第38話 激闘の後
ライフイーター亜種に寄生されたスプリガンとの空中戦が終わり、マジカルハンドでスプリガンが落下しないように掴み空を飛び、ルディールとスナップはミーナとバルケが待つ空中庭園に向かった。
空中庭園に戻ると、待っていたミーナが走ってきてすぐルディールの怪我の様子を確認しにきた。
「ルーちゃん!ここからでも見えるぐらいの大爆発だったけど大丈夫だったの!?」
「うむ、大丈夫じゃ!軽く死にかけただけじゃ」
「そっそれって大丈夫とはいわ…」
ミーナはその言葉を言い終える前に、泣き出し、ルディールが頭をなでしばらく慰めた。
ミーナが泣き止み、落ち着くとルディールは三人に礼を言い頭を下げた。
「バルケ、スナップ、ミーナありがとう。本当に助かった」
「おう、気にすんな!お前にはでかい借りもあるしな、一緒に酒飲む奴がいねーとな」
「わたくしもお気になさらずですわ、ライフイーターの亜種を倒すのに協力関係ですし、お父様の遺言もありますし、妹達を救ってもらった恩もありますわ」
「わっわたしは見てただけだから、一応魔法は撃ったけど届かなかった…」
ミーナの話を聞いて三人は笑ったが、三人の意見は同じでミーナを褒めた。
「何を言うておるか、一番活躍したのはお主じゃぞ?」
ルディールのその言葉の意味が分からずに聞き返した。
「えっ?なんで?スナップさんにルーちゃんからもらったハイポーション持っていってもらっただけだよ?」
「だけ、と言いますが、あのポーションが無ければ確実に全滅してましたわよ?わたくしではどう足掻いてもスプリガンには勝てませんわ」
バルケもうんうんと頷き自分の意見を述べた。
「あのハイポーションが無かったら俺もルー坊の魔法が間に合わなかったから確実に死んでたな。流石に空に投げ出されたら何も出来ねーわ」
「お主は自分の出来る範囲で精一杯やった結果じゃ。本当に助かったぞ」
「そっそれなら良かったんだけど」
皆に褒められミーナはかなり照れていた。
「その考えだとルー坊は油断して死にかけたから戦犯か?」
「…ぐふっ、バルケが怪我人に優しくない!」
お前もう怪我してねーだろと突っ込まれ周りを和ませ、ルディール達はその光景を見ていた雲巣鳥にも礼を言いに行った。
「鳥よ、お主にも助けられた、ありがとう」
「主に助けられたのは俺だけどな」
「今はPTメンバーなんじゃから似たようなもんじゃろ」
そのやり取りを大型の鳥も見守っており小さく鳴いた。
「む?怪我を治してもらったお礼ですからいいですよじゃと?お主なかなか良い奴じゃな」
そう話すと雲巣鳥は翼を大きく広げ二、三度鳴きルディールに空で見かけても間違えて蹴ったり魔法撃ったりしないでくださいねと、念を押して飛び立っていった。
その姿にバルケが大声で礼をいい、あまりの声の大きさに周りから怒られた。
「さてと、スナップよこのスプリガンはどうするのじゃ?」
ルディールの魔法を受けかなりの損傷を受けたスプリガンを見ながらスナップは答えた。
「そうですわね…このまま置いておいても直りますが、兵器庫の中に戻してあげましょう。あそこがこの子のお家ですわ」
えっ?こんなに壊れているのに直るんですか? とミーナがスナップに聞いたので、その事について簡単に説明した。
「スプリガンにはわたくしの様な感情が無い代わりに、自己再生という機能が付いているので、何処かで壊れても放っておけばその内直りまた動き出しますわ」
「お主のとーちゃん、絶対に人間ぶっ殺すマンじゃろ」
「防衛ですわ、防衛。ここまで破壊されるのはお父様も想定外だと思いますわ、脆くなったとは言え、たかが剣でも切られたのですから」
そう言ってスプリガンを観察するバルケを見た。
「俺の長年の相棒の剣だったんだけどな…最近まで寝てたから鈍ったんだろな…と言うか、こいつやたら固かったが何で出来てんだ?」
「オリハルコンとミスリルの合金ですわ、表面が固いオリハルコンで中がミスリルですわ、中が少し柔らかいので衝撃が逃げるのでダメージが出にくいはずなんですけど…」
「バルケさんよく剣で切れましたね…オリハルコンですよ?学校で習いましたけど硬度だけなら上から三つ目ぐらいの堅さですよ?」
「ミーナちゃんやスナッポンにはわからねーかも知れねーが、斬った訳じゃ無いぞ?アレは断ったんだ」
バルケのその答えに二人は頭にハテナマークを浮かべていた。
「よく分からないと言う事が、よく分かったという顔をしておるのう…」
「えっ?ルーちゃんは分かったの?」
「例えるのが難しいのう…魔法でいうなら何じゃろな?撃つと放つみたいなものかのう…」
「ルー坊、わからん時は素直に分からんって言った方がいいぞ」
バルケのその一言にルディールは完全に理解しておるわ!とムキになっていた。
それからルディールのマジカルハンドで兵器庫までスプリガンを運び配線などは引きちぎられていたが設置できたのでスプリガンを置き、スナップがPCの様な物を操作して休止モードにした。
「これで仮にまだライフイーターの亜種が残っていて寄生されても、もう動く心配はございませんわ」
「そういうのをフラグと言うんじゃぞ?」
ルディールがそう言うと、何故かスプリガンが一瞬動き割れたメインカメラが光った。
「あっ、焦りましたわ…心臓にわるいですわ…」
「お主、そもそも心臓あるのか?心臓に毛の生えた大公爵娘ならしっておるが…」
「ルーちゃん、それ誰かすぐにわかるからね…」
などと話し周りを確認したが、ライフイーターの亜種の姿はなくどうして動いたかは謎だった。
「もう本当にライフイーターの亜種はおらぬようじゃし、動力炉に向かうのじゃ」
「ええ、動力炉に行けば制御もできますわ」
スナップが前を歩き、この世界の建物の作りとは全く違う通路を歩き四人は動力炉へ向かった。
動力炉は大きな水晶の様な物にたくさんのパイプや配線が所狭しとくっついておりその中央には拳より少し小さな赤く光る石があった。
「少しお待ちくださいですわ、空中庭園の状況を確認いたしますので」
そう言ってスナップは動力炉の近くにあったキーボードの様な物にさわり現在の状況を確認し、それから少し悲しそうな顔をして現状を皆に伝えた。
「もう、ライフイーターの亜種にエネルギーを吸われていまして、ここより上空には行く事は不可能ですわ」
どうにもならんのか? とルディールが聞くと少しなら上昇は出来ますがそれでもうエネルギーを使い切ると教えてくれた。
「後、出来る事は制御して海に沈めるのが一番ですわ…ルディール様が言うようにこの空中庭園の技術はまだこの世界の人々には早いと思いますわ」
「この空中庭園は何をエネルギーとして浮いておるんじゃ?」
「簡単に言えば大気中の魔力というか魔素を取り込んで、その動力炉の中心にある賢者の石で増幅させてエネルギーに変えて飛んでいますわ、その賢者の石がもう限界なんですわ」
「賢者の石のう…バルケよ賢者の石とは何処で手に入るんじゃ?」
「それが全く分からねー石なんだ賢者の石ってのは。人が住めないような劣悪な環境でもみつかるし、畑から出た事もあるんだ。そこにあったのか出てくるのかもわからねー謎の石なんだ」
「どうやってそんなの見つけるんじゃ?」
「探して見つかる物じゃねーな…賢者の石が一つあったらエリクサーも何個か出来るし、オリハルコンを精製して神鉄も出来るって言うしな…」
「なるほどのう…お手上げじゃな」
と考えて凹んでいるとミーナがそういう少し変わったのってルーちゃんがよく持ってるよねと言ってきた。
「ルーちゃん、のの箱とか竜鱗華草とか変わったの持ってたから……」
「さすがのわらわも賢者の石など……賢者の……賢者……」
そう言って考えながら自分のアイテムバッグの中をゴソゴソと探し始めた。
「……もしかしてこれ使えぬか?」
「えっ持ってるんですの!?」
「名前は賢者の緋石という物なんじゃが、似てはおるがどうかは分からん」
そのアイテムはルディール達、高ランクプレイヤーが一つの職を極めた時に使用してジョブチェンジに使うアイテムだった。職業を変える為に使うアイテムなのにボスレアドロップという仕様だったのでゲーム中では高値で取引される超レアアイテムだった。
「ルディール様、その賢者の緋石をお借りしても?」
ルディールはスナップに賢者の緋石を渡した、それを受け取りスナップがスキャンすると徐々に驚愕の表情に変わっていった。
「こっこれは賢者の石に似ていますが、少し違いますわ……」
「どう違うんじゃ?」
「わかりやすく言えば純度の桁が違いますわ、賢者の石の完成形といった所ですわ」
「お前なんつーもんを鞄にいれて忘れてるんだよ……賢者の石が出たってだけで国が動く事もあるんだぞ?」
「ルーちゃん、そうだよ、大事な物は覚えておかないと駄目だよ!」
「なんでわらわが、責められておるんじゃ!その賢者の緋石は使えるのか?」
「ええ、というかこれでこのエアエデンは完成しますわ、賢者の石では出力が足りていませんでしたから」
それからスナップは大きく頭をさげルディールに悲願した。
「ルディール様!お願いがございます!この石を賢者の緋石を譲ってくださいませ!」
ルディールは渡すつもりだったが、その必死さが少し気になり問うた。
「何に使うつもりじゃ?正直に答えい」
それからスナップは少し考えてからルディールを目に捉え嘘偽りなく答えた
「このエアエデンの完成はお父様の夢、いえ私たちノイマンの悲願ですわ!」
「なるほどのう」
ルディールは考える間もなく、わかった好きに使えと言ってスナップに賢者の緋石を簡単にあげた。
「えっえっええ?たっ確かに、譲ってくださいとは言いましたがこのように簡単にもらってよろしかったんですの?悪用したらどうするおつもりで?」
「その時はリクエストでローレット王国の貴族と神官を潰してから頼むぞ、友人や顔見知りを避難させるぐらいは余裕でできるからのう」
ルディールがそう言うとバルケがそれいいな、完成したら試しにやろうぜ!と言ってミーナがバルケさん駄目ですよ!ルーちゃんがノリノリになると本当にやりますよ!と怒って止めていた。
「ですが、本当によろしいんですの?バルケ様もミーナ様もですが…」
「人の持ち物に他人が口出すもんじゃねーしな、ルー坊がいいって言うんだからいいんじゃねーのか?忘れてたぐらいだしな」
「私も忘れてたぐらいだからいいと思いますよ」
「お主ら、しつこいぞ!というかスナップよ、わらわがそれを渡さんかったらどうするつもりじゃたんじゃ?」
「そうですわね…このままこの島と一緒に海の底まで行こうと考えておりましたわ」
ルディールが奪うことは考えておらんのじゃなと聞くと、出力の上がったスプリガンをあそこまで破壊できる人と戦おう等とは普通は考えませんわと言っていた。
「じゃが一つだけ条件と言うか頼みがあるが良いか?」
「ええ、わたくしに出来る事なら全てを捧げますわ」
「もう海に沈む事はないんじゃ、書庫にあったこの世界の禁書は全て燃やさせてもらうがよいな?」
「だよな…あんなの置いておくもんじゃねーもんな」
「ええ、分かりましたわ。もし必要であれば内容はわたくしが全て覚えておりますから、禁書の使用者がいて対策をとりたい場合はお聞きくださいませ」
「スナッポンって話し方とかアホっぽいのに賢いんだな」
と余計な事を言ったバルケにスナップがこめかみをヒクヒクさせ、ぶっ殺しますわよと言っていた。
「誰かのせいで話はそれましたが、ルディール様の条件は承りましたわ」
そしてルディールにもらった賢者の緋石を大事に持ち、動力炉の中央に行き賢者の石と交換し、先ほどと同じように、キーボードの様な物を操作した。
これで完成ですわ。とスナップが言うと賢者の緋石もそれを取り付けた大きなクリスタルも光りだし空中庭園自体が大きく揺れ出した。
その光が収まると空中庭園の人工物全てに血液が流れるようにエネルギーが走り庭園の側面の土から植物が根を伸ばすように人工物が生えてきて規則的な形になり止まり、ゆっくりとエアエデンを回転させ始めた。
「光や地響きが収まった様じゃがどうなった?」
少しお待ちを、そう言ってスナップがキーボードをさわり現状を確認し伝えてくれた、その表情は誰が見ても分かるぐらいに笑顔だった。
「ええ、成功ですわ。これで空中要塞エアエデンの完成ですわ」
「これで、スナップが『お前達のおかげで我らが悲願は達成された!手始めに貴様達で実験してやろう』とか言いおったら目も当てられんがのう…」
「ルー坊、お前変な特技もってんな~」
「ルーちゃん……スナップさんの声も出せるんだね…」
「ルディール様…恩人にその様な事は言いませんし、わたくしの声に反応する設備もあるので、できればやめて頂けると助かりますわ」
最近、声真似の反応がイマイチじゃ…とルディールは軽く凹み、スナップに完成されたエアエデンを案内してもらった。
兵器庫の前を通ると半壊していたスプリガンや引きちぎられたコードや拘束具が完全修復しておりスプリガンのモノアイがルディールを捉え頭を下げた動きをした。
「スプリガンも自我があるのか?」
「ございませんわ。今は休止モードですから動きませんわよ?」
スナップがそう言ったのでルディールが今動いたぞ?と言ったがミーナにルーちゃんスナップさん怖がらせたら駄目だよと、信じてもらえなかったので諦め兵器庫の中を確認すると機械がせわしく動き何かを作り始めていた。
その事が気になったバルケはスナップに質問した。
「アレは何か作ってんのか?」
「ええ、スプリガン用のサポートですわ、わたくしの妹達の様にスプリガンにも本来はサポートがつきますわ」
「さらに強くなるんじゃな、お主のとーちゃんは絶対に人間ぶっ殺すマンで決定じゃな」
「ルーちゃんじゃないけど、私もそう思ってきたよ」
「ミーナ様まで!?」
完成された兵器庫を後にして、スナップの妹達を入れたポッドを確認しに行くと、まだ目覚めてはなかったが破損した部分は全て修復されていて人と見分けが付かない様になっていた。ここでも何かを作っており確認するとそれはスナップ達が着る服だったので、ルディールはやはり親馬鹿かと心の中で思ってた。
それから外にでると、空中庭園は姿を大きく変えて中央には大きな塔が生えており、人には分からないゆっくりとした速度でまわり緩やかに上昇していた。
皆でその建物を見上げルディールが綺麗な塔じゃなと呟くと、皆は頷きスナップだけが涙を流し頭をさげた。
そしてしばらくその塔を全員で眺めていた。
次回の更新もたぶん明日の朝になると思います。




