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第57話 羅針盤

「バルバス船長様!ルディール様の最後の願いとはどういうことですの!」


「そのまんまだな、あの世に行く途中で出会ったからな」


 ソアレはその言葉を聞くと問いただす前にルディールが眠る部屋に駆けて行きその状態を確認した。


 そして遅れてやって来たスナップとスイベルもルディールを見るとその表情からは余裕が消えた。


「ソッソアレ様、ルディール様はどうなんですの!」


「今の所はまだ大丈夫ですが……このまま起きなかったら……」


 ソアレはルディールの状態を診たが心音は弱くなり魔力も色を失いつつあったのでとても危険な状態だとスナップに伝えた。


 その事を聞きスナップは慌てソアレに方法は無いかと尋ねたが、ソアレも思いつかずどうする事も出来なかった。


「ルディールさんは、生きる事を諦めたのかもしれません」


 その言葉を聞きスナップは頭に血がのぼりソアレの胸ぐらを掴もうとしたが、灯台の街に来る前にミーナに言われた事を思い出しその事をソアレにも伝えた。


「そうですか……仲間のカーディフにも同じ事を言われました……何も出来ない自分が歯がゆいですね」


 ソアレは数少ない友人が何処かに行きそうな事に目尻に光る物を溜め、何も出来ない歯がゆい自分にいらだちを感じ握り拳から血を流した。


 その様子を見てスナップはハンカチを出しソアレの手に巻いてあげた。


「……すみません、スナップさんありがとうございます」


 スナップは少し躊躇ったがルディールを呼び戻す為糸口にならないかと、ソアレにルディールがこの世界の人間では無い事を伝えた。


「……やはりそうでしたか。この世界の知識には疎いのに魔法はやたらと凄いのでどこかずれてる人だと思っていましたが、世界がずれていましたか」


「あまり驚かないんですのね?」


「……ルディールさんが異世界の人でもこっちの世界の人でもそこまで変わらないので。もしかしたら元の世界に帰る方法を見つけたのかも知れません」


 その言葉を聞きスナップは怒りルディールを掴み上げた。


「帰るのは構いませんが、帰るなら一言ぐらい挨拶をすべきですわ!」


 そう叫びルディールを揺さぶったが反応は無かった……


 二人はしばらく立ち尽くしているとダッチマン船長が呼びに来た。


「メイドの嬢ちゃんも、魔法使いの嬢ちゃんも悪いがまだ戦闘中だ、少し戻って来てくれ」


 その言葉にふたりは現実に戻りルディールに一言文句を言いデッキに戻った。


 デッキに戻るとヒュプノバオナスに艦隊が攻撃を仕掛けていたが、いくらアンデッドになったとは言え災害クラスの魔物だったのでバルバス船長達も少し苦戦を強いられていた。


 ソアレは一度ルディールの事は忘れアイテムバッグの中から魔力回復薬を飲み回復させ、スナップも空を飛び攻撃に参戦した。


 その光景を空から眺めていたルディールは迷っていた。


「思った以上に劣勢じゃな……皆は気がついておらぬ様じゃが、少しずつじゃが再生しておるのう」


 その独り言だった呟きに返事が返って来た。


「新しき魔王様……」


 その言葉の方を向くと異界の魔神と呼ばれているボスモンスターが立っていた。


「お主か……お主が帰る世界はもう無いかも知れぬが方向はあっちじゃぞ?」


 ルディールがその方向を指さし伝えたが異界の魔神はルディールから目を離さなかった。


「新しき魔王様……私を眠らせてください。取り込まれた体が再生しつつあります。私はこの世界に捕らわれているのが辛いのです」


「わらわは魔王ではないぞ?」


「いえ、その指輪は魔王の印です」


 ルディールはその言葉の意味が分からず聞き返そうとしたが、異界の魔神が苦しそうにうめきだしまたルディールに悲願した。


「まっ魔王様、私を眠らせてください……強制的に起こされまたあそこに……」


「まっ待つのじゃ!」


 その言葉を言い終える前に異界の魔神は崩れて消えた。


 その事に恐怖を覚えたルディールは戦闘中のヒュプノバオナスの方を即座に確認した。


 ヒュプノバオナスは先ほどまでは優勢だったが、スナップやソアレが参戦しバルバス船長達の砲撃もあり、体も崩れ始める寸前だったが、崩れかけた体から先ほどの異界の魔神が再生されその能力で全体の再生を始めた。


 その事に気づきスナップやソアレが即座に攻撃を始めたがダメージのほとんどは海に流され回復量が上回っていたので回復していった。


「ソアレ様……白旗あげますか?」


「……気が合いますね、私もそう思っていた所です」


 二人の会話が聞こえたダッチマン船長もそれいいなと笑っていたが、かなり危ない状況だった。


 万全の状態なら今のヒュプノバオナスなら倒せたが、サポートのスイベルはほぼ全員戦闘不能でスナップ自身も骨格部分にかなりの損傷があり、ソアレも怪我は無かったが体に疲労が蓄積していた。


「バルバス船長!そっちはどうだ!」


 ダッチマン船長が叫びハイレディン号で先頭に立って戦うバルバス船長に現状を尋ねた。


「向こうの攻撃は当たる事はないが、こっちの攻撃も致命傷にならねー!火力不足だ!」


 そう言ってハイレディン号を狙って振り下ろされる触手をサーベルでぶった切ってはいたが、距離を取られるとどうしようもなく回復されてた。


「があぁぁぁ!そこまで強くねぇのにまどろっこしい!あの角付きの嬢ちゃんに笑われるわ!」


 にたような攻防が繰り広げられ持久戦に持ち込まれスナップ達はどんどん不利になっていくとダッチマン船長の船に一匹の大王イカの子供がよじ登って来た。


「なっなんだ?こんな時に大王イカか?幼生だが……」


 ダッチマン船長がそう言って追い払おうとしたがスナップはその子イカに見覚えがあった。


「あら……この子はルディール様が魚を引っかけた時に一緒について来たイカでは?」


 そうだったので話しかけたがスナップやソアレはルディールの様に動物や魔物と会話出来る訳では無かったので何かジェスチャーをしていたが伝わらなかった。


 そいて子イカがヒュプノバオナスを指さしたので、その方向を見ると海面に船より大きなイカの触手が現れ大きく振りかぶりヒュプノバオナス目がけ叩きつけた。


 その事に驚きソアレが子イカにもしかして援護してくれるんですか?と問うと子イカは何回も頷き親の大王イカも参戦した。


 大王イカの触手の攻撃は体の大きさもありヒュプノバオナスにダメージを与え続けた。




 そしてその場にいた全員が勝ったと、ほんの少し油断をし動きが雑になった隙を付かれ触手から水を圧縮した細いレーザーを打たれダッチマン船長の船を直撃した。


「嬢ちゃん達!大丈夫か!」


 ダッチマン船長がそう叫び、スナップ達の安否を確認するとスナップからは返事がすぐに返って来た。


「わたくしは大丈夫ですわ!ソアレ様とスイベルは!」


「姉さん私達も大丈夫です!」


 スイベルからは返事が返ってきて少しだけ安心してソアレの方を見るとスナップは顔から血の気が引いた。


「…………すみません、しくじりました」


 ソアレがそう言って苦しそうに立ち上がると左腕の肘から先が消えていた。



 スナップは即座に動き止血の為に腕を縛り、ルディールが眠る部屋にソアレを担ぎ運んだ。


「ソアレ様!大丈夫ですの!」


「スナップさんすみませんアイテムバッグの中からハイポーションを出してもらえますか?」


 そう頼まれたので、スナップはアイテムバッグの中を漁りハイポーションを出しソアレに飲ませた。


 腕は生えては来なかったが、小さい怪我や体力は回復しまた動けるまでには回復した。


 その事を遠くから見ていたルディールだったが流石に我慢の限界だった。


「確かに帰れるなら帰ろうとは思っておったが……友人達が死にかけておるのに放って帰る訳にもいかぬからのう」


 そう言って立ち上がり昔の記憶が写る菱形に話しかけた。


「もしかしたらこれが元の世界に戻られる最後のチャンスだったかも知れぬが、わらわは今の世界に行く」


 そう言うと菱形の一つが形を変え、ゲーム中の相棒で副マスターのミーナになり話しかけてきた。


「やぁやぁ!ルーちゃんお久しぶりだね~」


 その事に驚きを隠せなかったがルディールはいつも通り話せた。


「……なんじゃいお主、もしかして死んだのか?」


「死んでないから!私はちゃんと生きてるよ!今の私は幽船の御霊で作られたルーちゃんの記憶の塊みたいな物だね~ほぼ本人だけどね」


「なるほどの~会えて良かったわい」


「そかそか~、ルーちゃんは異世界でも私に会いたいぐらい好きだったんだね!」


 このミーナが本人で無いのは分かったが、もう二度と会えないと思ったのでルディールは素直に自分の気持ちを伝えた。


「一目惚れ……リアルで初めて会った時から好きでした。知っておったか?」


 そう言うとミーナは耳まで真っ赤にして何かをぶつぶつと呟いていた。


「ほんとそういう事は、もう少し早く言って欲しかったんだけどね……」


「本人に言う訳ではないが恥ずかしいのう……さてと、わらわはそろそろ行くかのう。最後に会えてよかったわい」


「私も会えて良かったよ!……ってルーちゃん……早く行った方がいいよ?」


 ミーナが少し焦った顔で足下に写るソアレ達を見ると、どうしていいか分からなくなったスナップがルディールを掴み上げ叫んでいた。


「もうこの角付きポンコツを殴って起こしますわ!その方が手っ取り早いですわ!」


「……スナップさん駄目ですよ!ルディールさん弱っていますから止めになりますから!」


 その様子を見てルディールはため息を付いた。


「何かこう緊張感がない友人達じゃな……」


「ギルメンと同じ匂いを感じるね……と言うかルーちゃんは私の気持ちは聞かなくていいの?」


 そうミーナが心配そうに聞いてきたがルディールは笑って答えた。


「……お主が前に飲酒しながらゲームして、そのまま酔っ払ってギルメン全員に言いまくっておったから知っておるわい……わらわもかなり恥ずかしかったのじゃぞ?」


「えっえっえっ?もしかして……次の日から皆が何か優しくなった時?」


「どうじゃろな~?……さてとそろそろ顔の形が変わりそうじゃから行くかのう」


 ルディールがそう言うと副マスターのミーナが頭を抱えながらルディールに別れを言った。


「うう……どうしよう……もしもこっちの世界に戻れたらまた会おうね」


「うむ」


 そう言って最後の別れを済ますとルディールは鼻に激痛が走り強制的に現実に引き戻された。


 激痛の元をたどるとスナップの渾身の右ストレートが顔面に決まっておりルディールの鼻が変な方向に曲がっていた……


「殴って起こすのはまだ分かるのじゃが……普通、鼻まで折るか?」


 そう言ってルディールは涙目になりながら自分に回復魔法をかけ怪我を治し、ソアレとスナップの方向を見るとスナップは泣き声にならない声をあげ、ソアレは驚き目を見開いていた。


 ルディールはソアレに謝りアイテムバッグを漁り中からロードポーションを出し飲ませた。


 するとすぐに無くなった腕が生え全ての傷が消えると、今まで緊張して張り詰めた糸が切れソアレはルディールの胸に飛び込み子供の様に大きく泣いた。


 そして泣き止むまでしばらく頭を撫でてやった。

 



「……お恥ずかしい所をすみません」


「それはいいが、本当にすまなかった」


 と、ルディールは再度ソアレ達に頭を下げた。


「ルディール様、帰るのは良いと思いますが、せめて一言声をかけてから帰るのが礼儀ですわ!消えるようにいなくなるのは失礼ですわ!」


 と、目元を赤く腫らしたスナップにも謝り、スイベルにも礼を言った。


「そろそろ決着の時じゃな」


 そしてヒュプノバオナスと決着をつける為にデッキに上がりダッチマン船長に声をかけた。


「ダッチマン船長!戻ったのじゃ!世話をかけたのう!」


 ルディールが船長に声をかけるとダッチマン船長も手を大きく上げ応えた。


「おう!お帰り!寝起きにアレとやり合うのはめんどうだろうが頼むぞ!」


 そう話していると一本の触手が船に向かって振り下ろされたが、ルディールは指輪の力を解放させ、蹴り飛ばしその衝撃で触手は引きちぎれた。


 ヒュプノバオナスは切れた触手を直そうと海面下にいる大量のアンデッドを取り込もうとしたが不可能だった。


「もう、お主は再生せんよ……ん?なんで船の上にイカがおるんじゃ」


 そう言って子イカに話しかけると貰った魚のお礼に助けに来ましたと触手で敬礼をした。


「うむ!その厚意に感謝じゃ!あのでかいのは親御さんか?」


 そう聞くと子イカは再度、敬礼しそうですと答えたのでルディールは今の自分の攻撃に巻き込まれたらめんどうな事になるからと説明し大王イカ達に下がってもらった。


 そしてルディールは背中に翼を生やしヒュプノバオナスに近づくと人型の部分が話しかけてきた。


「アア……魔王サマ……」


「お主はきっともう一つの可能性のわらわじゃろうな……まぁ、わらわは自分のせいでこっちの世界に飛ばされた訳じゃがな……」


 そう話しかけている間にもヒュプノバオナスは攻撃を続けたが、すべての攻撃は届くことは無かった。


「お主自身の頼みじゃしな……苦しまない様に一瞬で消滅させてやるわい。グラビトロン!」


 ルディールは全ての指輪の力を解放させ、海からヒュプノバオナスを引きずりだし、その魔法を唱えた。


言祝ことほぎ


 ヒュプノバオナスを取り囲む様に大きな鳥居が現れ、今まで荒れていた海は静かになり、風も止み、海面はルディール達が写るほど凪になった瞬間に鳥居から空へ向かって鼓膜を裂くような音と共に大きな雷が空へと登った。


 言祝の直撃を受けたヒュプノバオナスは炭化し海へ崩れ落ちた。そしてその余波で海面下にいたアンデッド達も全て消滅し、また海はうねり波を取り戻した。




 戦いが終わりルディールが船へ戻ろうとすると、炭化したヒュプノバオナスの上に、バルバス船長達のような魂になった異界の魔神がおりルディールを呼んだので先にそちらへ向かった。


「……魔王様、ありがとうございました。これでようやく眠れます」


「帰る世界は無いかも知れぬが達者でな……」


 そう言うと異界の魔神はルディールに二つの物を渡した。


「これは?」


「はい、一つはこのクラゲの魔石です、もう一つは世界樹の種です。種は三十年前に私がこの世界の人間に倒された時に落とした物です、それが回収されずここの大渦まで流れ海底に落ちました」


「そうかお主のドロップには世界樹の種もあったのう……芽が出れば周りの生命力強化とかじゃったよな?」


「はい、海底で日の光も当たらず芽が出ずに生命力だけが周りにあふれ出し、あのクラゲを復活させ取り込まれ周りを強制的に復活させていました。私の体も沈んでいましたが強制的に起こされ取り込まれあの様になっていました」


「なるほどのう……ではその種を回収できたから、もうアンデッドは出ないという事でいいんじゃな?」


「はい、大丈夫です。できれば何処かに植えてやってもらえればと思います」


「うむ……帰ったら庭にでも植えとくわい」


 お願いしますと頭を下げ、再度ルディールに礼をいい異界の魔神と呼ばれたボスモンスターは眠るように静かに消えて行き決着した。

次回の更新は多分明日です、無理だったら月曜日の朝になります。

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[一言] 結ばれたのに二度と会えなくなる恋愛ものを見てるようで切ない
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