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第87話 特訓その2

 狂った大地の目が届く範囲全てを更地に代えた後に、寝そべりながら気色の悪い空を眺めルディールは肩で息をして呼吸を整えていた。


 ルディールとAirの凄まじい戦闘に巻き込まれ灰と化した魔物の中からAirが機嫌良く天魔石と呼ばれる魔石によく似た石を取り出している。


 そんな光景を見ていてようやく呼吸が落ち着いたのでルディールは文句を言うようにAirに話しかける。


「こっちの攻撃はすり抜けるのにそっちは攻撃できる魔法とか卑怯じゃろ」


「ゲームだったらクソゲーだと思いますが、命のかけた戦いなら勝った者勝ちなので対応できない方が悪いです」


「ぐぬぬ……命のやり取りをしておったら負けておるから仕方ないが負けが続くのう」


 等と言いながらルディールはAirとの戦いを思い出す。




 Airが唱えたナイン・シスターズと呼ばれた九つの残像はその一人一人が独立しまるで意志を持った様にルディールに向かって攻撃を始めた。


 攻撃はAirと同等かそれ以上だったので流石のルディールもすぐに防戦一方に追い込まれる。


 ただルディールの魔法はすり抜けるとはいえ速度に関してはAirの半分程度だった。


(見た目がスナップとスイベルなのに攻撃はスプリガン並みとかふざけておるな……Airに関しては速度もわらわより上じゃし)


 シスターズの攻撃を躱しどう攻めるかを考えているといつの間にかルディールは本体のAirを見失う。


 ミスったと思った次の瞬間には背後からAirが現れ、横から鈍器の様にR-3を叩きつけられ吹き飛ばされる。


「戦闘中に考えるのは大事ですが、考え過ぎて本体を見失うのは想像以上に悪手ですよ」


「うむ。わらわの悪い所じゃな。この戦いで頑張って克服するわい」


「はい。考える事が多い魔法ですから頑張ってください」


 口から流れる血を拭いて回復魔法をかけてからルディールはまたAirに向かって攻撃し戦闘が始まる。


 ルディールがAirに向かって放ったはずの魔法は引き寄せられるかの様に近くにいる残像に向かっていく。それだけなら只のデコイとしてルディールも考えるだけだったが、すり抜けた後にその残像が高威力の攻撃を仕掛けてくる。


 Airが攻撃してきて残像も攻撃してくる中でルディールが出された残像の光が弱くなり攻撃してこない事に気がつく。


(もしかして……この場に維持し続ける事は無理な魔法なのか?)


 それだったらシスターズの光量が減った今がチャンスだと考えルディールはAirに急接近し接近戦を仕掛ける。


「その魔法は長い時間は維持できないんじゃろ!このまま押させてもらうわい」


 先ほどと同じ様にルディールの蹴りを軽々と受け止めてからAirは答える。


「はい。確かに長い時間は維持出来ませんが……何度でも出せるという事も考慮する必要があります。……何度も言いますが魔法使いが迂闊に接近するのは控える事をオススメします」


 そう言いながらAirがルディールを弾き距離を取るとその間には新しく残像が残りその全ての砲身がルディールに向いていた。


 それから先はルディールも善戦はするが残像と本体の位置を入れ替わる様な魔法も使われたり、シスターズに魔法属性が付与されたり戦闘経験値でAirに圧倒された。


 戦いは何時間にも及んだが膨大なルディールの体力と魔力がつきようやく終わりを迎えた。




 まだ起き上がる元気がないルディールに天魔石を拾い終わったAirが話しかける。


「魔力はルディオントやソール等には劣りますが身体能力やその他も私と同等かそれ以上ですね」


「……お主にもルデルにもボロ負けなんじゃが?」


「経験の差です。ルデルは知りませんが少なくとも私はかなり戦っていますので……私の方は貴方が想像以上に戦えるので驚いています。もっと一瞬で終わるかと思っていましたが……」


「あれじゃろ。他の世界だったら結構死んでおるわらわの中で生き残った個体じゃから強いんじゃろ。魔王にも天使にもなっておらんしそれこそ合体もしておらんしのう」


「真面目な話をしている時に下ネタですか?」


「違うわい!そういう所がスナップじゃのう……」


「Airと名乗っていますがフルモデルチェンジスナップですから仕方ありません」


「……マイナーチェンジじゃろ」


 体力が少し戻ったのでAirに腕を引っ張ってもらいルディールは立ち上がる。


 ある程度だが魔力も回復したので再戦してもよかったがエアエデンから少し離れてしまったので帰還する事になった。


 Airが空に飛び上がり着いて来てくださいと言ったのでルディールもその後を追う。


 その帰りで鳥の様な腐った何かに何度か襲われたが無事に雲を抜けエアエデンが見えてくる。


 そしてエアエデンに着陸する前に水の魔法で体を清めてからAirとルディールはエアエデンへと戻ってきた。


 なかなか戻ってこないAir達を心配するように大人アコットが待っている。


「やっと戻ってきた……Airの事だから大丈夫とは思っていたけど」


 ご心配をおかけしましたとAirは頭を下げ、手に入れた大量の天魔石を取り出した。


「おおぅ……大量に取って来たわね。とうぶん降りなくていいからありがたいんだけど……」


「しばらくの間は下に降りる事が多くなりますので余分にあるならヘルテンやスノーベインに分けてあげるといいと思います」


「あー……それもそうね。農具の修理とかも頼みたいし格安で譲る感じにするわ。そこの片角の人もありがとね」


 ルディールとAirに礼を言ってから大量の天魔石を受け取って大人アコットはどこかへ行ったのでルディール達もAirの部屋へと向かった。


「しっかしアコットも大人になるとリノセス夫人に似てくるのう。夫人も若いまんまじゃったし」


「リノセス夫人は魔女なのでまた別ですが基本的に魔力が多いと生物は老いが来るのが遅くなりますよ。ですから天使や魔族の寿命はとても長いです」


「カナタンとかデシヤンにしても千年前の戦いの生き残りじゃったな」


「魔族にしろ天使にしろ元々の寿命が長いと言うのはありますが」


 エアエデンの静かな廊下を二人で進んで行くと扉の前でAirが止まり「ここが私の部屋です」といい中へと入っていった。


 お邪魔しますと声をかけてルディールが中に入るとそこはとても殺風景な部屋でベッドが二つと小さな棚が置いてあるだけだった。


「殺風景な部屋じゃのう」


「必要な物はアイテムバッグの中に入っていますので問題ありません。そちらのベッドを使い休んでください。シャワールームやお風呂などもありますが水が貴重なので使用する場合は水の魔法を使ってください」


「うむ。了解じゃ」


 エアエデンに帰還する前に魔法で体を清めてはいたが下の世界が気持ち悪かった事もありルディールはお風呂へと向かい魔法でお湯を溜めてからAirとの特訓の疲れを癒やした。


 部屋に戻ってくるとAirが紅茶の様な飲み物を入れていてくれていたのでそれを飲み少し話をする。


 この世界に疲れたのか、Airとの戦闘が疲れたのか、話をしているとすぐにルディールの体に睡魔が襲って来た。


 Airに断りを入れてからベッドに入ると心地のよい眠りがすぐにルディールを深い眠りへとついた。


 眠ってしまったルディール見ながらAirが少し微笑みその頭を撫でる。


「貴女はどの世界でも変わりませんね」



 それからは先はルディールが起きると下界に行Airと限界が来るまで戦い動けなくなるとエアエデンに戻り休息を取る日々が続いた。


「……毎日、今日こそは勝てると思って戦っておるがなかなか勝てんのう」


「私の方も戦い慣れてくるので仕方ないと思います。ですが初日に比べれば私の方も危ないと思う事が多くなりましたので強くはなっていますよ」


「お主もシスターズも魔法を使ってくるのが大問題なんじゃよな……」


「使えないとは一言も言っていないですからね。守りの上から叩き潰すのが必殺技なので頑張ってくださいとしか言い様がありません」


 余裕そうな顔でルディールの方を見るAirに今日こそは倒すと心に誓い、ルディールはエアエデンの空から狂った世界へとまた飛び降りる。


 いつもの様に狂った世界へとルディールとAirは降り立ったはずだったが今回は少しだけ様子が違い気味の悪い植物もなんとも言えない魔獣の気配も何も無かった。


 ルディールとAirが戦った様な更地になっているだけでそこは本当に何も無い場所だった。


「へんな感じの場所じゃな?前にわらわAirが戦った場所か?」


「いいえ。違います。魔獣達が戦った場所だと思われます」


 なるほどのうとルディールが納得していると二人の索敵に強い力を持った何かが引っかかる。


 二人は思った以上に接近されており索敵に引っかかった方向に目を向けるとそれはルディール達を巨大な岩の上から見下ろしていた。


 その姿は狼の体に犬の顔が三つほどついており地獄からこの世界へと現れたと言っても誰も驚きはしない風貌をしていた。


「他の魔獣とは全然違う感じじゃな……地獄の番犬という感じじゃのう」


「ここが地獄の様な世界なので間違ってはいませんね」


 地獄の番犬が鼻をすんすんとならし何かの匂いを嗅ぎ始めるとルディールとAirは戦闘態勢に入った。


 そして大きく遠吠えをしそれが戦いの合図となり番犬がルディールに向かって一直線に襲いかかる。


 その動きはAirの驚く程素早く一瞬で距離を詰められる。


「くっ!こやつ!想像以上に速い!」


「ルディール様!?」


 一瞬でルディールに番犬は覆い被さりその大きな口が喉を捉えたかと思ったがそんな事は全く無く三つの顔に思いきり舐められルディールは一瞬で涎まみれになった。


 その事にAirが戸惑っていると感覚でその魔獣の正体がルディールには分かった。


「もしかして……コボルト達か?」


「「「わん!」」」と返事をしてルディールの顔を舐めるのを止めてお座りをしたので、それがルディールの家で家事をしミーナの実家に働きに行っているコボルト達だと言う事を確信した。


「戦争が激しくなって世界が崩壊してから見ていないと思っていましたがここにいたんですね」と言ってAirが近づき頭を撫でると番犬は嬉しそうに目を細めた。


「よくこんな狂った世界で生き延びておったのう……」


「「「わん!」」」と嬉しそうに鳴き着いてこいと言わんばかりに先を歩き始めたので、ルディール達も話をそこそこに後を追いかけた。


 そして進んでいくと何も無い場所だったが山の形などでここが何処か分かったのでルディールは声に出す。


「すっかり変わってしまっておるが……この辺りはリベット村じゃった所じゃな?」


 コボルト達が返事をしAirが驚いたあとに昔の地図のデータと今いる場所を照らし合わせるとそこは確かにリベット村があった場所だった。


 ただ場所が同じと言うだけで本当に何もなく村があったなど誰も信じない様な場所だった。


 明からに落ち込んでいるAirをルディールが励まし先を進むコボルト達の後を追いかけて行くとそこには枯れた大きな木が残っていた。


「流石は我が家の番犬達じゃのう……その様な姿になっても家を守ってくれておったんじゃな」


 その場所はルディールのツリーハウスがあった場所で枯れた大きな木は元は世界樹でそれを守る様に食竜植物が絡まって朽ちていた。そしてその隣には大きなボロボロの包丁が立て掛けてあったのでデスコックも最後までここを守っていたという事が分かった。


 ルディールもAirも何も言わずに手を合わせ長い黙祷を捧げた。


 そしてしばらく経ってからAirが足元の土に違和感を感じたのでこの場所を調べる事になる。


「……この辺りの土は汚染されていません」


「ん?他の地域みたいに変な動植物がおらんのか?」


「コボルト達も汚染されてその姿になっていますので居るとは思いますが……太陽さえでればこの地域で生活をする事は可能だと思います」


「なるほどのう。じゃが人が住むには危険じゃのう……と言うか何でこの辺りだけ汚染されてないんじゃろな?」


「はい。仮説ですが……世界樹があったのと食竜植物の能力のおかげでこの地域の汚染は免れたのかも知れません」


「なるほどのう……わらわの世界でも森の智者達と悪乗りして庭の一部を深樹化しておったし緑化する能力は高いんじゃろな」


 それからしばらくその辺りを調べたが特に変わった物はなくコボルト達をどうするかと話し合っているとコボルト達がルディールの首根っこを噛んで持ち上げた後に枯れた世界樹の前へと運んだ。そしてルディールのアイテムバッグに鼻を当てて匂いを嗅ぎ始める。


「どっどうしたんじゃ!?わらわは枯れた世界樹を元に戻す様なアイテムは持っておらんぞ!」


「「「「わん!わん!」」」


 ルディールのアイテムバッグに鼻を突っ込み吠えるコボルト達を見ながらAirが何かを思いだしたかの様にスナップの様に笑った。


「お主な……困っておるのはわらわなんじゃから助けてくれると嬉しいんじゃが?」


「ふふっ……エアエデンや私達を助けてくれた時のルディール様を思い出していただけですわ。あの時も貴重なアイテムを持っていたのを忘れていたなと……」


「この世界のわらわとは違うじゃろうが……そんな事もあったのう」


 流石に都合よくそんな物は無いと二人で過去を笑いながらルディールがアイテムバッグの中を調べると光り輝く何かがその瞳に止まった。

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

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