第73話 聖域について
テラボアが入れた珈琲にルミディナとルゼアも礼を言ってからルディールとテラボアが話しを始める。
「天使はあれぐらいの事をやったんじゃから殴って解決でいいと思うんじゃが……問題は聖域なんじゃよな。テラボア殿的に何か良い方法は無いか?」
「そうだねー……錬金術師として言わせてもらえるなら聖域はそのまま放置したいね。サンファルテの領土も侵食されるだろうけどどこかでは止まるからね。人間が天界にまで行ける事は無いから聖域について研究したいし実験もしたいからね」
「なるほどのう……言いたい事は分かるのう。ドワーフの国王も言っておったが聖域で汚染された事によってとれる鉱物とかあると聞いたからメリットはあるのう」
「かと言って人に管理できる物でも無いから難しい所なんだけどね……それで聖域対策だけど一番速いのは光都アークスライヴを落とす事。あんただから言うけど大昔に女神から聞いたからね。人間界の大地を聖域にする装置があるんだってさ」
「そう言えば……テラボア殿は長生きしとるんじゃったな。他の方法じゃとどういうのがあるんじゃ?」
ルディールがそう尋ねるとテラボアは珈琲を飲みながら目を瞑って答える。
魔界でとれる希少鉱石のダークマターをふんだんに使って巨大な杭を作って地面に撃ち込めば聖域は中和されそれ以上は浸食されないと言う話だった。
だがその方法は現実的ではなくダークマターで作った杭で止められる範囲は男性の平均身長より少し長いぐらいだったのでとても大量の杭がいるという話だ。
「……できなくは無いじゃろうがローレットの国家予算何年分じゃろうな」
「それをして国が貧乏になるなら放置した方が良いって話だからね」
どちらにしろ天使達との衝突は避ける事はできないと話していると奥からガタイの良い男性が現れ、テラボアの事をお義母さんと呼び次は何処を掃除すれば良いかなどを尋ねていた。
テラボアもその男に指示を出す。その事が気になったルディールは天使の話の間にその事を尋ねた。
「さっきも玄関でテテノンやテラボア殿に似た女性を見たが……テテノのかーちゃん帰って来たのか?」
「確かに私の娘ではあるんだけど……帰って来た訳じゃないね。事が事だけに夜都の帰りによって連れて帰ってきたよ」
いくら娘に借金を押し付けて逃げたと言っても娘や母が心配になって帰ってきたんじゃな~とルディールが微笑みながら言うが全くそんな事はないとテラボアは言う。
テラボアが娘のいた場所に転移し事情を説明したがまだ新しい旦那と逃げようとしたのでテラボアがキレたとの事だった。
「……テラボア殿。娘さんに何したんじゃ?」
「説得って言うのは実は最終手段なんだよ。言って分からない奴は殴った方が速い。時間の無駄だからね。それでまぁ動けなくなるぐらいまでボッコボコにして帰って来なかったらその状態を維持する呪薬をかけるぞ?って言っただけだよ」
それって有りなんですか?……とルミディナが引いているとルゼアは全然有りですねと頷いていた。
「今の旦那さんも歴戦の冒険者って雰囲気があったのにのう……」
「まぁ婿殿は顎の下が吹き飛んでたから返事が理解できるまで時間がかかったけどね」
ルディールとテラボアでボッコボコのレベルが違うようだったので流石に詳細までは聞く勇気は出なかった……
そしてそのままテテノの母親と新しい旦那をローレットに連れて帰ってきて、今はテテノの手伝いをさせているとの事だった。
テテノの母親は色々とやらかしていたのと錬金組合から嫌われる様な事もしていたので錬金術師の資格は剥奪と言う事になった。
ただチャンスはある様で一からテストを受け合格すればまた錬金術師になれるとの事だった。
「でもあれじゃな。色々あったが親子三代がそろったんじゃし良かったのかのう?」
「どうだろね?なんだかんだでテテノよりはまだ錬金術師としては上だからテテノには良い刺激になるだろうね。今になって分かる事も多いだろうからね」
「なるほどのー」
「という訳でルディール。あんたは天使としっかりと戦いな。あんたの事だから戦わずに話し合いでどうにかしようと考えているかもしれないけどね。確かに話し合いが通じる奴もいる。でも話し合いが通じる奴がいるように通じない奴も間違いなくいるし騙してくる奴もいるからね。そういうのに巻き込まれて自身が怪我をするなら纏めて敵と考えな」
「なかなかに極論じゃな……」とルディールが呟くといつの間にかテテノの母親が近くに来ており母さんはいつでも極論ですから……と呆れていた。
「あれだね。母さんに若い友人がいるのが以外」
「テラボア殿は見た目が老婆なだけで中身はイケイケじゃからのー」
「あーわかるわかる」
「あんたは余計な事を言ってないで!次はそこの棚の在庫を確認しな!」
テラボアの指示にテテノの母はとても嫌そうな顔をしたがテラボアに睨まれると、また四肢を吹き飛ばされても嫌だかと呟き渋々と在庫を確認を始めた。
そしてしばらくルディールはテラボアと話したり、借りた本を読み分からない事があればテラボアにその内容を聞いたりしてルミディナとルゼアがテテノの母親を手伝っていると、テテノが誰かを連れて帰ってきた。
「ただいまー……」
「ほう。ここがフェリテス家の工房か。なかなか良い工房ではないか」
聞き慣れない男性の声にルディールが首を伸ばしテテノ方をみるとそこには炎をより更に赤い鎧に身を包んだ青年がテテノの横にいた。
「おー。テラボア殿。テテノが彼氏さんを連れてきたぞ」
テラボアもどれどれと言って見定めるように顔を出すとその真っ赤な鎧に見覚えがあったようで、あの鎧はフレイエンデに伝わる鎧だといった。
「って事はあれが今のフレイエンデの国王かい?またどうしてこんな所に」とテラボアが頭を傾げたのてルディールはソアレから聞いた話をテラボアに伝える。
「ふーん。なるほどねー。流石は私の孫だね。言っちゃ何だが国王にしたら少しアホにみえるね」
「どうなんじゃろな?テテノンはなんやかんやでしっかりしておるからのう……あんな感じのアホの子を思ったより可愛いとか思って最後はくっついたりするんじゃろうな。と言うかテテノンモテるのう」
一国の国王にアホとか言っているとても失礼な二人だったが、テラボアは少し考える仕草をした後にテーブルの上に崩れ落ちた。
普段の言動から想像できないテラボアの仕草にルディールが心配し声をかけると身に覚えがありすぎるとの事だった。
なるほどのうと笑いフレイエンデの国王もどうやったかは分からないが確実にお忍びだったので、ルディールもテテノ達の邪魔をしない様にさっさと退散する事を決める。
「一応、王女様に声かけた方がいいんじゃろか?悪さはせんと思うんじゃが……」
「……私が後から言っておくよ。あんたは無茶はしてもいいけど無謀な事はしないようにね」
「うむ。テラボア殿の珈琲が飲めんのは人生最大の痛手じゃからな」
よく言うよ。と笑うテラボアにテテノンにもよろしくと言ってルディールは静かにルミディナとルゼアを連れてリベット村の自身の家の前に転移する。
スイベルが出迎えてくれたのでエアエデンにいるスナップ達の事を尋ねると上手くいっているとの事だった。
ルゼアとルミディナが駆け足で家の中に入って行くのをルディールが眺めてると世界樹の一部がほんのりと青白く光っているのに気がついた。
なんなんじゃろな?とルディールが頭を傾げていると森の方からぞろぞろと森の智者達が現れる。
何事かと思いルディールも近づくと森の智者達が左右に分かれその中心の杖を持った少し小柄な森の智者の長老の様な人物がいた。
そしてルディールがその人物にどうしたのか? と尋ねると世界樹の光る部分に指を差し簡単に答えた。
「世界樹……種……採れる」
まじ?とルディールが尋ねるとその人物がもう一度頷いたのでどうやって採るんじゃ? とルディールが尋ねるといつもルディールの庭の手入れを率先してする麦わら帽子を被った森の智者が世界樹へと上った。
ルディール達がいた位置からは手元は見えなかったが何かを唱え種に手を触れると世界樹の幹や枝から光が集まり始めた。
その光が全て集まると森の智者の手には世界樹の種があった。
そしてその森の賢者はゆっくりと世界樹を降りてルディールに世界樹の種を渡す。すると森の賢者達は自分達の仕事は終わったと言わんばかりにルディールに頭を下げてからゆっくりと森の中へと帰っていった。
「ちょっと待て!お主等!いきなりこんな物を渡されてもどうしようもないぞ!」
ルディールがそう言うと麦わら帽子を被った森の智者が振り向き答える。
「種は植える物……それは魔王様の持ち物……好きに使うといい」
「お主な……その辺に生えておる草花とは違うんじゃぞ?」
「大きな違いはない……じゃあ、また」と言って手を上げてその森の智者も消えたのでルディールは大きくため息をつく。
「スイベルよどう思う?」
「好きに使うと良いとは言っていましたが流石に植木鉢に植えるのは間違いだとは思いますね……」
「じゃよなー」
「はい。アレですね。我が家の玄関に子猫を置いて行く母猫に似ていますね」
「あーそんな感じじゃ。コピオン殿に相談に行くかのう……」
そう言って一度、家の中に入りルミディナとルゼアに村長の家に向かうと言ってからルディールは村長の家に向かった。
村長の家に着くとバイコーンの姿は無く荷馬車も無かったので留守かとも思ったが、玄関のベルを鳴らすと丁度目的の人物がいた。
「また何か面倒事か?」
「うむ。面倒事しかないのう……」
いつもの事だなとコピオンは笑いルディールを家の中に招き入れた。
そして適当に冷えた飲み物を入れてから、村長は近くの村で村長会議の様なものが有るので向かったと話した。
「それで?どの面倒事だ?天使か光都か?」
王都から発表はまだだったはずだったのでルディールはコピオンがその事を知っているのにとても驚き目を見開く。
「こんな爺だが樹都ウェルデニアにすれば貴重な戦力らしいからな。先ほどウェルデニアの国王から手紙が届いた」
「なるほどのー。コピオン殿がいれば一人でウェルデニア軍と戦えそうじゃしな」
「ふっ。流石にそれは無理だな。がんばって半分だ」
「……半分もいけるんじゃな」
冗談だと言って二人で笑い合い話は続く。
「それで?どうした?今日明日すぐとは言わないが一応は故郷だからな。ウェルデニアには少し戻ろうとは考えている」
「うむ。コピオン殿がいてくれた方が心強いがウェルデニアも大事じゃからのう。使節団は戻るのか?」
「いや。連中はまだ知らないし残るだろうな。戦えはするが戦闘には向いてないだろうからな」
いつもの様にルディールはなるほどのうと言ってから、アイテムバッグの中を漁り先ほど森の智者達から受け取った世界樹の種をテーブルの上にのせた。
流石のコピオンも自分が想像した以上の物が目の前に置かれたので言葉を忘れて見入ってしまう。
そしてようやく言葉を思いだしルディールに尋ねる。
「もしかして世界樹の種か?……本物は初めて見るが」
「うむ。世界樹の種なんじゃが……」
元とはいえ、世界樹を守る森の番人のコピオンでも世界樹の種は本当に貴重な物だった様でルディールに断りを入れてから長い時間をかけてその種を観察していた。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
次回の更新はたぶん明日になります。




