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第40話 空の切れ目

 ミーナとバルケはスナップの量産型にあたる妹のスイベルに案内され、近代的な造りの応接室でくつろいでいた。


「えっと貴方がスイベルさんですよね?他の妹さんの名前は?」


「いえ、わたくし達全員がスイベルです。見た目も思考も全て共有していますので、全員で八体いますが一人と思って大丈夫です」


「ややこしくてよく分からんが、八つ子みたいなものか?」


「全然違いますがそれでいいですよ」


「なんか、あれだなスナッポンと比べてアホっぽくないからしっかりしてる感じだな」


「バルケさん、女性にアホとか言ったら駄目ですよ!」


 その頃、ルディールはスナップと一緒に大賢者ノイマンが眠る、エアエデンの一角の小さな墓に来ていた。


 そこでルディールは目を瞑り静かに手を合わせて少し時間がたつとスナップが少し笑いながら話しかけてきた。


「ふふっ。お父様は何か言っていましたか?」


「ん?そうじゃな~。娘が初めて友人を連れてきたから写真撮ろう!と言っておったぞ」


「……本当にそう言ってる気しかしないので、否定出来ませんわ…それと少し聞きたいのですがよろしいでしょうか?」


「ん?なんじゃ?」


 それからスナップは少し息を飲み、意を決してルディールに質問した。


「ルディール様はもしかして、お父様と同じ世界から来られたのですか?」


 その質問にルディールは驚きもせず空の切れ目をみながら答えた。


「いや、同じでは無いのう。異世界人という所は同じじゃがのう」


「お父様とは別の異世界の人と言う事ですの?」


「うむ、一つ別の世界を経由しておるがのう。大賢者ノイマンの元いた世界ほどは科学力は無かったし、この世界の様に魔法も無い所じゃったな」


 そう話しルディールはスナップの方を向いて質問した。


「どこでわらわが異世界から来たと思ったんじゃ?」


「この辺りまで人が来た事が無いはずなのに成層圏と言って通じましたし、あとガス欠と言っていましたからですわ。でも雰囲気というかそういうのがお父様に似ていたからですわ。それはミーナ様やバルケ様は持っておられませんわ」


 なるほどのう…と呟きルディールはエアエデンから空を眺めていたが、その瞳はこの世界を映してはいなかった、その姿が自分の父親の姿にとても似ていたのでスナップは心配になった。


「ルディール様は元の世界に帰りたいと思いますか?お父様は帰りたいとおっしゃっていましたわ」


「いつかは帰らねばとは思うがのう、この力もまがい物の様なものじゃしな。この世界に居着いて良いのか?とは思うのう」


 まだ空の向こうを見ながらルディールはスナップにそう語った。


「まがい物でもその力を間違えずに使えるならそれは本人の力だよ、とお父様が言っておりましたわ」


 わらわは賢くはないのでな難しいものじゃ、と言ってスナップの方に振り返った。


「燃やした禁書の話ではございませんがあれはこの世界の力ですが、あの力はどういう経緯があれど正しいとは思いませんわ」


「まだ帰る方法も見つかってないからのう、この世界を満喫しながらゆっくり探すとするのじゃ」


 そのルディールの表情が自分の父親に似てたのでスナップは完成されたエアエデンの全てのエネルギーを使えばもしかしたら帰れるかも知れないと言う事を伝えなかった。


「それが良いと思いますわ、お父様は人が苦手でここに引きこもっていましたが、たまに転移魔法で色々連れて行ってくれましたが美しい所ばかりですわ」


 今度は海にでも行くかと言ってもう一度、ノイマンの墓の方を向くと墓の隅に一匹のフクロウの絵が描いてあった。


「この世界でも知恵の象徴はフクロウなんじゃな」


「いえ、お父様がこの世界に飛ばされて来た時に、一匹のフクロウに案内されて来たと良くおっしゃっていてよくその絵を描いていたので、わたくしがフクロウを好きなのかと思ってかってに描いただけですわ。ルディール様がお持ちのお父様の日記にも描いてあったはずですわ」


 とスナップが教えてくれたので、ルディールはアイテムバッグから日記をだしそのページを開いて見ると、確かにフクロウの絵が描かれていた。


 (…気のせいかもしれんが、知恵と知識の指輪の持ち主じゃったボスモンスターにかなり似ておるのう、あやつもフクロウじゃったしな、偶然か?にしては似ておるのう…)


 ルディールがそのフクロウの絵を見て深く考え込んでいるとスナップが心配して声をかけて来た。


「ルディール様、難しい顔をされていますがどうかされましたか?」


 その言葉にフクロウの事は一旦置いておき、気持ちを切り替えた。


「うむ、上手い絵じゃなと思ってな」


「確かに上手いとは思いますが、独創性ならルディール様がお描きになられた猫に負けますわ」

 

 その言葉にルディールは驚き見ていたのか?と聞くと、バッチリですわとスナップが答えて少し二人で笑い合った。


「スナップよ、エアエデンは完成したし、お主はこれからどうするのじゃ?」


 ルディールのその問いかけに癖の様なしぐさで顎に手を添えすこし考え答えた。


「エアエデンが完成したので特に出来る事はないんですが、前と同じようにお庭の手入れなどですわね」


 そうスナップが答えたので、ルディールは手を差し伸べ言った。


「ならば、わらわと一緒に来ぬか?」


 その予想外の事に少し驚き少し悩んだが、その事はスナップもルディール達と一緒に戦ったりしている間に考えていた事だった、それにこの角の生えた迷子の少女を放って置く事などできなかった。


「わかりましたわ、わたくしスナップ・ノイマンはこれよりルディール・ル・オントのメイドとなりましょう。ご主人様とお呼びしましょうか?」


「やめてくれ、わらわが来いと言ったのじゃルディールで良いわい」


「あら、残念ですわ。ではルディール様これからよろしくお願いしますわ」


「様もいらないんじゃがな…言っても聞かなさそうじゃしな、よろしく頼むのじゃ」


 こうしてスナップはルディールのメイドとなりリベット村のルディールの家で一緒に住む事になった。


「では、わたくしは準備して数時間ほどアップデートかけますわ!」


 なぜか嬉しそうに一人走っていきその姿をゆっくり歩きながら追いかけて行くと、ふと背中に人の気配を感じ、ルディールが振り返ると一人の男が墓の横に立ってこちらをみて穏やかに笑っていた。


 ルディールがその男と目が合うと優しい顔の唇が動き一つのメッセージを残して消えていった。


「娘をよろしくお願いしますか、お嫁に来るわけではないんじゃがな」


 そう言ってルディールは墓に向かって大きく頭をさげて走ってスナップを追いかけた。




「分かりました、姉をよろしくお願いします」


 ルディールが事情を応接室で待つミーナ達に説明すると皆は素直に喜んでいた。


「お主は姉が出て行っても大丈夫なのか?」


「ええ大丈夫です。わたくしはエアエデンにいたいですし、ルディール様の家にはここから転移する装置を設置させて頂く予定なので何かあればすぐに対応出来るようにしますので」


「了解した。」


「それと遅くなりましたが、私を助けて頂いてありがとうございました」


「うむ、どういたしましてじゃな」


 と話しているとバルケがあのちんちくりん何処行った?と聞いてきたのでスイベルがわかりやすく言えば体を作り替えるのに数時間寝てますと答え、その手にペンのようなマジックのような物を持ってバルケに渡した。


「お前さん、なかなか話が分かるじゃねーか」


「メイドですから」


 ルディールとミーナが止めようとした時にはすでに遅く、バルケとスイベルは消えていた。


「絶対に後で喧嘩になるのう」


「そうだよね…」


 と二人で話していると先ほど見た目は同じだがスイベルがやって来て会話にまざってきた。


「いえ、バルケ様の絵心なら喧嘩にならない可能性もあります、今部屋に到着しました」


 そういって感覚を共有しているスイベルがバルケのやってる事を口頭で伝え生中継しだした…


 その内容をルディールとミーナは聞き絶対に喧嘩になる事を確信してから数時間後の事。


 青筋を立てたスナップと笑いすぎて涙を拭いているバルケがエアエデンの庭で対峙していた


「ロリケ様は死にたいようですわね!」


「死んだら来世は画家だな…ぶふっ」


 戦いの火蓋は切って落とされたが、ルディールとミーナは後でスイベルにどっちが勝ったか聞いたらいいかと言う話になり、室内に戻りスイベルに案内され寝室に向かい明日も早いのでそのまま布団に入った。


「こうあれじゃな、中途半端に絵が上手いと笑うに笑えんな」


「それ、私も思った!もう明日帰るんだね」


「わらわの転移魔法もあるし、スイベルが転移装置を置くと言っておったからいつでも来られるぞ」


 そうなんだ、じゃあまたこようね。と言って照明を落としてもらってルディール達は二人の戦闘音を聞きながら眠りについた。




 翌朝、起きるとまたバルケが頭から流血していて、スナップがかなりのご機嫌だったのでスイベルに詳しく聞くと、戦闘はほぼ互角で数時間ほど続き、スナップがミスをしてバルケの剣がスカートを裂き、下着が見えた事でバルケが動揺してその隙を突かれ決着したとの事。


 その話を聞いたルディールがバルケに近づき肩に手を置き回復魔法をかけ一言訪ねた。


「ロリハルコンの大剣は良く切れたか?」


 その一言にバルケは頭を抱え床をゴロゴロと転げまわったが大声をあげ反論した。


「だがスナッポンは俺より年上だからロリババァだろ!だからお…ごふっ!」


 バルケが言い終わる前にスナップのロケットパンチが顔面に直撃し気を失った。


 気を失ったバルケが意識を取り戻すまでに帰る準備をして、庭園にでて空からローレット大陸を見下ろした。


「あそこの三日月の様な形に抉れている所が魔神との戦闘があった場所ですわ、エアエデンからでも確認できましたわ」


 その横にぽつんと見えるのが灯台の街だなと、と起きてきたバルケが教えてくれた。


「あら、バルコン様起きましたか?」


「バルケだ!ロリコンと混ぜんな!」


 いえ、オリハルコンのコンですわ、一言もロリコンとは言っていませんのであしからずと言ってスナップがバルケをからかっていた。


 そんな二人を放置してルディールとミーナはこの世界の人間が見たこと無い世界の景色を楽しんでいた。


 


「そうだ、ルー坊、消えてないライフイーターの亜種の死骸貰っていいか?」


「構わんが何に使うんじゃ?」


「どういう経緯で進化したか分からねーが、山のような高い所にいる可能性もあるからな、標高の高い山で見つけたって言ってギルドに報告しとくわ」


「うむ、構わんぞ。流石に空中庭園に行ったと言っても信じてもらえんじゃろうしな」


 そう言ってバルケはスナップ達が片付けたライフイーターの亜種の死骸や魔石を自分のアイテムバッグの中に直した。


 それをルディールが眺めていると急にミーナが叫び頭を抱えた。


「どうしよう…宿題やってない…」


「びっくりするでは無いか…どういう宿題だったんじゃ?」


「次の授業で使う魔物の素材の提出だったよ、買ってもいいし自分で倒しても良いって言ってた」


「それこそ、ライフイーターの亜種の魔石2~3個持っていけばええじゃろ、お主も倒しておるしのう」


 あっそうだったと言ってミーナも自分のアイテムバックに魔石を入れ、この事が学校で問題になったのは別の話である。


「よし、では帰るかのう、せっかくじゃしスカイダイビングとかしたいのう」


「なんか分からんけどそれ面白そうだな!」


「危なく無いならそれでも良いけど危なくないよね?ルーちゃんいるし大丈夫かな?」


 任せておけ!といいスナップに頼んでエアエデンを中央都市の真上までいってもらい着地地点を中央都市付近に決めた。


「ごめん!ルーちゃん!嫌な予感しかしないから転移魔法で帰ろう!」


「ミーナちゃん悪い予感ってのは当たるって言わなかったか?」


「ではな、スイベルよまた近い内に会おう!」


 そう言ってルディールが空に飛び込み、バルケも続き、ミーナをシャドーステッチの命綱で空に引きずりこんだ。


「いーーやーーーーー!」


「では、スイベル。エアエデンは任せましたわ」


「ええ、姉さんもお気をつけて」


 そう短く会話をして小さく手を振るスイベルを後にスナップも空に身を委ねルディール達の後を追った。



 ミーナの絶叫が響き渡る空を飛びながらルディール達は無事に? 中央都市から少し離れた場所に四人は着陸した。それから中央都市の倉庫に飛ぶと流石にミーナがダウンした。


「ルーちゃんごめん、もう無理」


「お主の部屋に送ってやるわい。ではバルケよここでお別れじゃ」


「おう、面白かったな!またどこか冒険しようぜ!ミーナちゃんもスナッポンもまたな!」


 そう言ってバルケは中央都市の倉庫から出て人混みに消えていきルディール達も転移魔法で魔法学校寮のミーナの部屋に飛んだ。


「ミーナよ、大丈夫か?調子に乗ってすまんかった」


「ちょっと酔ったみたいだから大丈夫だよ、またどこか行く時は声かけてね」


「うむ了解じゃ、ではな」


「うん、スナップさんもお元気で、リベット村は良い所だよ」


「ええ、わたくしの第二のふるさとになるように頑張りますわ」


 ミーナとも別れ、ルディールはリベット村の自宅に転移魔法で飛び、まだ仕事に行ってなかったコボルト達とデスコックと食竜植物を呼びスナップを紹介した。


 先輩方、ご指導ご鞭撻のほどお願いしますわと言って顔合わせをして余っている部屋の一つをスナップの部屋にしてもう一つにエアエデンからの転移装置の置き場にした。


 転移装置を起動すると即座にスイベルがやって来てスナップに呆れられていた。


「先ほど別れたばかりなのにどうしてくるんですの?」


「私も大地を満喫したいので、度々遊びに来ますのでよろしくお願いします」


 休憩でデスコックに簡単に作れるおやつを作ってもらいスナップに紅茶をいれて貰っている間にルディールは新聞を取りにポストに行くとイオード商会からの連絡と号外が届いていた。


 イオード商会の連絡は空中庭園が再浮上したので一度連絡くださいとの事だった。


「号外の方はなんじゃ?なになに?空中庭園再浮上で冒険者ギルドが即座に最新の飛空挺で追いかけたが限界を超え、メインブースターが壊れ海上に落ち水没…」


 死者が出なかったのが幸いじゃなと、号外を閉じ少し賑やかになった食卓を見て微笑んだ。

これで二章は終了です。


次回から三章に入ります、23か24の朝になると思いますので投稿し出したらまたよろしくお願いします。

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[一言] 伏線を回収したので★5(ACの新作を待ち続ける難民感
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