第71話 解呪
国王陛下の笑いが収まると、ルディールを見て話しかけて来た。
「私もそう思っていたのだよ。シュラブネル公爵は見て分かる通り野心家だ、しかもその態度を改める必要も無い位には能力も高い。だがいくら野心が高かろうとこの国の国王になる事はほぼ不可能だからな、現在の大公爵という立場に収まっていて貰っているのだよ。立場上は私の友人と言う事になっている」
さきほどルディールが言ったとおりの人物だったようで国から認められた役職につき、仕事を与えると昔に比べて静かになったと言う事だった。
「さて、リノセス侯爵」
「はい」
「公での発表はまだ後になるが、今回の禁書の奪還、前回の王女誘拐事件の救出などリノセス家が立てた功績が溜まってきたのでな、これによりリノセス侯爵家を爵位を上げ公爵と発表するがよいか?」
「はっありがたき幸せ」
「大公爵の様な特別な役職はないが、シュラブネル家と連携を取り、今後このような事が無い様に働いてもらうぞ」
国王陛下がそう言うとリノセス侯爵は大きく頭をさげ国王陛下に礼を述べた。
ルディールがそろそろ終わるかな~っと油断していると陛下がまたルディールの方を向きまた話しかけて来た。
「さて、ルディール・ル・オント。禁書が使用される前に止めてくれた事、感謝しよう。聞きたい事は山のようにあるがそれはまぁいい。何か望む物はあるか?」
そう聞かれたのでルディールは丁寧に礼をいい考えていた事を述べた。
「はい、私のミスで友人の冒険者達が他の冒険者達と殺し合うという事態になってしまいました。結果だけを見れば禁書が原因なのですが……もしもの時は王女様やリージュ様が口添えして頂けるとは言って頂けましたが、冒険者ギルドと軋轢が生まれそうならお力添えをお願いしたく思います」
分かったと返事をすると配下の者に紙の様な物を持ってこさせ、そこに直筆で親書を書きサインをし、火食い鳥とバルケに一枚ずつ渡した。
「冒険者達よ。それを冒険者ギルドに持っていき渡しておけば王女やリージュ・シュラブネルに余計な手間をかけさせる事はあるまい」
バルケや火食い鳥はまさか自分達が、国王陛下から直筆での親書を貰うとは思ってはいなかったのでかなり焦ったが、丁寧に礼を述べた。
それからしばらく陛下の話や国のお偉いさん達の話や今回の禁書の話が続きしばらくたってから、国王陛下が退出し謁見が終わった。
王宮の無駄な動きが一切無いメイドに応接室に案内された。リノセス侯爵は爵位が上がる説明で他に呼ばれたのでいなかったが、皆で謁見の気疲れを取るためにダレていた。
「光栄な事なんじゃが……疲れた……」
「うん、ルーちゃん……の言いたい事は分かる」
「本当はルディールさん、ミーナ駄目ですよって怒る所ですが私も限界に近いです」
先ほどのメイドも応接室には居らず、誰かがいるような気配も無かったのでルディールもミーナも机に顎を乗せていると、バルケや火食い鳥がルディールに礼を言った。
「ルー坊。今回もありがとよ。陛下の直筆の親書があれば冒険者ギルドは何も言えんわな」
「私達からもルディール殿、ありがとう」
「役に立ちそうで良かったわい、職場で揉めるのは本当に面倒くさいからのう……」
「でも、ルディはよかったの?陛下からああ言われたんだから、言えば大抵の物は手に入ったと思うわよ?」
「ん~ちょっと前にも言ったが欲しい物がいうほど無いからのう、今の所はお主達に害が無ければそれで良いし、恩を感じて居るならいつか体を張って返してくれたらええわい」
「……なるほど、私とカーディフとスティレとでですね?初めてで4人はかなり高レベルだと思いますが、ルディールさんがお望みとあらば頑張ります」
「ん?あんた何いってんの?」
「カーディフ、分からなくてもいいが、分かると面倒くさいから相手にしない方がいい」
「……最近、メンバーが冷たい」
「雷光ってあんな奴だったんだな。初めて見た時は結構ヤバそうな感じだったんだが、ちょっと丸くなったのか?」
「あれじゃろ?ネタが無くなってきたから安易に下ネタに走っているんじゃろ」
「ねぇねぇ、セニア今のってどういう事?」
「いえ、私もちっともまったくわかりませんよ?」
しばらく謁見の気疲れを癒やすように応接室にあったちょっと高そうなお茶を飲みながら歓談していた。
ルディールがそろそろ帰っていいのかと呟くと、セニアが陛下が来ることは無いと思うが帰られる様になったら誰かしら来ると教えてくれたのでしばらくまっていると、先ほどのドレスでは無く動きやすい服に着替えた王女がやって来た。
「あれじゃな、見送りに王女様が直々に来てくれるとかありがたいのう」
「はい?ルディールさんまだ帰られませんよ?何か忘れていませんか?」
「……もしかして王妃様を治しに行けとかそんなのか?」
「それ以外に何かありますか?」
「お食事会とか?そういうのだったら少し嬉しいが……」
「ルディールさんがお望みなら喜んで開きますが、絶対に来ないでしょう?謁見で疲れているかも知れませんが、早くお母様を治してあげたいので行きましょう、陛下の許可は取ってあります」
「うむ、ならばしかたあるまい!皆の者いくぞ!」
そう言って全員で行こうとしたが王女から王妃の寝室で診て貰う事になるので、冒険者達は駄目との事だった。
「ルーちゃん頑張って!」
「ルディールさん頑張ってください!」
「いえ、ミーナさんもセニアさんも行きますよ?お母様に友人が出来たと話したら連れて来なさいと言われたので拒否権はありませんよ?」
ミーナもセニアも何でそういうこと言う? と言うような顔で王女を見たがルディールは道連れが出来た事を喜び、王妃様がいる部屋に向かった。
「胃に穴が空きそう……」
「ミーナ……光栄な事なんだよ?分かるけど……」
「変な事したら首チョンパされるわらわが一番、胃が痛いんじゃが?」
「何というか皆さん割と余裕有りますよね?本当に余裕が無い人はそういうの言わないので」
その部屋は扉のすぐ横に護衛が二人たっており王女が指示をだして開けてもらい四人は中に入った。大きな天蓋付きのベッドに王妃は腰掛け、数人の侍女達と治癒師の様な人物とルディール達の到着を待っていた。
そして王女がルディール達の事を紹介し、王妃は娘に友人の様な人物が出来た事を喜び少し話をした後にすぐに指輪の力で解呪に取りかかった。
ルディールの真なる王の指輪の中から王の鎮魂を目覚めさせるとリージュの時と同じように闇が王妃を包み込み静かに消えていった。
王妃の痣が消え皆は喜んだがルディールだけは浮かない顔をしていた。
(う~ん…リージュの時のような手応えが全然ないのう……もしかして)
「ルディールさん、お母様をありがとうございました」
「いや、喜んでいる所悪いが……多分じゃが完全に治ってないぞ」
ルディールがそう言ったので治癒師が確認したが特に異常らしい症状もなく王妃に尋ねても体が軽くなったと言ってくれた。
それでもルディールは少し気になったので、王妃や治癒師に許可をもらい、自分が出来る範囲で詳しく調べようと考え行動した。
「王妃様、今から再診しますがかなりの情報がでるので見るのは王女様だけでよろしいですか?治癒師様を親族ほど信用されているのでしたら別ですが」
ルディールのその問いに周りは意味が分かって無かったが王妃は王女とルディールにだけ診て貰うといったので他は口を挟めなかった。
そしてルディールはアイテムバッグの中から真実の水鏡を取り出し王妃を鏡に映した。
「真実の水鏡よ、王妃様の状態の全てを映せ!」
水が動き出し王妃の状態を事細かく映していく様子が気になった王女はルディールに尋ねた。
「ルディールさん、この鏡は?」
「真実の水鏡と言うアイテムです。映した人間の全てが写るのでご親族以外には見せない方がいいかと思いまして」
王妃も王女もその事に驚いたが、ルディールの性格からして本来ならこういう所では絶対に使わない筈なのに母の為に使ったので礼を述べ、少しだけ注意した。
「ルディールさん……ありがとうございます。かなり危険なアイテムですのでお気をつけください」
「はい、理解しています。この国にきて自分以外に使うのは初めてですよ」
そして状態異常の所には呪いと書かれその下に【怨霊の死手】と書かれていた。
(死者の呪手の上位互換の呪いじゃな……さてと少し大変じゃな)
王妃の状態が分かったので伝えようとしたが、王女が興味津々に真実の水鏡をみてメモを取っていた。
「王女様、何をしているんですか?」
「えっ?お母様は元々体が少し弱いので、その原因なども書いてあるのでメモして少しでも良くなればと思いまして、あと嫌いな食べ物とかも写るんですね」
そう言うと王妃が顔を赤くしたのでルディールはプライバシーの侵害と言って真実の水鏡を閉じた。
「ルディールさんもう少し見せてもらえませんか?」
「……では王妃様と私で王女様を見ましょうか?」
ルディールがそう言うと王女はゴホンと咳をして、王妃様の状態の事を尋ねたので、ミーナ達の所に行き説明を始めた。
「今の王妃様の状態は怨霊の死手と言う呪いを貰っています、リージュ様がかかっていた死者の呪手に似ていますが怨霊の死手の方が上位版ですね。すぐに何かが起こると言う事はありませんが元を潰さないと何回でも再発します」
そういうと治癒師が症状を聞いてきたので、ルディールはできる限り詳しく伝えた。
「怨霊の死手は、痣が出ている時は能力が五割ほど落ち、回復魔法の効果も落ちる呪いです。今は解呪したことで一時的に元気になっていますが……また痣が出ると思います」
「ではルディールさん、お母様を完全に治す方法は?」
そう聞かれたのでルディールは少し言いにくそうに尋ねた。
「この呪いは発動すれば距離は関係無くなりますが、発動条件が少し厳しく……一つ目相手が高位の神官、二つ目使用者より格上、三つ目……近くに墓場や大量の死者が出た場所がある事です。一つ目二つ目はクリアされていますが三つ目に心当たりはありますか?」
そう聞くと王女や治癒師達に心当たりはなかったが、王妃様には少し心当たりがあった様でその事をルディールに伝えた。
「私も陛下から聞いた事なので詳しく知りませんが、この城は大昔に人と魔族が争ってその時の英霊達を祀る為に建てられた城と聞きました。ですから城の地下奥深くのはカタコンベがあると教わりました」
「なるほど……では十中八九そこでしょう。そこに王妃様に呪いをかける触媒の様な物が有るはずですので行ってそれを破壊すれば呪いは完全に解ける筈です。」
そう言うや否や王女は陛下に会うために飛び出して行き、ルディール達を放置して行った。その様子を王妃様は笑いながら見つめミーナやセニアに話しかけた。
「あの子には苦労をかけていますが、最近友人が出来たと嬉しそうに話していたんですよ。ミーナさん、セニアさん。気を使うなというのは無理だと思いますが、あまり気にせず仲良くしてあげてくださいね」
「はっはい!こちらこそよろしくお願いしまふ!」
「ミーナ、噛んでるからね。私の母も同じことをミーナに言っていました。私こそよろしくお願いします」
ミーナ達が話している間にルディールは治癒師や侍女達に解呪はすぐには無理なので呪いの効果を和らげる方法や真実の水鏡で見た王妃の体調などを伝えた。
それから少し待っていたが王女は戻ってこなかったので、王妃の部屋にずっといる訳にもいかないので、先ほどのバルケ達がいる応接室に一度戻ってきた。
「おー。ルー坊終わったか?というか不敬な事してないだろうな?」
「それは多分大丈夫じゃが、少し面倒な事になるかもしれぬのう」
「ん?何かあったの?」
くわしい事までは話せなかったが、出来る範囲でルディールは今の王妃の状態をバルケや火食い鳥達に説明した。
「……その触媒とは何なのでしょう?」
「前に見たことのあるのだと、人の頭蓋骨で出来た悪魔像とかかなりグロテスクなのが多かったのう……賢者の石のように滅多に手に入らないとかそういう物でなく割と手に入りやすい物で出来ておったな」
「あっ悪趣味ね……」
「だが、ルディール殿のおかげで解決の糸口が出来た訳だから国も動きやすいだろう」
ルディールも頷き後は話を信用されているなら国王が王宮騎士達に命令して解決と話した。
「そうだよなー。大神官取り押さえた連中もかなりの実力だったもんな」
「バルケなら勝てるのか?」
「あー無理だな。ルー坊までは行かないにしても、個人でSランク行けそうな連中だな」
「……宮廷魔術師の方もそんなものです、転移魔法とか使ってましたし、魔眼で見てもかなりの実力でしたよ」
「なるほどのう、強さの基準をお主らで考えておるからそう言われると異常に強そうに聞こえるのう……」
「ルディ……Aランクになったばかりでヒーヒー言ってる私達に何を期待してるのよ」
と、雑談しているとドアがノックされ、先ほど別れた王女が王妃と共にやって来た。
次回の更新はたぶん一月二日になります。
来年も朝起きたら知らない世界でマイキャラをよろしくお願いします。誤字脱字報告ありがとうございます、良いお年を!




