第104話 人の都合天使の都合
顔見知りの騎士達が守る会議室の扉を開けてルディールが会議室に入ると、中央には鷲の魔神ヤルトガログの能力で光都アークスライブ周辺の空が映し出されていた。
中にいる者達に挨拶をし映し出された空を見るとそこには数百を超える背に羽を持つ者達が写り争っていた。片方は天使……もう片方はとてもいびつな何かだった。
背に羽は生えてはいるがそれは羽というよりは手に近い様な形をしており、手は細長く人で言う顔にあたる部分には目や鼻と言った物は無くこの世界では例えよう無い姿形をしていた。
その生き物にルディールは少し心辺りがあった。見た目も全く違うが雰囲気というか気配がAIRの世界で見た。生物のなれの果てにとてもよく似ていた。
「……おじいちゃんもこの世界をどうしたいんじゃろな?」
ルディールが呟くとこの天使と戦っている者をよく見ていたローレットの国王がルディールにこれに見覚えはあるのかと質問する。流石に別の世界で似たようなのを見たとは言えるが言った所で信じてもらえる前に混乱するだけだけなので、魔界で似たような者を見た事があるとだけいつもの口調から丁寧な口調にかえてから伝える。
すると……ローレットの国王が答える前にスノーベインの前女王であるミューラッカから待ったがかかった。
「おい。ルディール……なんだその口調は。国王達の前というは分かるが……いつもの話し方に戻せ。正直うっとうしい」
その向かいで座っているアトラカナンタと近くで立っているハンティアルケーツが頷き、困った様にリージュとスティレが苦笑いをしたのでルディールはミューラッカの方を向きどこから取り出したか分からない扇子を手に持った。
「オーホッホッホ!ご機嫌麗しゅうミューラッカ様!ルディール・ル・オントですわ!オーホッホッホ!」
ルディールの高々な笑い声が会議室に響き渡る。ソアレが笑い自身の周りに障壁を張りミューラッカの隣に座るノーティアがヤバいと思った瞬間には会議室は白い光に包まれた……
…
……
…………
会議室の一部が吹き飛び駆けつけた騎士や魔導師達に事情を説明する。幸いな事に防御特化の魔神ハンティアルケーツがいたので怪我人などは一切出ることはなかった。
「腹は立つが……この私が攻撃したとしても無傷な程度にこの馬鹿は強者だ。多少の無礼はあるかも知れぬがその辺りは非常時だと思って目を瞑ってやってほしい」
「流石は……常に非常事態を作り出す女王じゃ!説得力が違う!面構えが違う!心構えが違う!違う違うの三拍子じゃな!」
「……」
もう一度同じ様に会議室に穴が空き似たようなやりとりを繰り返した……
「……ノーティアよ。早く他人を攻撃してはいけないとかそんな感じの法律を作るのじゃ!」
「あはは……作った所でお母様が従ってくれるかどうかは……」
「言う様になったなノーティア。だが正しい。スノーベインは力ある者が法律だ」
どこの無法国家だとその場にいた全員が思ったがそれを言うと話が進まないので色々と諦めてローレットの国王が話を進める。
「ローレット、ウェルデニア、ヘルテンは余裕はないが様子見。スノーベイン、ファボス、フレイエンデは混乱に乗じて両方を叩くという答えをだしている。スティレやソアレに話を振った所、君の意見を聞きたいと言ったので呼ばせてもらった。ルディール君。君はどう思う?」
ローレットの国王がそう言ったのでルディールはジト目で素知らぬ顔で座るスティレとソアレを見るとサッと目を逸らされた。
(ソアレ……お主な)
(ごめんちゃい)
意思疎通と言うわけではないが目でそんな感じのやりとりとした後に小さくため息をついた。まず自分は少し離れていたので現状がほとんど分かっていない事を伝え国内他国を踏まえどうなっているのかを尋ねた。
「ローレットに関しては現状あがっている報告では見たこともない魔物が出現しているという話が多数あるがそこまで大きな混乱は出ていないと言った所だ」
「ウェルデニアもほぼ同じです。森が深すぎるので私達の生活圏に今は何の影響はありません」
ヘルテンもスノーベイン、フレイエンデも似た様に今のところはだが自分達の生活圏に大きな影響は出ていなかった。が、一番影響を受けていたのは魔都ファボスだった。
「魔都というか魔界はガッツリ影響受けてるねー。世界がくっついたんだけど魔界全土を人間界に召喚したって感じだから……世界が広がって魔界が海に囲われてるって感じになってる」
「カナタンよ。その辺りはどうなんじゃ?魔界があった空間とか世界には何もなかった様になっておるのか?ヘルテンから魔都に魔列車とか出ておったじゃろ?」
ルディールがアトラカナンタに訪ねるとヘルテンの国王が魔列車は止めてあるから確認してないなとつぶやきすぐに確認させる様に手配を出した。
「悪いな。話を止めて」
「線路の敷き直しとかなったら大変じゃのう」
「その前に下手したら国がなくなりそうだけどな」
「それは避けた所じゃな」
「それで話を戻すけど魔界があった空間というか世界が一つになってるから言い方はおかしいけど元あった魔界はもうない感じ。ここから転移すると普通にファボスの城にいけるし試してはないけど海を泳いで渡れば魔界に行けると思う」
「という事は天界も同じって感じっぽいのう……わらわは天界には言った事ないが天使と戦ってる連中は天界産とかそう言うのか?」
「私も初見だねー。千年前の戦いでも……あんなの見た事……見たこと?」
そこでアトラカナンタは言うのを止めてもうもう一度観察するように天使と戦っている者達を凝視する。
「何か思い出しのか?」
「うーん……似てると思ってね。女神が大昔に作り出した魔物でも天使でもそれこそ魔神でもない兵器に似てる……でもここまで製錬されたというか決まった形をしてなかった」
「なるほどう……それで?魔界というか他はどんな感じなんじゃ?魔都以外にも魔界には国があったり魔王がいたりするんじゃろ?」
「あはっ。そこは爆笑して良いくらいにはパニクってるから面白いよ。魔都はセルバンティスに頼んですぐに伝えたからそこまで混乱はないけど余所は終わってる。まぁ考えたら面白いけど知らない間に魔界と天界がくっついてる訳で」
「魔界、天界からしたらたまった物ではないのう。と言うかお主は魔王なんじゃからここにおって良いのか?」
「……いや~魔王だけども混乱を望んでる訳じゃないからね~。それに人間に比べて魔都の民も一人一人の戦闘能力はそこそこあるからほっといても大丈夫。どちらかと言えば増援を呼べるぐらいには余裕はあるね」
「めっちゃうさんくさいのう……」
「ひどっ!というかこんな状況で動いて他国を侵略しようって魔王はいないと思う。自分の所で精一杯かな?しばらくの間はだけどね。だから増援にしても私がこっちにいるのもそんなに長くは協力できないよ」
「なるほどのう……どこもそんなに余裕はないじゃろうし早期解決せねば話にならぬか」
「そういうことー」
ミーナの体を借りた事などはソアレから全員に言ってはいけないと伝えてあった為にルディールに伝わっていなかったが……アトラカナンタの雰囲気や気配で何かやったな? と言うのはルディールにはなんとなく分かった。
詳細は分からないし誰も何も言わないのであればそれを聞くタイミングでもないので一旦その事は置いておき天使が戦っている映像に目をやった。
そしてその映された天使の中にはゼストニオンが去る際について行ったバラストゥエルが指揮を執り戦っていた。
「バラストゥエルではないか……こやつ天使の中でも相当上位じゃろ?なんでこの変な連中と戦っておるんじゃ?」
それは誰にも分からないと言わんばかりに全員が首を振った後にソアレが答える。
「それが全く分からないと言った感じですのでルディールさんを呼びました。国王陛下が言うように様子見が良い様にも思えますが……アトラカナンタさんがいう様にこの機に乗じて叩くのも十分有りです。ですが……その天使達と戦っている何かがどちらの味方かも分からないので」
もう一度ルディールは天使達を見る。天使達と戦っていたそれはAIRの世界で戦ったなれの果てに本当によく似ていた。倒した天使達を貪り食らう姿は生きとし生けるものの敵と良い気配があった。
どう考えますか? とソアレに聞かれたのでルディールは答える。
天使達を助けに行こうと思うと。
まさか助けに行くという選択肢が出るなどと誰もが思っていなかったので驚く者、反対する者と反応はあまり良くはなかったがルディールは自身の考えを伝える。
「どちらにせよ天使というか光都とはやり合う事になるんじゃが……まずは情報が欲しいんじゃよな。助けた天使が裏切ったら裏切ったでアトラカナンタに喰ってもらって情報を抜けば良いんじゃし……それにどっからどう見ても天使と戦ってる者が味方とは思えん。ならば天使達を助けて恩を売るのも良いと思うんじゃよな」
「ルーちゃん甘すぎない?君がいない時にだけどここの城にいたギアエルが裏切ってというか策にはまって主神の奇跡がバレたんだよ?」
「わらわはそれを今知ったんじゃが?……まぁミューラッカもおるし他国の強者達もローレットに集結しとるんじゃし、今ならもし裏切られたとしても大丈夫じゃろ。のうミューラッカよ」
急に話を振られて少し驚くがミューラッカは力強く任しておけと頷いた。
「確かにルディールの言うように情報は欲しい。今ならイオスディシアンやハンティアルケーツと言ったか? その辺りの魔神やそれこそ魔王もいる。お前や数人で助けに行くと言うなら文句を言う奴はこの場にはいないだろう。こちらにも守る物があるから兵は出せぬが……」
「うむ。それなら良しじゃな。ではわらわと火喰い鳥の五人で行けば良かろう」
スティレはともかくソアレは行くつもりだったので力強く頷いた。そしてまだ反対だったヘルテンやフレイエンデの国王をミューラッカが説得し会議は一度終わらせ外へと出る。
「ミューラッカよ。何かあった時は任せたぞ」
「ああ。お前や雷光がいるなら何かはないだろうが……こちらは任せておけ。それと一つ聞きたいが……もし本当に天使を救って裏切ったらどうする?」
「その時は容赦無しで良かろう。こちらも余裕がある訳では無いからのう」
それならばこちらからは言う事はないとミューラッカが言うとアトラカナンタとヤルトガログがやって来た。そして天使達と戦うなら空のエキスパートであるヤルトガログを連れていけとアトラカナンタが言った。
「助かるんじゃが良いのか?空の写し絵とか空を見る魔法が使えんじゃろ?」
「あはっ。だからかなー。ローレットの王やスノーベインの女王はともかく他の国にルーちゃんの戦闘能力を見せるのは避けておいた方が良いと思ってね~。羽生えてる君とか普通に魔王だしね」
「ありがたい事じゃが……お主。何を考えておるんじゃ?」
「あらかさまな点数稼ぎかな?まだまだ死にたくないしね。それでどうする連れて行く?」
アトラカナンタの反応にルディールは思う所はあったがヤルトガログは鷲の魔神でもあり空中戦のエキスパートで力を借りられるなら借りたいので本人にも質問すると問題は無いとの事なので力を借りる事にした。
そしてタイミングを計った様に火喰い鳥とルミディナ、ルゼアがやってきた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。次回の更新はその内になりますので気長にお待ちくださいませ。
新作を書き始めたので良かったら見にきてね。




