第62話 色々な芽
ルディールとスイベルは王都のリノセス家まで転移魔法で飛び、そこから王都にもあるイオード商会のオークション会場に歩いて向かった。
「スイベルは何処か行きたい所はあるか?王都も初めてじゃろう?先にイオード商会に行ってからになるがのう」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらえるのであれば、生活用品などを売っている所に行ってもらえるとありがたいです」
「お主も我が家で暮らすようになるんじゃし色々といるじゃろからな~」
「はい、それもありますがエアエデンからほとんど出た事がありませんので、知識としては知っていますが、どういう物が売られているか興味があります」
などとこれからの事を相談しながら進んで行くと、目的の場所に着いたのでルディール達は受付に到着を伝えると応接室に案内され、しばらく待っていると商会長がやって来た。
「オントさん、ようこそイオード商会へ。近くにおられたんですね、先ほどオークションの結果の手紙を送りましたがちょうどよかったです」
「ちゃんと見てからきたぞ、まぁ説明するより体験して貰った方が早いのう」
本来ならルディールは転移魔法を使える事を隠すのだが、灯台の街でも商会長には何かと世話になったので、話しても問題ないと思いルディールは商会長とスイベルの手を握りまたリベット村の自宅へと飛ぶと商会長が驚き辺りを見渡した。
「こういうことじゃな」
商会長は数回ほど深呼吸をして心を落ち着かせてから話しだした。
「まさか転移魔法まで使えるとは思ってませんでしたよ」
前に商会長が来た時より様変わりしたルディールの家に入り、スイベルが飲み物を入れ、話が始まった。
「しかし私に転移魔法の事を話してもよかったのですか?」
「灯台の街ではギルドに嘘の報告をするデメリットを背負わせてしまったからのう……その辺りも踏まえてじゃな」
「あれぐらいなら皆やっていますし、ヒュプノバオナスの魔石の売り上げでお釣りがきますよ」
「皆がやっておるからやっていいと言う訳でもあるまい、商会長の事は信用しておるからのう。と言うか隠してはおるがバレても困る事は今の所そんなにないから気にしなくてよいぞ」
「どう考えても、オントさんが転移魔法を使える事が分かったら困る事にしかなりませんので、私は黙っていますよ。というか私が黙っていると言うのを前提で話していますよね?」
「なんじゃい、ばれたか。このままここで話すか?王都まで戻るか?」
ルディールがそう聞くと商会長は少し考え、こちらの方が聞かれる心配が無いので終わるまではこちらで話しましょうと言いルディールの家で話す事になった。
そしてまずはオークションでのライフイーター亜種の魔石の売り上げを出しルディールに渡した。
「ライフイーター亜種の魔石ですね。これは新種と言う事もありかなりの値段が付き、黒硬貨三百枚です。」
「おおっ、ありがとうじゃな。イオード商会の取り分はもう抜いてあるんじゃろ?」
「はい、大丈夫です。一割ほど引かせて頂いています」
ルディールは黒硬貨をアイテムバッグの中に入れ、話を続けようとすると商会長の顔つきが変わりルディールに話しかけてきた。
「オントさん、そろそろ貴族側と神官側に動きがありそうですよ」
ルディールが驚いていると商会長がその事について話し始めた。王城への神官達の出入りが激しくなった事と魔法使いや精霊使いなどが貴族側に流れている事や、隠されてはいるが物の流れを追っていくと普段よりかなり多い量の回復アイテムや魔法の触媒になる物が流れていると教えてくれた。
後は王妃様の病状が悪化したのもあるので神官はその事かも知れませんがと付け加えたが、ルディールは商会長に少し前の情報だが話した。
「結果的にわらわの家で良かったのう」
「と、言いますと?」
「うむ、王妃様にはお目にかかったことも無いから詳しい事までは分からぬし、情報のつなぎ合わせになるんじゃがよいか?」
「ええ、私もオントさんの事は信用していますし聞いてから判断もできますのでどうぞ」
ルディールは少し考えて話を纏めて、初めて大公爵の娘のリージュに出会った時の話やその時に彼女が呪いを貰っていた事、治癒師が王妃様がどうのこうの言っていた時の事を話した。
すると商会長は頭を悩ませ少し自分の考えに浸り、ルディールに質問してきた。
「だとすると神殿側が王妃様に呪いをかけているということですよね?」
「リージュの時はそうじゃったぞ、誰がかけたまでは分からぬが自然に発生する呪いでは無いからのう」
「なるほど……国王陛下が今国中から王妃様の症状に効きそうな薬などをかき集めている訳が分かりましたよ。」
「呪いじゃからのう。並の薬では治らんじゃろうよ……で、その話とさっきの話を繋げると国王陛下が薬を動かしてるのに乗じて影で神官も貴族も動いておると……」
「そういう事になりますね……その内、何かありそうですね。というかオントさんがリージュ様の知り合いなら王妃様の状態を治しては?」
「商会長じゃから言うが、貴族も神官もどっちもどっちと思っておるからのう。王妃様には悪いがどちらに肩入れしてもろくな事にはならないと思っておるからのう」
「神殿側は角狩り信仰などがありますからオントさんが毛嫌いするのは分かりますが、貴族側の理由を聞いても?」
「リージュはわらわが治せる事を知っておるじゃろ?リージュの親の大公爵ももちろん知っておるじゃろ?王妃様の命がかかっているのに、わらわと言う手札を未だに切っておらぬからのう、人の命を手札にするなど言語道断じゃろ」
「そう考えたら貴族側も神官も同じですね……」
「まぁ、その呪いの上位版もあるが、どちらもすぐに死ぬ事は無いと思うがのう……わらわが直接行っても良いがうさんくさい魔法使いが行った所で門前払いじゃろうしな」
ルディールがそう言うと商会長も私でも王妃様にはお会いできませんのでどうしようもないですね。と付け加えももう一つ相談をしてきた。
「その事と関わりがありますが、オントさんから頂いた賢者の石を使ってエリクサーを造ろうと思いますがどう思います?」
「ん?今の話の流れからすると国王陛下に献上するのか?」
「はい、王族とコネを造るのが目的でしたが、それをすると私も神官や貴族と変わらないなと思いまして……」
「あまり考えすぎるとドツボにはまると友人に教えてもらったぞ。呪いじゃから治らぬかも知れぬがやっておいて損はないと思うぞ」
それからスイベルに入れて貰った飲み物を飲み干し、しばらく考えてから商会長は無駄に終わるかもしれないがエリクサーを作り国王陛下に献上する事に決めた。
次はその事でルディールに必要な材料を依頼しようとして一覧を見せると、庭の家庭菜園もどきにあるようなものばかりだった。
「スイベルよ。これ……我が家の畑にないか?」
「似たようなのは大量にありますね、ですがキノコと同じように似ていて別物という可能性もありますので、村の薬師様に相談してみては?」
「オントさんが凄いのは知っていますが、流石に畑に生えてる様な物は無いと思いますよ」
商会長に少し待ってもらい、村の薬屋さんまで行き薬師の老婆に来てもらって庭の畑からエリクサーに必要な材料を探して貰った。
すると全ての材料がそろったので、薬師にお礼で好きな薬草を適当に摘んでもらい、それをあげて礼を言って別れた。
「ほれ、商会長。クエスト達成じゃぞ」
「……聞いてもいいですか」
「うむ、どうぞ」
「なぜ、希少植物が庭の畑でとれるのでしょうか?」
「そうじゃな~。日頃の行いと共存の結果じゃな」
「意味が分かりませんが……オントさんということで納得します」
商会長になんとも言えない不思議な顔をされたがルディールもそれ以上説明のしようが無かったので諦めてもらった。
そして二人である程度の情報の共有をしてからルディールの転移魔法で王都のイオード商会の店舗の応接室まで飛んだ。
「転移魔法は初めて体験しましたが便利なものですな~」
顔は笑っていたが商人の顔になりルディールにその事を質問してきた。
「オントさん、私を転移させるのを頼みたい時はいくらかかりますか?」
「うっうむそうじゃな~。一回行った所しか無理なのと他にバレない様に配慮してくれるなら値段は商会長にまかせるぞ」
「分かりました、次回会うときまでに、値段の候補を出しておきますのでよろしくお願いします」
その迫力のある顔になった商会長に少し気圧されながら了解しルディールは商会長に少し気になった事を尋ねた。
商会長の話や物流の事を考えると王都で何かしらの争い事が起きそうだったので、商会長やイオード商会の商人達は何処かに避難するのかと聞くと、商会長もそう思っていたようで商人達を連れて早めに中央都市まで行くと教えてくれた。
「何も無ければそれでいいのですが、火食い鳥の方々も何かありそうだと言っていましたし、今日か明日にオントさんから頂いた薬草などでエリクサーを作って献上してすぐに中央都市に向かおうと思います」
「それが良いのう、わらわの勘は当たらぬかも知れぬが、あまりいい雰囲気は感じぬからのう。中央都市までの護衛はしてやれぬが気をつけてのう」
笑顔で大丈夫ですよと言いお互いに今回の事に礼をいい、何かあったらお互いに情報交換をする事を約束しルディールはそこで商会長と別れた。
「さてと、スイベルよ。遅くなったが色々見に行くか」
「ありがとうございます」
そしてルディールとスイベルはイオード商会を後にして王都の日用品や雑貨などが並ぶエリアに向かった。その途中でルディールは大事な事を思い出した。
「ほれ、スイベル。手を出すのじゃ」
「こうですか?」
スイベルが両手を差し出すとルディールがアイテムバッグの中から黒硬貨を二枚ほど出し渡した。
「給料じゃな。忘れておったでは済まされん事じゃから渡しておくわい」
「……ありがとうございます。が、返そうとしても無理だと思いますけど……多くないですか?」
そういうとルディールはボーナスじゃなと笑い、スイベルは丁寧に頭を下げそれ以上は何も言わずに受け取った。
目的エリアに向かうとルディールは特に行きたい所は無かったので、スイベルが行きたい所についていく形になった。
「ルディール様、すみません本来は主人に付き従うのがメイドなのですが……」
スイベルはそれ以上は言いにくそうだったがルディールは気にせずに言った。
「わらわの行きたい所は本屋ぐらいしかないからのう、気にせず行ってくれた方が助かるわい」
「ありがとうございます」
などと二人で話をしながら色々と回って大方、スイベルが行きたい所を見終わったので、次は本屋に行こうとした所で声をかけられたので振り返ると顔なじみと知り合いがいた。
「ルーちゃん!王都に来てたの!?スイベルさんお久しぶりです」
「おお、ミーナと……リージュか……はぁ」
「ミーナ様、お久しぶりです」
ルディールはミーナに会えた事に嬉しそうだったがリージュを認識した瞬間にテンションが下がった。
「もう、ルディールさんそんな嬉しそうな顔しなくてもいいと思いますよ?」
「もはや何も言うまい……と言うかミーナとリージュがなぜ二人でおるんじゃ?」
「本屋さんに行こうと思って学校から向かってたらリージュ様と出会って一緒に行く事になったんだよ」
「リージュが動くとなにか裏があると思うのはわらわだけじゃろか?」
「ルーちゃん、変わったと思ったけど変わって無くて安心したよ」
「それはルディールさんの心が汚れているからですね」
急ぎで本屋に行こうという事もなかったのでルディールはミーナ達と別れソアレを探しに行こうと思ったが、ミーナがルーちゃんも時間あるなら一緒にいかないかと誘ったので一緒に行く事になった。
本屋に向かうのに大通りを歩いていると二台の大きな馬車が止まり中からリージュの父親が顔を出し本屋まで送ってもらえる事になった。
(こういう所がうさんくさいんじゃよな~。商業エリアに入った辺りから警護のヤツじゃろうが、数人には確実に見られておるし……)
などと考えているとリージュがルディールの顔をのぞき込んで話した。
「ルディールさんが何を考えているかは解りませんが、偶然ですよ?偶然」
「いえ、リージュ様の思い違いです、素敵な馬車に乗れた事に感謝していたんですよ」
と、余所行きモードになったルディールはリージュとリージュの父親が乗る馬車にのり、ミーナはスイベルと別の馬車に乗り込んだ。
すると早速、リージュの父親のシュラブネル大公爵が話しかけてきた。
「さてと、ようやくお前と会えた訳だが、まずは娘を助けてくれた事は礼を言ってやろう」
シュラブネル公爵は頭は下げなかったがルディールに対して一言礼をのべ話を続けた。
「シュラブネル家がお前に会いたいと言っていた訳だが、理由はあるのか?」
「はい、リージュ様を助けるのは当然の事ですので、当たり前の事をしただけで公爵様にお会いする訳にもいきません。リージュ様に礼を言って頂けただけで身に余る光栄ですので」
もはや別人になったルディールがそう言うと、シュラブネル公爵も少し満足したのか、その事については何も言わなかった。
「はっ、薄汚い魔法使い風情は口だけは良く回る」
などと本屋に着くまで色々言われたがルディールはそういうのは気にならないので心の中で別の事を考えながら余裕で流していたが、リージュの表情は少し痛々しかった。
目的地につきルディールとスイベルとミーナは下ろしてもらいシュラブネル公爵達に礼をいい別れた。
「何処にでもああいうのは居るんですね。ミーナさん」
「ルーちゃん……余所行きモードになったままだけど何を話してたの?」
「ん?どうせまともな事は言っておらぬはずじゃから聞いてないから覚えておらぬぞ」
「良かった、私が知ってるルーちゃんだ。って公爵様の話聞いて無いのは良くないけど!」
「ミーナ様大丈夫ですよ、軽く盗聴していましたがろくな事言ってませんでしたから」
「スイベルさんも大丈夫じゃなかった!」
「で?お主はなんの本買いに来たんじゃ?エロ本か?」
「買わないから!明日から連休だから図書館でセニアと勉強しようって話になって、何か変わった魔法の本でもないかな~っと思っただけだから!」
「なるほどのう、わらわも行ってよいか?」
ルディールも明日は図書館に行く予定だったので、ミーナに聞くと快く了承してもらい、セニアを連れて迎えに行くと伝えそれから本屋で二人は悩み一人は本を買い漁った。
そして思った以上に時間が過ぎたので、久しぶりにミーナと一緒に夕食を取り、寮まで送って行った。
「じゃあ、ルーちゃん!また明日!」
「うむ。今からセニアの所に行ってから帰るから声をかけとくわい」
ミーナと別れセニアとも約束をしてルディールはようやく自宅に戻り夜も更けていった。
次回の更新は明日には投稿出来ると思います、たぶん。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます、助かっております。




