第79話 旅路
ルディールとルデルの戦いは熾烈を極めたが……その戦いも終わりを迎えつつあった。
まだ意識が戻らない仲間達を飛んで来る魔法や瓦礫等から守りながらルディールを見守るソアレが呟く。
「……おかしいですね。ルディールさんが押しているんですが……押されています」
「ソアレ様どういう事ですの?」
「距離や間を与えるとルディオントさんやソールさんが召喚されるのでルディールさんは詰めて戦っているんですが……私から見て入ると思った攻撃が入らないんですよ」
「手加減していると言う事ですの?」
「加減して倒せる相手ではないのでそれはない思いますが……何というか暴れ馬の手綱を握っているような感じと言えば良いのでしょうか?」
折れた腕の痛みを我慢しながら考えるソアレにルミディナが答える。
「もしかしたら……今の状態を維持しつつ意識を持って行かれない様に耐えてるのだと思います」
「と言うと?」
魔界にソアレを助けに行った時にもルディールは今の状態になり簡単に当時の魔王をだったラフォールファボスをいとも簡単に撃破した。
その時はルミディナ達にも悪い所はあったが、一切の躊躇なしに自分達をルディールは殺しに来たと話す。
「……それはルディールさんの親友の私が貴方達に殺されそうになったので当たり前では?」
「違います!別の世界とはいえ娘を躊躇無く殺しに来るとか普段のルディールお母様からは考えられませんよ!」
「まぁ冗談は置いておきますが……それが正解だと思います。力に飲まれて天使を倒したとしても次の標的は私達になると思うので……」
「でも……ルディール様です。ルデルを倒したら元に戻ってもらえるかと……」
「ルディールさんは中身は人ですから無理かと。自身の持てる力を制限無しに使うのは最高の快楽ですし……それにもしここにいる全員をルディールさんが殺してしまったとしたら?」
「……ルディールお母様の心は耐えられないと思います。ルディオントお母様の様に割り切っているならともかく……」
四人が祈り見守るなか天使と魔王の戦いに決着がついた。
ルディールが自身の力に飲まれない様にそちらに意識を向けた瞬間にルデルが踏み込みルディールの胸を光の刃が貫く。
「流石にお強いですが……加減してまで私は倒せませんよ」
ごほっっとルディールは血反吐を吐きながら大人の姿になっていた体はいつもの子供の姿へと戻った。
そしてその場に崩れ落ちピクリとも動かなくなった。
仲間達がルディールの名を叫ぶが、その言葉ルディールには届かず次はお前達の番だと言わんばかりにルデルが振り返り話しかける。
「私の脅威にはなり得ませんが……貴方達は光都や天使には十二分に脅威になり得るのでここで倒させてもらいますよ。久しぶりに見られた顔もありますので苦しまずに送ってあげます」
スナップと残ったスイベルが戦闘態勢に入り、魔力の尽きたソアレとルミディナも何とか立ち上がるが……状態は酷く誰が見ても戦えないのは一目瞭然だった。
光がルデルの手に集まっていくと、その背後から声がかかる。
「帰らせると約束したんじゃからやらせる訳がなかろう」その言葉と供にルデルの体に衝撃が走りルディールの細い腕がルデルの体を貫いた。
「ルディール様!?」
ルディールの一撃が急所を貫いたのかルデルも口から血を吐く。
だが余力はまだ残っているようで何度か血は吐いたが、ルディールの真なる王の指輪が光る腕を切り飛ばし小さな首を掴み持ち上げる。
「……まさかここまでのダメージを受けるとは思いませんでしたよ」
「じゃろ?慢心、ダメ、絶対と習わんかったか?」
「次があるなら気をつけますよ……ではこの世界のルディールよ。さようなら」
スナップやソアレ、ルミディナ達がルディールの身を案じ叫ぶがそれをかき消す様にルディールは叫ぶ。
「ソアレ!こやつを倒すチャンスは今じゃ!わらわの腕から指輪を取り止めをさせ!」
「アビスゲート」
仲間達が返事をする前にルディールの周りに宇宙の様な空間が現れる。そしてそこから幾つもの手の様な物が現れルディールをその中に引きずり込んだ。
スナップとルミディナはルディールが消えた事に唖然とし、立ち止まったがソアレはすぐに動き言われた通りに切られたルディールの腕から真なる王の指輪と取り外し自身の左手の中指にはめた。
指輪をはめるとルディールの腕は消えてしまったが、ソアレの折れた腕だけは回復した。
指輪の効果に驚き立ち止まりそうになったが、消えた親友の頼みを聞く為にソアレはアイテムバッグの中から魔法の短剣を取りだし胸を押さえて血反吐を吐くルデルに近づく。
「……まさか急所を狙われるとは思いませんでしたよ」
「時間稼ぎですか?ルディールさんから教えてもらいましたが……こういう時は止めを差すのが先です。泣くのは後からでもできますから」
そう言ってナイフがブレない様に両手でしっかりと握りルデルの命に向かって刃を進める。
「そうですね……まぁ私がやった事を考えれば仕方ありませんか」
自分の命がここまでと知り目は元から閉じていたので心の目を瞑る。
だがソアレのナイフはルデルに届く事はなく、ほてった体に心地良い水滴が顔にかかった後に凄まじい水の音がした。
もう開く事が無いと思っていた目を開けると、先ほどまで自分の命を狙っていたソアレが吹き飛ばされルミディナとスイベルに抱き留められていた。
その光景に驚いているとルデルの背後から声がかかる。
「偉そうな事を言って出て行った割に死にかけなのは面白い。なぁルデル。自分が馬鹿にした天使に助けられるのはどんな気分だ?」
「最高の気分ですね。本当に助かりましたよ……バラストゥエル」
そう言いながら振り返るとそこには、元九大天使と言われた天使達が集結していた。
「そうかそれなら私も気分がいい」
「後、すみませんが……限界っぽいので落ちます。後はお任せし…ま……」
言い終える前にルデルが意識を失ったのでバラストゥエルは首根っこを掴み持ち上げ一緒に来ていたギアエルに向かって雑にルデルを投げる。
「ギアエル!その馬鹿を治してやれ。脳が足りんとはいえ私達に恩恵を与える者だ」
普段が物静かなバラストゥエルが大きな声を出した事に天使達は驚くが逆らえる立場でもないギアエルはルデルを光の魔法で包み込んだ。
その光景を見ながら第三位天使のファルナエルがこれからこれからどうするのかと質問する。
「そこの人間や魔人に止めを差しておく。その馬鹿に致命傷を与えた者はいないようだが……それでも戦闘を行き残ったと言う事はそれだけで十分に脅威だからな」
「分かりました」
指輪の力である程度だが回復したソアレが覚悟を決めて先頭に立つと、トスッと小さな音が聞こえた。
その聞き慣れない音に全員がそちらを向くとガゾムエルの体から触手の様な物が伸び、近くにいたテンペステルの体を貫いていた。
「えっ?なんやコレ?」と口から血を垂らしテンペステルが戸惑っているとガゾムエルから出ていた触手が増殖し自身とテンペステルを飲み込んだ。
「……あの触手は」とその触手に見覚えがあったソアレが声に出すと白と灰色の世界に濃密な魔の気配が広がった。
そして二人の天使を取り込んだ触手がドアの様になり中からこの場には似つかわしく無い声が聞こえる。
「あはっ。言いたい事は山ほどあるんだけど……先に愚痴っていい?普通……自分の次に強い仲間……じゃないかもしれないけど同盟には声かけない?一言かけてくれてたらその天使を倒せてたよね?」
声は確かに笑っていたが魔力は怒りに塗りつぶされた魔王アトラカナンタが現れ天使達を見つめながらソアレ達の前に立つ。
「それで?うんこルーちゃんは?」と言ってソアレの指につけられた真なる王の指輪を見て質問する。
だがソアレは首を左右に振っただけだった。
それでは今来ただけのアトラカナンタには訳が分からなかったのでもう一度質問しようとするが天使達に遮られる。
「アトラカナンタか……久しぶりだな」
「ん?私はガゾムエルの中にいて見てたから久しぶりじゃないけど……まぁ久しぶり」
「そうか、声をかけてくれても良かったんだぞ?」
「天使みたいに馬鹿じゃないからそれは無理だね」
アトラカナンタの皮肉にバラストゥエルは光の中で眠るルデルを見ながら確かに馬鹿だなと笑った。
そしてお互いに笑いあった後にアトラカナンタやソアレ達を包み込む様に炎をの柱が上がり、アトラカナンタに声がかかる。
「どうも、砂漠以来ですね……あの時とは気配が変わった様ですが……どういうからくりですか?」
「はい……馬鹿発見」とアトラカナンタは大きくため息をつく。
そして次の瞬間には接近していたファルナエルの足に幾つもの触手が巻き付き、引きずり込む様に地面に何度も何度も叩きつけた。
ようやく触手が飽きたのかファルナエルをバラストゥエルめがけて投げつけると、怪我はしていたが意識までは失っていなかった様で自力で体勢を整えた。
「へー……殺す気満々だったけど。ファルナエルもなかなか強くなってるね」
「魔王様にお褒め頂きありがとうございます」と丁寧に頭を下げるファルナエルを無視してバラストゥエルがもう一度アトラカナンタに話しかける。
「一応聞くが、ガゾムエルとテンペステルはどうなった?」
「ご馳走様でした」
そうか……と一言だけ言ったあとにルデルを治しているギアエルにバラストゥエルはファルナエルと供に撤退せよと命じた。
「え?逃げるの?全員で来れば勝てそうだよ?」
「敵とはいえ長い付き合いだ。お前の能力は知っているし、ガゾムエルや強化されたテンペステルを瞬殺した奴だ。そんな魔王に油断などせんよ」
「なるほどね~……他はともかく天使ルデルだけは潰させてもらうよ」
「頑張れ。それができれば天使側は喜んで白旗を上げさせてもらう」
その言葉を戦いの合図にアトラカナンタもバラストゥエルも魔力を解放させる。
そしてバラストゥエルに命令された様にギアエルは光都にルデルを連れて転移する準備をはじめるた。
ルデルに止めを刺す千載一遇のチャンスだとアトラカナンタは察していたのでバラストゥエルと戦いながらギアエルに攻撃を仕掛ける。
転移の邪魔をするのには成功しているがギアエルを守る様にファルナエルが立ちはだかり、バラストゥエルの攻撃がアトラカナンタやソアレ達を襲う。
「やはり強いな!アトラカナンタ!だが少々攻め切れていない様だが?」
「あはっ!ルデルが目的だからね!君には用はないから最低限だね!」
バラストゥエルの周りには何十体もの水でできた竜が現れており、まるで意思を持ったいるかの様に自注に動きアトラカナンタやソアレ達を狙う。
アトラカナンタも見えない触手や触手から魔法を放ちバラストゥエルやファルナエルの全ての攻撃を捌いてはいるが……転移を阻害するのがやっとだった。
(思った以上に天使に強化が入ってるね……)等と考えていると後ろにいたソアレから声がかかる。
「アトラカナンタさん!数秒なら私達で耐えられます!私達は放っておいて天使ルデルを狙ってください!」
それをしたら私が後で君の友人に殺されるんですけど? と考えたがソアレの強さは体を乗っ取ったアトラカナンタがよく知っているので頷きソアレ達を守るのを止め、ルデルに攻撃を集中する。
それを狙っていたのかバラストゥエルとファルナエルが一斉にソアレ達に向かって攻撃を仕掛けた。
アトラカナンタはルデルとギアエル。バラストゥエルとファルナエルはソアレ達を狙い、ルディールとルデルの戦いを思い出させる様な大爆発が起きまた砂埃が皆の視界を塞いだ。
そして砂埃が収まる頃に大きなため息と気が抜けた声が聞こえる。
「はぁー失敗。天使も強くなりすぎだしこれから大変だよ?」
と言いながらソアレ達の方を向くと幾つもの触手がドーム型になりソアレ達を守っていた。
「すみません……助かりました」
このツケは高いよと言って只では天使を逃がしてはいないようでアトラカナンタの手にはギアエルの両足がありそれを投げてソアレ達の前に捨てた。
「私達を無視しておけば倒せたのでは?」
「さぁどうだろね?天使も強くなってるからね。無理だと思ったから君達を助けた感じかな?と言うか君達が生きてないとルーちゃんが何処行ったか聞けないし」
と聞いた後にソアレもスナップもルミディナも体力、魔力、精神の限界が来たのかその場に崩れ落ち意識を失った。
「……魔王の前で意識を失うとかどうなの?」と残ったスイベルに話しかける
あまり表情に出さないスイベルが目尻に涙を溜めながらスナップを背負い謝る。
「アトラカナンタ様。申し訳ありません。ルディール様については本当に分かりません。背負っている姉さんが危ないので本当に申し訳ありませんが皆さんをお願いします」
アトラカナンタが返事をする前に見た事も無い転移でスイベルとスナップは消えてしまった。
倒れている見慣れた者を見ながらアトラカナンタは変な知人の口癖を舌にのせた。
「こう言う時に使うんだね……めんどくさっ!」
文句を言いながらその場に倒れていた者を連れてアトラカナンタは王都ローレットの医務室に転移する。
そして自分が分かる範囲で慌てる王女に伝え、事情を知る為に顔見知り達の怪我の回復を待った。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
これでこの章は終わりになるので次の章の開始までしばらくお待ちくださいませ。




