第97話 復活
ソアレ達の三人亡骸の上で泣くタリカを放置しバラストゥエルは奪った主神の軌跡を注意深く観察していた。
掌の上にあるソレは天使達に反応するように先程よりは少しだけ強く光始めゆっくりと回り始めた。
「……これが主神の軌跡か。この感覚……いやこの気配は女神様達を思い出させるな」
ソレの気配にバラストゥエルやファルナエルは心地よい懐かしさを覚え、天使達の中には膝をつき祈る者も現れた。
「それでバラストゥエル。ソレが主神の軌跡だとは思いますが……確定と言う訳ではないのでどうするのですか?」
「そうだな……あの馬鹿が言っていた事が本当かどうかも試しておくか……」
バラストゥエルはゆっくりと目を瞑り主神の軌跡に向かって願いを告げる。
「主神の軌跡よ。我が願いが叶うのならアークスライブで眠る馬鹿の傷を治せ」
バラストゥエルが願うと主神の軌跡は一度だけ強く光り輝き先程のまでの光量にもどった後にまたゆっくりと回り始めた。
「……ルデルの怪我を治す様に願った理由を聞いても?」
「実力だけならあれは私達より遙かに上だ。それを治せるならこれも本物の可能性も高い。物は試しだ。仮に死んだら死んだでかまわん」
「なるほど。それなら敵対する可能性が無い死んだレイセルや他の天使達を生き返らせても良かったのでは?」
「私はレイセルが嫌いだから奴はそのままにしておく。他の天使はあの馬鹿の怪我が治っているなら試してみるつもりだ。お前がどう考えているかは知らないが……私の我が儘は通してもらうぞ」
「……私が貴女に道理はないので好きになさってください。まぁ。私もレイセルは嫌いですのでそれで良いとは思いますけどね」
少しだけ二人の天使は笑いここでの仕事は終わったかのように空を見上げる。
そこで思い出したかのように亡骸の上で泣くタリカをファルナエルが見つめバラストゥエルに質問を投げる。
「あの人間はどうしますか?私達の脅威にはなりえないと思いますが……前回も今回の生き残っている事を考えると……」
「……長い間戦いから離れボケたかファルナエル。その人間以前に他に警戒する物があるだろう」
そう言ってバラストゥエルが見つめる先にはソアレの亡骸が身につけている小さな指輪があった。
「あぁ……真なる王の指輪ですか」
「魔神も人間も多少の差異はあれど似たような物だが……あの指輪だけは別だ。チャンスがあるなら破壊しておくに超した事はない」
「なるほど。ですがあの指輪は天使にとっても有益なのでは」
そうかもしれないが魔王になる為の指輪は私達には必要ないと言ってバラストゥエルはゆっくりとソアレの亡骸に近づく。
少し邪魔だったタリカに一度だけその場を離れる様に警告するが、離れる素振りを見せなかったので指輪と共に処分する事にし自身の魔力を高めていく。
「いくら王の指輪とて持ち主がいないならただの指輪と変わらないだろう。ここで破壊させてもらう」
バラストゥエルの魔力が最高まで高まりその力がタリカやソアレ達の亡骸に向かって放たれたタイミングで真なる王の指輪が全てを飲み込む様に光を発した。
そして……先程のバラストゥエルの言葉に誰かが返事をする。
「流石にそれは見過ごせませんね。親友からの借り物ですので」
その声がバラストゥエルに届くより先に声の主により放たれた雷が体を貫き自由を奪う。
「がっ!?なっ何」
「悪いが……主神の軌跡は返してもらう」
光をも切り裂くすさまじい斬撃がバラストゥエルの左腕を簡単に切り捨て中に投げ出された主神の軌跡を優しく奪い取る。
「バラストゥエル!」
「ルディがベラベラとしゃべる暇があったらさっさと目的を達成して帰った方がいいって前に言ってたけど……あんた達見てるとほんとにねって思うわ!」
腕を切り落とされ感電により動けなくなったバラストゥエルにファルナエルが近づこうとするが光を集めて作った様な矢が飛来しその体を簡単に貫いた。
寸での所でファルナは体をひねり即死は避けたが後方に控えていた天使達は全て光の矢に撃ち抜かれ光の粒になって空へと消えて行く。
「……まさか死人が生き返るとは夢にも思わないな」
光がゆっくりと納まっていくと倒れていたソアレ、スティレ、カーディフの三人が倒された時とは別の装備に身を包みその場所に立っていた。
「皆さん!」
確実に心の臓が止まり死んでいたはずの三人が立ち上がった事にタリカは驚くがそれ以上に喜びがあふれ先頭にいたソアレに飛びついた。……だがソアレはそれを軽く躱す。
顔面から地面にダイブしそうになったタリカをスティレが素早くキャッチするがその顔は批難の色に染まっていた。
「……ソアレ先輩。どうして避けるんですか!?というか!どうやって生き返ったんですか!その姿は!?」
「説明は戻った後です。先にこの天使達を倒します」
天使を確実かつ最も簡単に倒せる機会が目の前に転がっているのにそのチャンスをみすみす逃すはずのないソアレはルディールの友人から譲ってもらった杖に最速で魔力を流し魔法を発動させた。
「あなたの強さは分かっていますからね。楽に倒せるのならそれに超したことはないでしょう」
「確かにな……私がおまえ達でもそうするよ……」
自分の命がここまでだと悟りバラストゥエルは静かに眼を閉じる。そして空が割れる様な激しい落雷の音を聞いた。
……だが雷の音は届きはしたがいつまで経っても衝撃が体を走る事が無かった為、閉じた瞳をゆっくりと開いた。
自分に攻撃しようとした魔法使いもその仲間達も険しい表情で空を見上げていた。自身とファルナエルを守る様に白く発光する光の翼が二人を包みこの緊迫した場にふさわしく無い声が届く。
「えぇと……確か。偉そうな事を言って出て行った割に死にかけなのは面白い。自分が馬鹿にした天使に助けられるのはどんな気分だ?……でしたっけ?」
「……よくそんな台詞を覚えているなと言いたい所だが……存外悪くはないな……ごほっ」
「ならば良し。と言っても貴方が主神の軌跡に願ってくれたおかげで復活したのでまた借りができましたね」
ちゃんと返せよと言い終える前にバラストゥエルもファルナエルも限界を迎えた様でその場で意識を手放したのでその場に現れた者は改めてソアレ達と対峙する。
「ルデル……」
誰かのつぶやきだったがそれは外れておらずこの世界のルディールにも勝てる別の世界線で天使となったルディールがそこにいた。
ただソアレ達と戦った時とは違い義手義足になっていた本来の姿を取り戻しており凄まじかった火傷の跡も綺麗になくなっており見えないはずの両目はソアレ達を映していた。
その場に立っている者すべてが魔力を解放しいつ戦いになってもおかしくない張り詰めた空間が出来上がるが……ルデルの瞳がソアレ、スティレ、カーディフが身につけている装備へと向かった。少し驚いた表情を見せた後にソアレ達に質問をする。
「私は……その身につけている装備に見覚えがありますがどこで手に入れました?」
今のルデルの悲しそうな表情が自分が知っているルディールの表情と、とてもよく似ていたので少しだけ警戒を緩めてソアレは答える。
「そこの天使に殺された後でたぶんあの世の入り口であろう世界で貴方もよく知っているであろう友人達に出会い託されました」
時間稼ぎ……という訳でもなかったがいくら装備が強化されようが、使い慣れない武具で目の前の強敵とまともに戦えるはずもなかったので撤退するタイミングができれば御の字と考えあの不思議な世界で出会った人たちの事を静かに伝えた。
その話をルデルは静かに聞いた。
そしてすべての話を聞き終わると静かに頭を下げた後にソアレに礼を伝えた。
「ありがとうございます。ソアレ・フォーラス。聞いたのは私ですが……話の途中で逃げるつもりなら追いませんでしたよ?」
「……逃げられるとは思いましたが……まぁ、その顔が私の親友に似ていたので話ぐらいはと」
「なるほど……貴女もどこの世界でもあまり変わりはしませんね」
そう言ってルデルはルディールの様な笑顔をソアレ達に見せた後に……自身の綺麗な瞳を潰した。
「なっ!?」
その不可解な行動にソアレ達は絶句するがルデルは静かに答える。
「この世界は綺麗で美しいですが……見たくない物も多い。私が元の世界に戻る為にももう一度心に決めただけですよ」
その言葉にソアレ達は今一度、戦闘態勢に入るがルデルは気を失ったバラストゥエル達を浮かび上がらせ背を向けた。
「気配で分かりますが間違いなくそれが主神の軌跡ですよ。すぐに戦いになりますが今回はこちらが引かせてもらいます」
「……私たちには都合がよいですが、情けをかけるつもりですか?」
「それは違いますね。あなた達の装備は私の方が詳しいのとそれがこの世界に来てどうなっているのかが未知数なので引かせてもらうだけの話です。流石に最高の武具を纏った一流の戦士達からバラストゥエル達を守るのは大変ですからね」
「……そうですか。でしたらこちらからは何も言う事はありません。私達もこの世界を守る為に次に会う時は本気でいかせてもらいます」
「ふふふっ……それは怖いですね。お手柔らかに……では、また」
小さな光の粒子がルデル達を包み込み光を発し、光が落ち着く頃にはその場には誰もいなかったかの様に静まり返っていた。
その場から命の危機が去った事を改めて知りソアレ達は大きく息を吐き出した。
「ふぅっ……なんとか生き残りましたね」
「流石に……ルディール殿……いやルデルが現れた時には生きた心地がしなかったな」
「……ほんとですね。皆さんがどうやって生き返ったのかも分からないまままたあの世行きかと本当に焦りましたよ……というかカーディフ先輩どうしたんですか?」
「ん?ルデルって別の世界のルディだから話し合いで済みそうならって思ったけど……別人とまでは言わないけど話し合いは無理だなって思ってた所よ」
「ルディールさん変な所で頑固ですからね……冗談はさておきすぐに王都に戻りましょう」
「そうですねー。流石に疲れましたね。皆さんに何があったか詳しく知りたいですし」と言ってソアレ達の装備を不思議そうに眺めているタリカに転移魔法の準備をしながら答える。
「主神の軌跡が見つかりましたからね。後は手に入れるだけの話なら……すぐに来ますよ。兵士が散ってる今がチャンスですからね」
言い終える頃には転移魔法が完成しスティレとカーディフは頷きながら転移しタリカはとても嫌そうに転移した。
最後に残ったソアレも一度振り返り装備を譲ってくれた者達に頭を下げてから王都へと転移した。
まだ読んでくれてる人がそこそこいるようなので更新しましたー。ありがてぇ……次回の更新は未定ですがその内更新すると思うので気長にお待ちください。ルーちゃんは次の次ぐらいに戻って来れるか?
誤字脱字の報告もいつもありがとうございます。
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