第27話 ピラミッドの中
「えらい綺麗なフロアじゃな?サンファルテが補修工事でもしたわけでもあるまいに」
二階とは毛色の違う三階をルディールはキョロキョロしながらそう呟く。
「きっと私達が来るのでサンファルテの王子が修復してくれたんですよ」とタリカが冗談を言うとまた同行するAランク冒険者にタリカだけ怒られる。
「うぐっ……どうして私だけ」
ルディールとそのAランク冒険者が魔界の鉱山で仕事をしたことがあったのでちょっとした知り合いな訳だが……。
それから先に進んで行くと体感だが一階や二階よりは通路などは狭く感じられた。
「ピラミッドじゃし上がると狭くなるのは分かるんじゃが……思ったよりは狭くない感じじゃな」
特に大きな問題も無く先に進んで行くと思った以上に早く目的の場所が見え始めた。その場所はC、Bランク冒険者達が拠点を立てた場所とよく似ており目の前には四階に上がる階段があった。
「よし、お前達ありがとよ。戻る時は気をつけてな」と一緒に来た冒険者パーティーは自分達の基地の準備に向かいルディールとすれ違う時に下の冒険者をお願いしますと言った。
ルディールも小さく頷き二階の待機場に戻る為にその場を離れる。そして二階に向かって戻り始めると一緒にいたBランクパーティーから提案があった。
「戻ってもやる事はピラミッドを調べる事だろ?あんた達、良かったら三階を調べてから戻らないか?」
自分よりランクが高い冒険者に意見する事を少し躊躇ったがタリカがリーダーなので前に出て答える。
「私達が調べる範囲は一階と二階なので止めて起きます。流石にピラミッドはおろか砂漠も初めてですから戦闘になった場合にちゃんと対応出来るかが難しいので」
そう断ったがその冒険者達も自分達の実力だけではここは厳しいと判断しているようでなかなか折れずにタリカ達を誘った。
流石のタリカも困りイライラし始めたのでルディールが助け船をだす。
「うむ。言いたい事も分かるしお主達の実力なら調べられるじゃろうが……一度戻った方が良いと思うぞ」
「どうしてだ?」
「戦闘になった時に時間の乱れが発生するかも知れんからのう。三階を調べるならBランク同士でパーティーを組んだ方がお主達も楽じゃぞ思うぞ。わらわ達はCランクじゃしある程度の援護は出来るじゃろうが……戦うのはお主達になるんじゃぞ?」
ルディールがそう言うとその事を理解できた様で他のメンバー達と少し相談を始めた。そしてすぐに話を決めてタリカにさっきの話は忘れてくれと言って先を歩いた。
「はぁー……ルディールさんありがとうございます」
「わらわに礼を言うよりは冒険者達がちゃんと損得考えられる人達だったという話じゃな」
「ああいうの見ると前に組んでいた男連中を思いだして少しイラッとして喧嘩腰になるんですよね」
タリカがため息をつくとルディールは何の事か分からなかったがテテノも知っていた様で少し苦笑いをしていた。
そこからは警戒はしていたが運が良いのか何とも遭遇しないままルディール達は二階の拠点へと戻った。
他の冒険者達はピラミッド内を調べに向かったと思っていたが誰も欠けておらずAランク冒険者を送っていったルディール達を待っていた。
ルディール達が戻った事でその場にいた全員が集まりこれからの事を話し合う。
ほとんどの冒険者がピラミッド内を探索しに行きたがったが、拠点を留守にする訳にも行かないので交代でピラミッド内を調べるという事が決まった。
ルディールは戻って来たばかりだと言う事とテテノが書いていたメモをまとめてもらう時間が欲しかったのでタリカに提案しピラミッドを調べるのは次回にしてもらうように二人に頼む。
「と言う訳じゃがタリカとテテノはよいか?」その提案に断るの者はいなかったのでルディール達と他のCランクパーティーが荷物番になりその場に残った。
そして他の冒険者達同士でパーティーを組み三階に行く者もいれば二階に一階へと向かうもに別れた。
はぁ~とルディールは心の中で大きくため息をついた後に数匹のネズミを魔法で造りだしピラミッドに消えていった冒険者を追跡し始めた。
(岩砕きの幼生とかゴーレムぐらいじゃとネズミで十分じゃとは思うが……あまり無理せんでくれると嬉しいのう)と考えながらよこいしょと年寄りくさく砕けた岩に座った。
テテノやタリカも近くに座り、時間が狂った事が分かる様に時見の花を置き辺りを警戒しながら少し休憩しこれからの事を相談する。
「わらわ達がピラミッドの謎を解くわけでは無いから無理に動かんでもええんじゃが……せっかくじゃし調べはしたいのう。と言う訳でテテノンとタリカはどうしたいんじゃ?」
テテノは少し考え始めたのでタリカが先に答える。
「依頼内容に一、二階の調査が入っているので自分達が動ける様になったら少し調べたいですね。三階は範囲外だから調べなくても良いとは思いますが補給物資届けるついでなら良いかとは思います。でもまぁ岩砕きとかゴーレムの素材が欲しいので無理の無い範囲で戦いたいのは確かですね」
「依頼料は良いかもしれんが冒険者も結構お金がいるからのう……テテノンは?」
「私も無理の無い範囲で調べたいですね。一階に書かれていた名前も気になりますし」
「じゃったらわらわ達の番がきたら一階から丁寧に調べて行く感じで良いのう」
それで行きましょうとテテノとタリカが言ってくれたのルディール達が今後の予定が決まった。
その事で少し時間が出たのでタリカは一緒に拠点を守っている冒険者達に情報交換にいき、テテノはアイテムバッグの中から簡易の椅子とテーブルを取り出し一階でとったメモをまとめ始める。
ルディールはその場所に座って本を読む振りをしながら一階から三階に広がる冒険者達をネズミを通して見守り始めた。
よほどピンチになればネズミを操作して助ける様には考えたが今の所は大きな戦闘もなく罠の位置を確認したりマッピングしたりしている冒険者がほとんどだった。
(Bランクが岩砕きの幼生と戦闘しておるが……今の感じじゃと助けはいらん感じじゃな。油断せんかったらの話じゃが……Cじゃと少しキツいかもしれんのう)
そんな事を考えていると目の前にある時見の花の蕾がゆっくりと無くなっていったので、すぐにテテノに声をかけ荷物を持って移動しタリカにも声をかける。
タリカ達がいた場所は異常が無かった様なのでルディールとテテノは時間の乱れが収まるのを少し離れた場所で待った。
「さっきのAランク冒険者の話ではないが……こんな所で寝て大丈夫か?と言う話じゃな」
「ですね……ほんと仮眠ぐらいにしておかないとお爺ちゃんお婆ちゃんになりそうですね」
そんな話をしていると時間の乱れも収まったのでまた元の位置に戻りルディールはまたネズミを通して冒険者達を見守り、テテノはメモをまとめ始めたり砂をすくって薬品に付けたり火であぶったりと色々とやり始めた。
それから少し時間が経ちテテノもメモをまとめ終わったのか大きく背伸びをしたのでルディールが話しかける。
「何か面白い事はわかったか?」
「ピラミッドの方は情報不足なのでなんとも言えませんね……ピラミッドの構造的にあの上から落ちてくる砂で時間を見ていたに間違いないと思うんですけど……」
「なるほどの~と言う事は大きいだけでさっき言っておった上に昇る砂時計と一緒なんじゃな?」
「はい。ですけどあれって魔力流すと上に流れる作りなのでこのピラミッドはどうやって砂が上に昇るって話になるんですけどね」
「こういう時にソアレのような魔眼持ちがおればのう」
「ほんとそうですね……まぁ言っても仕方ないので私達の番が来たら丁寧に一階から調べましょう」
それからは特に問題もなく無事に過ぎていき(ルディールだけは三階を調べている冒険者を助ける為に魔物をネズミで転ばしたりもしたが)夜を迎えた。
夜になると昼間と違いピラミッド内は青白く光り昼間よりは暗かったが光源がいるほどの事でも無かった。
「魔物がおらんで時間が狂ってなかったら素晴らしい観光資源じゃのう」
「あー分かります。あの上ったり下ったりする砂を見ながらカクテルとか飲みたいですね」
「カクテル名はミッドナイトリバースじゃな」
「良い名前ですねって言おうと思いましたけど……それよく考えたら夜中まで飲んで嘔いてるだけでは?」
そんなくだらない話をしながらも他の冒険者達と交代時間や就寝時間を決めた。
信用していない訳では無いがテテノ達の事を任されたルディールはその日もあまり寝ずに火の番をしながら辺りを警戒していた。
夜中に一度だけ時見の花が咲きそうになったので寝ている冒険者を起こすという事があった以外は思った以上に平和な夜だった。
明くる日になり朝食を取り終わってからようやくルディール達がピラミッド内を調べる時がやって来た。
四階に上がる階段付近にいる高位の冒険者達へは三階を調べる冒険者達が行ってくれると言う事なので礼を言ってからルディール達は一階へと向かった。
一階へ行く途中で先頭を歩き少し不安そうなタリカがルディールに質問する。
「ルディールさんって冒険者で言えばどの辺りのランクになるんですか?」
「うむ!Zランクじゃな」
「態度の話ではなくて実力なんですが……」
ミューミューとかカナタンぐらいと言っても信じてもらえなさそうなので少し悩んでいると代わりにテテノが答える。
「初めてルディールさんと会った時はイオード商会の商会長の護衛してましたし……ソアレさんも親友と言っていましたから……最低でもAランクぐらいと思いますけど、もしかしたらSランクもあり得るのかな?……にしては全然名前を聞きませんから難しいですけど」
「嘘ですよね?とまでは言いませんけどあんまり強者って感じがしません……」
「わらわもそう思う。見た目は小さいし変な事しか言わんからの~」
「……自覚あったんですね」
そんな話をしていると朝も早く魔物も寝ているのか遭遇しないまま一階へとたどり付いた。
その場でどう調べるかを相談し一階の構造を把握しようと言う事になり文字が書かれた場所などを徹底的にまわりテテノが満足するまで羊皮紙に書き写させた。
特に進展が無く魔物も特に襲って来ないまま時間が過ぎていき、他の冒険者達と交代する時間がやって来た。
「特に進展は無いが……仕方ないのう。他の冒険者も調べたいのは同じじゃろうし」
「そうですね。一度戻りましょうか。次は二階から調べても良いですし」
そんな話をして撤退しようとしていたルディールの耳にネズミを通して三階にいるBランク冒険者の映像と声がとどく。
その冒険者たちは岩砕きの幼生を倒して止めを差す所だったが、何かを話していた。
「魔石は手に入るがこのサイズの岩砕きならあまり上手くないな。もう少し大きければそれなりの値段だが……」
「依頼料が多いから受けたからそればかりは仕方ない」
少し不満を募らせつつ岩砕きの幼生に止めを差そうとするとそのタイミングで他のメンバーが持っていた時見の花が咲き始めた。そして何か考えついた様に男は意見する。
「この弱った岩砕きを時間が乱れてる所に投げ込めば大きくなるんじゃないのか?」
その言葉の意味が理解出来たのか男も笑いながらやるかと言って数人で弱って動けない岩砕きを持ち上げた。
流石に危ないのでは?と止める仲間もいたが「少し大きくなったらすぐに倒すし怪我もしているから大丈夫だ」と言われるとそれ以上は何も言わずに見守ることにした。
ルディールはヤバいと思いすぐに止めようとしたが、その冒険者達はすぐに時見の花が咲いた辺りに岩砕きの幼生を投げ入れた。
「絶対に嫌な予感がする……」とルディールが呟くと少し先を歩いていたテテノ達から声がかかった。
「ルディールさーん!置いて行きますよー……」
その声が届く前に天井を突き破り巨大な何かが岩や砂と共に落ちて来てルディールとテテノ達を分断した。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
次回!朝起きたら知らない世界でマイキャラでした。新一章第二十八話の更新は明後日になります!
ぶっちぎるぜ!




