第70話 謁見
次の日、ルディール達が起きて少しゆっくりしているとリージュが王女の使いとして多数の護衛を引き連れリノセス家に訪問した。
「あれじゃな、とうとうわらわ達も年貢の納め時というやつじゃな……」
「ルーちゃん……冗談でもそういう事は言わない方がいいと思うよ」
昨日の今日だったのでリノセス侯爵は中央都市に来ていなかったので、護衛の中にいた宮廷魔術師が中央都市のリノセス家まで転移魔法で飛びすぐにリノセス侯爵を連れて来た。
(ローレット王国に数人しかいないらしい転移魔法使いまで来たか……初級の転移魔法、使い勝手はよいが阻害されるんじゃよな~。ソアレなら転移魔法を使えそうなんじゃが……調子に乗って教えん方がええじゃろな、見ただけでライトニングワンダラー使おうとする奴じゃしな)
などと考えながらソアレの方を見ていると向こうも緊張している様子はなくルディールに手を振っていた。
昨日の時点でリノセス侯爵には手紙で話が伝わっていたようで、こちらに付いた時には特に驚いている様子はなくリージュ達と話をしそれが終わるとルディール達の所に向かって来た。
ルディールが侯爵に迷惑をかけた事を謝ると侯爵は真面目な顔になり話しかけてきた。
「話は聞いたし禁書を使用される前に止めたんだから褒められる事だから謝る事はないが……お前、アコットの事忘れてないか?あいつは俺と一緒に中央都市にいるからたまには会いにきてやれよ?」
「すみません、特に用事があるわけでも無いのに行くのはどうかと思いまして」
少しだけ世間話をしルディールは近々行くという約束をして、リノセス侯爵は今回の騒動に関わった人間を集めた。
「急だが、いまから国王陛下に謁見させて頂いて今回の件を話すことになった。人選は、私とセニア、ルディール、ミーナ、後は冒険者達全員だな。私は今回の事は手紙で見ただけだから陛下への説明は王女様とリージュ様でなさってくれたと言う話だ」
その時点で行く事が確定したのでミーナとセニアの瞳から光が消えた。
「大丈夫だとは思うが、急な事だから作法などは不問にしてもらってはいるが、一応は常識的な行動を心がけてもらえると助かる」
今回の事で一番の当事者のルディールは話し方や態度に不安があったのでその事を尋ねると、セニアから伝わっていたようでいつもの余所行きモードで大丈夫だと言われたので少し安心した。
それから全員で王城の馬車に乗り城へ向かうと同じ馬車になったセニアがルディールに話しかけてきた。
「子供の頃はこの白い馬車が好きで乗ってみたいと思っていたんですが、実際に乗ると緊張しますね」
「あれじゃな、学校で悪い事してないのに職員室に呼ばれたら緊張するみたいな感じじゃな」
「たっ確かに、その感覚に似てるかもしれません、と言うかルディールさんはあまり緊張してる様に見えませんが?」
「うん?緊張しておるが、実感がわかないと言うのが正直な感想じゃな。王様とか言われても雲の上の人すぎてのう……」
「えっルーちゃん……王女様も王族なんだけど普通だよね?」
「王女様はお主達の友人って感じじゃしのう、人前ではちゃんと対応するが緊張はせぬかな?初めてあった時は少し緊張したがのう」
そう答えると同じ馬車に乗っていたリージュもルディール達の話に加わってきた。
「私と初めて会ったときはすでにその口調でしたし、見捨てて何処かに行こうとしてた気がしましたが?」
「……お主、わらわと同じ立場なら絶対に見捨てておるのではないか?」
「……そんな事は無いですよ?困ってる人はちゃんと助けますよ」
「うむ、顔見たら分かるが絶対に嘘じゃな」
二人の話をミーナが聞いていると、ルーちゃんとリージュさんって似てる所あるねと言った。
「あー確かに似ておるかも知れぬのう……二足歩行な所なんか特に」
「じゃあ、私が人間でルディールさんが猿人でお願いします。と言うか似てますか?ルディールさんは友人多いですが、私は片手で余りますよ?」
リージュが少しさみしそうにそう言うと、ルディールがリージュの肩に手を置き笑顔で優しく言った。
「やーい、ボッチリージュ」
「……今のはイラッとしましたね!ほんとに久しぶりにイラッとしましたよ!」
それから二人でかなりしょうも無い口喧嘩が始まりミーナ達は少し呆れながらだが微笑ましく見ていた。
二人のおかげで? ミーナとセニアの変な緊張は少し緩み外を見上げると王城の門をくぐった所で、ミーナは大きく口を開け城を見上げる。
「……どうしよう、場違い感が半端ない」
「わらわもそんな感じじゃから諦めた方がよいぞ」
「ルディールさんは謎の多い人ですよね。見た感じは貴族とか国に仕えてる様な魔法使いなのにアホの……ゴホン。こういう貴族とか集まる所とか嫌いですよね?地位や名誉も欲しがらないですし。よかったらシュラブネル家で雇われませんか?私の護衛でもいいですよ?」
「お給金がお主の顔面に蹴りを入れていいなら行ってやるぞ。なんでなんじゃろな?お金に困って無いと言うのもあるし、リベット村が居心地いいと言うのもあるんじゃろうな」
「ミーナさんの故郷ですよね?私は行った事がないので機会があれば行って見たいですね」
「リージュさん、来てもらっても本当に何もないですよ……普通の辺鄙な村ですし」
「そうじゃぞ、お主が来たら作物が枯れるから出来れば来るなとは言わん。が、絶対に来るな」
「……終わって落ち着いたら絶対に行きますね!王女様とか他の貴族連れて行きますね!」
またルディールとリージュの口喧嘩が始まりかけた所で馬車は目的地に着き、他の馬車に乗っていたリノセス侯爵やバルケ達と合流した。
それから様々な手続きを経て凶器になりそうな武器などを預けてから玉座へと向かった。
玉座に着くと国王はまだいなかったがこの事件に関わりがありそうな者達が集められ、国王の登場を待っていた。
その中にはイオード商会の商会長もおり、ルディール達を見かけると小さく頭を下げていた。
(イオード商会長までおるんじゃな……後あれは、海賊達に襲われておったエニアック商会の商会長じゃな……まぁ居らぬ方がおかしいがリージュの父も居るか)
ルディールが周りの人物達を確認し顔を覚えているとかけ声や音楽の演奏と共に、国王陛下、王妃、王女達が入場してきた。
それからすぐに話が始まったが、国王は先にイオード商会の商会長に礼を述べた、商会長から献上されたエリクサーで解呪こそ出来なかったが王妃の体力は回復し、呪いの効果もある程度は収まったと話した。その事に商会長は当然の事ですと大きく頭を下げた。
そして本題の禁書の話になり、厳重に封印がかけられガラスケースに入れられ、この場にいる全員が見られる様手配された禁書が運び込まれた。
「さて、ここにいる全員はこの事で呼ばれたと思うが、シュラブネル公爵。まずは貴公の話を聞こうか」
「はい……その件に関してはほとんどの貴族が無関係です、一部の連中がやったとしか……」
シュラブネル公爵はルディールと話した時のような傲慢な態度は一切なく貴族達から禁書が見つかったと言う事でかなり青ざめていた。
「それを信じる訳にはいかんが、リノセス侯爵家が事前に察知し使用される前に止めたと言うのもまた事実」
陛下がそう言うと一人の神官が発言の許可をもらい話し始めた。
「ですが陛下。すべて破棄された禁書が貴族達から出てきたと言うのが問題ではないでしょうか?さすがにシュラブネル公爵の話を全て信じる訳には行かないのでは?」
「ああ、だから私は、貴公達神官も疑っているよ」
そう言うと配下の者にルディールが王女様にお土産であげた魔力封じの宝玉が大量に入った木箱をもって来させた。
「さて、大神官。この大量の魔力封じの宝玉はエニアック商会の商船から投げ捨てられた物だ。管理している貴公達の言い分を聞こうか?」
その大量の木箱を見せるとエニアック商会の商会長が顔色を悪くし、大神官と言われた男も言葉を無くした。
「分かっていると思うが嘘を言った所で自分達の立場が悪くなると思ったほうがいい」
「私達もすべての神官の行動を把握している訳ではありません……申し訳ありませんが貴族達と同じように一部の人間がやったとしか……」
「大神官、私はね今回の禁書は神官達が貴族に流し使用させたと思っているのだよ。神官達はリノセス家の姉妹を山賊に襲わせただろ?」
国王陛下がそういうと大神官はとぼけたが、王女からリージュに声がかかり、王女が誘拐された時にルディールが捕獲してリージュに上げた密偵が連れてこられた。
その密偵は身動きできない様に拘束され、ルディールが自白させる時に使用するような魔法をかけ強制的にその時の内容を話させた。
その話を聞きリノセス侯爵の顔が憤怒に、セニアの顔は青く染まったが、ここで問題を起こすことは出来ないので我慢していた。
「さて、という訳だが大神官。神官側の言い分は?」
「ですが!禁書の事とは関係はございません!」
「我が妻やリージュ・シュラブネルに呪いをかけた貴公の話を信用しろと?」
まさかその事を聞かれると思っていなかった大神官は口をぱくぱくさせ言葉に詰まった、その態度が全てを物語っていたが、次はルディールが王女に渡した二人の密偵に魔法をかけ強制的に話をさせた。
二人の密偵は一人は貴族側でもう一人は神殿側だった。そして話し始めるとリージュや王妃に呪いをかけたのは大神官で治せるのも大神官だったので、それで貴族や国に対して上位に立とうという考えだったと話した。王女の誘拐も大神官の差し金だった……
貴族側の密偵は聖女を追いかけていたが、王女が一人になったので護衛に付いたが誘拐されてしまったので即座に後を追ったと話した。リージュの父も性格はあれだが、一人娘の事を少しは大事に思っているので呪いにかかっている時はあちこちに手回しをしていたそうだ。
「大神官。何か言うことはあるか?」
「いえ……もう言う事はありませんがどうやってシュラブネルの娘の呪いを解いたのですか?」
大神官は諦めたような表情はしていたが、まだ何か隠しているような感じがあったのでルディールはわらわの事は出さないで欲しいの~と思っていたがその願いは叶わず、国王陛下はルディールの方に目をやり大神官に説明した。
「ああ、そこの角の生えた人物は旅の魔法使いで今はリノセス家の護衛をしている人物だ。私が直接見た訳では無いがその者がリージュ・シュラブネルを治したと聞いている。」
「陛下!このような角付きを信じるのですか!」
「ああ、貴公の行いを考えれば貴公以外の人間は全て信じられるだろうよ」
そう話すと大神官は逆上し国王陛下に飛びかかろうとしたが、その瞬間に周りの護衛に瞬き一つの間に捕縛し身動きを封じられた。
(おおぅ……さすが国のトップじゃな護衛のレベルもおかしいのう。前にやり合った王宮騎士達とは桁が違うのう……)
それから拘束された大神官は何処かに連れていかれ、神官達に肩入れしていたエニアックの商会長も連れて行かれた。
「さて、次はシュラブネル公爵だが、いくら神官達の陰謀とは言え貴族側から禁書が出た事は見過ごす事は出来んが、どう思う?」
「はい、私からは何も申し上げる事はございません。国王陛下の采配にお任せします」
そう言ってシュラブネル公爵は頭を大きく下げ、国王陛下の言葉を待った。
「ならばお前と私の仲だ、見逃してやる事は出来ないが罰として貴族達の監視をさらに強めこの様な事が二度と起こらない様にしてもらおう」
国王のかなり甘い采配にシュラブネル公爵は一瞬呆気にとられたが、即座に返事をすると娘のリージュと共に玉座の間を去って行った。
それから他の貴族達にいくらか指示を出し下がらせ、ルディール達だけが残ると、国王陛下はリノセス侯爵に話しかけた。
「さて、リノセス侯爵、シュラブネル公爵に対する采配どう思う?」
「陛下の御心のままに」
「その考え方は面白くは無い。リノセス家の護衛、ルディール・ル・オントよ。君はどう思う?」
ルディールは急に話を振られ焦ったが、発言の許可と自分の考えを話す許可をもらい話し始めた。
「少し甘いかと思いますが私は良かったと思います」
「その良かったと思う辺りを詳しく聞いても?」
「はい、シュラブネル公爵様は確かに傲慢な人物ではありますが、大公爵として貴族達を纏め上げている能力の持ち主ですので、そのような有用な人物を即座に首チョンパ……ゴホン失礼しました。追放するのは混乱につながりますし、もったいないかと思います」
「他には何かあるか?」
「後、シュラブネル公爵様はどうかは知りませんが、人によっては地位を与えられるとそこで満足して変な気を起こさない人もいるので、国民に迷惑がかからないのであれば権力を与えておけばよろしいかと」
そう話すと王女の父と言うだけの事はあり変な笑いのツボがあったようで一人で大笑いして周りを戸惑わせ、しばらくの間国王の笑い声だけが響いていた。
次回の更新は多分、明日中。大掃除したいので年明けになるかもしれませぬ。
謁見とかしたこと無いから、どういう雰囲気で書いていいか悩みます。
気がつけばもう七十話、読んでくれてる方々や誤字脱字報告してくれてる皆様方のおかげで続いています。




