第46話 お疲れ
お腹の痛いアトラカナンタを背負いルディールはルミディナと共に魔都ファボスの上空に転移する。
「久しぶりにきたのう。と言うか……前より栄えておらぬか?」
「私の世界だと一番栄えてる都市なのでなんとも言えませんね」
「おっ、お腹痛い……」
上空から見下げる都市はルディールが前に来た時よりも発展しており本当に多種多様な魔族? 達が暮らしている様に見えた。
「ほー。巨人族っぽいのもおるんじゃな。そこまででっかい家も無いのにどうやって暮らしておるんじゃろうな?」
「私の世界だと建物に入る時は体が小さくなる魔法がかかっているので大きな建物がいらないと聞きましたよ?」
久しぶりに来た魔都がとても楽しそうに感じたので背中の魔王をその辺に捨てて、娘と観光しようかと考えたがバルケとの話もあったのでささっと魔王城の入り口にルディール達は降り立つ。
するとルディール達の気配を察知していたのか、代々魔王に使えている執事のセルバンティスが出迎えてくれた。
「ルディール様。お久しぶりでございます。本日のご用件は?」
「簡単に言えばアホの子がわらわの角を食べてお腹壊したから連れてきたと言う感じじゃな」
「アホの子じゃない……でもお腹痛い」
ルディールの背中にいるアトラカナンタの顔をセルバンティスがのぞき込むと確かに顔色が悪く不調だと窺えた。
そしてセルバンティスが手をパンパンと叩くと城の奥から執事の姿をした悪魔やメイドの姿をした悪魔が現れ、ルディールから丁寧にアトラカナンタを受け取り何処かへと運んで行く。
「それでルディール様はこれからどうなさいますか?よろしければこのまま魔王城を散歩しながら年寄りの世間話に付き合って貰えればと思いますが……」
早く帰る理由もあったが聞きたい事も話したい事もあったのでセルバンティスに先頭を歩いてもらい魔王城を散歩する。
「前に来た時はゆっくり見れんかったが思った以上に綺麗な城なんじゃな~」
「ルディール様は鉱山に来た場合でもお城に入られないので仕方ないかと」
「特に用事も無いのに村人が城に入っては駄目じゃろ……わらわリベット村民じゃし」
「ルディール様の魔力で修復されたのにそれを言いますか……所でそちらの女性は?ルディール様が魔界に初めていらした時少し見かけましたが……」
そう言ってセルバンティスがルミディナの方を向く。
ルミディナは特に余計な事も言わずに簡単に自己紹介をして頭を下げる。
「ぶっちゃけるとナイン・アンヘルで出てきた違う世界のわらわの娘」
それ言って大丈夫なんですか……とルミディナに呆れられたのでルディールは笑いながら伝える。
「アトラカナンタよりは信用できるじゃろ。と言うか先代魔王様の執事じゃし、前にルディオントに会っておるからある程度は気づいておるぞ」
「え?セルバンティスさん本当ですか?」
「ある程度はですけどね」
「お母様はこっちの世界でも召喚されてたんですね……ルゼアも会ったと言ってましたし、私も会いたいです」
「その辺りは未来の楽しみに取っておくんじゃな。てんてこ舞いになってるわらわを見られるぞ」
「それってピンチって事ですよね!」
そんな話をしながらセルバンティスと魔王城の中を歩き街の発展や人間界との交流について意見を交換する。
その話の合間に天使を見た事の経緯などを伝えるとセルバンティスの顔付きが少しキツくなる。
「天使ですか……また面倒な連中ですね」
「迷惑かけんのなら別に遊びに来ても良いとは思うがのう……その辺は今は良いがまだ重要な事があってじゃな」
先ほどルディール自身が言った様にアトラカナンタよりはセルバンティスの方が信用できたのでピラミッドの事を伝え、一番重要なルゼアやルミディナが自分の世界に戻る方法を尋ねる。
「そこまで信用して頂けるのはありがたい事ですが……一応、私も王都に攻め込んだ魔族ですよ?」
「たぶん大丈夫じゃろ。お主にしろアトラカナンタにしろ次は無いからのう」
「怖いですね。ご期待を裏切らない様に精進します。ルミディナ様とルゼア様がご自身の世界戻る方法ですが、手っ取り早いのは天使化したルディール様を倒す事かと」
「それは思っておるんじゃが……こっちの世界は平和じゃからのう。わらわが火種を呼ぶのは嫌じゃしそれは最後の手段じゃな」
「なるほど……でしたら私の方でも調べておきます。ナイン・アンヘルは女神が考えた魔法なので人間界にはあまり伝わっていないと思いますので」
「聖都を調べれば良いかも知れぬが、わらわは入れぬし無理に入って火種をつくるのものう」
「聖都こそ天使の本拠地でしょうからそれこそお控えください……もし古い書物などを調べたいのであれば魔界なら夜都でしょう。人間界なら流都が古いと聞きます」
どちらの都市も少し前に聞いたが、セルバンティスは夜都の方が詳しいらしいので夜都について尋ねる。
「ルディール様は吸血鬼と言う者達を知っていますか?」
「ドラクリ……おっとそうではなくてじゃな。人の血を吸うたり飛んだりする者達じゃろ?」
「ルディールお母様……言い方が蚊っぽくないですか……」
「間違っていなくも無いですが……本人達の前で言うのはやめてくださいね。夜都アカムモルディーには吸血鬼や魔女といった方々が集まる国です。魔女の国とも呼ばれているので、人、魔族、天使が使う魔法にとても詳しく精通している国ですね」
「……時間を作っていった方がよさそうじゃのう。ソアレかテラボア殿辺りも何か知ってるみたいじゃしそのうち聞くかのう」
「最近は魔都も夜都と交流が増えましたので昔に比べれば行きやすいですよ」
なるほどのう。といつもの様に頷き魔王城の散歩も終わり三人は城下町が見えるテラスへと出る。
これ以上聞くことはたぶん無かったのでルディール達はセルバンティスに礼を言ってからリベット村に転移しようとする。
するとルディール達を呼び止める様に一人の魔神がルディール達を呼び止める。
「おーい!魔王様よ。アトラカナンタからおとどけ物だぜ」
その魔神は狼の魔神ネルフェニオンだったので犬に見えたルディールがお手とかしそうじゃのうと本人に聞こえない様に言うとセルバンティスのツボにはまったのか少し吹き出した。
「お主も元気そうじゃのう。今は魔王城で働いておるのか?」
「ああ。鳥と猿とかと魔王城を警備してるな。まぁ世間話はいいがアトラカナンタがこれを渡しておいてくれだとよ」
そう言って手渡された物は武器と言うには少し歪だったが持つ所があったのでたぶん武器だった。
「天使見かけて戦闘になったらそれで殴って欲しいんだと理由までは知らんけどな」
「殴ると発信器とかを打ち付けるヤツとかそんなのか?知らんけど……まぁアトラカナンタも天使側の行動を確認したいじゃろうしそんな感じのじゃろう」
「なるほどね~」
「お主ももう少し話を合わさぬと駄目じゃぞ。そう言えばセルバンティス殿よ、どうしてカナタンは腹痛になったんじゃ?」
「ルディール様の角を食べたので消化不良でしょう。角は魔力の固まりみたいな物なので、自身を強化する為に食べたのは良いがルディール様の魔力が強すぎてと中々吸収出来ずに腹痛という形で症状が出たのでしょう」
「……アホの子じゃな」
「俺もそう思う」
「思っていても言ったら駄目ですよ!」
「それでルディール様はお気をつけください。人間の肝臓と一緒で魔神の角も一つあれば戦闘や生活に問題はありませんが……両方失うと生えるまで魔法のコントロールがききませんので」
「おう……思った以上に重要なんじゃな」
「だいたいは角が折れる前に首の骨が折れるので折れる事自体珍しいのですが……」
「わらわよく生きておったのう……」
等といつもの事だがネルフェニオンとも話に花が咲きしばらく情報交換というなの雑談をした後にルディールはようやくリベット村に転移する。
そんなルディール達が転移した空間を見ながら次はセルバンティスとネルフェニオンが世間話を始める。
「相変わらず勝てる気がしねーわ。俺……良く生きてたな」
「私もですよ。忠告されましたが次は無いとの事です」
「次とか言う前に喧嘩売る気にもならねーよ。天使が人間界に出たと聞いたが……連中はどうやって出てきたんだ?」
「想像ですが……人間を生贄に現れたんでしょう」
「人間界にいってる連中に声でもかけといてやるか……」と言ってネルフェニオンもセルバンティスも魔王城の中へと戻って行く。
ルディールとルミディナがリベット村に戻ると大きな時差は無かったが数時間ほどは経っていた様でバルケが一人で静かに酒を飲んでいた。
「おっ?戻ったか。魔界はどうだった?」
「発展しておったぞ。皆は?」
子供たちはもう寝たとの事、火食い鳥やハンティアルケーツもルゼアとの特訓で相当疲れたとの事で爆睡中。スナップとスイベルは洗い物中との事。
そうバルケが話しているとスナップがお帰りなさいませですわ。と言ってルディールにツマミとお酒を用意する。
それを飲んだり食べたりしてバルケと話しているとルミディナも眠くなってきた様で頭がフラフラし始めたのでスナップが慌てて部屋へと連れて行く。
「時魔法が使えてもミーナぐらいの年齢じゃしのう」
バルケがルディールのグラスに酒を注ぐ。
ルディールも礼を言ってから静かにそれを飲む。
そしてバルケが神妙な顔持ちでルディールに話しかける。
「それでルー坊は大丈夫か?」
「ん?何がじゃ。わらわはいつでも元気じゃぞ」
「無自覚か……お前な。まぁ他人には分からんかもしれんが歩き方とかに疲れとか出てるぞ」
「……まじか?」
「おおマジだ。肉体的にって言うよりは心の疲れって感じか?……まぁ話だけ聞いてると天使が出ただの娘が来ただの色々あるけどな」
そう言われて自分でも気づいていなかったのかルディールは静かな夜空を見上げて少し考える。
「確かに疲れておったのかも知れんのう。サンファルテにおる時はほとんど寝ておらんかったしのう」
「俺から言うのはそれぐらいだな。ルー坊の事を大事に思ってる連中も多いんだからまずは自分の事を一番に考えろよ。天使にしろシスターズにしろ今日明日すぐに解決出来る事でもねーしな」
「……うむ。了解じゃな。ありがとう」
「おう。盛大に気にしろ。お前が元気ないと俺の酒まで不味いからな」
バルケがそう言いながら笑うので次はルディールがバルケに酒を注ぐ。
「そうじゃな。良い機会じゃし娘を連れて遊びにでも行くかのう」
「おう。空中庭園に行った時みたいに冒険でもするか?今なら良い場所あるぞ」
その話に興味をひかれたルディールは聞く前に行くと答えバルケに呆れられながら詳細を聞いた。
「後、一週間もすれば流都ルストファグナが十数年ぶりに浮上するんだと」
「ん?どういう都市なんじゃ」
「灯台の街から船に乗って行くんだが……行ってからのお楽しみだな。ルー坊が好きそうなのは間違いない」
詳細までは教えてくれなかったがバルケの雰囲気で面白そうな感じが伝わったのでルディールは行く事を決心する。
そして玄関のドアの向こうで聞き耳を立てている五人に話しかける。
「なんでバレてるのが分かっておるのに隠れるんじゃ……ソアレもスティレもカーディフもスナップもスイベルも……」
名前を呼ばれたスイベル以外は特に悪びれた雰囲気もなく現れる。
「ルディールさんがバルケさんと良い雰囲気なのが何かもの珍しくて」
「「あのな……」」
「まぁバルケ殿はスナップ殿にぞっこんだからそういう目では見ていないのだが……何か珍しくて出るに出れなかったと言う訳だ」
スティレがそう言うとスナップは嬉しそうに頬を染めバルケは恥ずかしさと酒の影響で顔を更に赤くする。
「私としてはスナップの雇い主のルディに真面目な話を持ちかけた訳だから子供でも出来たのかと期待したんだけどね~」
カーディフのその発言でバルケは酒を吹き出しスナップも顔をさらに真っ赤にした。
「わらわも真面目にそう思った!」
「思ったじゃねーよ!!」
そこからはまた皆で酒を飲んだりして流都ルストファグナの事を話あった。
そしてルディール、ルミディナ、ルゼア、スナップ、バルケ、火食い鳥の計八人の大所帯で行く予定となった。
「ルディールさん。少し早め行って灯台の街で水着でもかって少し泳ぎましょう」
「旅行じゃしそれも面白そうじゃのう」
その事を喜ぶソアレだったが……世界は優しくないと言う事を次の日に知る事になる。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
今日のお昼は少し忙しいので次回の更新は本日の18時過ぎぐらいになります。




