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第59話 剣士の決意

 「わっはっはっは!実に愉快じゃな!」


 ルストファグナでのやる事を終えたルディール達は灯台の街へと帰港していた。


 その道中で船乗り達に魚釣りに誘われたので、ルディールとルゼアとルミディナは沖に向かって竿を出していた。


 他が釣れていないと言う事は無かったが……どうしてかルディールだけ投げれば釣れる爆釣状態だった。


 ただ釣った魚は足元のバケツには入れずにすぐに海に帰していた。


 ルディールに少し用事が有り呼びにきたスナップが、その光景を見て頭を抱える。


「……どうやって釣っているんですの?」


 その質問に気持ち良く釣り? をしてるルディールが答える訳もなく代わりにルゼアが答える。


「さっきまでは全然釣れて無かったんですよ?何かあるとは思いますが楽しそうなのでいいかなと私は思ってます!おっ!アタリは来ました!」


 魚釣りに関してはルゼアは誰かさんに似なかった様で足元のバケツには数匹の魚が入っていた。


 ルミディナの方は誰かさんに似た様で足元のバケツには海水だけ入っていた。


「ぐぬぬ……」


 スナップはその光景を微笑み、当初の目的であったルディールの元へ行く。


「ルディール様。少しお時間よろしいですか?」


「うむ!全然よいぞ。やはり魚釣りは楽しいのう」


 そう言って竿をたたみスナップと一緒に船首の方へ行こうとするが、全く釣れていないルミディナを見てルディールは内緒話でもする様に耳の近くでアドバイスをする。


 そのアドバイスを聞いてルミディナがなるほど! と目を輝かす。


「針は取っておいて釣りあげたらリリースするんじゃぞ」


 分かりましたと元気よく針を外して投げ込むとものの数秒でアタリがあり魚が釣れた。


 その光景を見てルディールは頷きスナップは針もついてないのにどうやってと頭を悩ませる。


 そして船首に向かいながらスナップはルディールに質問する。


「どうやって釣っていたんですの?」


「うむ。真なる王の指輪を使ってじゃな。獣の王の指輪でこの辺りに餌があると嘘の情報を流し魚を集め、知恵と知識の指輪でこの辺りの魚の記憶を塗り替えて重りが餌に見える様にして釣っておった感じじゃな」


「ええ~……それって有りなんですの?」


「漁じゃったらありじゃが釣りじゃったら無しじゃな。だから針はつけて無かったし釣りあげたらキャッチ&リリースと言うヤツじゃな」


「しかしほんとに何でも出来る指輪ですわね」


「うむ。出来ない事もあるじゃろうが応用させ効かせれば大概の事はできそうじゃのう」


「悪用されたら大変ですわね」


「うむ。じゃが指輪にも人を選ぶ権利はあるじゃろ。たぶん」


 そんな話をしながら船首につくと、そこにはバルケが一人で海を見ていた。


 何かを考えてはいるようだったが鬼気迫るものでは無くとても穏やかな表情だったっだ。


 ルディールはバルケの隣に並び同じ様に海を眺める。


 いつまで経ってもバルケが話し始めないのでルディールはそんな雰囲気を台無しにする言葉を放つ。


「子供でもできたのか?」


 その一言にバルケとスナップの時間が少し止まったがすぐに我に返り声を荒げる。


「子供でもできたか?……じゃねーよ!できてねーよ!」


「なんじゃい!紛らわしい!」


「紛らわしくねーよ!」


 いつもの雰囲気に戻ったバルケがしばらくルディールと口喧嘩をする。


 そしてようやく落ち着いてからルディールに自身の考えていた事を伝える。


「先に言っておくが……ちゃんとお前が言う様にスナップとも相談した上での事だからな」


 それだったらわらわに言う必要なくね? とルディールが考えていると顔に出ていたのかそばに控えるスナップにけじめは必要ですわと言われる。


「俺は魔神になるわ」


 少し間があった後にルディールが理由を聞きバルケも答える。


「ガゾムエルだったけか?あれと戦った時に思ったが……今の俺じゃ天使やローレット大陸にいる魔神には通用しないからな」


「デシヤンとかハンティーは別としてガゾムエルはお主の勝ちじゃろ」


「その冗談は笑えないだろ。ルー坊とかルゼ子がしょっぱなにボコボコにしていてくれたから俺が勝てただけの話だぞ。魔法とか全然使ってこなかったしな」


 ルディールが言葉に詰まっているとバルケが話を続ける。


「姫さんの妹だっけ?あれだったら俺じゃ絶対に勝てないしな。それにこれは俺の勘だが、なーんか大きな戦になりそうな気がするんだよな。そうなった時に全員は無理だが自分が好いた女くらいは助けてやりたいからな」


「そこまで考えての事じゃし、お主の事だから後悔はすまい。じゃがわらわを呼んだと言う事は他にもあるんじゃろ?」


 そう言うとバルケは頷きまた話し始める。

「もしの話だが……俺が魔神になって人とか襲い始めたらお前の手で殺してくれねーか?今でも強い俺が魔神になるんだろ?並のヤツじゃ相手にならねーからよ」


 その言葉にルディールは笑いながら早速アイテムバッグの中からガンテツ印の武器を取りだしバルケに斬りかかる。


 ガキン!と自慢の大剣でバルケも防御する。


「人の釣りをそんな下らぬ事で邪魔したのでな、その首跳ねてやろうかと思ったが……なかなかやるのう!」


「お前とスナップの話は聞こえてたがあれは釣りとは言わねーよ!……俺もなかなかやるだろうという訳で任せたぞ」


「仮にお主が魔神になって村とか襲いだしたらどうにかして人間に戻してやるから安心せい!」


 ありがとよ!と言ってバルケがルディールを弾き飛ばすとクルクルクルと回って、先ほどまで立っていたスナップの横に着地する。


「アトラカナンタ様も力に溺れて自分を見失う人間は多いと言っていましたがバルケ様なら大丈夫との事ですわ」


「あやつはあやつで胡散臭いからのう……まぁ、そうなったら八つ当たりで魔都を消滅させるのもありじゃな」


「なしですわ!」


「という訳でルー坊悪いがそんな感じで頼むわ」と買い物ついでに何か買ってくれと言わんばかりの気軽さにルディールも色々と諦めて了承する。


「ふと思ったんじゃが……わらわが都市とか襲いだしたら誰が止めるんじゃろな?ソールの話では無いがよく切れる剣にはそれを入れる鞘とか守る盾があるとか言っておったし」


「ほんとだよな?でも魔王ルー坊の世界だと雷光と敵対してたって話だし誰かいるだろ?知らんけど」


「まぁ。何でも良いか」


「湿っぽい話はここまでだな!よし!ルー坊。俺と釣りで勝負しようぜ!ちなみにさっきのズルは無しだぞ」


「仕方ないの~手加減してやるか。遊んでやるかかってこい!バルケ!」


 そう言って二人は船尾の方に向かったのでこの後の展開が読めたスナップはかなりハラハラしながらついていく。


 そしてその予感は見事に的中し、海が大時化になった後に船の近くに竜を思わせる様な巨大な雷が落ちた。


 それから前に仲良くなった大王イカの子供と再会したりと小さなハプニングはあったりしたが無事に灯台の街へと帰ってこられた。


「嬢ちゃんも元気でな!たまには遊びに来いよ!」


「うむ!ダッチマン船長も元気でな」


 商会長やダッチマン船長は荷下ろしなどの仕事がまだまだ残っていたのでルディール達は先にリベット村に戻る事になる。


「では商会長、先に戻っておくので転移したい時はわらわかスナップの通信用魔道具に連絡をくれればすぐに迎えにいくのでな」


「ありがとうございます。水上スキーの事なども含めてまた色々と相談しようと思いますのでよろしいくお願いします」


「別に良いが……また忙しくなるんじゃぞ?」


「本当ですよ……そこが本当にネックでして……」


「昔のぽっちゃり商会長が懐かしいのう」


「妻にもそう言われています……」


 商会長と冗談を言いあった後にルディール達は転移魔法でリベット村のルディールの家の前に飛ぶ。


 するとスイベルが庭掃除をしていたので全員がスイベルにお土産を渡すと顔にはあまり出なかったがとても喜んでいた。


 そしてルディールに客が来ていると話す。


「庭でコピオン様とそのご友人がお見えになっています」


「コピオン殿も戻って来たんじゃな。ご友人とは村長では無いんじゃよな?」


 村長ではないとスイベルが言ったので仲間達とはその場で解散しルディール庭へと向かう。


 庭に行くと確かにコピオンがおり同い年ぐらいのエルフにルディオントからもらったボードゲームを教えつつ二人で楽しんでいた。


 勘だったがとても嫌な予感がしたルディールはその場から逃げようとしたが、コピオンに樹都ウェルデニアの事を聞きたかったので近づき尋ねる。


「コピオン殿。お帰りじゃな」


「ルディールか。流都ルストファグナに行っていた様だったが楽しめたか?」


「うむ。セトランの海坊主を見たり天使がおったりしたが思った以上に楽しめたのう」


「俺も若い時はルストファグナに言った事はあるが……海坊主や天使は見なかったな」と渋く笑いボードの駒を動かしていく。


 コピオンの向かいに座る老人もルールを聞きながらコピオンと遊んでいる。妙な胸騒ぎがしたのでルディールが尋ねるとコピオンは少し意地悪く誰だと思う?と質問を返してきた。


「まさかとは思うが……ウェルデニアの国王陛下がお忍びで来ておるとかだったら全然笑えぬぞ?」


 長い沈黙の後にコピオンとその老人は腹を抱えて大笑いする。


「なっ?俺の言った通りだったろう?」


「ふふっ。流石はコピオンだな。ここまで笑ったのは久しぶりだよ」


 大の大人が二人して大笑いしているのを見てルディールも自身の勘が外れたのを安心しているとコピオンがその事を質問する。


「たまに思うが……何を基準にそう思うんだ?」


「そうじゃな~。わらわは良く本を読むのでなその辺からじゃな。後は……身なりからかのう?服は普通なんじゃが……仕草とかが貴族様っぽいからそう言ったまでじゃな。外れてよかったわい」


「いや。正解だ」と無慈悲にコピオンに告げられたのでルディールは膝から崩れ落ちた後に、ウェルデニアの国王に丁寧に謝り挨拶をする。


「コピオンが言っていた様にお忍びで来ている。だからそう畏まらずとも良い」


「すみません。流石の私でもそれは無理です……と言うかコピオン殿……護衛も無しに国王陛下連れて来たら駄目じゃろ」


「なかなか器用に話し方を変えるな。この村より安全な場所はそうないのと俺が護衛だ」


 何かあったらどうするんじゃろな? とルディールは思うが流石に帰れと言う訳にも行かないのでその場で話をする事になる。


「それで陛下はどういったご用件で?」


「万能薬の事で直接あって礼を言わせて貰おうと思ってこさせてもらった」


 言ってくれればウェルデニアに行きましたとルディールが言うとコピオンが笑いながら陛下の前で嘘をつくなと釘を刺す。


「ローレットの王女も言っていたがルディールはよほどの事が無い限り王族と関わりを持とうしないと聞いたぞ?」


「寝癖王女め……余計な事を……」


「それにリベット村がどういう村か気にもなっていたからな。村と言うのは少し大きすぎる様な気もするがな」


 ウェルデニアの国王は庭から村の方角を眺めつつスイベルに入れてもらった紅茶を飲む。


 そして立ち上がりルディールに向かって丁寧に頭をさげ礼を言った。


 急な事だったのでルディールは驚きすぐに頭を上げてもらうように頼む。


「陛下……私の様な村民に頭を下げないでください」


「かと言って礼を言わないのはおかしいだろう? 自身の利益……ローレットの国益まで捨ててウェルデニアに教えてくれたのだ。しなびたエルフが頭をさげてもよかろう」


「あまり周りの事までは考えていませんが……私が生きている間は平和なのがいいと言う個人的な都合ですので……」


「それでいいじゃないか。争い事も元をたどれば個人の都合だ。私が君に礼を言いたいのも私の都合だ」


 そう言われては何も言い返せないルディールは丁寧に頭を下げて感謝を受け取る。


「この事は公にはできないが……ルディール・ル・オント。君はウェルデニアに何かして欲しい事はあるか?と言っても私個人で出来る事に限るが」


 特に何も無いと答えようとしたが、何が食べたいと聞かれ何でもいいと答えられるのが一番困るので、それの最上位だと思う事にしてルディールは少し考えてから答える。


「そうですね……ローレットの人達はこんな訳も分からない自分を受け入れてくれた礼があります。ウェルデニアの人々がこいつら無理!と言うまでは仲良くしてもらえればと思います。人間はエルフに比べ短命ですし、約束もいつかは忘れるでしょうが……そういう生き物だと思ってお付き合いして貰えればと思います。次の世代女王は賢いですがどこか抜けていますので」


「ふふっ。あの賢しい娘か」と言ってウェルデニアの国王は笑った。


 そして自身の名前をだしルディールが言ったように人間側がよほどの事をしない限りは仲良くしようと約束してくれた。


「ルディール。大事な事のようだが口約束でいいのか?一筆書かせるぞ?」


「コピオン殿よ。それをするとここに陛下がいらしたのがバレるじゃろ」


 それもそうだなとコピオンが笑っていると国王陛下が村を案内して欲しいと言い出したのでルディールとコピオンが護衛につき村を回る事になった。


「そう言えば村長は陛下がいるのは知っておるのか?」


「いや言ってないから知らないな……ちなみに村長は陛下の顔は知っているぞ」


 その台詞を聞いて閃いた三人はとてもいい笑顔して村長の家に挨拶にいく。


 それから少し色々あったがウェルデニアからリベット村に友好のシンボルという言う形で巨大な冬でも枯れない花が贈られリベット村の中心に植えられる事になった。

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


今回で新三章は終わりになります。新四章の投稿を楽しみにお待ちくださいませ!

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