第93話 雪解け
ミーナ達が少し警戒しながら、その少女を宿の部屋に上げ、エアエデンから来たスイベルが氷の城の方を見ていると爆発が起こり瓦礫が飛び散るのが見えた。
その光景を見たスナップとスイベルの穏やかな雰囲気が一変し同じ部屋にいる白い髪の少女を敵と認識しミーナとセニアを守る様に立ち、戦闘態勢に入った。
「ちょ!ちょっと待ってください!ぼく……私は敵でありません!」
「貴方のせいで私達の主が戦闘を始めた様ですが?」
えっ? っと驚き慌てて窓から城の方を確認すると、爆発が起こったりレーザー光線の様な物が玉座の間辺りから発生し、遠目からみても分かる様に城は壊れていった。
「お母様と戦っているんですか!?あっあっあの魔法使いさんが死んでしまいます!」
その一言が余計でスイベルの怒りを上昇させ、温かいはずの部屋の温度が数度下がったが、スナップは冷静にスイベルに落ち着くように言った。
「スイベル、少し落ち着きなさいですわ。この方は国のお偉いさんの娘という話ですし、怪我でもさせて、さっきの何とかランチが来たら私達ではミーナ様達を守れませんわよ」
スナップがそう言うとスイベルは少しだけ落ち着き、姉のスナップに礼を言いアバランチですよ姉さんと言ったので、スナップは頷き少女に話しかける。
「貴方はどちら様で?敵で無いと言うのであればこちらが疑わない様に話して頂けると助かりますわ」
「ぼく、いえ、私の名前はノーティア・ヴェルテス・スノーベインと言います」
そう言うと長い名前でしょうと苦笑いをし、その名前に心当たりがあったセニアが驚き声を上げた。
「え?女王陛下ですか!?」
「はい、ハリボテですが建前上はそうなっています……」
ノーティアがそう言うとミーナとセニアはかなり驚いたがスナップとスイベルは戦闘態勢を一切解かずその状態のまま話した。
「それが本当だと確認する事が出来ませんので、ご用があるならばそのままお話を。一歩でも近づいたら此方は逃げさせて貰いますわ」
そして王女のノーティアは現在の国の状況や守り神である竜が暴れていて数年の内に国が滅びるかも知れないと言う事を伝えた。
「では、主の真似をさせて頂いて二つほど質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「一つ、どうしてわたしく達の主にお近づきに?二つ、どうやって城から出てきたのです?」
スナップがそう聞くとノーティアは少し考えてからゆっくりと答えた。
「私はお母様には劣りますが、それでもこの国では強い部類に入る魔法使いです、なのである程度は強者か弱者かは分かるので、私より強く見えた魔法使い様に御助力を願いしようと近寄りました。二つ目、雪がある所限定ですが私は転移魔法を使えます。それを使い城から抜け出しました」
ノーティアは見ていてくださいと言うと転移魔法を唱え、窓の外に転移しその事が本当だと証明した。
(全部が全部信用するわけにも行きませんし、今はルディール様を待つ方がよろしいですわね。あのアバランチとか言うのに来られても厄介ですし)
そして、ノーティアが歩いて部屋に戻ってきた時には少しだけ警戒心を緩め詳しく話を聞くための準備をし、スイベルが窓から城の方を見て、そろそろ決着がつきそうですよと言った。
ルディールとミューラッカが戦場を空に移し戦いを繰り広げていたが、ダメージは通るが常にHP・MP共に回復するルディールが遙かに優位を保っていた。
(他のXランクは分からぬが……ミューラッカに至ってはゲーム中で例えると、最高クラスのプレイヤーじゃな。命がけの実戦を経験しておるから戦いのプロか……正直、真なる王の指輪が無かったら負けると思う)
「ルディール、私を追い詰めるとはやってくれるよ。私より遙かに高い魔力をよくそこまで制御しているな、高威力の魔法だけを撃ってくるなら此方も戦いようがあるが……まだ負けた訳ではない!」
「いや、そろそろ決めさせて貰うぞ」
ミューラッカは魔法で大雪を降らせ、その全てを針のように尖らしルディールに向け飛ばした。
ルディールもミーナに貰ったブレスレットで障壁を作り、ミューラッカに高速で接近を試みる。ミューラッカの魔法は鋭く所々、障壁を貫通しルディールの体に刺さり氷らせたが、ルディールは止まる事無く接近しミューラッカの首を足首で挟み体をひねり身体強化魔法で増幅させ力の限り投げ飛ばした。
身体強化魔法と太陽と月の指輪の効果で増幅されているルディールの投げ技の威力は凄まじく氷の城にある塔をへし折り、城の壁を何枚も貫通し爆発したような音が響いた後にようやくミューラッカは止まった。
その様子を確認するようにルディールが近づくと、家臣達が行く手を阻み武器を構え声を荒げルディールを威嚇した。
「これ以上、ミューラッカ様はやらせん!」
「お主達の主の様に血気盛んではないわ、怪我を治して帰るだけじゃ、ほれ神官共よ」
ルディールはそう言ったがアバランチ達は信用せず行く手を阻んだ。誤解を解くのも面倒なのでシャドーステッチで全員しばり見た感じ神官っぽいの捕まえてミューラッカの所に向かった。
「やばっ……やり過ぎた」
ミューラッカに決まったルディールのヘッドシザーズ・ホイップは相当な威力だったようで、両足がへし折れ、まさに虫の息という状態だった。
ルディールはすぐにミューラッカの手を取り世界樹の祈りを目覚めさせてから回復魔法を唱えると神官達もルディールに続き回復魔法を唱えた。
すると傷はみるみる塞がっていき、怪我の後なども残らず綺麗に回復した。その様子を見てルディールは安心し大きく息を吐き出した。
そしてそのまま帰ろうとしたが、殺気だった兵士達に囲まれ一戦始まりそうな雰囲気だった。
一人の騎士がルディールに飛びかかり、ルディールが反撃しようとした瞬間、横から氷の塊が飛んで来てその騎士を吹き飛ばした。
その方向に目をやるとミューラッカがもう目覚めていた。
「私に勝ったルディールにお前達が勝てると思っているのか?さがれ」
ミューラッカが騎士達を下がらすと、付いて来いとルディールに言った。ルディールも特になにも言わずについて行くと、そこはまだ無事な応接室だった。
無駄に強そうな執事にお茶を入れるように命じルディールとの話が始まりルディールは頭を下げた。
「すまぬ、少しやり過ぎた」
「ああ、かまわん喧嘩を売ったのはこちらだからな……それはいいが、私に勝てる人間がどうして無名なんだ?ローレット王国の隠し球とでもいうのか?」
「お主のような奴に絡まれてはかなわんから隠しておるんじゃろ……だれも好きで女を投げ飛ばさんわい」
その言葉が少しツボにはまったのか、くっくっくと笑い少ししてかミューラッカもルディールに頭を下げた。
「女扱いされたのは久しぶりだな、公式の場での謝罪ではないが許せ、すまなかったなルディールよ」
二人は入れてもらったお茶を飲み少し落ち着きながら話し合った。
「それでルディール。お前の強さを見込んで頼みたい事がある」
「本来なら絶対に嫌と言うんじゃが、国のトップに大怪我させて城を半壊させたんじゃから聞いてやるわい」
「ふっ、ならば遠慮無く頼もう。この国の守護竜を討伐するのを手伝って貰いたい」
「ん?守り神みたいなものじゃろ?」
「ああ、そうだったんだが、数年前から暴れ出してな……私の力で押さえつけてあるが、この国の人間にとって有害になっているから討伐だ」
「なにか原因はあるのか?」
「それが全く分からん。この数年降り続く大雪も守護竜が原因だ。お前は来たばかりだが分からぬだろうが、夏にも降る大雪は異常だ。人が生活出来るレベル超えている。今なら備えがあるから乗り切れるが……後、数年持つか?と言う所だろう」
「なるほどのう……も一つ聞きたいが憲兵に引き渡した娘はお主の子じゃろ?なんで逃げておったんじゃ?」
「ああ、確かに私の子だ、生みの親は私ではないがな……反抗期と言うヤツだ、アレは守護竜を殺すのが反対らしい、外で竜を救える強者を夢見たんだろうよ」
ルディールは戦った感じだが、ミューラッカが嘘を言っている雰囲気も無いのでとりあえず信じ、自分が王女の逃亡をもう疑っていないのかと聞くと、戦えばある程度分かると言ったのでその言葉をある程度信じた。
「では、討伐に成功したときの報酬の話をしようか?」
「まぁ、その竜を見てからじゃな。疑ってる訳ではないが一方通行の意見は危険じゃしのう、どういう形であれ手伝うから安心せい」
「そうか」
「あっ報酬なんじゃが、別にいらぬがお主にしか頼めぬ事があるがよいか?」
そう言ってルディールはミューラッカに竜の事などを話しあった。
戦闘が終わったようなのでミーナ達が宿から城を見ていると、屋根からルディールのシャドーラットが机の上に乗りペンを取り紙に何かを書き始めた。
「うわっ!ネズミってこれルーちゃんの魔法だったけ?」
「何か書いてますね……ええと」
セニアはシャドーラットが書き終わった紙をみるとそこには、そこにいる白毛女を連れて王城に集合、竜の事について要相談。もうすぐ迎えの馬車いく。とだけ簡単に書かれていた。
「ええと……白毛女って私の事ですか?」
と少し泣きそうになっているとすぐに宿の下に馬車が二台着いたので、ノーティアは一人で乗り込み、ミーナ達はセニア、スナップ、スイベルと乗り込んだ。
「ルーちゃん大丈夫かな……」
「十中八九、大丈夫と思いますわよ……と言うかスイベルが怒った時にミーナ様もセニア様も普通でしたけど怖くはなかったのですか?」
スナップがそう言うと静かにスイベルは頭をさげ謝った。
「あー、私もセニアも赤目ルーちゃん見てるのでそういうのは結構大丈夫です」
「あははは……確かにあのルディールさんと比べると大丈夫ですね、スイベルさんは私達に向けられて怒った訳では無いので大丈夫ですよ」
「なるほどですわ……納得いたしましたわ」
「姉さん、そのルディール様に怒られましたけどね」
そう言うと余計な事は言わなくていいですわ!と言い、ミーナとセニアにスナップさん何したんですか?と呆れられ少し話をしていると城に着いた様で馬車は止まった。
そして外に降りるとルディールがおり、何故か先ほどまで戦闘していた筈の吹雪の女王と雪だるまを仲良く作っていた。
「ミューラッカよ、硬さはこんなものか?」
「もう少し硬くてもいいとは思うが、役者がそろったようだ」
その光景が理解できずにミーナが代表して訪ねた。
「えっと……ルーちゃん?」
「うむ、主語が抜けておるが、簡単に説明すると乱れ雪の女王ミューラッカとガチバトルして仲良く?なってこの国の問題解決を手伝うようになったという感じじゃな」
「ああ、そんな所だ。ルディールの友人達よ」
「あの……ルディールさん?それは分かりましたが、雪だるま作ってるのと、どうして瞳が真っ赤なんで……」
セニアが言い終わる前にノーティアが飛び出してき、本当ですかお母様! と叫んだ。
「ああ、本当だ。だがノーティア自分のツケは自分で払えよ」
その言葉の意味が分からず、母親に聞き返そうとしたが、背後に獰猛な肉食獣の様な気配を感じたので振り返った。
その瞬間にルディールがノーティアの首を足首で挟んで固定し叫んだ。
「この!わがまま王女!自分の都合で他国の人間に迷惑掛けるな!」
その叫びと共に軽く飛び体をひねり先ほど作った雪だるま目がけて投げつけた……そして雪だるまに直撃し小さな水の音が流れノーティアは意識を失った。
次回の更新は多分明後日になります。
誤字脱字報告ありがとうございます。




