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第54話 海底

 船が大渦の中心に少しずつ近づいて行き飲み込まれ、底へ底へと流されて行った。


「光源が月明かりと船の光ぐらいじゃから凄い光景のはずなんじゃがイマイチわからんのう……」


 ルディールがそう呟くと先ほどの戦闘で凹んでいたスナップがいつの間にか復活していた。


「悠長に話している場合ではないと言うのは間違いないですわ」


 そう話していると、ダッチマン船長の船の動きが変わった。


「流れが変わったぞ!もしかしたら大渦を抜けるかもしれないから気をつけろ!」


 船長がそういった直後に船が大渦を抜けると何もない海底が見えており、文字通り何も無かった。海水すら……


「なんで海の中なのに!海水がねーんだよ!落ちるぞ!」


 船は傾き重力に引っ張られ船首から海底へと落ちて行った。


「……がっつり落ちてますね」


「お主はなんで落ち着いておるんじゃ……グラビトロン!」


 ルディールが重力魔法を唱え船を軽くしたが重さを無くす事は無理だったので、背中に翼を生やし船底で支えゆっくりと船を降ろし始めた。


「船の形は違うがこんな感じで抱えるアニメがあったのう……と言うか重っ!」


 ある程度は軽くはなっておりルディール自身の力もあったが船はやはり重く、持つ物ではないので器用にバランスを取りながらゆっくりと船を海底へと下ろした。


 そこはドームの様になっており海底から上を見上げると水が有り、まだ大渦も存在していた。


 ルディールが見上げていると船が錨を降ろし、その鎖をはしご代わりにダッチマン船長やスナップ、ソアレが降りてきた。船にも人を残しておかなければならないので、この四人以外は船に残れ! とダッチマン船長が船員達に指示を出した。


「なんつーか神秘的な光景だな……」


「ですわね、全体的にほんのり明るいので周りが見えますわ」


 海底は夜空の光を取り込み海底にある宝石の様なものに反射して少し明るかった。その宝石の様な物をソアレが手に取り調べ何かを教えてくれた。


「これは魔石のかけらですね…」


「なるほどのう……なんとなくじゃがここがドーム状になってるのが分かったのう」


「えっ?そうなんですの?わたくしは見当もつきませんわ」


 そうスナップが言ったのでルディールは少しだけ呆れながら説明を始めた。


「浮島と似たような物じゃな、ここに欠片じゃが大量の魔石があるじゃろ?大賢者ノイマンの手帳にも書いてあったが、魔石が大量に有るとその魂が空を求めると書いてあったぞ」


 ルディールの説明でソアレは理解し自分なりの仮説を話した。

 

「……浮かび上がろうにも海が蓋をして浮かび上がらず、上がろうとする力で海水を押しのけてこのドームが出来ていると言うことですね」


「まぁそんな所じゃろうな、他の要因もあるじゃろうが溜まった力が抜ける時に大渦になるのかも知れぬのう……」


 スナップは顎に手を少し考えてから答えた。


「なるほど、わっわたくしが思っていた通りですわね……さすがはお父様ですわ」


「あれじゃな、ツッコミ所はあるがスルーしてやる方がええんじゃろな?」


「……それも一つの優しさの形だと思いますよ」


 ルディールとソアレがスナップにどう言おうか考えていると、ダッチマン船長がそろそろこの辺りを詮索しようと言い出したので、全員が目につく範囲で調べ始めた。


「あまり離れると何があるか分からぬからのう。と言うか海の底なのに濡れておらぬのじゃな」


 ルディールが言ったように足下は乾いており、乾いた砂場が広がっており所々に骨や魔石が顔を出し砂漠を連想させた。


「帰りはどうやって帰るのでしょうね?」


 スナップが顎に手を添え不思議そうに上を見上げると、ダッチマン船長が楽しげに笑った。


「童話だと流れる渦を抜けて取りにきなだったよな?次は失敗したらお前もお仲間だ、だから何か上へ行く方法があると思うぞ、何もなかったら角付きの嬢ちゃんに上まで運んでもらえばいいだろ」


 ルディールは出来なくも無いが、出来ればやりたくないと伝えるとダッチマン船長はまた大きく笑い詮索に戻った。


「……何も無いですね……と言うか思ったより広いですね、もう少し捜索範囲を広げますか?」


 ソアレの提案に今の所、脅威になりそうなものは無かったので少し広がりまた調べはじめた。


「何故この場所にはここまで魔石が大量にあるんですの?」


 スナップのその言葉にルディールは少し考えてから答えた。


「海流とかかげんで漂流物が流れやすいんじゃろ、簡単に言えば部屋の中で埃が溜まりやすい場所と一緒じゃな」


「今のでなんとなく分かりましたわ、海ぐらい広い場所でもそういうのはあるんですのね」


「規模が大きいか小さいかの差だけじゃろな」


 再び捜索に戻りしばらく探したが何も見つからず、ふと周りを見渡すと、ソアレが目に付き行方不明になり探し出した時の方法を思い出した。


「あっ……真面目に忘れておったわい……【運命の女神の導き】よ!この海底にあるはずの幽船の御霊をさがせ!」


 そう指輪に語りかけると指輪が光りソアレ達を探した時のように小さな女の子が現れ、今回は紙飛行機は飛ばさず歩いてその場に向かった。


 その場所はちょうどこのドームの中心でそこにかがみその場所を指さしたので、ルディールは指輪の女の子に近づき頭を撫でてやると少し喜び消えていった。


(距離があると紙飛行機で近いと歩くんじゃな、それは良いがこの下を指さしておったからのう……砂の中なんじゃろな)


 どうやって掘り出すかを考えていると、別々に探していた皆が先ほどの光る女の子が気になったようでルディールの居る場所に集まってきた。


「……ルディールさん、先ほどの女の子は?」


「簡単に言えばわらわの探索魔法じゃな、お主達が行方不明になった時も今の方法で見つけたんじゃぞ」


「……その節もありがとうございました」


「探知魔法って事は何かあったのか?」


 ルディールとソアレの会話を聞いたダッチマン船長が魔法の事について訊ねたのでルディールは簡単に説明し足下を指さした。


「この真下にあるみたいなんじゃが、わらわの魔法で少し掘ってみてよいか?」


「ああ、俺じゃどうしようも無いからな、嬢ちゃん任せたぞ!」


 頷き重力制御の魔法で足下の砂を軽くすると同時に風の魔法を発動し少しずつ砂をよけその場所を掘っていた。


「……私も手伝います、風よ流れよ、ウインド・サイクロン!」


 ソアレも魔法を唱え足下にある何かを掘り出す手伝いをし、二人でしばらくの間、砂を移動させた。



 それから砂や沈殿物を動かしているとようやく探していた物の全貌が見えてきた。


 ルディール達は不思議そうな顔で声にした。


「ん?かなり大きいし横になっておるが船?じゃよな?」


「ダッチマン船長の船とは形が少し違いますわね?」


「嬢ちゃん、悪いが浮かせて起こせるか?」


 ルディールは頷き先ほどの重力魔法を船にかけ、倒れていた船体を起こし積もっていた砂を風の魔法で飛ばした。


「……大きいですね、船長の船の倍ぐらいありますね」


 ダッチマン船長はまだ船の中には入ろうとせず船の周りを回ったり触ったりしていた。


「何かわかったのか?」


 そう聞くと船長は頷き答えてくれた。


「パッと見た感じだと大昔の船だな、二百年とかはざらに経ってるな……今の船とは作りが根本的に違うからわかりやすいんだ」


「なるほどのう、海底に埋まっていたから腐らずに残っておったんじゃろうか?」


「そうかも知れんが解んねーな、とりあえず中に入ってみるか、嬢ちゃん度々すまねーが上までたのむわ」


「うむ、任せておくのじゃ」


 そう言って皆を浮かび上がらせデッキに運んだ。


 デッキに上がると船自体に傷みはあったが大きな破損も無く比較的きれいだった。そしてデッキを簡単に調べてからルディールは纏まって船内に入って行った。


 船内はまだ多少の砂は残っていたがまだ綺麗で当時の姿を残しているようだった。


「なんか変な船だな……時間が止まってるみたいだな」


 ダッチマン船長がそういって壁にめをやるとそこには大昔の地図などが貼られていた。


「そこに埋もれていたからと言っても物持ちがいいのう……ソアレの魔眼でみたらどんな感じなのじゃ?」


「……はい、かなり魔力というか魔素が濃いですが、特に変わった所は無いですね……」


「ここまで綺麗ですとこの船の乗り組員ぐらいいても良さそうですが、何もありませんわね」


「ここまで静かじゃと逆に不気味じゃのう……」


 話しつつ他の部屋もくまなく探したが、古い食器などが出てきただけで残す部屋は一つだけとなった。


 そしてその部屋を開けると一人の白骨死体が何かを大事に抱える様に眠っていた。


「ん?この仏さまが大事そうに抱えているのはなんじゃ?」


「球体ですわね……この色、最近何処かでみましたわね」


 スナップがそういうとダッチマン船長がこの色は海上都市やバルバス船長が消えた時の色だと教えてくれた。


「て事はこれが幽船の御霊か?」


 ダッチマン船長の顔は喜びであふれていたが、その光る球にはまだ手を出さなかった。


「その球に飛びつくかと思ったが船長は冷静じゃな」


「海で生きてるとな、触ったりしたら危ない生き物が多いからな変な癖が付いてるんだ」


 ルディールとダッチマン船長が話をしているとソアレが部屋の中を漁り一冊の古い日記を見つけ開いて中を確認していた。


「……駄目ですね、文字が古いのもありますが暗号のような物で書かれていて読めません」


「ちょっと、貸してみろ」


 ダッチマン船長がそう言ってソアレから日記を渡してもらい読んだが、その内容はやはり分からなかった。


「ある程度しか読めん……日付はやはり二百年ぐらい前だがな」


 そして次はルディールが受け取り確認すると【知恵と知識の指輪】のおかげでやはり内容が理解出来き、少し困った事が書いてあった。


「どうだ嬢ちゃん?読めるか?」


「……うむ、航海に出てからの内容とここに落ちてからの内容なんじゃが……」


「前の時もそうでしたからどうして読めるかは聞きませんが、浮かない顔をされてどうしましたの?」


「ダッチマン船長、良い報告と悪い報告どっちが聞きたい?」


「そりゃ先に良い方だろ、良いことを溜めておけば悪い事に耐えられるからな」


「なるほどのう、その仏さんが持ってる丸いのは幽船の御霊で間違いないのう」


 ルディールのその言葉に皆は驚き喜んだが、悪い方の報告が気になりすぐに落ち着いた。


「で?嬢ちゃん……悪い方は?」


 ルディールは仮説も踏まえて悪い報告を話し始めた。


「もうすぐ大渦がしまるのと、この幽船の御霊をこの仏さんから離すと海上都市が消えるのじゃ」


 日記にはここに落ちて来て幽船の御霊をこの白骨死体が見つけ、船員が一人一人と死んでいき、さびしさで死んだ仲間に会いたいのと楽しかった時の事を願い、それを形にする事が出来る物だと書いてありその事を説明した。


「えっと、この人に触れてその願いを叶えているから海上都市とバルバス船長達が出現してるんですの?」


「そういう事じゃな。大渦が出来る前に海上都市が作られるのも、その溜まった魔力を使って海上都市を出現させておるんじゃろうな」


「……そうなるとこの人から取り上げると二度と海上都市は出ないと言う事ですね」


「そういう事じゃな……この幽船の御霊はダッチマン船長が求めた物じゃ、大渦が閉まるまでは少し時間があるからのうゆっくり考えるとええわい」


「ああ、嬢ちゃんありがとよ……」


 ダッチマン船長はその白骨死体に話しかけるようにあぐらをかいて座った。


 その間にルディールは先ほどの日記をまた読み始めた。


「……残りは何と書かれているんですか?」


「大渦が閉じても狭くはなるがこのドームは残ると書いてあるのと、あとこの場所は渦の加減で物が流れ着きやすいとも書いてあるのう」


「バルバス船長達とは違うアンデッドの事は何か書かれて無いんですの?」


 ページをめくりルディールは調べたが特にそのような事は書かれてなかった。


「じゃが、あのでっかいクラゲはヒュプノバオナスで間違いないようじゃなこの日記が書かれた頃は生きていてこの周辺でよく見かけたと書いてあるのじゃ」


「……これ以上はもうあのアンデッドに対しては分かりませんね」


 ルディールもそれ以上は分からなかったので頷き、皆でダッチマン船長の選択を待った。


 長いようで短い時間が経ちダッチマン船長は立ち上がり、ルディール達に幽船の御霊をどうするかを伝えた。


「よし!俺は海賊だから!奪って帰るわ!」


「うむ。船長がそう決めたならそれでいいじゃろ、じゃが理由を聞いてもよいか?」


「全然いいぞ。どんな奴でも死んだ奴はそこで終わりそれ以上先があっちゃーだめだろ。それにどんな理由があっても海賊が目の前に求めていた宝があったら手に入れないと海賊じゃねーだろ?俺は海賊だからな」


「それはそうじゃのう」


 ルディール達はそれ以上は聞かず、ダッチマン船長は目の前の白骨死体が大事そうに抱える幽船の御霊を奪い取った。


 白骨死体から手が離れるとダッチマン船長に礼を言うように静かに崩れて砂になった。


「……さてと後は無事に帰るだけだな」


 そう言って静かに船から下りて自分の船に戻った、ダッチマン船長は空元気のようにも見えたが、船員達に幽船の御霊を手に入れた事を伝え大いに喜び合った。


 ひとしきり喜んだ後にルディールが上を見上げドームが少し狭まってきたので大渦がそろそろ閉じると伝えた。


「船長、そろそろ大渦が閉じるから海上に向かうのじゃ」


「そうだな、お宝も手に入れたしこれ以上ここに居る理由はないな……嬢ちゃんに上まで運んで貰わねーと駄目だから任せた、上の渦に引っかけてくれても良いけどな」


「頑張って海上まで運んでやるわい」


 船の外にだけルディールが残り、指輪の力を解放させ背中に六枚の翼を出現させてから重力魔法を唱え、船を軽くしてから船の下へ潜りゆっくりと船を持ち上げて上昇していった。


「そこそこ重いが指輪の力を解放しておる分、さっきよりは楽じゃな」


「船を持ち上げる時点で楽とかそういう話ではございませんわ」


 と、スナップもスプリガンの時の様に宙を飛びルディールと同じように船底を支え上へと向かった。


「船を持ち上げるとか人生でそうそう経験できるものではないのう」


「出来る事ならしたくありませんわ、と言うか今襲われたら大変所の話ではないですわね」


「……スナップよ、知っておるか?そういうのはフラグと言うのじゃぞ?」


「何がですの?グレネードの事ですの?」


 スナップが頭を傾げた瞬間に大渦が割れきた時と同じようにヒュプノバオナスが姿を現した。


「さすがに!今の状況では戦えぬ!スナップよ船に戻って皆に衝撃に備えよと伝えるのじゃ!」


「分かりましたわ!」


 スナップは全速で飛ばし船内に戻り船長やソアレに伝えた。ルディールも魔力を全開にして出力をあげ一気に海上に出て少し乱暴に船を降ろし、ヒュプノバオナスとの戦闘に備える為に船長とソアレとスナップと合流した。


 そしてちょうど大渦も小さくなっていき、ヒュプノバオナスが姿を現し二度目の戦闘が始まった。

早いものでもう54話……飽き性なのによく続いてるなと自分を褒めつつ読んでくれてる皆様ありがとうございます。


次回の投稿は明日か遅くても明後日になります。

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