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第39話 見えない先

 友人達が特訓という事で別の世界の娘に投げ飛ばされているのをコーヒーを飲みながら眺めつつルディールは昨夜の事を思い出していた。




「ルミディナか!?」


「お母様!スバルが!スバルが!」と言って慌てふためくルミディナにルディールはとても驚くが、この状況では話をする事もままならないので落ち着かせる為に背中をさすってやる。


 そして少し時間が過ぎ落ち着いたのでスイベルにホットミルクを入れてもらってから皆で座る。


 流石のルディールもルゼアの事などがありルミディナの世界にも天使が現れて大変な事になったのかとかなり焦り初めていた。


 そしてルミディナを不安にさせない様に深呼吸をし自身を落ち着かせてから話を聞いた。


「ルミディナよ……お主の世界でも何かあったのか?スバルが!と叫んでおったが……」


 ルディールの緋色の瞳から涙をあふれさせルミディナは泣きながら語る。


「スバル!スバルが!我が家のメイドと二泊三日のお泊まり旅行に行ったんです!!」


 言っている事は分かったがルディールの脳は理解する事を拒んだので、もう一度聞き返す。


「ですから!スバルがメイドと二泊三日のお泊まり旅行に行ったんですって!」


 ルミディナの世界に何かあった訳では無いと分かったのと変に気を張っていたので拍子抜けと言う訳でも無いが妙な脱力感に覆われたルディールは大きく息を吐き出す。


「スバルもお年頃でイケメンじゃし生活が落ち着いてきたらやる事やるじゃろ……」


「年頃の娘にそういう生々しい事を言うのやめてもらっていいですか!」


 寝るにしてはルミディナのせいで妙に目が冴えてしまったのでとりあえずルディールは話を聞く事にする。


「それで?会えて嬉しいんじゃが……何でこっちの世界まで来たんじゃ?」


「ダレダレですね!しばらくスバルから離れて私がいなくなった事を後悔させてやろうと言うのと、スバルをメイドから取り返すにはどうしたらよいのかと相談しに来ました」


 最近大変だった事もあり、しようも無いと言いそうになったが世界を越えてまで会いに来てくれたのが嬉しかったので少し考えてから答える


「ルミディナよ……どう考えてもそれは悪手じゃろ」


「はい?握手ですか?」


 と言ってルミディナが手を前に出したのでルゼアがその手を握って挨拶をする。


「私の名前はルゼアと言います!今後ともよろしく!」


「はっ、はぁ?ルミディナと言います。よろしくお願いします……」


「その握手では無いんじゃが……絵にはなるから写真とか取りたいのう。二人ともどう見ても美少女じゃし」


「ルディール様……それは親馬鹿と言うやつでは?」とスイベルに少し呆れられたが無視して話を続ける。


「まぁスバルの事じゃからルミディナがいなくなったの心配するのは間違いないじゃろ?」


「だったらいいんですけど!」


「で。その心配して落ち込むスバルにそのメイドさんが優しくするじゃろ?」


「我が家で雇ってるメイドですからね!性格はいいですよ!」


「で。そのままゴールインっという訳じゃな」


「色々と端折り過ぎですから!」とルミディナがツッコんだが思う所があったのか、腕を組み唸り始める。


 しばらく唸った後に考えがまとまったのかハッと顔を上げて質問する。


「それって結構ヤバいパターンでは?」


 その場にいた全員が同じタイミングで頷いたのでルミディナは頭を抱えてうわぁぁっと叫びだした。


 ルディール達はどうしようも無いので、ルミディナが落ち着くまで世間話を始める。


「まぁ……親が親じゃしメイド服の年上が好きなんじゃろな~」


「姉さんとバルケ義兄さんの子供ですから仕方ないと言えば仕方ないですね……」


「なるほど……ルミディナさんの世界線にもスバルがいるんですね~」


 とルゼアが言ったので気になったルディールはその事を尋ねる。


「ルゼアの世界にもスバルはおるんじゃな。やっぱり執事とかそんな感じなのか?」


「はい。めっちゃ執事ですね。リノセス家で執事やメイドまとめる仕事してますね。後は……私の婚約者ですね」


 その言葉に今度は全員が凍り付く。そして真っ先に動ける様になったルミディナがルディールの肩を掴み大きく揺さぶって質問する。


「ちょっと!ルディールお母様!スバルの婚約者ってどういう事ですか!?」


「それはわらわが一番知りたいが!お主の知っておるスバルとは違うスバルじゃぞ!」


「何がどう違うんですが!?」


「住んでる世界が違うんじゃ!」


「はぁ!?私とスバルが釣り合わないって事ですか!?」


 その場にいた全員がこの娘めんどくさいな~と心を一つにしたままルディールは揺さぶられ続け落ち着くのを待った。


 そしてようやく落ち着いてからルゼアが別の世界のルディールの娘だと説明する。


 だが、当の本人のルミディナはイマイチ信用していないようだった。


「別の世界のルディールお母様の娘ですか?」


「うむ。ルディールとセニアでルゼアらしいぞ」


「そんなホイホイっと別の世界から来るって嘘くさくないですか?」


 今一度、ルミディナ以外の心が一つになりお前が言う? となった。


 別の世界とは言え甥の婚約者が目の前にいるスイベルは思った事を口にする。


「あまり運命とかそういうのは信じない方ですが……姉さんとバルケ義兄さんは繋がる運命だったのかもしれませんね」


 その言葉を聞いてルディールがウンウンと頷いているとルゼアが少し訂正する。


「いえ。私の世界のスバルはスイベルとバルケの名前をもらってスバルですよ?」


 自分達が想像していない答えが返ってきたので絶対零度の魔法を喰らったかの如くルディールもスイベルも凍り付く。


 そして何とか口を動かしスイベルが嘘ですよね? と言葉をひねり出す。


「冗談は言いますけど嘘はいいません!私の世界ではスナップさんは亡くなっていますのでお会いした事ありません。別の世界では別ですが……」


「気にはなるが……興味本位で聞くと精神に大ダメージくらいそうじゃな……自分がおらぬのは良いが友人達がおらんのは想像できん……」


「聞いておいて申し訳ありませんが私もです……別の世界の私がどうこうと言うのは良いのですが姉さんがいないのは想像できません……」


 ルディールとスイベルが膝から崩れ落ちたのでその辺りの話はそれまでになり、ルミディナの恋愛事情に仕切り直しとなった。


「それでルゼアに関してはお主と同じじゃと思うのが手っ取り早いぞ」


「そこで納得しないとお前が言うなと言われそうなので良いですけど……それでスバルをどうしたら取り返せると思いますか?」


 ルディールは腕を組み前にルミディナとスバルに出会い話した事をゆっくりと思い出す。


(う~む……正直に言えば無理じゃろな。スバルはルミディナの事を妹って言っておったしのう。愛と言っても好きな人に向ける物と家族に向ける物はまた違うしのう……かと言ってルミディナはそういう答えが欲しい訳じゃないじゃろうし……)


 短い様で長い時間を考えルディールはルミディナに自身の考えを告げる。


「ルミディナよ。もう本人に直接自分の気持ちを嘘偽り無く言うしかないぞ」


「え?こう魔法で洗脳するとか……監禁するとか?」


「お主はメンヘラか!スバルにしても鈍感な所があるかも知れぬから言葉にするのが一番じゃぞ」


「えっ?でもそれで失敗した時は……」


「失敗はするかも知れぬが……ずっと一緒にいた娘に本気で好きと言われて喜ばぬ男子はおるまい。よくも悪くも人は動物で動く生き物じゃから停滞はせんはずじゃぞ」


「でっでも」


「もしこっ酷く振られてお主が泣く様な事があったらわらわがお主の世界に行ってスバルを殴ってやるわい」


「おっお母様」と言って涙を拭い決心したのか来た時とは違い自信に満ちた表情になり、自身の世界に戻ってきちんと気持ちを伝えると言った。


「うむ。後悔するなと言うのは無理じゃから心残りがないようにじゃな」


「わかりました。夜遅くに変な相談に乗ってもらってありがとうございました。ルゼアもスイベルさんもありがとうございました」


 そう言ってルミディナが皆に丁寧に頭を下げるとルゼアもスイベルも同じ様に頭を下げる。


 そして別れの挨拶が済みルミディナがもう一度、丁寧に頭を下げてから何も無い空間に向かって手を伸ばす。


 ルディール、ルゼア、スイベルが見送るなか呪文を唱える。


 長い様で短い時間を待ったが特に何も起こらず夜中と言う事もあってか辺りは静まりかえる。


 あれ? っと。ルミディナが戸惑いながら時を渡る魔法を唱えるが部屋の中にその声が響くだけで何の反応も無かった。


 ルミディナ以外がとても悪い予感を感じたのでルディールが代表して尋ねる。


「……もしかして帰られんとか言わぬよな?」


 そんな事ある訳ないじゃないですかー……とかなり焦りながら答え、何度も何度も繰り返すが一向に何も起こらなかった。


「お母様……理由……わかりますか?」


 ルディールもルゼアもスイベルも何となく理由がわかったのだが言葉にするとそれを認めてしまうようで躊躇していた。


「まぁアレじゃろ……夜も遅いからお主の時魔法もお休み中なんじゃろ。明日の朝一で使えば帰られるじゃろ」


「あーなるほど。よい子は寝る時間ですからね~…………とか言いませんよ!その顔はわかったんですね!教えてくださいよ!」


「正解かどうかも分からぬのじゃぞ!?」


「仮説でいいですから!教えてください」


 また肩を掴まれて大きく揺さぶられたのでルディールは少し話がなると断りを入れてから、ルゼアがこちらに来た事情やピラミッドでの事や天使の事などを伝える。


 ただルミディナにとってルディオントは本当に血の繋がった家族なのでその事だけは省き伝える。


「……ええぇぇ。もしかして来るタイミングを間違えました……?」


「まぁタイミング的には最悪じゃな……戻った頃にはスバルの子供に挨拶されるんじゃろな」


「そういうのほんとにやめてもらっていいですか!!……とりえずそれはおいておいて、それならどうしてこっちの世界に来られたんでしょうか?」


「お主の時魔法はナイン・アンヘルとか真なる王の指輪が複雑に組み合って発動しておるのはしっておるんじゃが……なんでなんじゃろな?」


 ルディールとルミディナが悩んでいるとルゼアが手を上げて答える。


「たぶんですけど来た時はルミディナさんの世界が基準ですけど、今はこちらの世界が基準になったので無理になったのではないでしょうか?天使さんも全てのナイン・アンヘルを封印するのは無理ですから自分に繋がる世界だけの封印だと思います」


「ん~と言うと……ルミディナがナイン・アンヘルを使えばわらわは出ぬが、わらわが使うとルミディナやルゼアに繋がるからそんな感じで無理になったんじゃろか?」


「たぶんそうだと思います!ナイン・アンヘル自体もソールさんから失敗作みたいな事を聞きましたし何が起きても不思議では無いと思います」


「かなりのとんでも魔法じゃしな……」


 ルミディナが帰られない理由も仮説だが分かったが巻き込まれた当の本人はスバル事で頭がいっぱいなのかあまり重要には捉えていなかった。


「うわぁぁぁ!私が帰られない間にスバルがメイドと!!それこそお母様の話じゃないですけど浦島太郎状態なのでは!」


「お主……現地住民なのに浦島太郎とか知っておるんじゃ」


「ん?スバルが子供の頃にお母様から故郷の童話とか色々聞いたらしいので私が子供の頃にスバルに聞きましたって、そんなのはどうでもよくてどうするんですか!」


 焦っているのか色々と言葉遣いがおかしいルミディナを諭す様にルゼアが説明する。


「私がナイン・アンヘルから戻った時は呼ばれた時から一分も経ってない状態で戻る事が多いのでたぶんですが大丈夫ですよ!」


 そう言われて少し落ち着いたのか色々と諦めたのかルミディナは椅子に座りしばらくご厄介になりますと頭を下げる。


 そしてルゼアも同じように頭をさげてルディールの家に別の世界の娘というよくわからない同居人が増えたのだった。

無事に新章始まりました~。


新章も約二十話ぐらいあります。次回の更新は12時過ぎぐらいになると思います。




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