第33話 空の浮島
「ミーナよ!空は良いな!次はあの光る雲を突き抜けるぞ!」
そう言ってさらにスピードを上げ、後ろの二人を引っ張りルディールはノリノリだった。
「ルーちゃん!速いし高いからーーー!」
「大丈夫じゃ!この前飛んだ時にコツをつかんだからのう、お主にもらったブレスレットで障壁も張ってあるから、会話も出来るし寒くもないじゃろ!」
ノリノリのルディールは止まらないと知っているミーナはバルケに助けを求めたのだが。
「バルケさん!ルーちゃん止めてください!」
「魔法って便利だよな…ルー坊!もっと速くとべねぇのか?」
「任せるのじゃ!もってくれよ障壁!三倍じゃーー!」
「いーーーーやーーー!やめてーーーー!!」
バルケのせいでさらに悪乗りしてスピードアップし、雲を抜けて飛空挺すら来られない高高度まで飛んできた。
そこは生物の気配すらなくとても静かな所だった。
そこで一度停止して、周りを見渡すと遠くに浮島群が気流にゆっくり流され動いている。
「すぐ見つかるかと思うたが、なかなか無いのう」
先ほどよりゆっくり飛んで空中庭園をさがしていると、バルケから一度そこらの適当な浮島に乗ってから探した方がいいなと提案があったので、ベテランの冒険者の意見を聞いてルディール達は浮島群に向かって飛ぶ。
「よし!最高速にチャレンジするか!」
そう叫んだがミーナが頑張ってルディールを説得した。
「ルーちゃん!いま幸せ?」
「うむ!空を気持ちよく飛んで幸せじゃ!」
「じゃあ!!その幸せが飛んで行かないようにゆっくり飛ぼうね!私もお空を満喫したい!」
その悲鳴に似た訴えにルディールは少し反省しミーナが怖くない程度にゆっくり飛んだ。
「ああ、これぐらいのスピードなら怖くないから気持ちいいかも…というかバルケさん、よく怖くないですね……」
「ん?ああ、若い時に飛空挺にのって音置鳥と空でやり合った事があったんだ、その時に剣が届かないのがまどろこしくってな、飛空挺から飛び乗って首を刎ねた事があったからな~その時に比べたら全然怖くないぞ」
「えっ?倒した後どうしたんですか?」
「俺は頭悪いから、先の事考えて無くてな~そのまま墜落したな!流石に一回目は死んだと思ったな!がはは!」
「お主のそういう剣でなんとかしようという根性は大好きじゃぞ!」
「よせよせ、俺も年取って賢くなったからな、今なら飛び乗って飛空挺に戻ってくるぐらいは出来るぞ!」
「凄いけどそうじゃない、そうじゃないんだよ!一回目って言ったから!何回か落ちてるんですよね!?」
「ミーナちゃんは叔父によく似てるな~この話した時似たような事言ってたぞ」
それから少し飛んで周りの浮島より少し小さな浮島にゆっくりと降りた。
「ルー坊、まだ障壁は取るなよ、後この魔法の糸は命綱だから何処かに入るまでは外さない方が賢明だぞ」
「あっあぶな、言ってくれて助かったわい、空の上じゃと言う事を忘れておったわい」
ミーナが不思議そうな顔をしてなんでと尋ねてきたので試しに障壁を一瞬だけ取ってみると、凄まじい風がルディール達を襲い、体の熱も一瞬で奪っていた。
「こういう事じゃな、地に足が着いておるし障壁を張って忘れておったがここは空じゃからな」
「うわ!さむい!空ってこんなんなんだ…」
バルケが雪が無い高い山でも似たような事になってるから、もし行くならこういう体温が下がらない火守り石を持っていったらいいぞ、と教えてくれてルディールとミーナに一つずつ渡した。
ルディールが礼を言って準備がいいと褒めると、高山とかで長期戦になるとこれが無いと簡単に凍死するから必須だと教えてくれ、簡単な事だが細かな事に注意できるベテランの冒険者だとバルケの評価を上げた。
「生えてる草とかはローレット大陸のじゃねーな、どこのだろ?」
「えっ?草でわかるんですか?」
「名前はしらんが、食いもん無くなった時とか草とかゆでて食ったりするからな、雑草とかにくわしくなるぞ冒険者すると」
「お主、もとAランクじゃろ?草を食べんでもええじゃろに」
そう話すと、今でこそ冒険者は飛空挺で運んでくれたり携帯食料もあったりするが、昔は食料は現地調達が当たり前だったと教えてくれた。
「まぁ、今は今で出来る事が増えたから、出来るのが当たり前と思われて、難易度が高いのもやらされるから若い連中は大変だと思うぞ」
「お主もまだ若いではないか」
「もう今年で35だぞ、おっさんだろ…」
「うむ、そうじゃな」
そこは違うって言えよ!とバルケに突っ込まれ、また少し足下の浮島を観察してから他の浮島に飛んだ。
他の大や小の浮島に渡り浮島群を観察したりしていると、大きな鳥の巣が所々にあり、それを見たバルケが少し驚いていた。
「もしかして、音置鳥の巣か?そうだよな~?ルー坊、これだけでもう帰ってもいいレベルの発見だぞ」
「そうなのか?」
その事を詳しく聞くと、音置鳥という魔物は飛空挺で飛んでいる時はそれなりに見かけるが、何処に巣があってどう繁殖してるかも分からない大型の魔物だと話し、空を回遊してるか他の大陸から飛んで来てると考えられていると教えてくれた。
「じゃあ!ルーちゃん!もう帰ろう!」
「帰る訳ないじゃろ、わらわは空中庭園にお宝をゲットしに行くんじゃ、生物の事は生物学者に任せておけ」
「冒険するのが冒険者だしな!と言うかミーナちゃんどうやって浮島に行った事を説明するんだ?」
「うぐっ…説明できないですね」
「そういうこった」
「しかしどうやってこの島々は浮いておるんじゃろな?浮島にも山があったりするから、大地から浮かびあがったんじゃろうか?」
「たぶんそれであってるぞ、詳しくは忘れたが場所によっては魔石が大量に埋まっててそれが長年かけて変化して何かの拍子に浮遊の魔法を発するようになるんだとよ。何百年単位だから浮き上がる所を見たことはないがな」
「…という事は魔力封じの宝玉で封じたら落とせるんじゃろか?」
「…ルーちゃんの思考が危険すぎる」
「どうだろうな、宝玉は人が作った物だしな~浮島は自然が作ったものだから無理じゃねーか?人は自然には勝てんしな」
それもそうじゃなとバルケの言葉に納得してまた空を飛び探していると、一羽の大型の鳥が三人に襲いかかってきた様に見えたが、ルディールと目が合うと急に方向転換して逃げ出した、が回り込まれた。
「お主、今、襲いかかってきたじゃろ?」
その大型の鳥はルディールがこの世界に来た時とアコットが飛空挺から落下した時にあった鳥と同じ奴で、ルディールの問いに頭を左右に振り、そんな事はないですよ?挨拶しにきただけですよ?と言っている様だった。
なんで鳥のくせに目が悪いんじゃ? と聞くと普通に考えて人が空を度々飛んでると思いませんので…と言っていた。
「そうじゃお主、この辺りの空で建物や人工物ある浮島をしらぬか?」
その鳥は少し考える様な仕草をしてから知ってますよ、今の時間なら雲を抜けたぐらいを浮いてますと教えてくれた。
「ほー、雲巣鳥もこちらの言う事が分かるぐらい賢いんだな」
「いえ、バルケさん、普通に言ってますが鳥と話せるルーちゃんが変ですからね?」
「そうか?剣で相手と斬り合ってると相手の考える事がわかるぞ?似たようなもんだろ、魔法使いも相手の使う魔法とか分かるって言ってたぞ」
「そんな一流の人達の話を一般常識にように言われても困りますよ!私はその辺の村娘ですよ!」
「ミーナちゃんの叔父に聞いたけど魔法学校のAクラスに入ったんだろ?その辺の村娘が入学できる所じゃないけどな」
「なんでこう!私の周りの凄い人って口がまわるの!」
「そりゃ、お主あれじゃろ、力だけじゃどうにもならん事を知っておるからではないか?」
そう言って雲巣鳥と会話? を終えたルディールはその場所に案内してもらえる事になり、雲巣鳥を追いかけて飛んだ。
雲の中を追いかけ浮島群より少し離れた所に目的の空中庭園はあった、そこは確かに他の浮島とは異色で人工的な建物が少し並び、人の気配はなかったが少し前まで手入れがされた形跡があった。
ここまで連れて来てくれた雲巣鳥に礼をいった所で体に傷があったので、回復魔法をかけて治してやりもう一度礼を言ってから別れた。
その姿を眺めていたバルケがルディールに質問をしてきた。
「魔物と話すのってどんな感じなんだ?」
「ん?人間とそんなには変わらんが、本能に忠実なぶん人と話すより楽かもしれんのう、良くも悪くも今の所わかりやすくてええわい」
「なるほどな~命の駆け引きはあるが、めんどくさそうな駆け引きは無さそうだもんな」
「魔物と話せるのが新鮮じゃから、そう思うだけかもしれんがのう」
何があるか分からないので空中庭園の端の方に降り立ち、ルディールが先頭を歩きミーナが真ん中でバルケがしんがりを務めた。
人工物には遠い草原を歩き観察をしていると、ミーナが蝶が飛んでいるのを見つけた。その事で空中庭園全体に薄い膜の様な障壁が張ってあるのがわかり、高高度なのに風が穏やかだった。
「ミーナお手柄じゃ、お主はそういう細かい所に気がつくのう」
「ミーナちゃんは案外、冒険者に向いてるかもしれないな」
「バルケさんとかソアレさんの話を聞いてると、大変な事しかなさそうだから実家の宿を継ぎますよ…」
「冒険者のミーナか~二つ名をつけるなら……【皆殺し】のミーナとかどうじゃ!語呂も良いぞ!」
「なんでそんなに物騒な二つ名なの!」
などと話し飛行用の障壁を外すとそこは空なのに大地と同じような感じだった。ルディールは高山病が気になったので、バルケに聞くとあの気合いで治るヤツか? と話し、話が通じなかったので諦め目的の人工物に向かってまた歩き始めた。
しばらく歩くと草や花とは違う明らかに手入れをされた芝生が生えていた、そこを通り目的の人工物に近づいて行くと、人影の様な物があり、警戒して近づくと女性型の何かが膝をついて倒れており、その姿にバルケが心当たりがあった。
「オートマトンか?にしてはえらい人間に近いな?」
などと話しその動かない物体の関節を確認したり朽ちた服の中を見たりしていた。
「お主が、その人型の体を触っておると、なにか犯罪の匂いがするのう」
「しねーよ! 精巧な人形は爆弾つけて暗殺とかに使用されるから見てんだよ!」
ミーナもルディールの意見に頷きそうになっていたが、バルケの話を聞いてその人形に少し怯えていた。
「服とか少し朽ちてますけど、もう動かないんですか?」
「爆弾とかはねーな、この手の専門じゃねーからむずかしいが、完全には壊れてない感じだな、たぶんだが、何かきっかけがあれば動くぞ。」
なるほどのうとルディールもその人形に近づくと、急に人形の手が動きルディールの手を掴み機械的な声を途切れ途切れで発した。
「…起動に必要な魔力を供給さ…いただいています、ご迷惑…破壊して頂いて結構ですが…で無いなら少し魔力を……」
読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は早ければ明日の朝になりますが、書き貯めが無いので月曜日の朝になると思います。




