第35話 持ち主
「作られただの生まれただのは分かったが、お前を作った奴はどうやってこの浮島に来たんだ」
「バルケよ、まずは聞かぬと質問ばかりしておるとさらに悩むぞ」
「あっすまねぇ、俺でも分かるように順を追って説明してくれ」
「ええ、分かりましたわ」
そう言ってルディール達はスナップの話を聞くに徹し、気になった事は後から聞くように心がけた。
「まずはわたくしのお父様ですが、シャノン・ノイマンといいますわ。ですから娘のわたくしはスナップ・ノイマンと言ってもいいですが、血が繋がってる訳ではないので正確には娘では無いかもしれませんわ。それとこの空中庭園はお父様がお作りになられましたわ」
その名前にルディール達は心当たりがありかなり驚いた。
「おいおい、嘘だろ?シャノン・ノイマンっていや、俺でも知ってるぞ大賢者ノイマンかよ」
「その人知ってる!授業で習った!えっえっでも、大賢者ノイマン様って数百年前の人ですよね?」
ミーナとバルケの驚きようにルディールはまずは聞く事に徹しようと思っておったんじゃがいきなり無理じゃったなと小声で話すと、スナップがクスリと笑いお父様を知っておられる方がいてわたくしは嬉しいですわと返して、気になった事があれば聞いて頂ければその都度説明いたしますわと言ってくれた。
「ですわ、正確にはお父様が人に疲れて空に来て、今で196年と四ヶ月になりますわ」
最近、大公爵とか大賢者とかなんでも大がついておるのうと思っていたら、スナップがお父様が地上にいた時の事を聞かせて欲しいといってきた。
ルディールもよく本を読むので何処かしらにその名前が出ているので、大賢者ノイマンについては人並みには知っていた。
「そうじゃの~有名な所でいえば、現在の飛空挺の元を作ったお人じゃな、あとはホムンクルスやオートマトンも開発しておるのう」
ミーナも魔法学校の授業で習っているようで、習った事を伝えた。
「学校だと授業で習っていて、転移魔法の基礎を作った人って習いましたね。その時は使える人が全然いなくてそんな魔法は無理だ!って言われてたみたいですよ。今は数人ほど使えるみたいですよ」
その後にバルケが、世間のしがらみに疲れて研究だけ残して消えたと話し、どこの時代でもそういうのはあるんだな…と言っていた。
「ええ、そうですわ。わたくしもお父様づてにしか聞いておりませんが、疲れたからここを造ったとおっしゃってましたわ」
ルディールは先ほどからの造ったと言うのが気になったので質問をした。
「作ったとはどういう事じゃ?浮島の上に作ったのか?」
スナップは首を横に振り答えた。
「いいえ違いますわ。このエアエデンいえ、あなた方で言う空中庭園はお父様の創作物ですわ、
他の浮島と比べても目立つのは建物だけだと思いますが、浮いている大地の中に骨組みがあり土や建物を支えて浮いています」
三人はその言葉に息をのんだ。
「嘘だろ?飛空挺を作った人物っていうんなら浮島の上まで来て、家を建てたっていうならまだ分かるが、浮島ごと作っただと?」
「ええ、そうですわ。嘘を言うつもりもございませんが、今だと下から見ると一発で分かる事がありますわ、では問題ですわ何でしょうか?」
スナップの急な質問にバルケとミーナは悩んだが、ルディールは心当たりがありその答えを言った。
「ガス欠じゃな?」
「ええ、正解ですわ。それがこの空中庭園が人工物である証拠ですわ」
「はい!ルーちゃん、ガス欠って何?」
(知恵と知識の指輪で異世界語を翻訳してくれておるが、たま~に通じぬ時があるのう…)
「わらわの国の言葉で燃料切れの事をガス欠と言う事もあるのじゃ、魔力をマナといったりするのと同じようなもんじゃな」
「あっそうなんだ。でも燃料切れはわかったんだけど、どうして下から見たら分かるの?」
ミーナが聞くとバルケが、だからこの浮島だけ高度が下がってきてるのか、と言ったのでミーナもそれでようやく納得した。
「ええ、そういうことですわ、お父様も二百年もすれば落ちるだろうと、おっしゃっていましたわ、軌道は設定されていますからゆっくりと海に落ちて沈んでいくはずですわ」
「なるほどのう、延命する方法はないのか?」
そのルディールのその言葉が意外だったのかスナップは少しキョトンとしてから答えた
「方法はございますが、先ほどのわたくしの頼み事に関係してきますわ、ライフイーターの亜種はこの島の動力炉を巣にしておりますから、それを討伐してからでないと何もできませんわ」
「ふむ、まずはライフイーターの亜種の討伐じゃな、それからの事は後で考えるのじゃ」
「ええ、わたくしもそう思いますわ」
スナップに紅茶をもう一杯入れてもらい、全員で空中庭園の施設が並ぶ所に向かった。
道中で数匹のライフイーターの亜種が出てきたが、それ以外に変わった所もなくどんどん進んでいけたがその事をバルケが気にした。
「う~ん」
「この匂いとか言いおったら怒るぞ?」
「言わねーよ!ルー坊分かってると思うが、何かあるな」
「うむ、明らかに少ないからのう、何処かに誘われておるのう」
「だと思いますわ。わたくしと戦っていた時は、もっと数がいましたしもっと襲いかかってきましたわ」
その言葉通りライフイーターの亜種はほとんど姿をあらわさず、庭を抜け近代的な建物の前でようやくある程度の数が現れたが、そのライフイーターの亜種の中心には数人のスナップによく似たメイドがいた。
その姿はライフイーターの亜種に寄生され額の部分に目がいくつもあったり腕からさらに腕が生えていたりかろうじて人型とは認識できるが異形の姿だった。
その姿にスナップは一瞬目を背け悲しそうにしたが、ルディール達と一緒に戦闘態勢にはいった瞬間に飛びかかってきた。
その速度は思っていたよりかなり高速で、バルケもスナップも反撃に転ずる事ができず防御一色になりルディールも即座にミーナを守りにいき、襲いかかろうとしたメイドもどきを横から蹴飛ばし仕切り直しになった。
「さすがにこれの相手はミーナには無理じゃな…わらわの後ろに隠れておれよ」
「ルーちゃんありがとう、怖かった~」
と話しているとスナップがそのメイドもどきについて説明してくれた。
「本来はわたくしをサポートする量産型ですが、どうしてかわたくし以上の出力がでておりますわ!お気をつけを!」
その言葉に反応するようにまたメイド達が襲いかかってきた。
「まじかよ!この速度でこの重さか!なかなか骨がおれるな!」
バルケはそう叫んだがその顔は笑っており、自分の背丈近くある大剣を手足の様に振るい時に剣の腹で攻撃を流し、剣で切ると見せかけ殴るなどして戦闘に幅を持たせ、二体のメイドを相手に戦っていた。
スナップの方にも二体いたが、バルケの戦い方とは違い時折、甲高い音が流れ服や肉体の部分を硬質化させ相手の攻撃を真正面から受けたり流したりし、肉弾戦やロケットパンチで戦った。
「あれじゃな、どこの世界でも試作機は強いんじゃな…まぁスナップの場合はリアルではなくスーパーじゃな」
とミーナには伝わらない事を言っていたが周りのメイドはバルケ達より多く、六体に囲まれていた。
「…ルーちゃん大丈夫?」
その異形のメイドにミーナは少し怖がっていたが目の前には角の生えた頼りになる友人がいたので恐怖で動けなくなる事は無かった。
「大丈夫は大丈夫なんじゃが、どうやってライフイーターの亜種だけ倒そうかと思ってのう、考え中じゃ」
そう話すとメイド達が一斉に襲いかかってきたが一体は障壁で弾かれ、二体は蹴り飛ばされ残りは魔法で吹き飛ばされた。
その魔法で吹き飛ばしたメイドがダメージを受け寄生されたライフイーターの亜種の魔石の様な物が見えた。
その事が気になったのでスナップに聞こえる様に大きな声をあげ確認をとった。
「スナップよ!お主達の動力源は魔石か!?」
ルディールの質問にメイドの攻撃を受け、少し間を作り答えた。
「いえ!わたくし達に魔石はございませんわ!もうここまで寄生されては破壊する以外方法はないと思われますわ!お気になさらずに破壊してくださいませ!」
その言葉にルディールは少し考え、性格の良いメイドは国の宝じゃぞ?と訳のわからない事をいい自分の影を細い針の様に尖らせ、魔法で吹き飛ばし魔石が露出したメイドの魔石を貫き砕いた。
魔石を砕かれたメイドはライフイーターの亜種の部分だけが消え損傷はかなり激しかったが人型に戻った。
「確認してないからなんとも言えぬが上手くいきそうな感じじゃな」
その事を即座にバルケとスナップに伝え残りの三体を素早く処理した。
「魔石だな、切ってる時に見かけたから場所は分かってる!」
戦っていた二体を柄頭で殴りひるんだ瞬間に魔石を正確に殴り破壊した。
スナップの方も全身を硬質化させ体で受けセンサーで魔石の位置を特定し両手の拳の部分を高速で回転させたロケットパンチを飛ばし正確に破壊した。
その様子を眺めていたルディールに一体のメイドに二匹、寄生されたメイドが襲いかかってきた、ミーナがすぐに気づき水の魔法で上手く撃ち抜き倒した。
「ルーちゃん!大丈夫!」
「二匹も寄生しておったか…油断しておったわいミーナよありがとうなのじゃ」
「いえいえ、どういたしまして。あー役に立ってよかったよ」
「お主はいつも役にたっておるじゃろ…今更なにを言っておるのじゃ」
「えっ?何か役にたったっけ?」
ツッコミ役とルディールに言われひどっ!と返していた、ルディールが二匹の寄生型に気付いていたかどうかは分からないが、この事がミーナの自信に繋がったのは確かだった。
「ルー坊、会って胸ぐらつかんだ時に思った事だが、お前やっぱりくそ強かったんだな…喧嘩うらなくてよかったぜ」
「何を言うておるんじゃ、お主の性格ならそんな事はせんじゃろ?というか良くそのばかでかい剣をそこまで振れるのう」
「…ああ、お前のおかげだなありがとよ」
「うむ、くるしゅうないぞ」
そうやって調子に乗るからさっきのも見逃すんだぞ?と言われ、ほっとけ!と返し気の合う友人と笑い合うように笑っていた。
戦闘が終わりスナップがメイド達の状態を確認していると、先ほどまで大量にいたライフイーターの亜種が一匹残らず居なくなっている事が気になったが、メイド達の状態がわかった事を教えてくれた
「まずはお礼を、ルディール・ル・オント様ありがとうございましたわ、わたくしの妹に当たる量産型は全て無事ですわ、魔力も枯渇していて損傷も激しいですが、もう少し進めば直せる所がありますので修理できますわ」
「別にええわい、お主にここを案内してもらわんと駄目じゃしのう、日当だと思っておけばよいわい、それとフルネームで呼ばなくてよいぞ」
「そうですか、ではルディール様と呼ばせていただきますわ」
それからルディールのマジカルハンドにメイド達を乗せて少し先に進み近代的な建物中に入った。
(う~む、建物の造りがこの世界の物に似ておらんのう…どちらかと言うと元の世界に近いんじゃが、技術が進むと似てくるんじゃろか?)
ルディールは建物の中をキョロキョロと観察していると目的の場所に着いた。その場所はSFの世界で見るような人が丸ごと入るようなガラスのポッドがあった。スナップはその中にメイド達を入れ蓋をした。
「これで大丈夫ですわ、完全に直るほどのエネルギーはもうありませんが、これ以上壊れる事も寄生される事もありませんわ、人の怪我が治るぐらいの速度で緩やかに直り動けるようになったら勝手にでてきますわ」
その話を聞きながらこの場所が気になったようで、バルケもミーナもキョロキョロして辺りを見回していた。
ミーナがポッドに書いてあった記号が気になったので、その事をルディールに訪ねた。
「ルーちゃん、これってなんだろね絵かな?」
「ん?お主は読めぬのか?」
その会話が聞こえたバルケも会話に混ざってきた。
「この辺に書いてある記号は全部この周辺の国々じゃ見かけーな」
「そこの丸いのに書いてあるのは、娘達用回復ポッドと書いてあるのう」
その言葉が聞こえたスナップはとても驚き、ルディールに近づいてきた。
「ルッ、ルディール様、この言葉が読めるんですの?」
次回の更新は速ければ明日で、遅くなったら明後日になると思います。




