載ってるタイプのタイトルですね。名前がちょっとボーイッシュだから、男の娘の可能性もあるのでは?と勘ぐってしまいます。…
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