第89話 居場所 その1
崩壊した世界に希望の黒い世界樹が生まれ、この世界にも希望の兆しが見えたはずだったがエアエデンに戻ったルディールとAirは世界を救った者に向けられる眼差しとは思えない目で見られていた。
「ほーん……リベット村にあった世界樹の根元に種が埋められてそれをどっからどう見ても地獄の番犬にしか見えないコボルトが守っていてそれを植えたらあんな感じになったと」
エアエデンの会議室にあるモニターに映る黒い世界樹を嘘くせーと思いながら大人のアコットが感想を述べる。
「仮に嘘だったとしてもアコット・リノセスには調べようも無いので目に見える物と聞いた事実を認める事が大事だと思われます」
AirもAirでどうせ本当の事を言った所で確認のしようもないので自分に都合の良い様に言っておけば良いだろうという答えにたどり着いたのでスッキリした表情で答える。
そんな二人を見ながら余計な口出しはせずに入れてもらった水を飲みつつルディールは沈黙を守っていると、アコットが大きくため息をついた後にもういいわと両手をあげて降参した。
「世界樹って話だけど人が使えそうな所ってあるの?記録に残ってる世界樹だと葉とかで怪我とか病気とか治るんでしょ?あとはお茶とか湿布にも使えるって聞いた事もあったけど……」
何かを思いだした様に微笑むアコットにAirは現状の黒い葉の状態では猛毒で人が触ると死ぬ可能性が高いと伝える。
「そっか……残念。エアエデンで黒い世界樹の周りを漂ってれば魔物が葉とか食べて勝手に天魔石になってくれるからいいか。拾いに行くだけでいいし」
「そうですね。世界を浄化しているのでいつかは葉が緑になり世界樹と同じ効果になると思われます」
「なるほどねー。後で皆にも伝えとこう。希望が見えてくれば単調な仕事も楽しいでしょうし」
「それが良いと思われます」
「しっかし……リベット村か~懐かしいわね」と嬉しそうにしているアコットにルディールが嬉しそうじゃなと言葉を投げる。
「えっ?そう見える?まぁでも楽しい思い出しかないわね。私はその村の領主の侍女でね。良くその村につれて行って貰ったのよ」
「ほー……どんな村じゃったんじゃ?」
「ミーナお姉ちゃん……じゃなくて勇者ミーナの生まれた村で大きな宿というかホテルみたいなと所があってそこが勇者の実家だったわね。そこの料理が凄く美味しかったのを覚えてるわ」
「ほうほう」
「あとはびっくりするぐらい大きな図書館があったわね。今になって思えばこの辺りの大陸で一番大きな図書館だったんじゃないかな?後は街中に炎毛猿って魔物が歩いてたわね」
目を瞑りその頃を思い出しながら嬉しそうに話すアコットにルディールは質問を続ける。
「嘘みたいな話なんだけど、小さな世界樹の上に家が立ててあったのよねー。言っても誰も信じないけどね……あとその家にあったポストが夜になるとすっごい光ってて夏になると虫とか飛んで来てたからそれを捕まえて遊んでたわね」
「お主……領主様の令嬢なんじゃろ?」
「私の家は緩かったから良いのよ。その話し方を聞いてると更に思い出すわ~懐かしい。私のお姉ちゃんがね。その家にいた人の事が大好きでね~小さい時は一緒に寝てたんだけど毎日の様にその人の事を話していたのを覚えてるわ」
思ってもいない所から攻撃を受けたルディールは飲んでいた水が変な所に入り盛大にむせて大きく咳き込む。
慌ててAirがルディールを介抱するが元がスナップだけあってとても良い笑顔で話の続きをアコットに催促する。
「どうして急にむせるのよ」
「ゴホッゴホッ……大丈夫なんじゃが地上に降りた時に肺をやられたかもしれん」
「それは大丈夫とはいいませんわ……それで?アコット・リノセス。その人はどんな方でしたか?」
「何でAirが嬉しそうなのよ……というかAirが一番よく知ってるじゃない。そうね……ちょうどその人みたいに……薄い金色の髪でね。緋色の綺麗な目をしてて……?海を切り取った様な青いマントをしてて…………頭に角が生えてたわね…………?」
自身がその頃の記憶を呼び起こしながら答えると目の前には記憶とそっくりな少女がいたので混乱しながらも思いだしたその人の名を呼ぶ。
「えっ?…………もしかしてルーちゃん?」
「うむ……とは言いがたいし別人じゃがルーちゃんじゃぞ」
死んでしまった人が目の前にいるのかはアコットには分からなかったが、そんな事はどうでも良く自分が一番幸せだった頃の記憶の中の人が目の前に現れたのでアコットは目に涙を浮かべながらルディールに抱きついた後に抱き上げその場でクルクルと回り始めた。
「アッアコットよ!やめぬか!」
「うわ!本当にルーちゃんだ!ちっちゃくなったねー」
「小さくなどなっておらぬ!お主が大きくなったんじゃぞ!」
Airも持ち上げられて回されるルディールが面白かったのか止めもしないのでアコットが満足するまでその光景は続けられた。
そしてようやく落ち着いた所でルディールを自身の膝の上に座らせ頭をなでる。
「昔とは逆になったわねー。昔は綺麗で面白いお姉さんって思ってたけど、この歳になってみると可愛い美少女ね」
「わらわはこの歳になってオモチャにされるとは思わんかったわい」
頭を撫でられたり本当にオモチャにされているルディールは色々と諦めた。
「こっちの世界で死んじゃったルーちゃんとは別の世界のルーちゃんなのよね?」
「うむ。そういう事じゃな。元の世界でボロ負けしてのう。次元の狭間という所に飛ばされた所をAirに助けられこの世界に来たって感じじゃな」
「あのとんでも性能の指輪なら何でもありか……というか最初にあった時に言ってくれればよかったのに!」
「面影はあるが大人になったアコットと分かる訳ないじゃろ。わらわの世界のアコットは七歳ぐらいなんじゃぞ」
「七歳……子供の頃は大人達が昔は良かったーとか聞いてどうも思わなかったけど……今になって思えばあの頃が一番楽しかったわね。習い事したり遊んだりして夕方になって家に帰るとメイドさん達がご飯の準備してて皆でご飯食べるの」
遠い所を見るような何とも言えない表情で語るアコットにルディールとAirが何も言えずに黙っていると当の本人は特に気にした様な事も無く話を続ける。
「まぁ世界が崩壊しちゃってるから昔が良いのは当たり前なんだけどねっ!それでもAirに私って聞いたら分かるでしょ!声かけてよ!」
「思い出の中でじっとしていてくれとか言われたらわらわが辛いからのう」
「言わないわよ!良くは無いけどまぁいいか……ルーちゃんって事も分かったし本当の事とこれからどうするかを教えてもらいましょう」
ルディールだと分かってしまったのもあり、変に誤魔化すよりは本当の事をアコットに伝え意見を聞きたかったので天使が現れた辺りからこの世界に飛ばされた事や世界樹の種を手に入れ植えた事などを伝えた。
やはり嘘だったかとアコットがAirを睨むが、睨まれた本人は素知らぬ顔で無視を決め込んだ。
ルディールの話が終わり聞き終えたアコットは考えを纏める様に目を瞑った。そして長い沈黙があった後に自身の考えを伝える。
「そうね……ルーちゃんはさっさと元の世界に帰らないと駄目ね。特訓も大事でしょうけど物語とかお話じゃないんだから数日やっただけでアホほど強くなる訳も無いでしょうし」
「それはそうじゃが……戻った所ではないか?」
「聞いた感じだとルデルの方がルーちゃんより少し強いだけみたいだし、Airと一緒に戻って倒せば大丈夫でしょ。それに飛ばされた直後に戻れる訳でもないんでしょ?Airもどっかの世界から戻ってきた時も数日ずれてる時あるし」
アコットの言った様にナイン・アンヘルで呼ばれた事のあるAirは肯定する様に静かに頷いた。
「ルーちゃんが戻った時に世界が崩壊してたら話にならないでしょ?だからさっさと帰りなさいって事よ。物語の主人公は戦いの中で強くなるものでしょ?」
「…………」
「今日明日すぐにとは言わないけどね。早い方がいいと良いと思うわ。ルデルだっけ?それが復活したらルーちゃんいないとかなりキツいと思うし……ミーナお姉ちゃんならワンチャンあるかもだけどそれでもしんどいと思うわよ」
すぐに戻った所でルデルに勝てる未来が見えない見えない事と崩壊したこの世界と黒い世界樹の事などの事を考えると考えも上手くまとまらずすぐに答えを出せないでいた。
しばらく沈黙が続いた後にそれを破る様にAirがパンパンと手を叩いた。
「ルディール・ル・オント。アコット・リノセスが言った様にすぐに答えを出す必要はありません。今日の所は時間も時間ですから休息を取りましょう」
「分かったわい。よく寝てから後悔が無いように答えをだすわい」
分かりましたと静かに頭を下げてAirが部屋を出て行ったのでルディールも立ち上がるとその手をアコットに掴まれる。
「ルーちゃんは何処いくのよ」
「とりあえずシャワー浴びて寝ながら考えようかと思っておるんじゃが……」
「久しぶりに会って私も話したい事あるんだから今日は私と寝るのよ。拒否権はありません」
そして有無を言わせずにルディール抱き上げてアコットは自分が使っている部屋に運び込んだ。
ちょっと長くなったので分けました。昼か夜にでもその2を投稿予定




