第49話 船上の世間話
「海におふねを浮かばせてー!行ってみたいな余所の国ー!」
船のメインマストの一番上で無駄に仁王立ちで海鳥達と気分良く歌っていると降板からスナップに声をかけられる。
「ルディール様!流石にあぶないですわ!」
心配してくれているスナップを無下に扱う訳にも行かないので海鳥達に歌を聴いてもらった礼を言ってからメインマストから飛び降り何度か回転して綺麗に着地する。
スナップにパチパチと手を叩かれて得意顔をしているとルミディナとルゼアもいたのか同じ様に手を叩く。
「海鳥達から話は聞いたんじゃが、しばらくは荒れない感じらしいぞ」
「それはとても素晴らしい事ですわ。前に海に来た時は大変でしたわ……」
そう言いながらルディールとスナップは幽霊船や大きなクラゲの事を思い出す。
「生きておるから言えるが良い思い出じゃのう」
火食い鳥の皆さんも来られれば良かったんですけどね……とルミディナが少し寂しそうに言うのでルディールは明るく答える。
「天使とか出たら並の冒険者にはキツいからのう……ソアレ達なら安心じゃしな。ルミディナが言う様に残念なのは間違いないが……」
そんな感じでメインマストの下で話していると船長室の扉が開き中からバルケとイオード商会の商会長とダッチマン船長が現れた。
ルディールは海鳥から聞いた天気予報を商会長に伝え、久しぶりにあったダッチマン船長と話をする。
「しっかし久しぶりじゃのうダッチマン船長。元気にしておったのか?」
「おう。元気だぜ!海賊もやめて商船乗りだからな~。元気と言えば元気だがちょっと刺激が足りないな」
ダッチマン船長がそう言うと商会長は大きくため息をつきながら頭を掻き、襲って来た海賊を返り討ちにして沈めた人が何を言いますかと呆れかっていた。
「うむ。本気で元気そうで安心したわい」
「嬢ちゃんは相変わらず独り身か?俺の嫁の一人にしてやろうか?」
「ダッチマン船長はほんとにお変わりありませんわ……」と今度はスナップが呆れる。
灯台の街から海へ出て半日ほど経っており辺りを見渡しても陸地は全く見えなかった。
灯台の街から流都ルストファグナまでは船で約三日ほどかかると商会長に教えてもらっていたが、新しい街が楽しみなルディールは船から身を乗り出し進行方向を眺める。
商会長やダッチマン船長が少し離れた所にいたのでルミディナとルゼアに質問する。
「お主達もルストファグナに行った事は無いのか?」
ルゼアは私は無いですね~と元気よく答え、ルミディナはまた遠くを見ながら消滅しましたと答えたのでルディールもルゼアもこれ以上は聞いてはいけないと思い聞くのをやめる。
三人でそんな話をしていると船内から釣り竿を持った船員達が何人も現れたのでルミディナ達が物珍しそうにそれを眺める。
そしてその視線に気がついた船員に一緒にやるかと誘われたのでルディールを含め三人で釣りをしようとしたがルディールだけはバルケに引き留められる。
「ルー坊。悪いな。ちょっといいか?」
「うむ。良いぞ。わらわが釣りをすればこの海の全ての魚を釣ってしまうからのう!」
あーはいはいとルディールの言う事を軽く流しバルケは海の方を見ていたがその瞳には海を映していなかった。
ルディールはバルケが話し始めるまで待っていたが、どう話していいか悩んでいる様だったので少し話題を変える為に先に質問する。
「そう言えばカナタンからご近所一武道の時にお主がもらった景品ってなんじゃったんじゃ?」
その質問がバルケの話したい事とかぶっていたようで何故かバルケは大笑いしてから答える。
「あれは人を魔神にする石なんだとよ。魔王さん曰く全員が全員魔神なれるとは限らないって話しだけどな」
想像以上の答えに流石のルディールも目を大きく見開き驚きの声をあげる。
海を見ていたバルケが商会長達と話をするスナップを見ながら話し始める。
「魔神ってのは人間の能力とは比べものになんねーだろ?俺も今まで頑張った訳じゃねーけど自分なりに考えてやってきたらいきなり力をやるとか言われてもどうなんだよ? って話になってな」
「なるほどの~。茶化す訳では無いがスナップと同じ時間を生きたいからその質問なんじゃよな?」
「ああ……ルー坊とかスナップは俺が死んでも行き続けるだろ?俺も魔神になったらその時間で生きて行けると思ってな……でも今までの事を考えると何かモヤモヤするんだよな……湧いて出た力を与えられてってのは……」
「それはわらわに聞くのは間違いじゃろ。わらわとかもらった力で好き勝手しておるからのう」
「ルー坊は力に溺れてないしな……正直、自分が自分で無くなるのが怖いってのもある。一応、魔王さんから人が魔神になった例も聞いたがあのハンティアルケーツとかも元は人間だとよ」
「今日は驚く事ばかりじゃな……」
「本人にも聞いたが人間の時の記憶はないんだとよ。記憶を無くすのも嫌だしな。まぁ魔王さん曰く人格も記憶にも問題無く魔神になれるって話だけどな」
気の利いた事が言える訳でもないルディールは少し考えてから自身の気持ちを伝える。
「正直に言うとわらわは的にはお主が魔神になってくれた方がうれしいのう。前に王女様とも話したが友人を看取るのは辛いからのう。それにありきたりな話じゃが心が人間ならガワは何でも人じゃろう。バルケはわらわが人では無い何かにみえるか?」
「アホの子に見える時はあるが……魔神にも見えんし人だよな」
「じゃろ?後悔するなと言うのは無理じゃがまだまだ時間はあるんじゃし、それこそお主の未来の伴侶と相談しながら考えるが良いと思うぞ」
その言葉に思う所があったのか目を瞑って長い時間考え、一言「ありがとよ」と礼を言う。
「うむ。じゃからこのままスナップの所に行って結婚しよう。と言ってもええんやで?」
その台詞に色々と台無しにされたバルケは大きくため息をつく。そして文句の一言でも言ってやろうとしたタイミングでスナップがルディールを呼びにくる。
二人をからかおうとも考えたがからかわない方が進展しそうだったのでバルケにスナップを任せて商会長の元へと向かう。
商会長の元に向かい話を聞くと航路と少し危険な海域を通るので再度、その打ち合わせだった。
打ち合わせが終わり船長室からデッキに上がるが特に代わり映えしない海が広がっていた。
ルミディナを見るとまだ魚釣りをしており誰かには似ず二人ともそこそこ釣れている様だった。
バルケ達の方をみるとあきらかに近寄りがたい甘い雰囲気だったので流石のルディールも行くのを躊躇する。
わらわも釣りでもするかのう等と考えているとダッチマン船長から暇なら話に付き合ってくれと声がかかった。
ルディールも基本的に話が好きなので喜んで操舵している船長の近くへと行く。
「あの剣士はメイドの嬢ちゃんの恋人か?」
「うむ!自信を持って言い切れるのう。独り者のわらわには眩しすぎて近寄れぬがな!」
「あの頃が一番楽しいだろうからな~。近寄って邪魔するもんじゃねーな」
たしかにのうとルディールも納得しダッチマン船長に尋ねる。
「そういえば幽船の御霊ってどうなったんじゃ?アレはかなりの貴重品じゃろう?貴重品と言うレベルでは無いが……」
「使い方もイマイチよく分からんし手に入れて満足したからな。玄関に飾ってあるぞ」
その答えが以外だったのかルディールは珍しくため息をつき呆れる。
「流石に玄関は駄目じゃろ……盗まれたらどうするんじゃ?」
「玄関に大事なものを置くヤツはいねーから大丈夫だよ。それに嫁が毎日磨いてるから大丈夫だよ」
今の台詞におかしな所があったのでルディールは再度聞き直す。
するとようやく謎が解けたので声を大きくして驚く
「ダッチマン船長!?結婚できたのか!?」
「お前……なにげに失礼だな。嫁さんなら五人いるぞ。海賊やめてから生活に余裕ができたからな~」
「そう言えばローレットは一夫多妻制じゃったな……」
「何処に驚く要素があるんだよ。外見も内面もイケメンでそこそこ賢くてユーモアもあってイオード商会の商船乗りだぞ?モテない要素がないだろ?」
そう言われたのでダッチマン船長を上から下まで何度も見直すが確かに本人の言う通りだった。
「わらわは船長がひげ面で風呂入ってない海賊時代のイメージが大きいからのう……」
「あーあの頃は全然風呂とか入ってなかったからマジで臭かったからな~。今は風呂入んねーと嫁さんや商会長がうるさいからな」
そんな感じでダッチマン船長と思い出話や世間話を楽しんでいると釣りを終えたルミディナとルゼアがやって来る。
二人ともルディール達が海上都市や幽船の御霊を入手した時の話に興味津々だったのでダッチマン船長が多少の嘘を混ぜつつ話し始める。
その話に釣られいつの間にスナップや商会長も集まり話は盛り上がっていった。
話に多少の尾ひれは付いたが話し終わる頃にはルミディナもルゼアも目を輝かせ拍手をしていた。
「こんな感じだな。割と真面目に死にかけたよな」
「うむ。わらわはあの世付近まで言っておったからのう。まぁスナップに鼻を折られて帰ってきたんじゃが……」
「まだ言いやがりますか!?」
ルミディナもルゼアも幽船の御霊を見た事が無いとの事なので灯台の街に戻ったらダッチマン船長に見せてもらうと約束したのでルディールが釘を刺す。
「ダッチマン船長。姪に手を出したら海のもずくじゃぞ」
「ルディール様……それだとただの美味しい海産物ですわ」
「ダッチマン船長の守備範囲は6歳から60歳じゃぞ!」
自身が間違えた事は無視してダッチマン船長に文句を言うと良く覚えてたなと軽く流され、知り合いには手は出さねーよと笑っていた。
知り合いには手を出さないと言う所に引っかかったが……ダッチマン船長の話が面白かったのもあったのでルディールは自身の知らない海の話を質問する。
「他に海の面白い噂話とか伝承とかそんなのは無いのか?海上都市も幽霊船も見たしのう」
「今から行く流都ルストファグナもおとぎ話の系列だけどな」
「それは行ってからのお楽しみだとメイド好き剣士が意地悪するからのう」
バルケがお前な……と呆れスナップが少し赤くなる。
ダッチマン船長は操舵しながら少し考え思いだしたかの様に言葉に出す。
「セトランの海坊主って知ってるか?」
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
次回の更新はまた明日の朝の予定ですのでどうぞよろしく。




