第66話 酒造り
ルディール達が家に入るとスイベルが出迎えてくれ、目当ての物が手に入った事を伝えた。
「簡単に聞いた説明じゃと、果実を魔道具にぶち込んで魔力を流して待てば、できあがりという感じじゃったが、それでええんじゃろか?」
「ルディ……端折ってるけどもう少し小難しく説明してたわよ」
「とりあえず、ソーマの実は大量にあるから試して見るかのう」
「……家庭菜園もどきですね」
そう言ってルディール達は庭の家庭菜園に向かうと、そこは季節に関係なく様々な花が咲き、果物が実っていてその光景にソアレは言葉を無くしカーディフは驚いた。
「ルディールさん……そろそろ止めておきましょう。希少植物もかなり有るので国から視察とか来るかもしれませんよ?」
「……それは不味いのう……焼き払った方がよいか?」
「ルディ、それは勿体なさ過ぎるわよ……というかどうやってこれだけ集めて来たの?」
「ちょっと前から謎の生物が物々交換で種を持って来てくれるからのう……植えたら生えたみたいな感じじゃな」
ルディールがそう話すとカーディフは少し考え、深い森に住むエルフですら滅多にお目にかかれない森の智者と呼ばれる鳥の様な二足歩行の魔物の事かと思ったが、さすがに人里近くの森にいるわけもないので別の魔物だろうと考えを切り替えた。
そしてルディールは畑からソーマの実を収穫し、魔道具の中に入れ蓋をして魔力を流した。すると魔道具がルディールの魔力を吸い上げ魔石に記憶させてある時魔法が発動し続け、完成を知らせるランプが青く光りお酒が完成した。
「何か……話と違うんじゃが?」
「……普通は魔力を流して負担の無い程度に時魔法を発動させて発酵の時間などを短くするものなのですが、ルディールさんの場合は魔力が有り余っているので常時発動したまま完成までいったのでは?」
「まぁ開けて見るかのう……」
ルディールが失敗の気配を感じ蓋を開けるとなんとも言えない甘い香りが広がり、ソーマ酒が完成していた。
「どうなの?これって完成しているの?」
「色とか輝きは前にいた国で見たのと一緒じゃな、とりあえず飲んで見るかのう」
スイベルにコップを持って来てもらおうと振り返ると、すでにコップや簡単な食べ物を持ってきて庭のテーブルに準備していた。
ルディールは用意をしてくれたスイベルに礼をいい、できたてのソーマ酒をコップに注ぎ、スイベルも席に着いてもらい軽く食事をとりながら出来た酒を楽しんだ。
味も香りもルディールが海上都市で出したソーマ酒と同じでソアレはその味が好きだった様でかなり飲んでいた。酒なのだがアルコールが入っているかどうかは分からなかったが、飲みやすくカーディフやスイベルにも好評だった。
「酒のはずなんじゃが、アルコールとか入っておるんじゃろうか?」
「入ってても、ソアレってお酒飲むとすぐに悪酔いするのに大丈夫そうだから、濃度は低いんじゃない?……これ本当においしいわね。後で分けてもらえない?スティレにも飲ませてあげたいし」
「うむ。まだ実があるから別に良いぞ」
そう言うと一番飲んでるソアレが急に真面目な顔になりルディールにストップをかけてきた。
「ルディールさん、美味しいので隠れて作る分にはいいですが……割と真面目にこのお酒はシャレになってませんので、作らない方が良いです」
「ん?なんでよ?何か変な事でもあったの?」
「……はい、カーディフも飲んでいますので絶対に言っては駄目ですよ。このお酒を飲むと魔力の総量が増えてます……」
ゲーム中の効果でもソーマ酒を飲むと魔力の総量が増える仕様だったのでルディールは驚きはしなかったが、本などで魔力が増える危なさは分かっているつもりだったので、さらに詳しく聞こうと魔眼で魔力が見えるソアレに詳しく尋ねた。
「調子に乗って作ってみたが……やはり危ないか?」
「ええ、魔力は歳を重ねるごとに増えるか、魔力の濃い所で修行などして増やすのが一般的ですので、このお酒だと飲むだけで増えるので……」
「ルディール様が言うような効果がでましたね……」
「効果が変わっておる事を期待したんじゃがのう……」
「そうなの?私は魔眼とか持ってないから、そういうのは分からないし魔力もほとんどないから分からないんだけど?」
カーディフがそう言うと、ソアレが自分のマジックバッグの中から一冊の古い魔道書を出してカーディフに渡した。
そして特定のページを開かせそこに書いてある魔法を唱えさせた。本来ならカーディフの魔力は少なく発動はしないはずなのだが、ソーマ酒の効果で魔力の総量が増えて魔法が発動し辺りを照らした。その事にカーディフは喜んだがすぐ冷静になり少し青ざめた。
「うん、低位の周りを照らすだけの魔法だけど、私が魔法使える様になった時点でやばいわね……」
「……そういう事です。ですが美味しいので私的には悩み所です」
「もめ事や争い事になってもつまらぬからのう……しかたあるまい今の分だけ瓶に移して、残りのソーマの実は有効活用じゃな……」
「……それがいいと思いますよ」
ソアレは少し残念そうにしながらも、一杯また一杯とカーディフが止めるまでひたすら飲んでいた。
「ソ・ア・レ !言ってる事とやってる事が違うわよ!」
「私が酔わずに飲めるお酒は少ないんです!」
二人を放置してルディールはスイベルにソーマの実の事を相談した。
「まだ実っているから捨てるのはもったいないのう……」
「ですが、危険な事には変わり有りません。私や姉さんは人ではないので、魔力はほぼ宿らず大気の魔素を取り込んで魔力に変換しますが私にも魔力が宿ったので……かなり危ない物かと。ですがソアレ様の言うように美味しい物なのでなんとか有効活用したいのは確かです」
そう話しルディール達が悩んでいると、スイベルがふと思いついた。その案はお酒にも種類があるので発酵させずに果実酒にしてみては? と言う物だった。
「他の酒も出来ると言うておったからそっちで作ってみるか……果実酒はどうやって作るんじゃ?」
「果実を切ってお酒に漬けて数ヶ月寝かせて出来上がりだったと思います」
そう話していると、ソアレとカーディフが買ってきますと村まで行き、村に売っている全ての種類の酒を買ってすぐに戻ってきた。ルディールはその間に魔道具に残った酒を瓶に移すと二本分のソーマ酒ができアイテムバッグにしまった。
ミーナやセニアにも飲ましてやりたかったと考えたが、その事で後々めんどうな事になり二人に迷惑がかかると申し訳ないのでルディールは諦めた。
魔道具にソアレやカーディフが買ってきた酒とソーマの実を切って入れルディールが魔力を流すとまたすぐに果実酒ができあがったので飲んでみるとソーマ酒の様に魔力の総量は増える事は無く、元の酒を最大に美味しくしたような酒ができあがった。
そして四人でどの造り方が美味しいかと、何回も作ったりして楽しんだ頃には、ソアレとカーディフは酔い潰れルディールとスイベルが客人用の部屋に運び寝かせた。
「まだ昼過ぎなのに酔い潰れるのはどうなんじゃろな?」
「仕方ないと思いますよ。買って来てくださったお酒をほぼ使って色々と飲み比べましたから、私も支障はないですが少し酔っていますので」
スイベルがそういうと確かに顔が少し赤く酔っているような感じではあったのでルディールはスイベルに水を飲んで少し休憩するように言い、作って余った酒を村長やミーナの両親にお裾分けしようと瓶にいれた。そしてスイベルに説明しミーナの実家と村長の家に向かった。
先にミーナの実家に行くといつも通り忙しそうにミーナの両親が働き、ルディールの家から応援でコボルト達とデスコックがお手伝いをしていた。
ルディールがキョロキョロしているとミーナの母が近づいてきてルディールに話しかけた。
「オントさんいらっしゃい、ご飯かい?」
「果実酒が大量にできたからのうお裾分けで持ってきたんじゃが……女将かなり痩せたが大丈夫か?」
ルディールの言葉通り、ミーナの母親は前はぽっちゃりして腕を曲げると力こぶが出来そうな感じだったのだが、出るとこはでて凹む所は凹んでいるスタイルの良い感じになっていた。
「オントさんからもらった小箱を置いてから家の中が過ごしやすくなってストレスが無いから痩せたのかもね~」
「病気で無いのなら大丈夫じゃな。ミーナが帰ってきたら母親と分からぬかもしれぬぞ?」
「流石にそれは無いと思いたいね。あの子は元気にしてるのかね~」
「今頃、王女様と侯爵家の娘と遊んでおるはずじゃぞ?」
ルディールがそう言うと女将は前と同じ様に豪快に笑いルディールの話を否定した。
「くちゅん!」
「ミーナ、風邪?」
「じゃないと思うけど……王女様が持って来た本が少し過激で……」
「普段、他の方の本とか読まないので新鮮ですから楽しいですね。ミーナさんはこういうのが好きと……」
「ひっ否定はしませんけど……王女様のに比べたら普通すぎて申し訳ないような気がします」
「そんな事はないですよ、王道こそ王道なので楽しいですよ。後は、セニアさんの本に出てくる登場人物は微妙にルディールさんに似てるのが多い気がしますが?」
「気のせいです!気のせい!」
と、ルディールがいる村より少し遠い王都で仲良く勉強していた。
ルディールはそれから女将に果実酒を渡してから村長の家に行って少しだけ世間話をして村長にも果実酒を渡し家に戻った。
家に戻るとソアレもカーディフもまだ寝ており自室でゆっくりと本を読みソアレ達が起きるまで時間を有効活用した。
それから時間が経ち、夜になってようやくソアレとカーディフが起きてた。
「……ルディールさんすみません。かなり寝ていたようで」
「うむ、それは良いが二日酔いなどにはなってないか?」
「あーそれなら大丈夫みたい、何処か痛いとかはないわね」
「うむ。なら大丈夫じゃな、今日は遅いが泊まっていくか?」
ルディールの言葉通り外はもう夜になっており、ソアレ達も王都に戻っても良かったが転移魔法で移動するとなると、リノセス家に行く事になるので、迷惑がかかると思いルディールの家に泊めてもらう事にした。
ルディールとスイベルは夕食は少し前に食べたが、ソアレとカーディフがまだだったのでミーナの実家へ行きお持ち帰りで数品買って帰りまた果実酒を飲みながら夕飯を楽しんだ。
「風呂はいつでも入れるから好きな時に入るといいのじゃ」
「りょーかい。ルディの家って静かでいいわね~。王都とか中央都市の宿だと防音してあっても気配とかあるからちょっと疲れる時もあるのよね」
「そう言われて悪い気はせんわい。本ぐらいしか無いからのう」
「……大丈夫ですよ。ルディールさんがいますから、さて背中を流しますので一緒にお風呂に行きましょう」
ソアレがまた変な事を言い出したので、その顔を見るとかなり酔っているようで真っ赤になって頭が少しふらふらと揺れていた。
「お主、酔っておるな?」
「正常な判断が出来ないぐらいには酔ってません」
そう言うとソファーに倒れ込み寝てしまったので、ルディールはソアレを抱え二階のベッドまで運んでやり静かに寝かせた。
「ルディ悪いんだけど、明日起きたらお風呂に入らせてあげてね」
「構わんが、何かあるのか?」
「ええ、明日は火食い鳥のPTとして魔法学校に講習というか冒険者としての話しをしに行く事になってるのよね」
「ソアレも女の子じゃしな」
「そういう事。あとリノセス侯爵家までまた送って欲しいけど大丈夫?」
「うむ、わらわもしばらくは王都の図書館に通うから大丈夫じゃぞ」
「ありがと。それと私の勘になるんだけど……王都の空気というか雰囲気がかなり悪いのよね、もしかしたら何かあるかも知れないから、王都に行く時は少し気を張って行った方がいいわよ」
「うん?それはどういう意味じゃ?」
「説明できないから勘としか言えないのよね……感覚的には嫌悪感が近いかな?」
「うむ、分かった忠告ありがとう。気をつけるのじゃ」
「ルディのそういう所は良い所よね。火食い鳥のメンバー以外が聞くと、大抵バカにするんだけどね~」
「何も無いならそれが良いが注意するに越した事は無いからのう、実際に貴族や神官達が裏で動いておるからのう……何かはありそうじゃしな」
「ほんと私達や一般市民を巻き込まないで欲しいわね……まぁ私は先にお風呂入るわね」
「うむ、了解した。……一緒にはいるか?」
「入るか!」
風呂場に向かうカーディフを見ながら先ほどの忠告を胸に刻み、王都へ行く際は警戒する事に決め今日も無事に過ぎていった。
次回の更新は少し時間をかえて明日のお昼ぐらいになると思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かっております。




