第3話 友人と同じ名前の少女
「ぬ? 今、声が聞こえたのぅ……翼よ!」
ルディールは背中に魔法で蝙蝠のような黒い大きな翼を生やし、声のした方向へと飛んでいく。
「あれじゃな? むっ……イノシシに似ておるか?」
目を向けると、一人の少女が大きな牙を持ったイノシシのような獣の群れに囲まれていた。その内の一匹が、今にも襲いかかろうとしている。
(言葉が通じるかもわからぬし、どちらが悪いかも不明じゃが……見捨てる訳にもいくまい。魔法は先ほどの件もあるし危険じゃな……)
飛行の勢いを殺すことなく、獣の腹へ蹴りを叩き込む。
獣は大きく「く」の字に体を曲げ、吹き飛ばされて木々に何度も激突し、そのまま絶命した。
(これでしし共に言葉が通じて、人の方に通じんかったら最悪じゃな……)
「しし共よ、お主らの手詰めじゃ。かかって来るなら鍋の具じゃが、去るのなら追わぬぞ?」
ルディールの圧倒的な気配を前に、獣たちは本能で勝てぬと悟ったのか、一匹また一匹と森の奥へ消えていく。
「さっきの鳥といい、今のししといい……獣達はある程度、言葉を理解しておるのかもしれんのう」
呆然としている、淡い栗色の髪をした中世の村娘のような少女へ向き直り、声をかける。
「ほれ、そこの娘。災難じゃったな。無事か?」
「……」
「むっ。なんじゃ? もしかして言葉が通じんのか? ……それはさすがに勘弁してほしいのう」
「っ! い、いいえ! 大丈夫です。通じてます! いっ痛!」
少女の足には深く大きな傷があり、自力での歩行は難しそうだった。
(怪我をしておるな……ポーション系でもよいが、効果が変わっておる可能性もある。ならば――)
「娘、動くでないぞ? ヒーリング!」
魔法を唱えると、淡い緑の光が少女を包み、傷は見る見るうちに癒えていく。
(装備品の効果に付いておる回復魔法じゃが……ちゃんと機能しておるな)
本来、ルディールのゲーム内ステ振りでは回復魔法は使えない。
だが真なる王の指輪に統合された【双子の聖女の指輪】の効果により、ある程度の回復魔法が使用可能になっている。
「しかし、あの双子の聖女には頭が上がらんのう……薄い本でも世話になったし……」
「ええと……薄い本、ですか?」
「こっちの話じゃ。気にするでない。それで、もう動けそうか?」
少女は手足を動かし、違和感がないか確かめる。
「はい。もう大丈夫そうです。助けていただいて、ありがとうございました」
「うむ。感謝してくれればそれでよい」
「ええと……魔法使いの方ですか? それとも格闘家の方ですか?」
ルディールは腰に手を当て、大きく構え、自信満々に答える。
「うむ! そうじゃ! 迷子の魔法使いじゃ!」
「……」
「なんじゃ、その顔は。言いたいことがあるなら言うてみよ」
「……村まで案内しましょうか?」
少女に駆け寄り、手を掴まれた瞬間、目を輝かせられる。
「頼む! ぜひ頼む! できれば安い宿屋もお願いじゃ!」
必死な様子に少し驚きながら、少女は方角を指差す。
「わ、わかりました。こっちの方角です」
「では案内を頼むぞ。して、君の名は?」
「はい。ミーナです。ミーナ・ルトゥムといいます」
「ふむ……ルトゥムさんちのミーナか……」
その名を聞いた瞬間、数時間前まで共に遊んでいた、エルフの姿をした友人の顔が脳裏をよぎる。
(そういえば、面白そうなゲームを見つけたから一緒にやろうと言われておったのう……帰る方法があるなら探さねば。まだ夢の中という可能性も捨てきれん)
急に黙ったルディールを見て、ミーナが心配そうに声をかける。
「ど、どうかしましたか?」
ルディールは花が咲いたような笑顔で答えた。
「うむ! 良い名前じゃなと思っての」
少女は少し顔を赤らめる。
「あ、ありがとうございます……魔法使いさんのお名前は?」
「わらわの名はルディール! ルディール・ル・オントじゃ! さぁ、村へ行くのじゃ!」
意気揚々と歩き出すルディールに、ミーナが申し訳なさそうに声をかける。
「オントさん、村はこっちです……それと、倒した大牙じしはどうしますか? 牙や毛皮は売れると思いますけど……運べませんよね?」
「ふむ……少し待っておれ」
腰のベルトからアイテムバッグを外し、大牙じしへ近づく。
「オントさん、それアイテムバッグですか? 綺麗ですね」
「容量はそこまで大きくはないが、持ち主の魔力を引き上げる特別製じゃ!」
そう言いながら収納を試みるが、何度やっても入る気配がない。
「なぜじゃ! アイテムバッグを持っておれば無限収納がテンプレであろうに! このサイズは入らぬのか!」
「テンプレ……? かなりの大物ですからね。このサイズが入るバッグって、あるんでしょうか?」
「……引きずって行くのも嫌じゃな。ダニとかいそうじゃしのう……殺しておいてあれじゃが長時間は触りたくないのう」
「いえ、いくら強くても村まで引きずるのは無理では? 失礼ですが、オントさんまだ子供ですよね? 私より小さいですよ?」
「たわけ! 子供ではないわ! ほれ!」
爪を伸ばし、ししをつまみ上げると、驚きの声が上がる。
「オントさん……小さいのに力持ちなんですね……」
「やはりと言うか獣特有の匂いがきついのう。ならば魔法じゃ。マジカルハンド!」
唱えると、ボン、と音を立ててデフォルメされた白い大きな手が現れた。
【マジカルハンド】
ソロプレイ時、一人では解除できない仕掛けや高所移動に用いるサポート魔法。ステ振り次第では武器も持て、《本気狩るハンド》になる。
ししを運べ。そう魔法に指示を出し二人は薄暗い森を村へ向かって歩き出す。
「オントさん、その浮いている手も魔法ですか?」
「そうじゃ。お主の村では見たことがないのか?」
「はい。王都などに行けば見る機会があるかもしれませんが……」
「ふむ。ならば、どんな魔法は見たことがあるんじゃ?」
「火とか水とか出たりとかの生活魔法や攻撃魔法ですね。あと神官様が回復魔法を使います」
「なるほどのう……」
(魔法自体はこの世界にもある。しかし、わらわの魔法とは体系が違うのかもしれん……
一度くわしく調べねばだめじゃな)
心のメモ帳のやる事リストに書き込んでいると、
モンスターの出る森の中に少女がいたのが気になってその疑問を尋ねる。
「そういえば、お主はなぜ森におったんじゃ?
この森は危険ではないのか?
ぱっと見た感じ量産型村娘のように見えるんじゃが?」
「……今、微妙に失礼なこと言いませんでした? 内緒です。それより、あそこです!」
(もしやあれか?病弱な両親の為に危険を冒して森まできたとかそんな感じかのう?
まぁ……今はそれよりも!)
指差した先、森を抜けた先に村が見えた。
「村じゃ! ミーナよ! 行くぞ!」
「はいっ!」
二人は並んで、村へと歩き出した。
作者とルディールのあとがきコーナー
「作者よ、次回の更新はいつじゃ?」
「もうちょい先の下書きまではあるから木曜日のお昼か、遅くて金曜」
「もう少しはやく更新せんのか?」
「人差し指でキーボード打ってるからそんなに早く打てない!」
「タイピングするのじゃ!」




