第74話 悪意の花
そう呟くと全員がルディールの方を見たが、背負われていたリージュがその事を尋ねた。
「ルディールさんは、この門に描かれている人物に心当たりがあるんですか?」
ゲーム中のキャラクターとは説明出来ないのでルディールは少し考えてから皆に説明した。
「わらわがいた国にあった事なんじゃが、人類を滅ぼして人のいない世界を作ろうとした聖女じゃな……この二人から見れば亜人や魔族も等しく人であり自然以外とはほぼ全てと敵対していたがな……」
「……それがどうして聖女なんです?」
「その二人の聖女をたぶらかした邪神が人間は神々の失敗作だと言ったからのう……人以外に優しい二人じゃったし、見た目は良いから熱狂的な信者もおったしのう」
「ルディールさんの言い方だと最近会ったような感じですね」
「その聖女達の(薄い)本を何冊か制作する時にかなり調べたからのう……」
自分が描いた薄い本の内容を思い出し、もだえ苦しみそうになったが、リージュを背負っているのでそんな事はできず顔が少し赤くなっていると皆に不思議がられてしまった。
カーディフがルディールの話を聞きながらその扉を調べていると、相当古い扉のようでカーディフの知識でも開ける事は無理だった。
「軽く見て千年ぐらいはたってるわね……それがこの保存状態を保ってるのもおかしいんだけどね」
「……カーディフが言うのが当たってるのを前提で考えると、大昔に戦争があった辺りにできたと考えるべきでしょう、ここはカタコンベですし」
ルディールの運命の女神の導きがここで止まったのでこの先に目的の物があるはずだったのだが、扉の開け方が分からず全員でくまなく調べたが開門の方法はまったく分からなかった。
そして他のルートを探して見ようと言う事になりその場を離れようとしたが、リージュがこの扉を記憶させて欲しいと言ったので了承し扉に近寄った。
「リージュよ、どうするんじゃ?」
「はい。投影石という見た物を完璧に記憶させる石がありますのでそれに記憶させて陛下に提出します」
ルディールが感心してなるほどと言っている間にリージュはアイテムバッグの中から二つの投影石を出しとびらの全てを記憶させ、その内の一つをルディールに渡した。
「ルディールさん、一つどうぞ」
「ん?何故じゃ?」
「ルディールさんの顔は見えませんが、反応が懐かしい人に会えたような感覚だったので故郷にもあった物かと思いまして」
「投影石も安い物で無いのに……リージュよ、ありがとう」
「背負って頂いてるアルバイト料ですね」
投影石をアイテムバッグの中に入れルディールが懐かしむ様に扉に近づき触れると、真なる王の指輪が光り、共鳴する様に双子の聖女が描かれた扉も光り出した。
あまりの光量に全員の目が少しくらんだがすぐに視力を取り戻すと扉が開いていた。
(真なる王の指輪の中にある双子の聖女の指輪に反応したのか?本当にこの世界と前の世界はどう繋がっているんじゃ?)
「ルディールさん?開きましたが?」
「うむ……開いたのう」
「いえ、うむ……開いたのう。では無く出来れば説明していただけると……」
背中からルディールにそう話しかけるとルディールも説明のしようが無いので悩んでいるとソアレが助け船を出した。
「……リージュ様、ルディールさんの魔法ですが、聞いても意味不明なのでそういうものだと思っておく方が良いですよ。私も先ほどのルディールさんの探索魔法の事を聞きましたが意味不明でしたし」
そう言われると、素直にルディールさんですから仕方ないですね。と考えを切り替えルディールに背負われたまま中へと入って行った。
中に入ると聖堂のような作りになっていたがルディール達が入った場所は裏口だった様で講壇の裏などが見えた。人の姿は無かったが誰かが使っている気配があり、大昔の物とは思えないほど綺麗にされており簡単に調べ始めた。
「スティレ、この辺りって地上だとどの辺りか分かる?」
カーディフがそう聞くと、方角と歩いた勘でだいたいの位置を教えてくれ、その場所は神官達の大神殿の近くだと話した。
「確実では無いがだいたいあってると思う。まぁ王妃に呪いをかけたのも大神官だからやはり神殿の近くにあったな……」
「……リージュ様が言っていた様に確かに繋がっていましたね」
「綺麗な場所なんじゃが、何かこう気持ち悪い感じがするのう……」
「だな、とっとと破壊してささっと帰るか。どれを破壊したらいいんだ?」
「ん?まぁ明らかにあれじゃろうな……」
ルディールが見上げるようにその方向を向くと、教壇の上に祀られる様に向かい合う二つの頭蓋骨があり人の骨や何かの角で飾り付けられていた。
バルケがすぐに破壊しようとしたが、見た目からして確実に呪物なので触って変な呪いでも貰ったら駄目なのでルディールが破壊する事になった。
「あの炎の猫呼ぶのか?」
「いや、呪物じゃから王妃様やリージュの治した時の方法でいけると思うから、静かに壊してやろう」
ルディールは静かに王の鎮魂を起動させると、その呪物と周りにあった教壇やイスも全て闇が飲み込み静かに消えていった。
「あの……ルディールさん?関係無いイスや教壇まで消えたんですが?」
と、リージュにこの人ミスったなと言うような顔をされ、ちょっとむかついたが年頃の女の子を怖がらせる事も無いので少しだけ道化を演じた。
「この人、間違えたな?的な顔は止めよ!何か罠が仕掛けてあるかも知れぬから発動する前に先にじゃな!」
「ルディール殿が気がつく前にカーディフが気付くと思うが?」
「よし!これで王妃様も治ったはずじゃ!帰るかのう」
「ルディールさん?間違った時は……」
「よし!これで王妃様も治ったはずじゃ!帰るかのう」
いえ、もういいですとリージュは諦めたのでルディールもそれ以上言わなかったが、察しのよいバルケとカーディフはルディールに親指を立て苦笑していた。
「さてとどうするのじゃ?目標は破壊したから任務達成なんじゃが……」
そう言ってルディールの背中にまだ背負われているリージュが一応は指揮官なので尋ねると少し悩んでから皆に相談する形を取った。
「私としてはここが何処に繋がっているのかも気になりますし、周りの部屋も調べて見たいきはしますが、私の実力ではどうする事も出来ないので皆さんにお任せします」
「なんじゃい、暴君のように命令するのかと思ったがそういう奴でもないんじゃな」
「普段からでも言いませんし、ルディールさんに背負われている状態ならなおさら言えないでしょう」
「じゃあ、バルケが良かったらリーダーのスティレの判断に任せましょう」
「おう、俺はそれでいいぞ。もう目的の物は破壊したしな」
スティレが考えてから全員に自分の考えを述べた。
「少し危険かも知れないがこのまま少し調べよう。確実に人がいた気配があるし他の扉の中に禁書がある可能性もあるからな、帰り道と罠の位置なら私が全て暗記しているからその事だけで、少しこちらに余裕があるからな」
「スティレ、あの道順を全部覚えておるのか?」
「ああ、私はカーディフやソアレには戦闘面では遙かに劣るから、他の事で役にたたないとな」
「なるほどの~やはりお主がおらぬと火食い鳥は機能せんのじゃな」
「あー確かにな、雷光やカーディフを纏めるってすっげー大変そうだしな」
普段あまり褒められないスティレはルディールとバルケに褒められ少し照れていた、そしてこの聖堂を調べる事が決まりカーディフが罠のチェックをしてから部屋をチェックしていった。
一つ目の部屋は休憩所の様な場所で特に何もなかったので、すぐに二つ目の部屋に入ると真っ暗だったのでソアレが明かりの魔法を唱えた……
ルディールは即座に魔法を発動し、背中のリージュが周りを認識出来る前に目を塞ぐ。
「これは、キツいな……」
バルケがそう呟いたが、リージュはルディールの魔法で目隠しされていたので何が何か分かっておらず慌てていた。
そしてカーディフとソアレが、真っ青になったルディールに気づき一度部屋の扉を閉じ外に出た。外に出るとすぐにリージュの目隠しを取ってやり静かに下ろすと、聖堂の隅に行き、吐いた。
その光景に皆は驚いたがソアレと動ける様になったリージュが近づいていき背中をさすってやり、カーディフが自分のアイテムの中から気付け薬を与えルディールを落ち着かせた。
「あーすまぬ……ああいうのは慣れて無いからなかなかキツかったわい」
「……ルディールさん、大丈夫ですか?冒険者の私達はある程度慣れていたので不用意にすみません……」
「ソアレにリージュも皆ありがとう、もう大丈夫じゃわい、不意打ちと言うのもあったからのう」
「ルディールさん……中に何があったか聞いても大丈夫ですか?」
「うむ、簡単に言えば人間の標本じゃな……お主がそう言うの大丈夫なら見てくると良いが、駄目じゃった時の為に目隠ししておいたのじゃ」
と、ルディールは優しめの表現をしたが、実際の所は人間の剥ぎ取られた皮があったり人体で実験をした標本などが大量に有ったのだった。
そう言うと目隠しをしたのが正解だったようで、少し顔色を悪くしルディールに礼を言った。
「ルー坊大丈夫か?駄目そうなら俺達で見てくるが……」
「いや行こう。慣れたくは無いが一度見たからのう」
「分かった。キツかったら言いな」
「うむ、ありがとう。リージュじゃがここに一人で残すと言う選択肢はあり得ぬから、選ぶのじゃ。一つ、目隠ししてまたわらわにおんぶされるか、二つ、目隠しせず自分で歩くか」
「すみません、ルディールさんさえ良ければ一つ目でお願いします」
リージュが本当に申し訳なさそうにそう言うと、ルディールも頷き魔法でリージュに目隠しをして背負おうとした所でソアレから待ったがかかった。
「ルディールさん、リージュ様はバルケさんかスティレに任せ、私をおんぶしま……せ……んカーディフ!何故、頭をつか……痛い痛い!」
「ルディ、これは放っておいていいから、リージュさん任せたわよ」
「うむ、任された。リージュよお姫様抱っこしてやろうか?」
いいですよ! リージュは少し強めに言ったが目隠しはされていたが耳まで真っ赤だった。
それからリージュを背負いまた先ほどの部屋の中へと入って行った。そして灯りをつけ中を調べ始めた。
ルディールも慣れてはいないが、一度見た事とカーディフの気付け薬のおかげで少し冷静に中を調べる事が出来た。
「何処の世界でもこういうのはあるんじゃな……人を人として見ないか……」
中をじっくり調べるとソアレやカーディフも段々と顔色が悪くなる物が大量に出てきた。
「……この瓶に入ってる目玉は魔眼ですね……どこからこれだけの人間をさらって来たのか」
「魔眼はどういう時に使う物なんじゃ?本でも見たことが無いんじゃが……」
「……邪法ですからね。ほぼ何にでも使えます。装備を作るときに使用すれば魔力の流れを感じられる武具になりますし、悪魔召喚に使えば高位悪魔を呼べますし……」
「あと、こっちの箱の中にある角はルディ達の様な角付きの角ね……これだけの数だから大昔からやってるみたいね……角狩り信仰か……胸糞が悪いわね」
そう話していると背中のリージュが震えだしたので、ルディールが耳も塞いでやろうかと聞いたが代わりに少し手を握ってくださいと言ったので黙って小さな手に手を重ねた。
それから少し調べたが危険な物は出て来なかった。
「このまま消滅させてもよいが報告せぬと駄目じゃしな。このままにして違う部屋も見るかのう」
皆の了解を得てその部屋を後にし、リージュを背負ったまま他の部屋も調べたが、先ほどの様な事は無く一つは上へ登る階段だった。そして最後の部屋に部屋に入り灯りを付けると、全員が息をのんだ……
(禁書の類か……まだ残っておったんじゃな、エアエデンで少し読んだ聖女の造り方と一緒じゃな……先ほどの目や角は部品じゃろうな……)
バルケもこれが何か分かったがエアエデンで見た禁書関係と同じ物とは言えず、ルディールの方だけを見た。
その場所はエアエデンでスナップや妹のスイベル達が、体を直す時に使用する様な人一人が丸ごと入られる大きなガラス瓶が大量にあり、上は蓋をされ色々な管がつながれており中にはミーナ達のクラスメイトの聖女が何人もいた。
そして中にいる聖女達は大小様々だったが、人としての形を取っている物が目を開け一斉に笑い出した……
その不気味さにカーディフが少し後ずさると、そこには本棚があり厳重に保管されていたが禁書があった。
「禁書……」
誰かがそう言うとリージュがビクッと反応しルディールに目隠しを取ってくれと頼んだ。
「リージュ、先ほどより遙かにキツいぞ?いいのか?」
「はい、それは私が責任を持って届けないといけないので怖いですが……」
「……ルディールさん絶対に駄目です。リージュ様にはこれを見せてはいけません。壊れますよ」
ソアレからストップがかかったので、ルディールは少し考えてから魔法で禁書がある本棚以外を影で隠しこれで大丈夫じゃろと言って目隠しを外した。
目隠しを外したリージュの目は少し泣いた様で赤くなっていた。その瞳で辺りを見渡したが、ルディールが魔法で隠したので見てはいけない物は見えなかった。
次回の更新は明後日か明日になると思います、作者はお正月休みが終わる恐怖と戦っています。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かっております。




